組織病理学

組織病理学 · H1-027

乳管内癌の微小石灰化(HE染色)

Microcalcification in ductal carcinoma in situ (HE) - breast

描出疾患
乳癌
疾患
マラコプラキア

🧠 全体像:は、異型細胞が内で増殖するが、基底膜を越えて間質へ浸潤していない病変である。病変では中心部が壊死する壊死を生じ、その壊死物へが起こるため、でとして発見されうる。

標本の要点

項目 所見
臓器 乳房
染色 ・染色(hematoxylin and eosin stain:HE)
病変 を伴う
腫瘍細胞 腔内を充満・拡張する異型上皮細胞
中心部 好酸性の壊死からなる壊死
石灰化 壊死物内の濃青紫色・〜塊状沈着
「上皮内」の根拠 基底膜と筋上皮層が保たれ、を認めない

DCISから微小石灰化まで

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammary ductal epithelium'>乳管上皮</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoplastic proliferation'>腫瘍性増殖</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aberrant cell type'>異型細胞</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>腔内を充満"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>が拡張し、中心部が血流・栄養から遠ざかる"]
    C --> D["中心部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comedone'>面皰</span>壊死"]
    D --> E["壊死細胞膜・小胞が石灰化の核となる"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcium phosphate'>リン酸カルシウム</span>結晶が成長"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammography'>マンモグラフィ</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcalcification'>微小石灰化</span>として検出されうる"]

💡 石灰化の化学組成は、周囲組織の病理学的状態を映す。 乳腺石灰化236個をFTIR分光で解析した検討では、への炭酸イオン取り込み量が良性→→浸潤癌と有意に低下し、の異型度サブグレードとも相関した1。石灰化は壊死物に受動的に沈着した副産物というだけでなく、病変の性質と結びついた所見である。

観察の順序

低倍率

  1. 乳腺間質内に、拡張したが多発している部位を探す。
  2. 腔が細胞で満たされ、中心部に壊死物をもつ病変の分布を確認する。
  3. 濃青紫色の石灰化が壊死中心部に一致するかを見る。
  4. 周囲の境界が保たれ、腫瘍細胞が不規則に間質へ浸潤していないかを広く確認する。

高倍率

所見 読み方
内腫瘍細胞 、過染性、極性の乱れを示すが腔を充満する
壊死 中心部に物を含む好酸性・の壊死物が集積する
石灰化 壊死物内に濃青紫色の無構造・として見える
境界 基底膜と筋上皮層に沿った滑らかな輪郭が維持される
周囲間質 明らかな不整や腫瘍性間質反応がないことを確認する

異栄養性石灰化

は、濃度が正常でも、壊死・変性組織にが沈着する現象である。肉眼では白色顆粒・塊、組織では好塩基性の無構造沈着として見える。

flowchart TD
    A["壊死・変性細胞由来の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane-bound vesicle'>膜結合小胞</span>"] --> B["膜のホスファターゼが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphate group'>リン酸基</span>を供給"]
    B --> C["酸性リン脂質へCa²⁺が結合"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcium phosphate'>リン酸カルシウム</span>の微小結晶が形成"]
    D --> E["結晶が成長・融合して石灰化"]
    F["壊死細胞のミトコンドリア<br>Ca²⁺調節能を喪失"] --> D

約200 nmの、膜ホスファターゼ、酸性リン脂質へのCa²⁺結合、微小結晶形成、結晶増大が石灰化の開始・増殖過程を構成し、壊死細胞ミトコンドリアへのCa²⁺流入もに関与する。

異栄養性石灰化と転移性石灰化

項目
沈着する組織 壊死・変性した組織 主に生きた組織
血清Ca²⁺ 通常は正常 高Ca血症またはCa・P代謝異常を伴うことが多い
代表例 壊死腫瘍、、結核性、変性弁、血栓 腎、肺、、血管壁などへの全身性沈着
の壊死 壊死内の 該当しない

他臓器での異栄養性石灰化

病変 石灰化の場
石灰化 変性した。弁口狭窄から左室・肥大を生じる
・石灰化 縫合部傷害やを核に沈着する
症 プラークの脂質壊死性核心
結核 肉芽腫の部
膀胱などので、マクロファージ内に層状石灰化小体を作る
腫瘍 壊死を伴う腫瘍、石灰化、など
漿液性腫瘍、などにみられる層状石灰化

石灰化大動脈弁では弁口狭窄によって左室とが進み、増加と低下から相対的虚血を生じうる。は併存しうるが、そのものの定義的所見ではない。

⚠️ の多くは良性である。形態と分布から疑わしさをで評価し、必要な場合に組織検査で確定する。だけでと診断してはならない。逆方向の限界もある。でと診断された7,350例のでは、で浸潤癌が見つかった過小評価が25.9%(95%CI 22.5〜29.5%)にのぼり、・20mm超・で腫瘤を呈するもの(石灰化のみより)で頻度が高かった2。で「上皮内にとどまる」という判定は暫定的であり、標本上でが無いことは、その採取範囲についてしか言えない。

鑑別

病変 鑑別点
基底膜を越える不整なと腫瘍性間質反応を示す
通常型過形成 細胞集団が不均一で、流線状・不規則な窓を作り、均一なによる充満とは異なる
異型過形成 に似るが、病変の広がりが限定的
(LCIS、旧称:小葉内癌) 小葉を中心に非接着性細胞が増殖し、E-cadherin消失が鑑別に役立つ。浸潤成分を伴わないLCIS 6例で発現が消失し、同条件の 150例では保たれていた3
良性乳房石灰化 分泌物、嚢胞、血管、などに伴い、画像形態・分布と組織像が異なる

まとめ

  • は内に限局する悪性で、基底膜を越えるを示さない。
  • では中心部に壊死を形成し、を伴いやすい。
  • 石灰化はHEで濃青紫色に見え、血清Ca²⁺が正常でも壊死組織内に形成される。
  • 上のはの手がかりになりうるが、単独では確定診断ではない。

出典

  1. 1.New relationships between breast microcalcifications and cancer(British Journal of Cancer・2010)110例から得た乳腺石灰化236個(浸潤癌112、上皮内癌64、良性60)をFTIR分光で解析すると、ハイドロキシアパタイト格子への炭酸イオン取り込み量は良性から上皮内癌、浸潤癌へと有意に低下した(P<0.001)。炭酸含量は上皮内癌の異型度サブグレードとも相関した。炭酸含量とタンパク基質/ミネラル比の2指標による判別モデルの感度は良性79%・DCIS 84%・浸潤癌90%、特異度はそれぞれ98%・82%・96%であった。石灰化の化学組成は周囲組織の病理学的状態を反映する。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Ductal carcinoma in situ at core-needle biopsy: meta-analysis of underestimation and predictors of invasive breast cancer(Radiology・2011)針生検でDCISと診断された7,350例(52研究)のメタ解析では、切除標本で浸潤癌が見つかった過小評価が1,736例、プール推定25.9%(95%CI 22.5〜29.5%)であった。過小評価が多い因子は14ゲージ自動針(11ゲージ吸引式生検との比較)、針生検での高異型度、画像上20mm超、BI-RADS 4〜5、マンモグラフィで腫瘤を呈すること(石灰化のみとの比較)、触知可能であることであった。針生検で上皮内にとどまるという判定は暫定的である。閲覧 2026-08-24
  3. 3.E-cadherin inactivation in lobular carcinoma in situ of the breast: an early event in tumorigenesis(British Journal of Cancer・1997)浸潤成分を伴わないLCIS 6例ではE-cadherin発現が消失し、同じく浸潤成分を伴わないDCIS 150例では発現が保たれていた。LCIS成分と隣接する浸潤性小葉癌には同一のE-cadherin遺伝子切断型変異と野生型アリルのヘテロ接合性喪失が認められ、E-cadherin不活化は小葉系発癌のごく早期に起こる事象である。閲覧 2026-08-24