免疫学

免疫学 · 7.2

過敏症 I

Hypersensitivity I

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W11Seminar / 演習
応用トピック
蕁麻疹の病態機序と臨床病型アナフィラキシーショックCOPD急性増悪と急性気管支喘息の病態・集中治療アレルギー鼻炎の分類口腔・咽頭の炎症性疾患ウイルス誘発性喘鳴と気管支喘息吸入・食物アレルギーの症候・診断・治療とアナフィラキシー
疾患
サバ中毒遺伝性αトリプターゼ血症花粉-食物アレルギー症候群食物アレルギー全身性肥満細胞症肥満細胞活性化症候群
症状
くしゃみ掻痒
検査値
血清トリプターゼ

🧠 このセミナーはI型過敏反応(07-1-hypersensitivity-reactions参照)を「実際の症例でどう診断し、どう治療するか」という臨床編として読む。 局所(1のみ)か全身性(2以上=アナフィラキシー)か、免疫依存性か非免疫依存性か、そして急性期にはを軸に気道・呼吸・循環をどう支えるか、長期にはをどう組み合わせるか——4つの症例を通じてこれらの判断軸を身につける。

アレルギー反応の重症度分類

分類 特徴
1つののみが関与(皮膚:皮膚炎・蕁麻疹・、消化管:下痢・嘔吐、呼吸器:・・)
全身性=アナフィラキシー 2つ以上のが関与する重症全身性アレルギー反応(全症状が同時に揃うとは限らない)
アナフィラキシーに低血圧を伴い、治療なしではに至りうる状態

⚠️ 「2以上」は覚えやすい目安だが、現行のでは必須条件ではない。 2005年の第2回NIAID/FAANシンポジウムは、アナフィラキシーを高い精度で拾える臨床基準をめざして開かれた1。そこで提案され2006年に公表された臨床基準(WAOが採用)は、症例の95%以上を拾えるよう設計された「定義ではなく診断の補助」である2。WAOは2020年にこれを2条件へ簡略化した——①典型的な状+他の1以上の有意な症状、②既知または疑わしいアレルゲンへの曝露+気道・呼吸または循環の障害。状はアナフィラキシーの10〜20%で欠けるので、皮膚所見がないことを理由に除外してはならない2。旧基準(3項目)も試験では問われうるので、上の表の枠組みは残したまま新旧を対応づけて覚える。

IgE介在性症候群の一覧

症候群 主なアレルゲン 侵入経路 反応
、、食物 皮膚・粘膜接触 局所・
() 花粉、の糞 吸入 浮腫・刺激・くしゃみ
アレルギー性喘息 動物の毛、花粉、ダニの糞 吸入 気道炎症・亢進・・
ピーナッツ、魚介類、、卵 摂取 嘔吐・下痢・掻痒・蕁麻疹・(まれにアナフィラキシー)
全身性アナフィラキシー 薬物、動物毒、ピーナッツ 静注または口腔粘膜からの直接吸収 ・全身・

症例1:ナッツアレルギー

8歳男児が救急搬送された。5歳時、ナッツ入りチョコレートバーを食べた約1分後に嘔吐。7歳時、兄がふざけてピーナッツを口に押し込んだところ2分後に顔面の著明な、続いて・嘔吐が出現(ヘーゼルナッツ・アーモンドでも軽度の発作歴あり)。以後ピーナッツと木の実を避けていたが、今回はバニラアイスを一舐めしただけで数秒以内に口唇・舌の、呼吸困難、めまいが出現——同じスクープが直前にナッツ味アイスの提供に使われていたことが判明。

💡 感作はいつ起きたのか。 診断は「ナッツアレルギー」。最初の感作は5歳時の最初のチョコレートバーの時点で既に成立していたと考えられ、以降の反応はすべて再曝露による即時型アレルギー反応——症状が「なぜ分単位で起こるのか」は、既にFcεRIに結合したIgEがしていたためである(07-1-hypersensitivity-reactionsの感作機序参照)。

蕁麻疹 vs 血管性浮腫

蕁麻疹
浮腫の部位 表皮・ 皮下組織

アレルギー症状の機序

機序 症状
粘膜分泌亢進 下痢、嘔吐、鼻炎()
、悪心、
蕁麻疹、、(窒息)、結膜炎、低血圧、失神

救急治療とその根拠

患児にはを直ちに投与し、反応が不十分なら約5分後に反復する。同時に酸素投与、、急速輸液、早期の気道管理を病態に応じて行う。観察時間は一律の「一晩」ではなく、重症度、必要としたアドレナリン回数、既往、帰宅後のアクセスを踏まえて個別化する。

⭐ アナフィラキシーの第一選択はであり、投与を遅らせない。 は気道・呼吸・循環障害を治療せず、安定化後に残る状への補助薬である。グルココルチコイドは作用発現が遅く、を確実に予防する根拠もないため、ルーチン投与しない。や遷延するショックなど、別の適応がある場合に限って検討する2。WAO 2020は抗ヒスタミン薬を「一部のガイドラインでは第三選択」と位置づけ、その理由をのという緊急措置を遅らせうる点に置いている。グルココルチコイドについては「急性期に無益で有害の可能性すらある」という報告が増え、ルーチン投与は議論の対象になっている。は約半数が初発から6〜12時間以内に起こるため、観察時間はこの時間帯を意識して個別に決める2。

薬物療法の全体像

薬剤群 例
(まれにしか使われない)
抗ヒスタミン薬(薬) 局所:、全身:・
グルココルチコイド 局所:、全身:
アドレナリン 重症例の第一選択

アレルギー診断のワークアップ

病歴(いつ・どんな症状か)・家族歴の聴取から始まり、アレルギー反応の証明()、()、アレルゲン、コンポーネント(分子)アレルギー検査、アレルゲン除去試験()、(アレルゲン曝露証明、まれ)と段階的に進む。

💡 症例1は病歴だけで診断が確定できた——しかも非な「」まで経験済み。 兄によるピーナッツの強制摂取は、期せずしてした誘発試験そのものだった。

血清トリプターゼ

肥満細胞由来の酵素で、時に顆粒から放出されが上昇する。診断が不確実な場合にアナフィラキシーを確認する根拠となり、薬物アレルギーと(HAE/HANO)の鑑別に測定が推奨される。

💡 いつ採血したかで意味が変わる。 急性期のは発症15分後から3時間(ときにそれ以上)にかけて上昇し、1〜2時間でピークに達する。ただしピーク時でも36〜40%は11.4 ng/mL未満にとどまるため、正常値はアナフィラキシーを否定しない(食物誘発性の小児で特に多い)。症状消退から24時間以上あけてベースライン値を測り、急性期値と比較する(2012年の合意式は「ピーク値 > ベースライン × 1.2 + 2」)——ただしこの式でもすべての反応は捉えられない2。の測定系はで放出される成熟β-だけでなく、恒常的に分泌されるα・β-プロ(=アナフィラキシーではなく肥満細胞の総量を反映)も拾う点にも注意する。

皮膚テスト

種類 用途
気道アレルギー(花粉・カビ・・動物の毛)の診断が中心
ハチ・スズメバチ毒アレルギー(時に薬物アレルギー)。異なる希釈でアレルゲンを皮内注射
食物・接触アレルゲン(金属等)を背部上部に貼付

⚠️ ()は実はの検査。 同じ「」という枠組みの中でも、・がI型()を調べるのに対し、は接触性皮膚炎などのIV型(遅延型)過敏反応を評価する検査であるという区別を見落としやすい。

判定: アレルゲン塗布15分後に判定し、径が陰性対照()より3mm以上大きければ陽性。ヒスタミン(1.8 mg/mL)を陽性対照として使う。判定前には抗ヒスタミン薬・グルココルチコイド・・H2拮抗薬・β遮断薬(点眼薬含む)を中止する必要がある。妊娠・一部の皮膚疾患は禁忌(β遮断薬治療は)。

⚠️ 陽性・陽性は、それ単独では「病気」を意味しない。 病歴に基づく疑いを裏付けて初めて臨床的な意味をもつ——検査結果が病歴と乖離する場合は病歴を優先する。が禁忌の場合は、による血清アレルゲン測定(RAST=放射性アレルゲン吸着試験、またはを用いる間接のImmunoCAP)で代替する。

症例2:免疫性 vs 非免疫性アナフィラキシー

50歳女性、検査でを静注後、直後に悪寒・傾眠・顔面頸部浮腫・悪心・咳嗽・呼吸困難が出現。血圧・が低下し。治療により1時間後に意識回復、4日後に無症状で退院。

⭐ 「免疫性」と「非免疫性」のアナフィラキシーは臨床像が同じでも機序が違う。 非免疫性アナフィラキシー(旧称:、)では免疫系は関与せず、が直接肥満細胞・のとヒスタミン放出を誘発する——造影剤、/アスピリン、(運動・温熱・寒冷)、ヒスタミン含有食品(赤ワイン)、細菌による分解産物(不適切に保存された豊富な魚による)が代表例。一方、免疫性()アナフィラキシーは食物(ピーナッツ・魚介類)、薬物()、(ハチ・スズメバチ・アリ)、などが典型的な誘因になる。

💡 この「非免疫性」の枠は、2023年のEAACI改訂で独立した型として整理された。 EAACIの位置づけ文書はGell & Coombsの4型を9型へ拡張し、抗体依存性(I〜III)・細胞性(IVa〜c)・組織由来(V・VI)に加えて、への直接反応をVII型として立てている3。やフルオロキノロンがMRGPRX2受容体を介して肥満細胞を直接活性化する経路2は、この枠に収まる。旧称の「」も試験では問われうるので、新旧の呼び方を対応づけて覚える。

食物アレルギーと食物不耐症

⚠️ はと同じではない。 免疫依存性の食物過敏症はさらに(・卵・ピーナッツ・花粉アレルギー)と(セリアック病=過敏性腸症)に分かれ、非免疫依存性には・・・が含まれる——は同じでも機序がまったく異なりうる。

: 疑わしい(・卵・ピーナッツ・小麦・大豆・魚など)を食事から除去し食事日記をつける。3週間以内に症状が軽減・消失すれば原因食物の関与が証明され、その後同じ食物を再導入し症状がすれば確定診断となる。

: 入院下で、患者に食事内容を知らせない盲検法で実施(心理的影響の排除)。重症アレルギー反応や多発性には適用できず、手間と時間を要する。

症例3:ラテックス-フルーツ症候群

25歳男性、アボカドサンドイッチ摂取30分後に眼・頸部の著明な浮腫()と四肢・体幹の蕁麻疹が出現。救急隊を待つ間にを繰り返した。既往歴:過去3年間、キウイフルーツ摂取後・パーティーで風船を膨らませた後に同様の症状。

⭐ 診断:——アボカド・キウイ・天然ゴムに共通するタンパクドメイン「」がの原因。 免疫系は構造が似た異なる由来の抗原を区別できず、同じアレルギー反応で応答してしまう(、cross-reactivity)。医療従事者にとって重要な教訓:製手術用手袋はリスク因子であり、アレルギーのは一般人口で約4%だが医療従事者では約10%に達する(レビューの集計値は医療従事者9.7%、易感受性患者7.2%、一般人口4.3%)4。

はによるのに対し、は吸入・による感作物質(sensitizer=elicitor)と共通のエピトープをもつへのとして生じる——症例3はまさにこのの典型例。

症例4:牛乳タンパクアレルギーと家族歴

生後2週の乳児。母乳不足を指摘され生乳での補足哺乳を開始。6週齢時、絶叫発作・・四肢体幹の湿疹病変が出現。詳細なで・喘息の強い家族歴が判明。診断:タンパクアレルギー。

💡 家族歴がなぜ重要か——は(07-1-hypersensitivity-reactions参照)だから。 家族歴の聴取は、単なる背景情報ではなく、乳児が体質を受け継いでいる可能性、ひいては今回の症状がアレルギー性である可能性を高める直接的な診断的手がかりになる。

アレルギー予防の考え方の変遷

⭐ 「避ける」から「教える」へ——アレルギー予防戦略の逆転。 かつては感作を防ぐため乳児期のアレルゲン性食品導入を遅らせること(例:ピーナッツなどの高アレルゲン性食品を3歳頃まで与えない)が推奨されていた。LEAP試験(2015年)が、重症湿疹・を持つハイリスク乳児にピーナッツ含有食品を生後4〜11か月から早期導入することでピーナッツアレルギー発症を8割以上減少させた(陰性の530人では60か月時点のが回避群13.7%に対し摂取群1.9%、陽性の98人では35.3%に対し10.6%)5ことを受け、NIAID 2017年addendumガイドラインは未成熟な免疫系に経口的に寛容を教える戦略へ転換した——はやでのスクリーニング後に生後4〜6か月から、湿疹のない児は生後6か月頃から他のと同時に自由にアレルゲン性食品を導入する6。かつて推奨されていたによるアレルギー予防効果を裏づける確立した根拠はなく、鍵は特定のフォーミュラではなく主要アレルゲン性食品そのものの早期導入である。

アレルギーの治療:脱感作療法

感作パターン
①可能な限りアレルゲン回避、②薬物療法、③(/減感作)
①薬物療法、②可能なら優勢アレルゲンの回避

⭐ =アレルゲン療法は、アレルギーに対する唯一の「原因治療」。 感作アレルゲンを少量から漸増しながら皮下注射またはする(数年単位)。治療効果の指標として上昇が重要——はIgEと競合する「」として働く。はシーズンの1.5〜2か月前から開始しシーズン終了まで、3年間継続することで対症療法ではなく長期的な治癒効果が期待できる。

コンポーネント(分子): 免疫療法開始前にアレルゲン分子そのものを同定することがの観点で重要。で作られた組換えアレルゲンを用いたアレルゲン(例:ImmunoCAP ISAC)——ガラス上のエピトープに患者を反応させ、抗ヒトで検出する。

鑑別診断:アレルギー vs 遺伝性血管性浮腫(HAE)

所見 アレルギー HAE
蕁麻疹 あり なし
あり なし
低血圧 ありうる ありうる
紅斑 あり ありうることも
疼痛・熱感 あり ありうることも
腹痛 まれ 頻繁
アドレナリン・抗ヒスタミン薬・ステロイドへの反応性 あり なし
検査マーカー 上昇 C4低値(通常)

まとめ

  • アレルギー反応はか全身性(アナフィラキシー)かで重症度が分かれ、蕁麻疹(表皮・の浮腫)と(皮下組織の浮腫)は解剖学的深さが異なる。
  • 急性期治療の第一選択はで、気道・呼吸・循環の支持を並行する。抗ヒスタミン薬は安定化後の状への補助薬、グルココルチコイドは別の適応がある場合に検討し、いずれもアドレナリンを遅らせてはならない。
  • 診断は病歴→→(プリック/皮内=I型、=IV型という区別に注意)→アレルゲンの順で進み、いずれの検査も病歴による裏付けがあって初めて臨床的意義をもつ。
  • 免疫性()と非免疫性(旧)のアナフィラキシーは臨床像が似ていても機序が異なり、造影剤・・などが後者の典型的な誘因になる。
  • とは区別され、・で診断する。(等)は一次/という概念で理解する。
  • アレルギー予防は「回避」から「寛容誘導」へパラダイムが転換しており、(アレルゲン療法、上昇が指標)が唯一の原因治療である。

出典

  1. 1.Second symposium on the definition and management of anaphylaxis: summary report--Second National Institute of Allergy and Infectious Disease/Food Allergy and Anaphylaxis Network symposium(The Journal of Allergy and Clinical Immunology・2006)抄録で、アナフィラキシーの定義・診断基準に普遍的な合意が無いこと、2005年7月にNIAIDとFAANが北米・欧州・豪州を含む16団体の代表を集めて第2回会議を開き、普遍的に受け入れられる定義と、アナフィラキシーを高い精度で拾える臨床基準の確立をめざしたことを確認した。本文は取得できておらず、基準の項目数・感度95%超の設計・「定義ではなく診断の補助」という位置づけはWAO 2020(cardona-wao-anaphylaxis-2020)の記述で確認した閲覧 2026-08-25
  2. 2.World allergy organization anaphylaxis guidance 2020(World Allergy Organization Journal・2020)2005年のNIAID/FAANシンポジウムの臨床基準は定義ではなく診断の補助で、少なくとも95%のエピソードを拾う(感度95%超)よう作られWAOが採用した。筋注アドレナリンが第一選択で抗ヒスタミン薬は一部のガイドラインで第三選択、グルココルチコイドの常用は有益性が乏しく有害の可能性もあり議論がある。二相性反応の約半数は6〜12時間以内。急性期トリプターゼは15分〜3時間で上昇し1〜2時間でピーク、ピーク時でも36〜40%が11.4 ng/mL未満。ベースラインは症状消退後24時間以上あけて測る。NIAID/FAAN基準を2条件へ簡略化し、皮膚症状はアナフィラキシーの10〜20%で欠ける閲覧 2026-08-25
  3. 3.Nomenclature of allergic diseases and hypersensitivity reactions: Adapted to modern needs: An EAACI position paper(Allergy・2023)EAACIはGell & Coombsの4型を9型へ拡張し、抗体依存性I〜III、細胞性IVa〜c、組織由来V・VI、化学物質への直接反応VIIとした。臨床では複数型の混在がありうる閲覧 2026-08-25
  4. 4.Current prevalence rate of latex allergy: Why it remains a problem?(Journal of Occupational Health・2016)ラテックスアレルギーの世界平均有病率は医療従事者9.7%、易感受性患者7.2%、一般人口4.3%閲覧 2026-08-25
  5. 5.Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy(The New England Journal of Medicine・2015)重症湿疹または卵アレルギーをもつ生後4〜11か月の乳児640人で、皮膚プリック試験陰性群の60か月時点ピーナッツアレルギー有病率は回避群13.7%対摂取群1.9%、陽性群では35.3%対10.6%閲覧 2026-08-25
  6. 6.Addendum guidelines for the prevention of peanut allergy in the United States: Report of the National Institute of Allergy and Infectious Diseases-sponsored expert panel(The Journal of Allergy and Clinical Immunology・2017)リスク階層別に3つの推奨を置き、特異的IgE・皮膚プリック試験・経口負荷試験の使い分けと、ピーナッツ含有食品の導入時期を定めた閲覧 2026-08-25