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Disease Atlas · 血液 · 症候群

好酸球増多症候群

Hypereosinophilic syndrome

別名
HES特発性好酸球増多症候群Idiopathic hypereosinophilic syndrome
臓器系
血液全身循環器
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/4:骨髄・リンパ系の非腫瘍性疾患内科学 L-60:骨髄増殖性疾患
鑑別疾患
Löffler症候群好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)好酸球性肺炎
続発疾患
拘束型心筋症
治療薬
イマチニブプレドニゾロンメポリズマブベンラリズマブヒドロキシウレアインターフェロンα
症状
呼吸困難胸痛咳動悸皮疹末梢神経障害血栓塞栓症
検査値
血中好酸球好酸球増多血清トリプターゼ心筋トロポニン
適応薬
ベンラリズマブ

🧠 全体像:(HES)は、「が持続的に著明に高い」というの名前ではなく、その好酸球が実際に臓器を傷めていることまで確認して初めて付く診断名である1。⭐ 臨床像を決めるのは好酸球の“量”ではなく“由来”——骨髄そのものが腫瘍性にする骨髄増殖型(FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子陽性でが劇的に効く)と、異常なT細胞がIL-5を出し続けて好酸球を“呼び続ける”リンパ球型とでは、治療も予後もまったく違う。⚠️ 見逃せない標的臓器は心臓で、好酸球性心内膜心筋炎(Löffler心内膜炎)は壊死→血栓→線維化と進みに至りうる。

診断基準

HESの診断は3要素で成り立つ1。

  1. 好酸球増多の確認:1か月以上の間隔をあけた2回の血算で1.5×10⁹/L超(を行う場合は好酸球が全の20%超)
  2. 臓器・組織障害の証拠:好酸球増多そのものに起因する障害があること
  3. 他疾患の除外:臓器障害の主因となりうる他の疾患が除外されていること

⚠️ が基準を満たすだけでは「好酸球増多」であって「HES」ではない。 臓器障害の証拠と他疾患の除外が揃って初めてHESと呼べる。

病型分類:由来で分ける

flowchart TD
    A["著明な好酸球増多+臓器障害"] --> B{"クローン性・腫瘍性の証拠は"}
    B -->|"FIP1L1-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet-derived growth factor receptor alpha (PDGFRA)'>PDGFRA</span>融合遺伝子陽性"| C["骨髄増殖型(M-HES)<br>=慢性好酸球性白血病"]
    B -->|"異常IL-5産生T細胞(CD3陰性CD4陽性等)"| D["リンパ球型(L-HES)"]
    B -->|"基礎疾患あり(寄生虫・EGPA等)"| E["続発性(HESR)"]
    B -->|"原因不明の持続性好酸球増多の家族歴"| F["家族性(HESFA)"]
    B -->|"上記いずれでもない"| G["特発性(IHES)"]
病型 由来 特徴
骨髄増殖型(M-HES) 4q12欠失によるFIP1L1-PDGFRA融合遺伝子 ⭐ 血清ビタミンB12上昇・貧血・血小板減少・上昇・肝脾腫、が著効
リンパ球型(L-HES) 異常なIL-5産生T細胞(CD3陰性CD4陽性等) の受容性が良い
続発性(HESR) ・EGPA等の基礎疾患 基礎疾患の治療が中心
家族性(HESFA) 原因不明の持続性好酸球増多の家族歴 まれ
特発性(IHES) 明らかな基礎疾患なし

(すべてStatPearlsの記載による1)

💡 FIP1L1-PDGFRAは「たまたま隣り合った遺伝子が融合した」だけで新しい蛋白ができる好例である。 染色体4番の欠失でFIP1L1とPDGFRAが近接して融合遺伝子となり、産物は正常蛋白と同じ機能を持つが恒常的に活性化しているため、細胞はを受け続ける2。この「スイッチが入りっぱなしのキナーゼ」という構図が、()で著効する理由である。

臓器障害:心臓・皮膚・神経

⭐ 好酸球性心筋障害(Löffler心内膜炎)は3病期を辿る1。

病期 機序 臨床像
急性壊死期 好酸球・→→・無菌性 呼吸困難・胸痛・咳・
期 好酸球由来の次亜+ 血栓塞栓症
好酸球性 ⚠️ (予後不良)・

⭐ 状は患者の37%にみられ、頻度が最も高い臓器障害の一つである。 湿疹・・・皮膚描記症・蕁麻疹・・性紅斑など多彩な形をとる1。

神経症状は4%と頻度は低いが、末梢神経障害・・・など末梢症状が神経症状全体の50%超を占める。中枢症状としては脳症・精神症候群がある1。

鑑別診断

⭐ EGPA()とHESを分ける鍵は血管炎の有無である1。EGPAはと血管炎所見(腎障害・など)を伴うが、HESにその前提は要らない。

⚠️ 好酸球増多を見たら、まずのスクリーニングから始める。 便中虫卵検査などで続発性好酸球増多(・を含む)を除外する1。⚠️ 免疫抑制治療を始める前にStrongyloides()感染を除外する。 血清学的検査を行い、陽性または除外できない場合は200 mcg/kg/日を2日間予防投与する——ステロイドで(オートインフェクション)がとして致死的に増悪しうるためである1。

💡 との鑑別には比の計算が使える。 との比(AEC/)は、肥満細胞症を伴う好酸球増多では100未満、HESでは100超になる1。

治療

flowchart TD
    A["HESの診断確定"] --> B{"FIP1L1-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet-derived growth factor receptor alpha (PDGFRA)'>PDGFRA</span>陽性か"}
    B -->|"陽性"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='imatinib'>イマチニブ</span>400 mg/日<br>数日で速やかに反応することが多い"]
    B -->|"陰性"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic corticosteroid'>全身性副腎皮質ステロイド</span><br>(好酸球10万/μL超は高用量静注)"]
    D --> E{"反応は"}
    E -->|"良好"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance dose'>維持量</span>へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tapering'>漸減</span>"]
    E -->|"抵抗性"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydroxyurea'>ヒドロキシウレア</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interferon alfa'>インターフェロンα</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mepolizumab'>メポリズマブ</span>などを追加"]
  • ⭐ FIP1L1-陽性HESの第一選択は400 mg/日で、多くは数日以内に速やかに反応する1。
  • それ以外の大半のHES亜型ではが第一選択で、により85%が1か月以内に部分的またはを得る(中央値は1日10 mg)1。
  • 10万/μL超の重症例には、高用量静注(1 mg/kg/日)または1 g/日を用いる1。
  • ステロイド抵抗例:(1日0.5〜2 g)、(1日100万単位から漸増、L-HESで受容性良好)、(4週ごと皮下注射300 mg)を用いる。では減量に成功した患者が84%に上ったと報告されている1。
  • 抗IL-5受容体α抗体:も本症のをもち、成人および12歳以上の小児に1回30 mgを4週間隔で皮下注射する3。⚠️ 承認しているのは日本と米国で、のSmPCには本症の適応が無い(は成人の重症とEGPAの2つだけ)。米国の適応は「明らかな非血液学的二次性の原因を伴わないHES」と限定されている4。⚠️ ()とは標的が違う——は好酸球側のIL-5受容体αに結合し、で好酸球そのものを除去する。⚠️ 投与前に、好酸球増多の原因となる基礎疾患とFIP1L1-融合遺伝子の有無を検討したうえで適応患者を選ぶことが求められており、対象は疾患活動性を有する患者またはを繰り返す患者である3。根拠は12歳以上のHES患者133例(日本人10例を含む)を対象とした第III相国際共同試験(NATRON)である3。

まとめ

  • HESは「が高い」だけでは付かない診断で、①1か月以上あけた2回の1.5×10⁹/L超、②好酸球増多に起因する臓器障害、③他疾患の除外、の3条件で確定する。
  • 骨髄増殖型(FIP1L1-PDGFRA陽性、が著効)とリンパ球型(異常IL-5産生T細胞、が有効)を中心に、続発性・家族性・特発性に分かれる。
  • 心臓病変(Löffler心内膜炎)は壊死期→期→()と進む。状は37%と最頻、神経症状は4%だが末梢神経障害が主体。
  • EGPAとの鑑別点は血管炎の有無。好酸球増多を見たらのスクリーニングを先行させ、免疫抑制治療前にはStrongyloides感染を除外・必要ならを予防投与する。
  • 治療はFIP1L1-陽性なら、それ以外は全身性ステロイドが第一選択。抵抗例には・・()・抗IL-5受容体α抗体()を追加する。日本と米国はに本症のをもつが、には無い。

出典

  1. 1.Hypereosinophilic Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)好酸球増多症候群(HES)の診断基準が、1か月超の間隔をあけた2回のCBCで好酸球数1.5×10⁹/L超であること、骨髄生検で好酸球が全有核細胞の20%を超えること、好酸球増多に起因する臓器・組織障害の証拠があること、臓器障害の主因となる他疾患を除外することから成ること、骨髄増殖型(M-HES)が4q12の欠失によるFIP1L1-PDGFRA融合遺伝子陽性であり血清ビタミンB12上昇・貧血・血小板減少・血清トリプターゼ上昇・肝脾腫を特徴とすること、リンパ球型(L-HES)が異常なCD3陰性CD4陽性T細胞などIL-5産生T細胞に起因すること、続発性(HESR)が寄生虫感染やEGPA等の基礎疾患によること、家族性(HESFA)が原因不明の持続性好酸球増多の家族歴によること、特発性(IHES)が明らかな基礎疾患のない臓器障害合併例を指すこと、好酸球性心筋障害が急性壊死期(好酸球・リンパ球浸潤と脱顆粒による心筋壊死・無菌性微小膿瘍形成)→血栓形成期(好酸球ペルオキシダーゼ由来の次亜チオシアン酸と組織因子による血栓形成)→線維化期(拘束型心筋症・致死性心室性不整脈の原因となる好酸球性心内膜心筋線維症)の3病期を辿ること、皮膚症状が患者の37%にみられ湿疹・紅皮症・苔癬化・皮膚描記症・蕁麻疹・血管性浮腫や瘙痒性紅斑・丘疹・局面・膨疹・結節として現れること、神経症状が4%にみられ中枢症状(脳症・器質性精神症候群)と末梢症状(末梢神経障害・多発性単神経炎・自律神経障害・多発筋炎、末梢症状が神経症状全体の50%超を占める)に分かれること、FIP1L1-PDGFRA陽性HESにイマチニブメシル酸塩が推奨用量1日400 mgで著効し多くが数日以内に速やかに反応すること、全身性副腎皮質ステロイドがほとんどのHES亜型で第一選択治療でありプレドニゾン導入後85%が1か月以内に部分的または完全な症状寛解を得て維持量中央値は1日10 mgであったこと、好酸球数10万/μL超の重症例には高用量静注プレドニゾン1 mg/kg/日または1 g/日のメチルプレドニゾロンを用いること、ステロイド抵抗例にヒドロキシウレア(1日0.5〜2 g)やインターフェロンα(1日100万単位から漸増)を用いること、メポリズマブ4週ごと皮下注射300 mg(100 mgを3回)でプレドニゾン減量に成功した患者が84%であったこと、L-HES亜型ではインターフェロンαの受容性が良いこと、EGPAとHESを分ける鍵が血管炎の有無であること、好酸球増多の評価は寄生虫感染のスクリーニング(便中虫卵検査)から始めるべきであり治療前にStrongyloides血清学的検査を行いイベルメクチン200 mcg/kg/日を2日間予防投与すべきこと、絶対好酸球数と血清総トリプターゼの比(AEC/トリプターゼ)が全身性肥満細胞症を伴う好酸球増多では100未満、HESでは100超であることを、記事本文(2024年1月11日更新)で確認した閲覧 2026-09-06
  2. 2.FIP1L1 gene(MedlinePlus Genetics (National Library of Medicine)・2012)染色体4番の一部欠失がFIP1L1遺伝子の一部とPDGFRA遺伝子の一部を近接させFIP1L1-PDGFRA融合遺伝子を作ること、この変異が体細胞性であり生涯のうちに獲得され特定の細胞のみに存在すること、この融合遺伝子がPDGFRA関連慢性好酸球性白血病(好酸球数増加を特徴とする血液腫瘍)を来すこと、FIP1L1-PDGFRA融合蛋白が正常PDGFRA蛋白と同じ機能(細胞の増殖・生存を制御するシグナル伝達経路の刺激)を持つが正常とは異なり恒常的に活性化しているため細胞が常に増殖シグナルを受け続けること、血液前駆細胞にこの融合遺伝子が生じると好酸球(時に他の血球)の増殖制御が失われることを、ページ本文(2012年2月1日最終更新)で確認した閲覧 2026-09-06
  3. 3.ファセンラ皮下注30mgシリンジ/ファセンラ皮下注30mgペン/ファセンラ皮下注10mgシリンジ 電子添文(YJコード 2290402G1020、2026年5月改訂・第5版、効能変更・用法変更・用量変更)(医薬品医療機器総合機構(PMDA)電子添文・2026)「4. 効能又は効果」で、30mg製剤(シリンジ・ペン)に好酸球増多症候群が掲げられていること(10mg製剤は気管支喘息のみ)、「6. 用法及び用量」で好酸球増多症候群には成人及び12歳以上の小児に1回30mgを4週間隔で皮下注射すると定められていること、「5. 効能又は効果に関連する注意」の5.5が好酸球増加の原因となる基礎疾患の有無とFIP1L1-PDGFRA融合遺伝子の有無等を検討したうえで適応患者を選択することを求め、5.6が疾患活動性を有する患者又は再燃を繰り返す患者に投与するとしていること、根拠試験が12歳以上のHES患者133例(日本人10例を含む)を対象とした第III相国際共同試験NATRONであることを確認した閲覧 2026-09-07
  4. 4.FASENRA (benralizumab) injection — Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration(DailyMed、製造販売元 AstraZeneca Pharmaceuticals LP)・2026)米国添付文書の「INDICATIONS AND USAGE」1.3 が、好酸球増多症候群の適応を "hypereosinophilic syndrome (HES) without an identifiable non-hematologic secondary cause" と限定して掲げていること(対象は12歳以上)を逐語で確認した。EUのSmPC 4.1 には本症の適応が無いこととは対照的である。閲覧 2026-09-07