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Lab values · Published

血清トリプターゼ

Serum tryptase

別名
トリプターゼtryptase
臓器系
免疫・膠原病血液
科目
Immunology
トピック
免疫学 7.1:過敏反応免疫学 7.2:過敏症 I
関連疾患
アナフィラキシー

🧠 全体像は肥満細胞の活性化と総量の両方を映す検査だが、単回の値だけでは判定できない。発作中に本当に上がったかどうかは、その人自身の基礎値と比較して初めて意味を持つ。基礎値そのものがに高い人()を知らずに解釈すると、健常な高値を肥満細胞症と誤ることになる。

何を測っているか

肥満細胞のに含まれるである。とβ型(成熟)の2種類があり、この違いがこの検査の解釈全体を決める。

分子種 由来 反映するもの
肥満細胞から常時、少量ずつ分泌される 肥満細胞の総量=基礎の主体
β型(成熟) に貯蔵され、時に一気に放出される 急性の

通常の臨床検査はこの2つを区別せずとして測定する。したがって1回の値だけでは「肥満細胞が多いのか、今活性化しているのか」を区別できず、値と基礎値を別々に測って比較するという発想が必須になる。

基準値と単位

単位はµg/L(ng/mLと同値)。健常人の基礎値は多くの測定法で低値に分布するが、施設・測定法ごとのを優先する

内でも、その人自身の基礎値からの上昇があればを示唆する。逆にを超えていても、後述ののように健常な体質であることがある。絶対値だけで判定しない。

発作時値と基礎値の比較

の臨床的な使い方は、の値と、その人の基礎値を2点測って比べることに尽きる。

flowchart TD
    A["急性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mast cell activation'>肥満細胞活性化</span>を疑う症状"] --> B["発症後1〜2時間程度でピークとなる<br>急性期値を採血"]
    B --> C["症状が完全に消失してから<br>24時間以上あけて基礎値を採血"]
    C --> D{"急性期値は基礎値の<br>1.2倍+2 µg/Lを超えるか"}
    D -->|"はい"| E["有意な上昇=急性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mast cell activation'>肥満細胞活性化</span>を支持"]
    D -->|"いいえ"| F["活性化を否定できない<br>(特に食物誘発例)"]
    E --> G{"基礎値自体が<br>持続的に高いか"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic mastocytosis'>全身性肥満細胞症</span>・HαTを検索"]
    G -->|"いいえ"| I["単発の急性エピソードとして経過観察"]

「有意な上昇」の判定には、急性期値が基礎値の1.2倍に2 µg/Lを加えた値を超えるという式(いわゆる「20%+2」基準)が国際的に用いられている1。急性期の採血は症状発現から1〜2時間程度で行い、遅くとも4時間以内とする。基礎値は症状が完全に消失してから24時間以上あけて測定する2。ピークは発症後1〜2時間、半減期は約2時間である。

高値の意味

機序 代表的状況 解釈の注意
急性の アナフィラキシー 食物誘発のアナフィラキシーでは上昇しないことが多く、薬剤・ハチ毒誘発では上昇しやすい。正常値でも活性化を否定できない
肥満細胞の総量増加(持続的高値) 基礎20 µg/L超がWHO分類の副基準の一つ3
(HαT) TPSAB1のα型増加 人口の数%にみられる健常な体質。基礎値が恒常的に高く、肥満細胞症とされる最大の原因1で補正した値で副基準の該当を判断する3
非肥満細胞性 低下)、などの、好酸球増多を伴う血液腫瘍 肥満細胞疾患を疑う前に除外する

💡 HαTとは併存しうる。HαTを持つ人は肥満細胞症の基礎基準を満たしやすくなるため、を確認せずに副基準を判定すると過剰診断につながる3

測定上の注意

  • ⚠️ アナフィラキシーを疑う場面では、採血のためにアドレナリン投与を遅らせない。治療が最優先である。
  • ⚠️ 採血時刻を必ず記録する。時刻を欠くと値・基礎値の比較ができなくなる。
  • ⚠️ 正常値はアナフィラキシーを否定しない。特に食物誘発例では上昇しないことが多い。
  • 溶血・保存条件によってが生じうる。
  • 基礎値は1回だけでなく、疑わしければ複数回測定して安定した値を確認する。

経時変化とモニタリング

急性期値と基礎値の2点比較が原則であり、単回値の絶対水準だけを見ない。基礎値を繰り返し測っても持続的に高い場合は、単発の活性化エピソードではなく肥満細胞の総量が増えている可能性を考え、好酸球増多の有無を確認したうえでKIT D816V変異の検索とへ進む次の一手を検討する。クレアチニンなど腎機能を併せて確認し、によるを除外する。

まとめ

  • +β型)を測る。α型は肥満細胞の総量、β型は急性活性化を反映するが、通常の検査はこれを区別しない。
  • 判定の核心は値と基礎値の比較である。発症後1〜2時間で急性期値、症状消失後24時間以上あけて基礎値を採り、基礎値の1.2倍+2 µg/Lを超えれば有意な上昇とする。
  • 高値は急性活性化(アナフィラキシーなど)と、肥満細胞総量の増加(肥満細胞症・)の両方で起こりうるため、一度の値では区別できない。
  • は肥満細胞症としばしば混同される健常な体質であり、必ず念頭に置く。
  • 採血のために治療を遅らせない。正常値はアナフィラキシー、特に食物誘発例を除外しない。

出典

  1. 1.Why the 20% + 2 Tryptase Formula Is a Diagnostic Gold Standard for Severe Systemic Mast Cell Activation and Mast Cell Activation Syndrome(International Archives of Allergy and Immunology (Karger)・2019)発作時の有意な上昇を判定する「基礎値×1.2+2」の式、単位、遺伝性αトリプターゼ血症の一般人口での頻度を確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Systemic Mastocytosis and Other Entities Involving Mast Cells: A Practical Review and Update(Cancers (Basel)・2022)WHO分類で基礎トリプターゼ20 µg/L超が全身性肥満細胞症の副基準であること、遺伝性αトリプターゼ血症のコピー数補正の方法を確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Retesting Intervals for Tryptase(Canadian Agency for Drugs and Technologies in Health・2024)急性期値の採血タイミング(発症後1〜2時間、遅くとも4時間以内)と、基礎値の採血タイミング(症状消失後24時間以上)、半減期を確認した閲覧 2026-08-03