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Disease Atlas · 血液 · 腫瘍

全身性肥満細胞症

Systemic mastocytosis

別名
系統性肥満細胞症SM
臓器系
血液免疫・膠原病全身
科目
Medical Genetics and Immunology (Immunology)Internal Medicine
トピック
免疫学 7.2:過敏症 I内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良
鑑別疾患
カルチノイド症候群・神経内分泌腫瘍(ゾリンジャー・エリソン症候群、インスリノーマを含む)遺伝性αトリプターゼ血症肥満細胞活性化症候群
続発疾患
アナフィラキシー骨粗鬆症
関連疾患
急性骨髄性白血病骨髄異形成症候群
治療薬
アバプリチニブミドスタウリンイマチニブクロモグリク酸ナトリウムオマリズマブエピネフリン
症状
顔面紅潮掻痒下痢腹痛低血圧失神肝腫大脾腫骨痛
検査値
血清トリプターゼヘモグロビン血小板数絶対好中球数アルブミン
適応薬
クロモグリク酸ナトリウム

🧠 全体像:は、KIT D816V変異によってクローン性に増えた肥満細胞が骨髄をはじめとする皮膚以外の臓器に住みつくである。この疾患の理解には2つの軸を分けて持つ必要がある。ひとつは肥満細胞が放出するメディエーターによる症状——・下痢・低血圧・アナフィラキシー——で、これはとは必ずしも比例しない。もうひとつは肥満細胞の浸潤そのものによる臓器障害(血球減少・肝障害・)で、これがあるかどうかが亜型分類とを決める。⚠️ 「症状が派手=重症」ではない。 最も頻度の高いは症状が強くても生命予後はほぼ正常で、逆には臓器障害が主役でメディエーター症状が乏しいこともある。

病態

KITはstem cell factorので、肥満細胞の増殖・生存を支配する。第816コドンの点変異(大部分がD816V)はキナーゼを活性型構造に固定し、リガンドなしに恒常的なシグナルを流す。これが肥満細胞のので、亜型を問わずの90%超で検出される1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='KIT D816V mutation'>KIT D816V変異</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activation loop'>活性化ループ</span>の点変異)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligand-independent'>リガンド非依存性</span>の恒常的キナーゼ活性"]
    B --> C["肥満細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clonal proliferation'>クローン性増殖</span>・生存延長"]
    C --> D["皮膚外臓器(骨髄・肝・脾・消化管・骨)への稠密浸潤"]
    C --> E["メディエーター(ヒスタミン・プロスタグランジン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leukotriene'>ロイコトリエン</span>等)の過剰放出"]
    D --> F["臓器障害=C所見<br>(血球減少・肝障害・吸収不良・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osteolysis'>骨溶解</span>)"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flushing'>紅潮</span>・掻痒・下痢・腹痛・低血圧・アナフィラキシー"]

⭐ D816V変異はに耐性を示す。 などのは構造に結合するため、活性型に固定されたD816Vには近づけない。が意味を持つのはD816V陰性(または不明)の症例に限られ、この一点が治療薬の選択を分ける。詳しい結合様式の理屈はのノートに譲る。

WHO第5版(2022)の分類

⚠️ 版を必ず確認する。 2022年に第5版とICC(International Consensus Classification)が相次いで公表され、肥満細胞症の扱いが一部食い違っている。

群 内訳
、、
、(ISM)、(SSM)、(ASM)、を伴う型(SM-AHN)、(MCL)
単発の破壊性・浸潤性の瘍

第5版ではの発現と、の活性化をもたらすKIT変異全般がとして受け入れられた2。

論点 第5版(2022) ICC(2022)
独立した亜型 の分類
KIT D816V のVAF 10%以上 B所見に含める B所見に含めない
診断要件 1つ+1つ、または3つ 1つのみ、または3つ
B所見② 骨髄増殖および/または骨髄異形成の徴候 C所見に至らない血球減少・血球増加に簡略化
慢性型 認める 認めない

出典3。どちらが正しいという話ではなく、報告書に書かれた分類がどちらの版に拠るかを読む側が確認するという運用上の問題である。

診断基準

区分 内容
骨髄またはその他の皮膚外臓器に、肥満細胞の多巣性の稠密浸潤(15個以上の凝集)を認める
① で肥満細胞の25%超が異型または
② KIT第816コドン等の活性化点変異
③ 肥満細胞におけるCD2・CD25・の異常発現
④ のが無い状況で、20 ng/mL超

1つ+1つ、または3つでと診断する(第5版)1。⚠️ ICC 2022 は要件が緩い——1つのみ、または3つで足りる3。

⚠️ ④のは、そのまま鵜呑みにできない。 (TPSAB1のα型)は人口の数%にみられる健常な体質で、基礎値が恒常的に高くなるため④を満たしやすい。で補正した値で判定しないと過剰診断になる。測定法・採血タイミング・補正の詳細はのノートに譲る。

B所見とC所見が亜型を分ける

所見 内容
B所見(の増加) ①肥満細胞量が多い ②骨髄増殖および/または骨髄異形成の徴候(第5版)/C所見に至らない血球減少・血球増加(ICC 2022の簡略版)③を伴わない(腹水などを伴わない、を伴わない脾腫、2 cm超のリンパ節腫大)
C所見(臓器障害) ①1系統以上の血球減少(1×10⁹/L未満、ヘモグロビン10 g/dL未満、100×10⁹/L未満)②腹水・・肝硬変を伴う肝障害 ③を伴う脾腫 ④(アルブミン低下)・体重減少を伴う ⑤を伴う2 cm以上の大きな

⚠️ B所見①の「肥満細胞量が多い」の定義が、2つの分類で違う。 ICC 2022は「骨髄細胞密度の30%超かつ200 ng/mL超」と両方を要求するのに対し、第5版は「骨髄の浸潤度30%以上および/または200 ng/mL以上および/またはKIT D816VのVAF 10%以上」と、いずれか1つで足りる形にした3。同じ患者がICCではB所見なし、第5版ではB所見ありになりうる。

⚠️ 骨粗鬆症と、小さな・はC所見に数えない。 これらはどの亜型でも高頻度にみられるため、これを根拠にと判定してはならない3。C所見に当たるのはあくまで「2 cm以上の大きな+」である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic mastocytosis'>全身性肥満細胞症</span>と診断"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='associated hematologic neoplasm'>随伴血液腫瘍</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["SM-AHN"]
    B -->|"なし"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow smear'>骨髄塗抹</span>で肥満細胞20%以上か"}
    D -->|"あり(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow biopsy'>骨髄生検</span>ではなく塗抹で数える)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mast cell leukemia'>肥満細胞白血病</span>"]
    D -->|"なし"| F{"C所見があるか"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aggressive type'>侵攻型</span>(ASM)"]
    F -->|"なし"| H{"B所見が2つ以上あるか"}
    H -->|"あり"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='smoldering type'>くすぶり型</span>(SSM)"]
    H -->|"なし"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indolent (subtype)'>惰性型</span>(ISM)"]

💡 B所見とC所見の対比が、この疾患の骨格そのものである。 B所見は「肥満細胞は増えているが臓器はまだ壊れていない」、C所見は「臓器が実際に壊れている」。に踏み切る根拠になるのはC所見であって、症状の派手さではない。

臨床像と亜型ごとの予後

⚠️ 骨粗鬆症はでも起こる。 肥満細胞由来のヘパリンやサイトカインによる亢進で、や若年男性のとして現れることがある。「若い男性の原因不明の骨粗鬆症」は本症を疑う入口の一つになる。

⚠️ アナフィラキシーのリスクが一般人口より高い。 (ハチ)・薬剤・造影剤・全身麻酔が誘因になりやすく、原因不明の反復性アナフィラキシーを診たら基礎を測る。患者にはエピネフリンを携帯させる。

鑑別

発作性の・下痢・低血圧という組み合わせはと重なる。では尿中が手がかりになるのに対し、本症ではと基礎値の2点比較とKIT D816V検索が診断の軸になる。鑑別の全体像はのノートに整理してある。

治療

治療はメディエーター症状への対処との2階建てで、後者に進む根拠はC所見(および・SM-AHN)である。

層 内容
メディエーター対策 H1・、、消化管症状に経口(腸管内で局所に作用する)、難治例に、誘因回避とエピネフリンの携帯
等による治療と骨密度の追跡
(進行型) (D816V陽性の進行型に1日200 mgから)、(100 mgを1日2回)。難治性のには1日25 mgという低用量の使い方がある
D816V陰性例 が選択肢になりうる

用量・の詳細は各薬剤ノートと添付文書で確認する。

まとめ

  • はKIT D816V(90%超)で駆動されるで、メディエーター症状と浸潤による臓器障害という2軸で理解する。
  • 第5版(2022)は・・に大別し、を骨髄型・・・・SM-AHN・に分ける。ICC 2022とはの位置づけ・KIT VAFのB所見扱い・慢性型MCLの是非で食い違うため、どちらの版に拠る報告かを確認する。
  • 診断は(15個以上の肥満細胞凝集)1つ+1つ、または3つ。④の基礎20 ng/mL超はによるに注意する。
  • C所見の有無がので、症状の強さではない。の生命予後はほぼ正常、は生存期間中央値41か月、は2〜31か月。
  • 骨粗鬆症とアナフィラキシーはでも起こる。原因不明の反復性アナフィラキシー・若年男性の骨粗鬆症で本症を思い出す。

出典

  1. 1.Systemic Mastocytosis and Other Entities Involving Mast Cells: A Practical Review and Update(Cancers (Basel)・2022)大基準が「骨髄またはその他の皮膚外臓器における肥満細胞の多巣性の稠密浸潤(15個以上の凝集)」であること、小基準が骨髄塗抹で異型肥満細胞25%超または紡錘形化・KIT第816コドンなどの活性化点変異・CD2/CD25/CD30の異常発現・骨髄系の随伴血液腫瘍が無い状況での基礎血清トリプターゼ20 ng/mL超の4つであること、大基準1つ+小基準1つまたは小基準3つで診断すること、KIT D816Vが亜型を問わず全身性肥満細胞症の90%超で検出されること、肥満細胞白血病が骨髄塗抹で肥満細胞20%以上と定義されC所見の有無で急性型・慢性型に分かれることを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.The 5th edition of the World Health Organization Classification of Haematolymphoid Tumours: Myeloid and Histiocytic/Dendritic Neoplasms(Leukemia・2022)第5版が肥満細胞症を皮膚肥満細胞症・全身性肥満細胞症・肥満細胞肉腫の3群に大別し、全身性肥満細胞症の亜型として骨髄肥満細胞症・惰性型・くすぶり型・侵攻型・随伴血液腫瘍を伴う型・肥満細胞白血病を置くこと、CD30発現とリガンド非依存性の活性化をもたらすKIT変異が小基準として受け入れられたこと、基礎血清トリプターゼ20 ng/mL超が小基準であること、骨髄細胞または末梢血白血球でのKIT D816V変異のVAF 10%以上がB所見に加えられたことを確認した閲覧 2026-09-02
  3. 3.Review and Updates on Systemic Mastocytosis and Related Entities(Cancers (Basel)・2023)表3でB所見の「高い肥満細胞量」の定義がICC 2022では「骨髄細胞密度の30%超かつ血清トリプターゼ200 ng/mL超」と両方を要求するのに対し、WHO第5版では「骨髄浸潤度30%以上および/または血清トリプターゼ200 ng/mL以上および/またはKIT D816VのVAF 10%以上」といずれか1つで足りる形になっていること、他のB所見がC所見に至らない血球減少・血球増加(反応性の原因を除外し他の骨髄系腫瘍の基準を満たさない)と臓器機能障害を伴わない臓器腫大(2 cm超のリンパ節腫大を含む)であること、C所見が絶対好中球数1×10⁹/L未満・ヘモグロビン10 g/dL未満・血小板100×10⁹/L未満のいずれかの血球減少、腹水と肝酵素上昇を伴う肝障害または肝硬変、脾機能亢進を伴う脾腫、低アルブミン血症を伴う消化管吸収不良、病的骨折を伴う2 cm以上の大きな骨溶解であること、骨粗鬆症と小さな骨溶解・骨硬化病変は全亜型に共通してみられるためC所見に数えないこと、くすぶり型がB所見2つ以上かつC所見・随伴血液腫瘍なしで定義されること、侵攻型がC所見1つ以上で定義され生存期間中央値41か月であること、肥満細胞白血病の20%以上という値が骨髄生検ではなく骨髄塗抹で数える値であり生存期間中央値が2〜31か月であること、WHO第5版が骨髄肥満細胞症を独立した亜型とするのに対しICC 2022は惰性型の下位分類とすること、慢性型肥満細胞白血病をICC 2022は認めないことを確認した閲覧 2026-09-02