組織病理学

組織病理学 · H1-028

副腎皮質過形成(HE染色)

Hyperplasia of the adrenal gland

🧠 全体像:は、皮質細胞数が増えて皮質がびまん性または結節性に厚くなる病変である。との過形成が強調される場合は、による栄養刺激を受ける皮質の拡大として読む。

標本の要点

項目 所見
臓器 副腎
染色 ・染色(hematoxylin and eosin stain:HE)
副腎皮質の過形成
強調される層 と
低倍率 皮質の厚み増加。びまん性または結節状の拡大を評価する
高倍率 のとの小型の増加
臨床的意義 原因によりコルチゾール、アンドロゲン、アルドステロンなどの過剰と関連しうる

正常副腎の層構造

正常副腎は被膜、皮質3層、髄質からなり、各層とホルモンは次のように対応する。

部位 主な産物 主な調節 組織学的特徴
アルドステロン 、血清K⁺ 被膜直下の小細胞が・弓状に配列
コルチゾール 脂質を多く含む淡明な細胞が直線状の索を作る
副腎アンドロゲン など 小型で好酸性の細胞が網状に配列し、を含みうる
髄質 カテコールアミン が血管周囲に配列

💡 外から「塩・糖・性」と覚える。 =、=、=副腎アンドロゲンであり、カテコールアミンは皮質ではなく髄質から分泌される。

過形成の機序

flowchart TD
    A["視床下部CRH"] --> B["下垂体<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zona fasciculata'>束状帯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zona reticularis'>網状帯</span>への栄養刺激"]
    C --> D["細胞数増加<br>びまん性または結節性皮質過形成"]
    D --> E["コルチゾール・副腎アンドロゲン産生"]
    E --> F["コルチゾールがCRH・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>を負にフィードバック"]
    G["先天性ステロイド合成障害など<br>コルチゾール低下"] --> H["負のフィードバックが弱まる"]
    H --> B
    I["下垂体性・異所性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>過剰"] --> B
    J["原発性両側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nodular hyperplasia'>結節性過形成</span>"] --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>非依存性のコルチゾール自律産生"]
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>は抑制されうる"]

負のフィードバックが低下するなどではが上昇し、両側副腎の・を刺激する。下垂体性または異所性過剰でも同じ2層が栄養刺激を受ける。一方、非依存性の原発性両側結節性副腎過形成では副腎側のが中心で、コルチゾール過剰によりはむしろ抑制されうる。したがって、すべての過形成を「負のフィードバック障害」だけで説明することはできない。

💡 の呼称は2022年に整理された。 分類第5版(2022)は副腎皮質の増殖性病変を、びまん性、副腎皮質、腺腫、癌に分ける。はさらに、散発性結節性副腎皮質病変、両側性性副腎皮質病変、両側性性副腎皮質病変(従来の原発性両側性、旧称AIMAH)へ細分された1。個々の結節がクローン性・腫瘍性であることが分かり、「過形成」という語が外れた点が要点である。実習・試験では旧称も使われるため、新旧を対応づけて覚える。

⚠️ 「非依存性」は血中についての呼び方である。 両側性性病変では、過形成組織内に散在するステロイド産生細胞がプロオピオとを発現し、局所で産生されたがコルチゾール分泌を駆動していると報告されている。副腎静脈血のは末梢血より高く、受容体拮抗薬はin vitroでコルチゾール分泌を抑制する2。下垂体が抑制される点は変わらないが、「副腎が完全に自律している」とまでは考えない。

はではなく、主にと血清K⁺で調節される。また、両側性アルドステロン産生過形成は主に系の病変で、が成立した後のは抑制される。高血圧では、コルチゾール過剰またはアルドステロン過剰など、どのが関与するかを分けて考える。

💡 アルドステロン産生部位はHE像や画像だけでは決まらない。 分類第5版はHISTALDO分類を採用し、CYP11B2免疫染色で実際にアルドステロンを産生している部位を同定する。産生部位は単発とは限らず、画像で結節として見えない両側性病変のこともある1。HISTALDOコンセンサスの元検討では、切除副腎37例のうち5例(14%)でCYP11B2免疫染色によりHE形態からの当初診断が覆っている3。

観察の順序

低倍率

  1. 被膜、皮質、髄質を同定し、標本の向きを決める。
  2. 皮質全体の厚さと、髄質に対する比率を見る。
  3. 拡大がびまん性か、複数の結節を作るかを確認する。
  4. 、、の層構造が保たれるか、・混在するかを評価する。
  5. 単一の被膜性腫瘤や壊死・出血の有無を探す。

高倍率

観察部位 読み方
脂質が溶出して明るく見える多角形細胞がに増加する
より小型で好酸性の細胞が網状に増加する
核 均一性、異型、を確認する。単純過形成ではは通常目立たない
血管 皮質のとを目印に層を読む
結節 周囲皮質との境界、被膜の有無、内部の・の構成を確認する

臨床との対応

組織像だけで機能性を決定することはできない。、コルチゾール、アルドステロン、レニン、副腎アンドロゲンなどの検査と、両側性・片側性を含む画像所見を組み合わせる。

起こりうる病態
依存性皮質過形成 下垂体性または異所性過剰、先天性ステロイド合成障害
コルチゾール自律産生性 非依存性Cushing症候群
両側性アルドステロン産生過形成 、高血圧、低K血症
過形成・結節 偶発的に認められ、内分泌学的評価で機能性を除外する

鑑別

病変 鑑別点
正常副腎 皮質3層の厚さと比率が保たれ、びまん性・結節性拡大がない
通常は単一の境界明瞭な腫瘤で、周囲皮質をする
大型・、壊死・出血、核異型、異常などを評価する。診断はWeissスコアと修正Weissスコアに加え、アルゴリズム、Lin-Weiss-Bisceglia系、Helsinkiスコアなど複数指標のアルゴリズムで行い、小児例はWieneke系を使う。分類第5版(2022)は(血管壁を貫いて血栓・フィブリン複合体を作る腫瘍細胞)の診断的・予後的意義を強調し、は10 mm²あたり20個以下を低グレード、20個超を高グレードとする。による段階分けは連続であることを理由に採用されていない1
副腎髄質過形成 髄質が拡大し、が増える。皮質過形成とは部位が異なる
本来の層構造を破壊する巣を形成し、の情報が必要

まとめ

  • は、細胞数増加による皮質のびまん性または結節性拡大である。
  • 応答性のとでは、細胞数増加による層の拡大を観察する。
  • =アルドステロン、=コルチゾール、=アンドロゲン、髄質=カテコールアミンと対応させる。
  • 負のフィードバック低下は重要な機序だが、非依存性過形成もあり、組織像だけで原因や機能性を断定しない。

出典

  1. 1.Overview of the 2022 WHO Classification of Adrenal Cortical Tumors(Endocrine Pathology・2022)WHO分類第5版(2022)は副腎皮質の増殖性病変をびまん性副腎皮質過形成・副腎皮質結節性病変・腺腫・癌に整理し、結節性病変を散発性結節性副腎皮質病変、両側性小結節性副腎皮質病変、両側性大結節性副腎皮質病変(従来の原発性両側大結節性副腎皮質過形成)へ細分した。原発性アルドステロン症ではCYP11B2免疫染色を用いるHISTALDO分類を採用し、アルドステロン産生部位は単発とは限らず、画像で結節が見えない両側性病変のこともあるとしている。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Intraadrenal corticotropin in bilateral macronodular adrenal hyperplasia(The New England Journal of Medicine・2013)両側性大結節性副腎過形成30例の検討で、過形成組織すべてにプロオピオメラノコルチンmRNAが発現し、散在するステロイド産生細胞群にACTHが検出された。副腎静脈血のACTHは末梢血より高く、ACTH受容体拮抗薬はin vitroでコルチゾール分泌を有意に抑制した。したがって本症の高コルチゾール血症は副腎局所で産生されたACTHに依存しており、下垂体ACTHが抑制されているという意味での「ACTH非依存性」という呼称は組織レベルの機序を表していない。閲覧 2026-08-24
  3. 3.International Histopathology Consensus for Unilateral Primary Aldosteronism(The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism・2021)片側性原発性アルドステロン症の切除副腎37例を11名の病理医が読影したHISTALDOコンセンサスでは、CYP11B2(アルドステロン合成酵素)免疫染色を加えることで、HE形態のみに基づく当初の診断が37例中5例(14%)で変更された。CYP11B2免疫染色をルーチンの診断過程に組み込み、アルドステロン産生部位を同定することが推奨されている。閲覧 2026-08-24