組織病理学

組織病理学 · H2-095B

橋本病(慢性リンパ球性甲状腺炎)

Hashimoto thyroiditis

描出疾患
甲状腺機能低下症

🧠 全体像:(Hashimoto thyroiditis、)は、への自己免疫性の傷害により無痛性の甲状腺腫と甲状腺機能低下症を来す疾患で、ヨウ素充足地域における甲状腺機能低下症の最も多い原因である1。

免疫学的機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝的素因</span>+環境因子"] --> B["甲状腺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoantigen'>自己抗原</span>に対する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune tolerance'>免疫寛容</span>の破綻"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CD4-positive Th1 cell'>CD4陽性Th1細胞</span>がIFN-γを放出"]
    C --> D["マクロファージ活性化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular cells'>濾胞細胞</span>傷害"]
    B --> E["CD8陽性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic T cell'>細胞傷害性T細胞</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular epithelium'>濾胞上皮</span>細胞の直接破壊"]
    B --> G["抗甲状腺抗体の産生"]
    G --> H["NK細胞を介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antibody-dependent cellular cytotoxicity (ADCC)'>抗体依存性細胞傷害</span>"]
    D --> I["濾胞の進行性破壊"]
    F --> I
    H --> I
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphocytic infiltration'>リンパ球浸潤</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='germinal center'>胚中心</span>形成組織への置換"]
    J --> K["甲状腺機能低下症"]

細胞は、Th1細胞を介した間接的傷害、による直接傷害、という3つの機序が組み合わさって破壊される。

標本で確認される所見

所見 解釈
+ 破壊が進むにつれ減少する残存正常構造。周囲の変化との対比に用いる
() 慢性傷害に対する反応性化生上皮。ミトコンドリアに富む豊富な質を持つ
・を伴う 濾胞破壊部に置き換わる慢性炎症性変化で、に特徴的な所見

臨床像と注意点

好発年齢は45〜65歳で女性に多く(男性の7〜10倍)、小児の甲状腺腫の主要な原因の一つでもあるため年齢だけで除外しない1。の患者は他の自己免疫疾患を合併しやすく、長期的には甲状腺のB細胞性(特に型)のリスクが上昇する。

⚠️ リンパ腫のリスクを「わずかに上昇」とだけ覚えない。 は大きく、では甲状腺リンパ腫が60倍高いと報告される1。でもリンパ腫のは12.92(95%信頼区間2.15〜77.63)で、の幅が示すとおり推定値は研究間で大きくばらつく2。原発性甲状腺リンパ腫そのものが非常にまれなのでは小さいままであり、「わずか」なのは、「大きい」のはだと切り分けて理解する。との関連はの時点で小さく(1.6倍、の1.65、95%信頼区間1.04〜2.61)、を癌の危険因子と断定するには研究のとが大きすぎるとされている23。

⚠️ 急速に増大する結節や非対称な腫大がみられた場合、の経過中であってもリンパ腫や合併するを鑑別する必要がある。

診断は抗体・などの自己抗体とで行い、治療はが明らかな例への補充(1.4〜1.8 µg/kg/日が目安)が基本となる1。

💡 標本が線維化優位・陽性形質細胞に富むときは亜型を考える。 には通常型のほかに線維性亜型やがあり、最も新しく認識された亜型が陽性である。甲状腺に限局する場合と、全身性の関連硬化性疾患の一部として生じる場合があり、も同じスペクトラムに属する可能性が指摘されている3。甲状腺の炎症・機能異常全般は甲状腺炎/・亢進、過形成による甲状腺腫との対比はを参照する。

まとめ

  • はにおける甲状腺機能低下症の最多原因である。
  • Th1細胞介在性傷害、傷害、の3機序が濾胞を破壊する。
  • 化生と形成が特徴的な組織像である。
  • 他の自己免疫疾患の合併と、B細胞性リンパ腫の上昇(は小さい)を念頭に置く。線維化が目立つ例では関連の亜型も考える。

出典

  1. 1.Hashimoto thyroiditis: an evidence-based guide to etiology, diagnosis and treatment(Polish Archives of Internal Medicine・2022)橋本病は女性に男性の7〜10倍多い自己免疫疾患で、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)を介した自己免疫反応が濾胞細胞破壊を増幅する。臨床像は破壊による一過性の甲状腺中毒症・残存組織による代償性の正常機能・機能低下症の3相をとる。機能低下にはレボチロキシンを1.4〜1.8 µg/kg/日を目安に補充する。橋本病では乳頭癌のリスクが1.6倍、甲状腺リンパ腫のリスクが60倍高い。TPOAb陽性の妊婦では反復流産・早産のリスクが2〜4倍になる閲覧 2026-08-24
  2. 2.Is Hashimoto thyroiditis associated with increasing risk of thyroid malignancies? A systematic review and meta-analysis(Thyroid Research・2021)50研究を対象とした系統的レビュー(うち27研究をメタ解析)で、橋本病は乳頭癌(オッズ比1.65、95%信頼区間1.04〜2.61)、髄様癌(2.70、1.20〜6.07)、リンパ腫(12.92、2.15〜77.63)と有意に関連したが、未分化癌(1.92、0.29〜1.90)と濾胞癌(0.73、0.41〜1.27)では有意でなかった。甲状腺悪性腫瘍全体では1.36(1.05〜1.77)。ただしバイアスリスクの高い研究が多く異質性も大きいため、確実な結論には前向き研究が必要である閲覧 2026-08-24
  3. 3.Hashimoto thyroiditis: a century later(Advances in Anatomic Pathology・2012)橋本病には通常型のほかに線維性亜型やRiedel甲状腺炎などの亜型があり、最も新しく認識された亜型がIgG4陽性橋本病である。これは甲状腺に限局する場合と、全身性のIgG4関連硬化性疾患の一部として生じる場合がある。Riedel甲状腺炎も同じスペクトラムに属する可能性が示唆されている。橋本病と甲状腺リンパ腫の関連は確立しているのに対し、乳頭癌との関係は「危険因子でありうる」という位置づけにとどまる閲覧 2026-08-24