内科学

内科学 · S-10

甲状腺炎

Thyroiditis

前提:病態
甲状腺炎/甲状腺機能低下・亢進
前提:正常
甲状腺ホルモン(T3/T4)の産生と作用
疾患
アミオダロン誘発性甲状腺中毒症甲状腺炎(亜急性・産後・無痛性・リーデル)甲状腺機能低下症

🧠 全体像:甲状腺炎では「痛いか」「がホルモン合成亢進か、濾胞破壊による漏出か」を見分ける。ではが低く、は効かない。

主要病型の比較

病型 疼痛 抗体・炎症 経過と治療
Hashimoto甲状腺炎 通常なし TPOAb、TgAb 機能低下が中心、
強い圧痛、顎・耳へ放散 /高値 →低下期→回復、/重症時ステロイド
無痛性・ なし TPOAbしばしば陽性 一過性→低下期、症状治療
急性 強い局所痛 発熱、白血球・高値 抗菌薬+ドレナージ、気道評価
疼痛は乏しく硬い腫瘤・圧迫症状 陽性、線維化が甲状腺外へ及ぶ 関連疾患の局所型。現在はグルココルチコイドが第一選択1
薬剤性(・ICI) なし 病歴が手掛かり 1型/2型の鑑別で治療が分かれる2

💡 は「甲状腺の病気」として単独で覚えない。 石のように硬い甲状腺が周囲組織へ癒着して固定し、気管・食道・を巻き込む。組織像は関連の局所型と矛盾せず、患者の約3分の1は後腹膜・膵、縦隔、肺、、眼窩、唾液腺、胆嚢の線維化に伴う症状を併せもつ。の頻度は報告により約30%から78%まで幅があり、機能正常のまま経過する例もある。⚠️ 治療の位置づけが変わった。 歴史的には手術(多くは圧迫解除のための切除)が中心だったが、関連疾患とみなす現在はグルココルチコイドが第一選択で、再発例に・メトトレキサート・リツキシマブを用いる1。診断は臨床像と画像だけでは付かず、組織学的確認が必須である。

Hashimoto病ではびまん性・弾性硬の甲状腺腫を認めることがある。と遊離T4で機能を判定し、抗体は原因の裏付けに用いる。超音波は結節、左右差、急速な腫大がある場合に有用で、なや検査は不要である。急速に増大する硬い腫瘤、B症状、圧迫症状では甲状腺リンパ腫を疑う。

💡 は「機能低下だけの病気」ではなく、を背負っている。 甲状腺リンパ腫のリスクは約60倍、のリスクは約1.6倍とされる3。50研究の系統的レビューでもの1.65(95%CI 1.04〜2.61)、リンパ腫12.92(2.15〜77.63)、2.70(1.20〜6.07)と有意な関連が示された(・では有意でない)4。⚠️ ただし「だから全例を画像・穿刺で追う」というにはならない。 同じレビューはの高い研究が多くも大きいと述べており、リンパ腫のも極めて広い4。なや検査は不要のままで、急速増大・圧迫症状・B症状という臨床の引き金があるときに動く。

破壊性甲状腺炎の流れ

flowchart TD
    A["濾胞破壊"] --> B["貯蔵T4/T3が漏出"]
    B --> C["一過性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uptake'>摂取率</span>低下"]
    C --> D["貯蔵ホルモン枯渇"]
    D --> E["一過性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothyroidism'>甲状腺機能低下</span>"]
    E --> F["多くは回復、一部は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='permanent'>永続性</span>低下"]

の・振戦にはβ遮断薬を用いるが、合成亢進ではないためなどは投与しない。はホルモン合成を止める薬であり、として位置づけられているのは合成亢進による甲状腺機能亢進症に対してである5。既に濾胞内に貯蔵されたホルモンが漏れ出ているでは、止めるべき合成がそもそも起きていない。

💡 薬剤性甲状腺炎は「どちらの機序か」で治療が正反対になる。 (AIT)の鑑別が典型である2。

1型AIT 2型AIT
基礎の甲状腺 ・など異常あり 正常
機序 ヨード誘発性の合成亢進()
治療 (数週間は併用可) 経口グルココルチコイド
を脱したあと または 無治療で経過観察

混合型・判別困難な例はで治療し、診断が不確かなら最初からグルココルチコイドを併用する。を続けるかどうかは心血管リスクに応じて循環器医と内分泌医が共同で個別に決め、心機能が急速に悪化する場合は緊急が必要になりうる2。でもが起こり、一過性のあと機能低下へ移行することが多い。irAEの管理は臓器別に評価し、・ステロイド・再投与の判断を専門科と共同で行う6。de Quervain病の疼痛は、反応不良・重症例ではを用いる。低下期の症状が強い、妊娠希望、上昇が著明な場合は一時的を検討し、回復後に減量・中止可能性を再評価する。

まとめ

  • 痛み、炎症反応、抗体、から甲状腺炎の病型を整理する。
  • の甲状腺には無効である。では1型(合成亢進)と2型(破壊)で治療が正反対になる2。
  • 急速増大・圧迫症状・高熱ではリンパ腫またはを除外する。では甲状腺リンパ腫のリスクが高い3。硬い固定した腫瘤ではも鑑別に入る1。

出典

  1. 1.IgG4-related sclerosing thyroiditis (Riedel-Struma): a review of clinicopathological features and management(Virchows Archiv・2023)Riedel甲状腺炎の組織所見はIgG4関連全身疾患(IgG4-RSD)の局所型と矛盾しないこと、診断は臨床像と画像で疑い組織学的確認が必須であること、歴史的には手術が中心だったが現在はグルココルチコイドが第一選択と考えられていること、再発例にはアザチオプリン・メトトレキサート・リツキシマブなどの免疫調節薬を用いうることを確認した。全文(PMC10412505)で、約3分の1が後腹膜・膵、縦隔、肺、涙腺、眼窩、唾液腺、胆嚢の線維化に伴う症状をもつこと、甲状腺機能低下は約30%とする報告とMayo Clinicの19例中14例(78%)とする報告があることを確認した(硬化性胆管炎は本文ではなく参考文献の題名にだけ現れる)。閲覧 2026-08-25
  2. 2.2018 European Thyroid Association (ETA) Guidelines for the Management of Amiodarone-Associated Thyroid Dysfunction(European Thyroid Association(Bartalena L, et al.)・2018)1型アミオダロン誘発性甲状腺中毒症(AIT 1)は結節性甲状腺腫や潜在性バセドウ病など基礎に甲状腺異常のある患者に生じるヨード誘発性の甲状腺機能亢進症で、チオナミド(数週間は過塩素酸ナトリウム併用可)で治療し、回復後は甲状腺全摘または放射性ヨウ素治療を行うこと、2型(AIT 2)は正常甲状腺に生じる破壊性甲状腺炎で経口グルココルチコイドで治療し回復後は無治療で経過観察すること、混合型・判別困難例はチオナミドで治療し診断が不確かならグルココルチコイドを最初から併用すること、アミオダロンを継続するかは心血管リスクに応じて循環器医と内分泌医が共同で個別に決め、心機能が急速に悪化する場合は緊急甲状腺全摘が必要になりうることを確認した。閲覧 2026-08-25
  3. 3.Hashimoto thyroiditis: an evidence-based guide to etiology, diagnosis and treatment(Polish Archives of Internal Medicine・2022)橋本病は女性に男性の7〜10倍多く、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)を介した自己免疫反応が濾胞細胞破壊を増幅すること、臨床像は破壊による一過性の甲状腺中毒症・残存組織による代償性の正常機能・機能低下症の3相をとること、機能低下にはレボチロキシンを1.4〜1.8 µg/kg/日を目安に補充すること、橋本病では乳頭癌のリスクが1.6倍・甲状腺リンパ腫のリスクが60倍高いことを確認した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Is Hashimoto thyroiditis associated with increasing risk of thyroid malignancies? A systematic review and meta-analysis(Thyroid Research・2021)50研究の系統的レビュー(うち27研究をメタ解析)で、橋本病は乳頭癌(オッズ比1.65、95%CI 1.04〜2.61)、髄様癌(2.70、1.20〜6.07)、リンパ腫(12.92、2.15〜77.63)と有意に関連したが、未分化癌と濾胞癌では有意でなかったこと、甲状腺悪性腫瘍全体では1.36(1.05〜1.77)だったこと、ただしバイアスリスクの高い研究が多く異質性も大きいため確実な結論には前向き研究が必要であることを確認した。閲覧 2026-08-25
  5. 5.2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis(American Thyroid Association・2016)メチマゾール(チアマゾール)は妊娠第1三半期・甲状腺クリーゼ・メチマゾールへの軽度反応でRAI/手術を拒否する患者を除き抗甲状腺薬治療の第一選択であること、無顆粒球症の頻度はデンマークの研究でプロピルチオウラシル0.27%・メチマゾール0.11%、日本の全国データベースで0.1〜0.15%と推定され、小児の節は成人でメチマゾールまたはプロピルチオウラシル服用者の約0.3%と記すこと、プロピルチオウラシルはどの用量でも低用量メチマゾールより無顆粒球症を起こしやすく、メチマゾールでは用量依存性であることを、全文(出版社PDFのWayback保存版、2020-03-07取得分)で確認した。抗甲状腺薬はホルモン合成を阻害する薬であり、この位置づけは合成亢進による甲状腺機能亢進症に対するものである。閲覧 2026-09-24
  6. 6.Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update(American Society of Clinical Oncology / Journal of Clinical Oncology・2021)免疫関連有害事象(irAE)の臓器別評価、休薬、ステロイド・追加免疫抑制、再投与判断と専門科連携の原則を確認した。閲覧 2026-08-25