組織病理学

組織病理学 · H2-095A

漿液性卵巣腫瘍の良性・境界悪性・悪性スペクトラム

Cystadenocarcinoma ovarii

描出疾患
卵巣癌

🧠 全体像:漿液性は、良性、(異型増殖性)漿液性腫瘍、(・)という一連のスペクトラムをなし、上皮の重層化・核異型・構築の複雑化・の有無で段階的に鑑別する。「」という呼称だけでは、どの段階の病変かを区別できない。

鑑別のスペクトラム

flowchart TD
    A["漿液性上皮"] --> B["良性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serous cystadenoma'>漿液性嚢胞腺腫</span>"]
    B -->|"KRAS・BRAF変異の蓄積"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='borderline malignant'>境界悪性</span>(異型増殖性)漿液性腫瘍"]
    C -->|"間質破壊性浸潤の出現"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-grade serous carcinoma'>低異型度漿液性癌</span>"]
    A -->|"TP53変異・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fimbriae (of the uterine tube)'>卵管采</span>STIC経路"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade serous carcinoma, HGSC'>高異型度漿液性癌</span>"]

はから段階的に進展する経路(KRAS・BRAF経路)をとることが多く、の(STIC)からTP53異常を介して生じるとは異なる発生経路をたどる。付属器を全割検索(SEE-)した骨盤55例では75%が卵管内膜に病変をもち、内癌の93%が部に存在し、併存する卵巣癌と同一のTP53変異を共有していた1。

💡 のグレードは3段階ではなく2段階である。 卵巣の評価は、核異型を主要指標・を副次的指標とする2段階分類(/)で行う。は軽度〜中等度の核異型でが10 HPFあたり12個まで、は高度の核異型で12個超が目安となる。この2群は年齢層も異なり(の平均41.7歳に対しは55歳)、従来のFIGO・Shimizu/Silverbergの3段階グレードとは一対一に対応しない2。旧来の3段階grade 1〜3も実習・試験では問われうるので、「2段階が現行、3段階は旧分類」と対応づけて覚える。の詳細な発生機序はを参照する。

組織学的鑑別点

所見 良性
上皮の重層化 なし、単層 軽度〜中等度(数層程度) 著明
核異型 軽微 軽度〜中等度 高度(特に型)
構築 単純な乳頭・嚢胞壁 階層的に分枝する乳頭、上皮の出芽 複雑な乳頭・腺管・増殖
なし なし(浸潤がないことが定義) あり
少ない 変動する 多い(特に型)
まれ 存在しうる 存在しうるが単独では診断根拠にならない

⚠️ の定義上の要点は「がないこと」である。細胞異型や乳頭の複雑さだけでと判定せず、浸潤の有無を確認する。標本では内に増殖と、良性壁を残した部分・部分が混在してみられることがある。

卵巣腫瘍・治療への接続

漿液性腫瘍を含む全般の大分類、悪性を示唆する肉眼所見、臨床・治療の接続は卵巣癌()に整理している。は多くが手術(患側付属器摘出、妊孕性温存も選択肢)で管理され、化学療法は浸潤性増殖巣を伴う場合など限られた状況で検討する。(II・III期)の漿液性でもは現実的な選択肢で、224例中74例(33%)が温存手術を受け、妊娠を試みた35例中21例(60%)が妊娠に至った。再発の大半はとしての再発であり、への進展は1例にとどまった3。はの病期・治療・病理を参照する。

まとめ

  • 漿液性は良性・・癌・癌のスペクトラムで捉える。癌のグレードは/の2段階で、旧来の3段階グレードとは対応しない。
  • の定義上の要点はがないことである。
  • はKRAS・BRAF経路、はTP53・STIC経路と発生経路が異なる。
  • の有無だけで良悪性や予後を判定しない。

出典

  1. 1.Intraepithelial carcinoma of the fimbria and pelvic serous carcinoma: Evidence for a causal relationship(The American Journal of Surgical Pathology・2007)付属器を全割検索するSEE-FIMプロトコルで検討した骨盤漿液性癌55例のうち41例(75%)が卵管内膜(采部を含む)に病変を持ち、卵管上皮内癌(TIC)の93%が卵管采に存在した。TICと併存卵巣癌を調べた5例はいずれも同一のTP53変異を共有した。「卵巣」漿液性癌の71%が卵管内膜への進展を、48%がTICを伴っていた閲覧 2026-08-24
  2. 2.Grading ovarian serous carcinoma using a two-tier system(The American Journal of Surgical Pathology・2004)卵巣漿液性癌の2段階グレード分類は核異型を主要指標、核分裂率を副次的指標とする。低異型度群は軽度〜中等度の核異型を示し核分裂像は10 HPFあたり12個までが多く、高異型度群は高度の核異型を示し核分裂像は10 HPFあたり12個を超える。低異型度50例の平均年齢は41.7歳(19〜75歳)、高異型度50例は55歳(27〜76歳)で、従来のShimizu/SilverbergやFIGOの3段階分類とは対応が一対一にならない閲覧 2026-08-24
  3. 3.Fertility results and oncologic outcomes in patients with stage II and III serous borderline ovarian tumors(International Journal of Gynecological Cancer・2025)II・III期の漿液性境界悪性卵巣腫瘍224例のうち74例(33%)が妊孕性温存手術を受け、追跡期間中央値4.1年で妊娠を試みた35例中21例(60%)が妊娠し、18例に19件の生児出産があった(1例を除きすべて非浸潤性implantの症例)。再発は妊娠前7例・妊娠後8例で、うち6例は境界悪性腫瘍としての再発、1例が低異型度漿液性癌への進展であった閲覧 2026-08-24