薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · A5 CNS stimulants / 中枢神経刺激薬

メタンフェタミン

methamphetamine

分類
CNS stimulants / 中枢神経刺激薬
商品名(日本)
ヒロポン
科目
Pharmacology
トピック
A5: Indirect sympathomimetics. Selective α1 agonists
承認適応
不眠障害・ナルコレプシー注意欠如・多動症(ADHD)気分障害(うつ病・双極性障害)
禁忌疾患
高血圧症アテローム性動脈硬化症バセドウ病精神作用物質使用症(アルコール以外)
副作用
不眠動悸振戦体重減少蟻走感歯ぎしり
原因となる疾患
横紋筋融解症交感神経刺激薬中毒精神作用物質使用症(アルコール以外)肺高血圧症

🧠 全体像:は乱用薬物であると同時に、日本でも米国でも現役の承認医薬品という二面性を持つ。日本ではの「」でありながら「ヒロポン」が・として今も承認され、米国では「Desoxyn」がに承認されている。薬理の要はを逆転させて能動的にドパミン・ノルアドレナリンを放出させる点で、しか持たない・より一段強い。脂溶性が高く中枢移行が速いためも鋭い。臨床で出会うのは処方例よりもと慢性使用による精神症状の側である。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 への作用 医薬品としての地位
+。中枢移行が速い ヒロポン(・)/Desoxyn(Schedule II)
+ が「」として2019年に小児期へ承認
のみ 登録医制度下で使用可能
のみ(+Naチャネル遮断) 麻薬。のみ

⭐ 「の対象=医薬品として存在しない」ではない。 ヒロポンの電子添文は2025年11月改訂で現存する1。の側も同じで、は2019年に小児期へ承認され、登録された医療機関・薬局を通じて処方されている。分かれ目は「」か「」か——同じの中で扱いが別建てになっており、はの処方箋により薬剤師が調剤したものを薬局が患者へ譲り渡せる2。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methamphetamine'>メタンフェタミン</span><br>(脂溶性が高い)"] --> B["血液脳関門を速やかに通過"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct antiglobulin test'>DAT</span>・NETを介して<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic terminal'>前シナプス終末</span>内へ"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vesicular monoamine transporter 2'>VMAT2</span>を阻害し小胞内の<br>DA・NAを細胞質へ追い出す"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct antiglobulin test'>DAT</span>・NETが逆転し間隙へ排出"]
    C --> F["再取り込み機能も阻害"]
    E --> G["間隙のDA・NA濃度が大幅に上昇"]
    F --> G
    B --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upstroke'>立ち上がり</span>の鋭い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='euphoria'>多幸感</span>・覚醒"]
    G --> H
    G --> I["末梢では交感神経刺激<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated blood pressure'>血圧上昇</span>・頻脈・体温上昇)"]

💡 「放出させる」と「取り込ませない」の差が薬の顔つきを決める。 ・は間隙に出ている伝達物質の掃除を止めるだけだが、は貯蔵されている分まで押し出す3。到達濃度の桁が違い、も速く、への毒性も強い(後述)。

薬物動態

項目 値・特徴
半減期 米国ラベルは4〜5時間4、日本の電子添文はで8.46±0.71時間1
代謝・排泄 肝でを受けを生じる。排泄は主に尿中で尿pH依存——は半減期を著明に延長する4。もL-へ代謝されるため尿スクリーニングが陽性になりうる

適応

国 承認されている適応
日本(ヒロポン) 、各種の昏睡・・、うつ病・うつ状態、の、術中・術後のからの回復促進、麻酔からのなど1
6歳以上の小児のADHDのみ4

⚠️ 米国ラベルから肥満の適応は消えている。 2024年9月改訂の現行ラベルの適応欄はだけで、かつて併記された外因性肥満の短期治療は記載されていない4。「承認が残っている」ことと「推奨される」ことは別——日本の適応一覧は昭和期の効能が整理されずに残ったものである。

用法・用量

日本の電子添文では成人に塩として1回2.5〜5mg、1日10〜15mgをする1。米国のでは5mgを1日1〜2回で開始し週ごとに5mgずつ増量、推奨用量域は20〜25mg/日である4。

覚醒剤取締法のもとでの扱い

は第2条第1項第1号の「フエニルメチルアミノプロパン」そのもので、法律上の「」にあたる2。法律の名前を知っているだけでは足りない。誰がどこで扱えるかまでが臨床の話である。

場面 決まり
施用できる施設 都道府県知事の指定を受けた「」(精神科病院その他、診療上の施用を必要とする病院・診療所)に限られる。指定は病院・診療所ごとで、有効期間は指定の日からその翌年12月31日まで
流通 から・へ、という経路のみ。それ以外の譲渡・譲受は何人も禁止
施用できる薬 施用機関のであっても、その施用機関の管理者が管理するでなければ施用も交付もできない
交付の書面 交付するときは、住所・氏名・年齢・施用方法・施用期間を記載してが署名した書面を同時に交付する
保管・廃棄・事故 病院・診療所内の鍵をかけた堅固な場所に保管。廃棄は都道府県知事へ届け出て職員の立会いの下で行う。紛失・盗難・所在不明は速やかに都道府県知事へ届け出る

⚠️ 中毒者に対し、その中毒を緩和・治療する目的でを施用・交付してはならない2。におけるのようなにあたる道が、では法律の側で閉じられている。

💡 「」と「」は同じ法律の中で別建てになっている。 は定義上「病院又は診療所」なので薬局は含まれず、は処方箋を薬局へ持ち込む形にならない。一方は、の処方箋により薬剤師が調剤したものを薬局が患者へ譲り渡せる2。が日本でも処方できるのはこちら側だからで、の強さと「使えるかどうか」は一致しない。

💡 交付を受けた患者の側は違法にならない。 「何人もを使用してはならない」には例外が置かれており、のから施用のため交付を受けた者がそれを施用する場合は使用の禁止から外れている2。

禁忌・注意

副作用

頻度 内容
高頻度 、めまい、不眠、振戦、頭痛
注意 血圧・心拍数上昇、と体重減少、依存性
重篤・まれ (・)、痙攣、

💡 上表の頻度区分は臨床上の目安であって、米国ラベルの記載ではない。 現行ラベルの有害事象欄は心血管・中枢神経・消化器といった器官別の列挙にとどまり、自発報告に基づくため頻度を確実に推定することは常に可能とは限らないと明記している4。「は推奨用量でも報告されている」と書かれている点は、乱用時に限った話ではないという意味で押さえておきたい4。

乱用時の中毒と離脱

⚠️ の致死的合併症は幅広い。 米国ラベルはの臨床像として、、血圧の上昇または低下、・心筋梗塞・による、、・、けいれん、(を含む)、摂氏40度を超えるとを挙げる4。治療は支持療法が軸で、にはベンゾジアゼピンが第一選択、にはと輸液、には尿量を毎時2mL/kg超に保つ輸液を行う3。

離脱では・抑うつ・疲労・鮮明で不快な夢・不眠または・・またはが現れる4。生命の危険は少ないが抑うつとが長引き再使用の引き金になりやすい。

慢性使用による神経毒性

⚠️ はそのものを傷める。 実験動物への投与でに神経毒性を示すことが知られ、ヒトの乱用者でもの指標である線条体の()が低下する。による検討では、断薬期間の短い(平均3±1.6か月)乱用者のは健常対照よりで26%・で21%低かった5。を乗り切れば終わり、ではない。

💡 長い断薬では戻る。ただし機能は遅れて戻る。 同じ5例を平均14±2か月の断薬後に再検すると、はで+19%・で+16%と有意に増加し、健常対照との差は有意でなくなった。一方での成績は改善の傾向にとどまり、有意な回復には至らなかった5。画像所見が戻ることと機能が戻ることは別で、数週間の断薬では判断できず年単位で追う必要がある。この増加が終末の再生なのか、残った終末の代償なのか、の発現調節が戻っただけなのかは決着していない5。

⚠️ 加齢によってもは減るため、乱用で失った分が加齢にされ、将来パーキンソン病様の状態を来しやすくなるのではないかという懸念が提起されている(確立したではない)5。長期のとしては、・てんかん・脳卒中でみられるものに類似した脳構造の障害、精神病、抑うつも挙げられている3。

⚠️ 慢性使用では皮膚・歯・精神症状が特徴的な組合せを作る。 実在しない虫が這う感覚()に駆られて掻きむしる皮膚病変、極度のと歯の破損を伴ういわゆる “meth mouth”、体重減少と栄養不良、精神病、が重なる3。

⭐ は二次性の代表的なである6。から「虫がいる」という確信へ進み、爪や器具で虫を取り除こうとしたを残す。線条体の細胞外ドパミン増加というの病態仮説は、ドパミンを大量放出させる本剤の薬理と重なる6。と歯の荒廃を同時に見たら物質使用歴を確認する。

まとめ

  • 乱用薬物であると同時に、日本(ヒロポン)でもでも承認が続く医薬品である。米国の現行ラベルの適応は(6歳以上)のみで肥満の適応はない。
  • 機序は輸送体の逆転によるで、しか持たない薬より強力。中枢移行も速い。
  • は・・・まで及ぶ。治療の軸はベンゾジアゼピン・冷却・輸液。
  • 慢性使用ではによる皮膚病変、“meth mouth”、体重減少、精神病が重なり、二次性の代表的なである。
  • 慢性使用は線条体の低下という形での障害を残す。長期断薬では戻るが神経心理機能の回復はそれに追いつかない。
  • 日本では都道府県知事が指定した「」でしか施用・交付できない。中毒者の中毒治療に用いることは法律で禁じられている。

出典

  1. 1.ヒロポン 電子添文(医薬品医療機器総合機構(住友ファーマ)・2025)「ヒロポン」(メタンフェタミン塩酸塩、住友ファーマ)が2025年11月改訂の電子添文を持つ現行の承認医薬品であり、規制区分が「劇薬」「覚醒剤」「処方箋医薬品」であること、効能・効果がナルコレプシー・各種の昏睡・嗜眠・もうろう状態・インスリンショック・うつ病/うつ状態・統合失調症の遅鈍症、手術中および手術後の虚脱状態からの回復促進と麻酔からの覚醒促進、麻酔剤/睡眠剤の急性中毒の改善であること、用法・用量が成人で1回2.5〜5mg・1日10〜15mgの経口投与であること、禁忌がMAO阻害剤投与中または投与後2週間以内・重篤な高血圧症/動脈硬化症・心疾患・甲状腺機能亢進症・本剤やアドレナリン作動薬への過敏症・不眠症/激越状態・薬物乱用の既往であること、反復投与により薬物依存を生じること、健康成人の半減期が8.46±0.71時間で主として尿中に排泄され尿の液性で排泄率が変動することを確認した。閲覧 2026-08-20
  2. 2.覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)令和七年六月一日施行(デジタル庁 e-Gov法令検索・2025)第2条第1項第1号が「フエニルメチルアミノプロパン」(メタンフェタミン)を覚醒剤と定めること、同条第3項が「覚醒剤施用機関」を覚醒剤の施用を行うことができるものとして指定を受けた病院または診療所と定義すること、第3条第1項が覚醒剤施用機関の指定を病院・診療所ごとにその所在地の都道府県知事が行うと定め、同項第2号が対象を精神科病院その他診療上覚醒剤の施用を必要とする病院・診療所とすること、第6条が指定の有効期間を指定の日からその翌年12月31日までとすること、第17条が覚醒剤の譲渡を覚醒剤製造業者から覚醒剤施用機関・覚醒剤研究者への経路に限り、施用のための交付を除きそれ以外の譲渡・譲受を何人にも禁じること、第19条第4号が覚醒剤施用機関の医師または覚醒剤研究者から施用のため交付を受けた者による施用を使用禁止の例外として掲げること、第20条第1項が施用機関の医師にその施用機関の管理者が管理する覚醒剤以外の施用・交付を禁じ、第3項が覚醒剤中毒者に対しその中毒を緩和または治療するための施用・交付を禁じ、第4項が交付時に住所・氏名・年齢・施用方法・施用期間を記載して医師が署名した書面の同時交付を求めること、第22条第1項・第3項が病院・診療所内の鍵をかけた堅固な場所での保管を求めること、第22条の2が廃棄を都道府県知事への届出と当該職員の立会いの下で行うことを求めること、第23条が喪失・盗取・所在不明の速やかな都道府県知事への届出を求めること、第30条の9第3号が医薬品である覚醒剤原料について、薬局開設者が医師の処方箋により薬剤師が調剤したものを当該処方箋を所持する者へ譲り渡せると定めることを確認した。閲覧 2026-08-20
  3. 3.Methamphetamine(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)Mechanism of Action の節で、VMAT2を介してシナプス小胞からモノアミンを追い出し、DAT・NETを逆転させて放出させること、輸送体の再取り込み機能も同時に阻害すること、高い脂溶性により血液脳関門を速やかに通過して中枢作用が速く現れることを確認した。Long-Term Adverse Effects の節で、実在しない虫を掻く/つまむ行為による皮膚病変(formication)、極度の歯ぎしりと歯の破損を伴ういわゆる "meth mouth"、体重減少と栄養不良、精神病、肺高血圧に加え、Alzheimer病・てんかん・脳卒中でみられるものに類似した脳構造の障害、抑うつ、塞栓性脳卒中を挙げていることを確認した。Management of Overdose の節で、激越と交感神経刺激に対してベンゾジアゼピンが第一選択であること、高体温に積極的な体表冷却と輸液・鎮静を行うこと、横紋筋融解では尿量2mL/kg/時超を保つ積極的輸液を行うことを確認した。閲覧 2026-08-20
  4. 4.DESOXYN (methamphetamine hydrochloride tablets), for oral use, CII(U.S. Food and Drug Administration・2024)2024年9月改訂の現行ラベルで、1 INDICATIONS AND USAGE が「6歳以上の小児のADHD」のみであり肥満の適応が記載されていないこと、2.3 の推奨用量が5mgを1日1〜2回で開始し週ごとに5mgずつ増量、推奨用量域が20〜25mg/日であること、4 CONTRAINDICATIONS がアンフェタミン過敏症とMAO阻害薬併用(または過去14日以内の使用)であること、9.1 で Schedule II 規制物質であること、9.3 の離脱症状が不快気分・抑うつ・疲労・鮮明で不快な夢・不眠または過眠・食欲亢進・精神運動制止または焦燥であること、10 OVERDOSAGE の臨床像が頻脈性不整脈・高血圧または低血圧・血管攣縮/心筋梗塞/大動脈解離による心臓突然死・たこつぼ心筋症・精神運動性焦燥/錯乱/幻覚・セロトニン症候群・けいれん・脳血管障害・昏睡・華氏104度を超える生命を脅かす高体温・横紋筋融解であること、12.2 で再取り込み阻害と細胞外への放出増加の両方を持つこと、12.3 で生物学的半減期が4〜5時間、24時間以内に経口投与量の約62%が尿中へ排泄され尿pH依存でアルカリ尿が半減期を著明に延長することを確認した。6 ADVERSE REACTIONS では有害事象を心血管・中枢神経・消化器・過敏症・内分泌・筋骨格・代謝栄養・皮膚といった器官別に列挙するのみで頻度区分を置かず、「これらの反応は規模の不確かな集団から自発的に報告されたものであるため、その頻度を確実に推定すること、または薬剤曝露との因果関係を確立することが常に可能とは限らない」と明記していること、中枢神経の項に「推奨用量でも精神病エピソードが報告されている」と記載されていることも確認した。閲覧 2026-08-20
  5. 5.Loss of dopamine transporters in methamphetamine abusers recovers with protracted abstinence(The Journal of Neuroscience・2001)Materials and Methods で5例のメタンフェタミン乱用者を早期断薬(平均3±1.6か月)と長期断薬(平均14±2か月)の2回評価し、別の5例を9か月以上の断薬後に1回のみ評価したこと、Results の post hoc t 検定で早期断薬時の線条体ドパミントランスポーター(Bmax/Kd)が健常対照より尾状核で26%・被殻で21%低かったこと(p<0.001)、長期断薬時には対照との差が有意でなくなったこと(尾状核5%・被殻9%、有意差なし)、再検した5例で尾状核+19%(p<0.003)・被殻+16%(p<0.05)と有意に増加したこと、Results の神経心理検査では timed gait と delayed recall に有意でない改善傾向がみられたのみでその他の課題に変化がなかったこと、Abstract と Discussion がこの増加を一時的な適応変化(ダウンレギュレーション)からの回復・終末の障害からの回復・残存する健常終末のシナプス分枝増加のいずれとも決めきれないとしていること、Discussion が加齢とメタンフェタミン乱用の双方でDATが有意に減少するため乱用者が加齢に伴いパーキンソニズムのリスクを負うのではないかという懸念を述べていることを確認した。閲覧 2026-08-20
  6. 6.Delusions of Parasitosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Etiology の節が二次性寄生虫妄想の物質性の原因としてメタンフェタミン使用・アルコール離脱・コカインの急性使用を挙げていること、History and Physical の節が虫を取り除こうとする爪や器具による掻破痕・瘢痕を記載していること、Pathophysiology の節がドパミントランスポーターの機能低下による線条体の細胞外ドパミン増加を仮説として挙げていることを確認した。閲覧 2026-08-20