組織病理学

組織病理学 · H2-087A

卵巣子宮内膜症

Endometriosis ovarii

描出疾患
子宮内膜症・子宮腺筋症

🧠 全体像:は、と内膜間質が卵巣内に存在し、反復出血によってと線維化を生じる病態である。古い血液を含むは「」と呼ばれる。

成立

単一の機序では説明できず、逆流と着床、、・、幹細胞などが組み合わさると考えられる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='menstrual blood'>月経血</span>逆流・化生・播種など"] --> B["卵巣内に子宮内膜様組織"]
    B --> C["ホルモン周期に反応"]
    C --> D["反復出血"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemosiderin'>ヘモジデリン</span>貪食<span class='jp-term jp-term-diagram' title='histiocyte'>組織球</span>"]
    D --> F["線維化・癒着"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometriotic cyst'>内膜症性嚢胞</span>"]
    F --> G

肉眼・組織像

所見 特徴
肉眼 赤褐色〜暗褐色の病変、古い血液を含む嚢胞、周囲癒着
周期性変化を示しうるが、常に明瞭とは限らない
子宮内膜間質 小型均一細胞からなり、腺周囲にみられる
出血 出血と出血が混在
貪食 反復出血を示す重要な手掛かり
線維化 長期病変では腺・間質が乏しくなり、診断を難しくする

診断の基本は・間質の確認だが、病変ではその一方が目立たず、出血・・線維化とを統合する。

症状と合併症

項目 要点
疼痛 月経困難、、
妊孕性 不妊と関連する
癒着 卵巣・卵管・骨盤腹膜の可動性を障害
や捻転でとなりうる
悪性腫瘍との関連 卵巣・のリスクが上がるが、は低い1

💡 リスク上昇は「組織型を選んで」起こる。 13のを統合した解析(対照13,226人、浸潤癌7,911人)では、既往はの3.05(95%CI 2.43–3.84、の20.2%が既往あり対して対照6.2%)と有意に関連したが、関連は全組織型に一様ではなく組織型特異的だった1。が出すのはなので、が生殖年齢女性の約10%(世界で約1億9000万人)に及ぶ頻度の高い病態であることと合わせて読む23。

💡 分子的な橋渡しはARID1A。 卵巣119例の46%、33例の30%にARID1Aが認められる一方、76例では1例も認められなかった4。ARID1Aは–SNFの構子BAF250aをコードし、その蛋白消失は・という組織型と強く相関する4。2例では腫瘍とそれに連続する異型内膜症の両方に変異とBAF250a消失が見られ、離れた内膜症病変には見られなかった——これが「ARID1A変異は癌化の早期事象」と推測される根拠である4。免疫染色でBAF250aを見る際は、に接した異型上皮を狙う。

⚠️ の存在を直ちに癌とみなさない。の存在そのものは悪性の証明にならず、型39病変の26%がARID1A・PIK3CA・KRAS・PPP2R1Aのいずれかのを有していたにもかかわらず、この病型はのリスクがほぼ無いとされている2。一方、閉経後、新規の結節、急速な増大、不整な造影部があればを含めて評価する。

診断と治療

flowchart TD
    A["月経<span class='jp-term jp-term-diagram' title='referred pain'>関連痛</span>・不妊・卵巣嚢胞"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical interview (history-taking)'>問診</span>・診察・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transvaginal ultrasound, TVUS'>経腟超音波</span>"]
    B --> C{"悪性を疑う所見または診断不確実"}
    C -->|"なし"| D["鎮痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hormone therapy, HT'>ホルモン療法</span>を個別化"]
    C -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・専門評価・手術を検討"]
    D --> F["疼痛・妊孕性希望・再発を追跡"]
    E --> G["病理で腺・間質・出血を確認"]

治療は疼痛、年齢、妊孕性希望、病変部位、再発歴に応じ、、複合ホルモン製剤、、関連薬、手術を選ぶ。は不妊・倦怠感・多部位疼痛などを伴う多系統疾患であり、治療しても症状の遷延・再発がよくみられるため、個別化された多面的・多職種の管理が望ましい3。への影響を考え、を一律に手術しない。詳しくは と を参照する。

まとめ

  • 卵巣内の・間質と反復出血が診断の軸である。
  • 貪食、線維化、癒着が病変を示す。
  • 疼痛と不妊が重要で、治療は妊孕性希望を含めて個別化する。
  • ・との関連はあるが、内膜症自体を癌と扱わない。

出典

  1. 1.Association between endometriosis and risk of histological subtypes of ovarian cancer: a pooled analysis of case-control studies(The Lancet Oncology(Ovarian Cancer Association Consortium)・2012)13の症例対照研究を統合した解析(対照13,226人、浸潤性卵巣癌7,911人、境界悪性1,907人)で、自己申告の子宮内膜症既往は明細胞癌のリスク上昇と有意に関連したこと(明細胞癌674例中136例=20.2%が既往あり、対照は13,226人中818人=6.2%、オッズ比3.05、95%CI 2.43–3.84)。関連は全組織型に一様ではなく組織型特異的であること。臨床医は子宮内膜症をもつ女性における特定組織型の卵巣癌リスク上昇を認識すべきであること閲覧 2026-08-24
  2. 2.Cancer-Associated Mutations in Endometriosis without Cancer(The New England Journal of Medicine・2017)子宮内膜症は生殖年齢女性の約10%に生じ、良性の炎症性病変とされながら局所浸潤やアポトーシス抵抗性といった癌に似た性質をもつこと。深部浸潤型子宮内膜症27例のエクソーム解析で24例中19例(79%)に体細胞変異が見つかり、5例はARID1A・PIK3CA・KRAS・PPP2R1Aという既知の癌ドライバー変異を有したこと。深部浸潤型病変39個のうち10個(26%)がドライバー変異を有し、KRAS変異は上皮成分に存在して間質成分には存在しなかったこと。それでも深部浸潤型子宮内膜症は悪性転化のリスクがほぼ無い病変であること閲覧 2026-08-24
  3. 3.Pathophysiology, diagnosis, and management of endometriosis(BMJ・2022)子宮内膜症が世界で約1億9000万人に生じる慢性炎症性婦人科疾患で、子宮外の内膜様組織を特徴とし、多くの患者で強い疼痛症状を伴うこと。不妊・倦怠感・多部位疼痛・その他の併存疾患のリスクが高いこと。症状発現から診断までの遅延が長いのが普通で、治療をしても症状の遷延・再発がよくみられること。多系統疾患であり、個別化された多面的・多職種の治療が望ましいこと閲覧 2026-08-24
  4. 4.ARID1A mutations in endometriosis-associated ovarian carcinomas(The New England Journal of Medicine・2010)ARID1A(SWI–SNFクロマチン再構成複合体の構成因子BAF250aをコードする)の体細胞変異が、卵巣明細胞癌119例中55例(46%)、類内膜癌33例中10例(30%)に認められ、高異型度漿液性癌76例では1例も認められなかったこと。BAF250a蛋白の消失は明細胞癌・類内膜癌という組織型およびARID1A変異と強く相関したこと。2例では腫瘍とそれに連続する異型内膜症の両方にARID1A変異とBAF250a消失が認められ、離れた内膜症病変には認められなかったことから、ARID1A変異は子宮内膜症の癌化における早期事象と推測されること閲覧 2026-08-24