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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

Whipple病

Whipple disease

別名
ウィップル病
臓器系
消化器感染症運動器
科目
PathologyCardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
病理学 C/37:吸収不良症候群循環器内科 A-10:感染性心内膜炎
鑑別疾患
セリアック病マラコプラキア関節リウマチ
合併症
感染性心内膜炎
治療薬
セフトリアキソンベンジルペニシリンST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)
原因微生物
Tropheryma whipplei
症状
関節痛下痢体重減少リンパ節腫脹発熱
検査値
アルブミン

🧠 全体像:は年間100万人あたり1〜3人1という稀な感染症だが、見逃すと致死的で、治療すれば治るという一点で見逃してはならない疾患である。最大の手がかりは症状の並びではなく時間順序——関節痛が下痢・体重減少などの消化器症状に数年単位で先行する——にある。中年男性が「原因不明の関節痛」を何年も抱えたあとに消化器症状で受診するというパターンを知っていれば、稀な疾患でも鑑別に挙げられる。診断はのマクロファージ、治療は⚠️ を考慮した抗菌薬選択が要になる。

疫学

原因菌はTropheryma whippleiというの一種で、発症年齢は平均55歳、男女比は4対1と男性に大きく偏る1。

臨床像——時間順序が最大の手がかり

⭐ 状が消化器症状に先行するというを知っているかどうかが診断の分かれ目になる。 フランス・イタリアの(29例)では、がの最も頻度の高い初発の状で、初発症状から診断までの期間の中央値は5年に及んだ2。

時期 症状
(数年単位で先行) 遊走性・の関節痛(が主体、多くは)。この時期はしばしば関節リウマチなど別の疾患として扱われる
消化器症状期 下痢、、体重減少、腹部膨満、腹痛
全身症状 発熱、リンパ節腫脹、色素沈着

症例報告でも状が消化器症状に3年・8年先行した例が記録されており3、診断までの遅れの主因になっている。⚠️ 原因不明の遊走性関節痛が何年も続く患者で、消化器症状・体重減少が新たに出てきたら、この時間順序を思い出す。

💡 心臓・眼・皮膚など消化管以外への浸潤も起こりうる全身性の感染症であり、の血液培養陰性の原因菌としても知られる。

診断

小腸(十二指腸・空腸)生検で、・の細胞質を持つがに浸潤しているのがである1 3。によるT. whippleiの検出、免疫染色、でのの確認が補助診断として用いられる1。

治療——中枢神経移行性を考える

⚠️ 無症状であっても中枢神経系病変が高率に存在しうるため、血液脳関門を通過する抗菌薬を選ぶ必要がある。 標準治療は次の2段階で構成される。

  1. :セフトリアキソン2 gを1日1回、静注で2週間(を代替とすることもある)1 3。導入の選択肢はセフトリアキソン2 g/日の単独ではなく、セフトリアキソン2 g/日(1日1回)と、1 gを1日3回(計3 g/日)の2つが並列で、いずれも14日間の静注として40例のに基づく現行の標準レジメンである。セフトリアキソンに不耐の患者ではを代替として用いる4。()は1952年以降に用いられてきた旧来の選択肢で、現在は単独の第一選択ではなく、併用( 120万単位1日2回+1 g1日2回・14日間)などの形で、標準レジメンがしない場合の最終手段の代替に位置づけられる4 5。
  2. 維持療法:ST合剤(160 mg/800 mg)を1日2回、経口で1年以上の長期投与1 3。標準の投与期間は12か月(=通常1年)であり、「1年以上」はこの12か月を下限として再発リスクに応じて延長しうるという意味で読む4。

💡 ST合剤を軸にしたこの2相レジメンは「唯一の正解」ではない。 には正式なガイドラインが無く、治療法についてのコンセンサスは成立していない5。T. whippleiにはの標的酵素が欠けているという in vitro の証拠があり、より合理的な代替としてドキシサイクリン200 mg/日+600 mg/日の12か月投与(局所型では12〜18か月)が提案されている4 5。中枢神経病変が明らかな場合は、セフトリアキソンを4 g/日・6週間へ増強したうえでST合剤1600/320 mg/日を1年間続ける方式も推奨されている5。

⚠️ 中枢神経病変は治療後も残りうる

剖検では患者の90%に中枢神経系病変が見つかるが、臨床的に明らかな神経症状が出るのは10〜40%にとどまる1。再発する場合、が最初の徴候になることが多い1。治療により消化器症状・状が消失しても、・・などの神経症状は治療前から生じていた損傷を反映して残存しうる。長期の経過観察で、消化器症状の消失だけをもって治癒と判断しない。

吸収不良の枠組みの中での位置づけ

は、を病因(による粘膜浸潤)の軸で捉えたときの一型である(吸収不良の全体的な分類は病理学 C/37を参照)。セリアック病がによるであるのに対し、は感染性によるという点で機序が異なり、マクロファージという所見で鑑別できる。腸管の構造そのものが失われる(手術・外傷によるの喪失)とも、粘膜は温存されたまま炎症性細胞に占拠される点で区別される。他のと同様、を反映してアルブミンが低下することがあり、の指標として経過中に確認する。

まとめ

  • はTropheryma whippleiによる稀だが治療可能な全身性感染症で、平均発症年齢55歳、男女比4対1と男性に多い。
  • 最大の手がかりは、遊走性の関節痛が消化器症状に先行するという時間順序である(では診断までの中央値5年、症例報告では3年・8年先行した例がある)。
  • 診断はの。・免疫染色・が補助する。
  • ⚠️ 治療はを考慮し、セフトリアキソン(または)静注2週間ののちST合剤を12か月(1年以上)の長期とする。は旧来の選択肢で、現在は標準レジメンが効かないときの代替。
  • ⚠️ 中枢神経病変は治療後も残存しうる。再発時はが最初の徴候になりやすく、消化器症状の消失だけで治癒と判断しない。

出典

  1. 1.Whipple Disease(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)発症年齢の平均が55歳で男女比が4対1と男性に多いこと、関節痛が遊走性・非破壊性で大関節を侵し消化器症状に先行することが多いこと、診断基準が小腸生検のPAS陽性泡沫状マクロファージ(PCR・免疫染色・電子顕微鏡が補助)であること、中枢神経系への移行を考慮しセフトリアキソンまたはペニシリンGによる初期治療ののちST合剤(トリメトプリム160mg/スルファメトキサゾール800mg)1日2回・12ヵ月の維持療法を行うこと、剖検では90%に中枢神経系病変があるが臨床的に明らかになるのは10〜40%にとどまり、再発時には中枢神経症状が最初の徴候になることが多いことを、Epidemiology・History and Physical・Evaluation・Treatment / Managementの各節で確認した。閲覧 2026-08-12
  2. 2.Rheumatic and musculoskeletal features of Whipple disease: a report of 29 cases(The Journal of Rheumatology・2013)フランス・イタリアの10リウマチ科施設で1977〜2011年に診断された29例の後方視的多施設研究で、発症年齢中央値55歳、29例中25例が男性であること、初発症状から診断までの期間の中央値が5年であること、多関節炎(20/29例)がWhipple病の最も頻度の高い初発の関節症状であったことを抄録から確認した。閲覧 2026-08-12
  3. 3.Whipple's disease: the great masquerader—a high level of suspicion is the key to diagnosis(BMC Gastroenterology・2021)著者ら自身が提示した症例で、関節症状が消化器症状に3年・8年先行したこと、生検でPAS陽性・ジアスターゼ抵抗性の顆粒状細胞質を持つ組織球が確認されたこと、実施した治療がセフトリアキソン2gを1日1回2週間静注ののちST合剤160mg/800mgを1日2回1年間経口投与であったことを、Case presentation節から確認した(前駆期の症状割合・中枢神経系潜伏率については同論文が参考文献から引用しているのみで著者ら自身の報告ではないため、claimに含めない)。閲覧 2026-08-12
  4. 4.Clinical Manifestations, Treatment, and Diagnosis of Tropheryma whipplei Infections(Clinical Microbiology Reviews・2017)現行の推奨導入療法が、40例の無作為化比較試験に基づく「セフトリアキソン2 g/日を1日1回、またはメロペネム1 gを1日3回(計3 g/日)の14日間静注」であり、これに続けて経口ST合剤(コトリモキサゾール)を12か月投与すること、セフトリアキソン不耐例ではメロペネム、ST合剤不耐例ではドキシサイクリンを代替とすること、この2相レジメンが脳内濃度を確保できる点で重要であること、ペニシリン(1.2 million units/日)・ストレプトマイシン(1.0 g/日)・テトラサイクリンは1952年以降に用いられてきた旧来の抗菌薬で成績は「Bad〜Fair」にとどまること、より合理的な代替としてドキシサイクリン200 mg/日+ヒドロキシクロロキン600 mg/日の12か月投与(局所感染では12〜18か月)が提案されていることを、Treatment節および Table 4 から確認した。閲覧 2026-08-24
  5. 5.Deciphering Whipple's disease complexity(Clinical and Experimental Medicine・2026)Whipple病の治療については複数の総説があるものの合意(コンセンサス)は成立していないこと、古典的Whipple病に対する最近の推奨がドキシサイクリン200 mg/日+ヒドロキシクロロキン600 mg/日の1年間投与とその後のドキシサイクリン単剤の生涯投与であること、局所型(心内膜炎など)では同じ併用を最低12か月・最長18か月行い生涯の経過観察を続けること、中枢神経病変を伴う場合はセフトリアキソン4 g/日を6週間静注したのちST合剤1600/320 mg/日を1年間経口投与すること、ペニシリンG 120万単位1日2回+ストレプトマイシン1 g1日2回の14日間などは標準治療が奏効しない場合の最終手段の代替に位置づけられることを、Treatment節および Table 2・Table 3 から確認した。閲覧 2026-08-24