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Disease Atlas · 精神 · 病態

不眠障害・ナルコレプシー

Insomnia disorder and narcolepsy

別名
慢性不眠症ナルコレプシー1型ナルコレプシー2型
臓器系
精神神経
科目
Psychiatry
トピック
精神医学 B-07:睡眠障害
鑑別疾患
気分障害(うつ病・双極性障害)注意欠如・多動症(ADHD)閉塞性睡眠時無呼吸
関連疾患
自閉スペクトラム症不安症群
治療薬
モダフィニルオベポレクストンゾルピデムザレプロンダリドレキサントラメルテオンニトラゼパムピトリサントオキシベート製剤ソルリアムフェトール
症状
カタプレキシー周期性四肢運動悪夢睡眠関連幻覚反復孤発性睡眠麻痺
適応薬
オキシベート製剤オベポレクストンソルリアムフェトールピトリサント

🧠 全体像は、どちらも「眠気」を訴え得るが、睡眠を得たいのに眠れず日中機能が落ちると、十分な睡眠機会があっても覚醒を維持できないでは病態も検査も逆向きである。は病歴とで診断し、多要素のを第一選択とする。は睡眠不足、の乱れ、睡眠時無呼吸、薬剤の影響を除いた上で、と翌日のを標準化して行い、1型と2型を区別する。

病態

不眠障害

では、ストレスや身体疾患などの誘発因子だけでなく、眠れないことへの不安、長すぎる、昼寝、一定しない起床時刻が覚醒をる。睡眠機会を延ばそうとして床に長くいるほどが下がり、「寝床=眠れない場所」という学習が強化される。

flowchart TD
    A["ストレス・疼痛・気分症状などが不眠を誘発"] --> B["眠れないことへの不安と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperarousal'>過覚醒</span>"]
    B --> C["早く床に入る・長く<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bed rest (immobilization)'>臥床</span>する・昼寝をする"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep pressure'>睡眠圧</span>が低下し睡眠時刻が不規則になる"]
    D --> E["寝床と覚醒が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conditioning'>条件づけ</span>られる"]
    E --> B
    F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stimulus control'>刺激制御</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep restriction'>睡眠時間制限</span>・認知療法"] --> G["寝床と睡眠を再び結びつける"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep efficiency'>睡眠効率</span>と日中機能が改善"]

「寝つきが悪い」という症状だけではにならない。本人が眠れる時間帯と時刻がずれる、夜間の、脚の不快感、、薬剤・物質の作用を見分ける必要がある。

ナルコレプシー

は、睡眠と覚醒、(REM睡眠)の境界が不安定になるである。1型では視床下部の産生ニューロンが選択的に失われ、覚醒を長く維持できず、REM睡眠に伴う筋緊張消失が覚醒中へ侵入してを起こす。と免疫機序の関与が考えられるが、HLA型だけで診断しない。

2型では濃度は正常または未測定で、典型的なを欠く。日中の眠気とMSLT所見は1型に似るが、睡眠不足や、薬剤による偽陽性をより慎重に除外する。

特徴 1型 2型
日中の抵抗しがたい眠気 必須 必須
典型的。笑い・驚き・怒りなどで誘発 認めない
低値なら診断根拠になる 正常または未測定
PSG・MSLT に、MSLT陽性または夜間PSGのSOREMPを組み合わせる。低ならこれらの所見は必須ではない 標準化したMSLT陽性所見が必須
診断の安定性 比較的高い 後にや低が判明すれば1型へ再分類

臨床像

不眠障害

適切な睡眠機会と環境があるにもかかわらず、のいずれかがあり、疲労、、気分変化、就学・就労障害などの日中機能障害を伴う。慢性では、通常は週3夜以上かつ3か月以上続く。

夜間の訴え 日中の影響
寝つけない、夜中に何度も起きる、早朝に目覚めて戻れない 疲労、注意・記憶低下、
睡眠への強い不満や 仕事・学業・家事・の障害
寝床では覚醒するが、別の場面では眠気を感じる ミス・事故リスク、生活の質の低下

不眠患者の「眠い」は、実際には疲労や活力低下を指すことも多い。望まない状況でも居眠りするほどの過度の日中眠気があれば、などを再評価する。

ナルコレプシー

  • 過度の日中眠気:な場面だけでなく、会話・食事・作業中にも睡眠へ移行し得る。短い昼寝で一時的に爽快になることがある。
  • :意識は保たれたまま、膝折れ、頸部・顎の脱力、ろれつ困難、全身脱力が秒〜分単位で起こる。失神やとは区別する。
  • 入眠時・:入眠または覚醒の移行期に鮮明な視覚・聴覚・触覚体験が生じる。
  • :意識が戻っても一時的に体を動かせない。
  • 夜間睡眠の分断:日中に眠い一方、夜間睡眠も連続しにくい。
  • :十分に覚醒しないまま作業を続け、後で記憶がないことがある。

、移行期はいずれもREM睡眠の要素が覚醒へ侵入する現象だが、だけなら健常者、睡眠不足、他の睡眠障害でも起こり得る。

⚠️ 抵抗しがたい眠気やが制御されていない間は運転・高所作業・火気・重機操作を避ける。治療後も眠気を本人の感覚だけで過小評価せず、事故歴、通勤、職務、服薬による眠気を定期的に確認し、各地域の運転免許・職業運転規則に従う。

診断

共通の初期評価

睡眠障害の診断は「何時間寝たか」だけではなく、睡眠の機会、時刻、質、日中機能をで調べる。

  • 1〜2週間ので、就床・入眠・覚醒・離床、昼寝、勤務、休日との差を記録する。
  • 、アルコール、、刺激薬、鎮静薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬の使用時刻と増減を確認する。
  • いびき・無呼吸、、睡眠中の行動、、疼痛、を評価する。
  • うつ病・不安症、自殺リスクを評価する。睡眠欲求が減っても疲れない状態は躁・を疑う。

典型的な慢性は臨床診断であり、PSGをルーチンに行わない。治療抵抗性、睡眠時無呼吸・が疑われる場合、またはを評価する場合に目的を定めて検査する。

ナルコレプシーを疑うときの検査

flowchart TD
    A["3か月以上続く抵抗しがたい日中眠気"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep diary'>睡眠日誌</span>と可能なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='actigraphy'>アクチグラフィ</span>を2週間"]
    B --> C{"十分で規則的な睡眠が確認できるか"}
    C -->|"いいえ"| D["睡眠不足・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shift work'>交代勤務</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Disturbed diurnal rhythm'>概日リズム異常</span>を是正"]
    C -->|"はい"| E["OSAと薬剤・物質・精神身体疾患を評価"]
    E --> F{"併存するOSAが安定して有効に治療されているか"}
    F -->|"いいえ"| G["OSA治療を最適化してから再評価"]
    F -->|"はい"| H["夜間PSG<br>十分な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bed rest (immobilization)'>臥床</span>時間と睡眠時間を確保"]
    H --> I{"典型的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataplexy'>情動脱力発作</span>と<br>夜間PSGのSOREMPがそろうか"}
    I -->|"はい"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='narcolepsy'>ナルコレプシー</span>1型"]
    I -->|"いいえ"| J["翌日に標準化した5回のMSLT"]
    J --> K{"MSLT陽性か"}
    K -->|"はい"| L{"典型的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataplexy'>情動脱力発作</span>があるか"}
    L -->|"ある"| M
    L -->|"ない"| N{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid orexin'>髄液オレキシン</span>が診断的低値か"}
    N -->|"はい"| M
    N -->|"いいえ・未測定"| P["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='narcolepsy'>ナルコレプシー</span>2型を検討"]
    K -->|"いいえ"| Q{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebrospinal fluid orexin'>髄液オレキシン</span>が診断的低値か"}
    Q -->|"はい"| M
    Q -->|"いいえ・未測定"| O["検査条件・臨床経過・他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypersomnia'>過眠症</span>を再評価"]

成人のMSLTは、原則として夜間PSGに続けて5回の昼寝機会を設け、平均睡眠と入眠時RE(sleep-onset REM period:SOREMP)を測る。平均睡眠8分以下かつSOREMP 2回以上が診断所見で、直前の夜間PSGでみられたSOREMP 1回を合計へ算入できる。

ICSD-3-TRでは、典型的ながあり、夜間PSGで入眠から15分以内のSOREMPを認めれば、MSLT陽性でなくても1型の診断根拠になる。1濃度が110 pg/mL以下、または同じ標準化測定法による健常者平均の3分の1未満であることも、やMSLTとは独立した1型の診断根拠である。

検査前には、通常2週間のと可能ならで十分な睡眠を確認する。PSGでは最低7時間の機会と6時間以上の睡眠を確保する。REM睡眠を抑制・させる薬剤、覚醒薬、鎮静薬は、患者安全を優先しつつ処方医と計画して通常2週間以上前から調整する。自己判断で急に中止しない。の調整、への配慮、OSA治療機器の有効性・使用状況の確認も必要である。

💡 SOREMPはに特異的とは限らない。睡眠不足、、未治療のOSA、REM睡眠を抑える薬の急な中止でも出現し得るため、MSLTの数値だけで診断してはいけない。

鑑別

鑑別 区別の手がかり
睡眠機会の不足。休日や休暇に長く眠り、睡眠延長で改善する
いびき、無呼吸、肥満、高血圧。PSGまたは適切な在宅検査で呼吸イベントを確認
本人の体内時刻に沿えば眠れるが、との不一致で眠気・不眠が起こる
強い眠気や長時間睡眠があるが、型のSOREMPを満たさず、昼寝後も爽快でないことが多い
うつ病 疲労・は重なる。気分、興味、精神運動、と睡眠検査条件を総合
てんかん・失神・ と異なり、意識障害、状態、循環変化、誘因を伴い得る
薬剤・物質 鎮静薬・抗ヒスタミン薬・オピオイド・飲酒は眠気、刺激薬中止はを起こす

治療

不眠障害

-Iはの有無にかかわらず慢性の第一選択である。は治療を支えるが、それだけを単独治療にしない。

構成要素 実際の介入
眠いときだけ床へ入り、眠れなければ一度床を離れ、毎朝の起床時刻を固定する
に基づき時間を実睡眠時間へ近づけ、を見ながら段階的に調整する
認知療法 「今夜眠れなければすべて失敗する」などの破局的予測を検討し直す
リラクゼーション 呼吸法、漸進的筋弛緩、覚醒を下げる練習を行う
光、運動、、飲酒、室温などを整えるが、単独では不十分

⚠️ では開始時に眠気が一時的に増えることがある。、てんかん、、職業運転・危険作業がある場合は、自己流で極端に睡眠時間を削らずが安全に調整する。

薬物療法は、-Iを利用できない、十分に実施しても症状が残る、または一時的な補助が必要な場合に、で検討する。か、年齢、妊娠、肝腎機能、、転倒・、物質使用、併用薬を確認し、最少を必要最短期間用いる。開始時に終了・減量計画を決め、効果、翌朝の眠気、転倒、異常行動、耐性・依存を定期的に再評価する。選択例は承認国・製品表示に従う。

選択肢 向く症状 重要な注意
主に CYP1A2阻害薬などの相互作用、肝機能を確認
など) 入眠・ には禁忌。翌朝の機能低下、に注意
など) 製剤により入眠または 転倒、健忘、翌朝の運転障害。過去に服用後のがあれば禁忌
選択された短期症例 依存・乱用、耐性、、転倒、離脱。オピオイド・アルコールとの併用は呼吸抑制を増す
主に 鎮静、相互作用、製剤固有の禁忌を確認

の鎮静性抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、を、慢性の全例へ根拠なく漫然と用いない。を長期使用している患者では、、けいれん、せん妄を避けるため急に中止せず個別にする。

ナルコレプシー

規則的で十分な夜間睡眠、予定した短い昼寝、学校・職場での休憩や試験時間の調整を組み合わせる。昼寝は補助として有用でも、重い日中眠気の薬物療法を常に代替できるわけではない。

治療 主に狙う症状 重要な注意
日中眠気 重篤な発疹、精神症状、血圧・脈拍、妊娠を確認。ステロイド性避妊薬の効果を低下させ得るため、投与中と中止後1か月は代替または追加の避妊法を用いる。眠気が完全に消えるとは限らない
日中眠気、 QT延長、肝腎機能、相互作用を確認。の効果を低下させ得るため、投与中と中止後21日間は非ホルモン避妊法を用いる
日中眠気 血圧・脈拍上昇、精神症状、MAO阻害薬との併用を避ける
日中眠気、、夜間 中枢抑制・呼吸抑制、乱用リスク。アルコールや鎮静薬との併用を避け、された供給制度に従う
日中眠気の代替選択肢 、精神症状、食欲・体重、乱用・依存リスクを監視

AASMは成人に対し、を強く推奨し、を条件付きで推奨している。薬剤の入手可能性・は国により異なる。

💡 上の薬はいずれも、失われたを迂回して覚醒を底上げしている。 これに対しオベポレクストンは、欠けている信号を受け取る側の受容体(OX2R)を直接刺激するで、1型の病態そのものに向かう最初の治療である。が2026年7月23日に16歳以上のタイプ1を対象として承認した1。米国は優先審査中、日本は先駆的医薬品指定の段階で、まだ広く使える薬ではない。第3相2試験(計273例、19カ国、12週)はすべての主要・副次評価項目で有意差を示し、2 mg 1日2回群の大多数が覚醒維持検査で正常範囲(≥20分)に達した。の無い日は週0日から週4〜5日へ改善している2。ただし第3相はまだ査読誌に載っていない。査読済みの数値が要るなら第2相を見る(MWT平均睡眠が最大 +25.4 分、 −1.2 分)3

⚠️ 同じ受容体を狙いながら、作動薬はへ、という正反対の使い分けになる。名前が似ているため取り違えないこと。

、夜間も個別に追跡する。治療反応が不十分なら、服薬を単純に重ねる前に睡眠時間、併存するOSA、、薬剤性鎮静、診断のを再確認する。

⚠️ は不眠治療薬であり、覚醒維持に必要な経路を遮断するためには用いない。名称の似たとは作用も適応も別である。

生活と安全の長期管理

  • 眠気、、夜間睡眠、気分、体重、血圧、薬剤有害事象を定期的に評価する。
  • 服薬だけで運転可能と決めず、本人・家族から居眠りやヒヤリハットを聴取する。眠いときは運転せず、安全な場所に停車する。
  • 学校・職場には、予定昼寝、勤務時刻、休憩、危険作業の回避など必要なを検討する。
  • 妊娠希望、妊娠、授乳では、疾患による事故リスクとの両方をと早期に見直す。

まとめ

  • 慢性は、十分な睡眠機会があるのに夜間症状と日中障害が週3夜以上・3か月以上続く病態で、典型例にPSGは必須ではない。
  • 多要素-Iが第一選択で、だけでは不十分である。薬物は症状型と安全性に合わせ、最少・必要最短期間で再評価する。
  • では睡眠不足、、未治療OSA、薬剤影響を除き、適切な夜間PSGに続く標準化MSLTを解釈する。
  • 1型はまたは低値で特徴づけられ、2型はを欠き、MSLT所見とが特に重要である。
  • 制御不十分な眠気があれば運転・危険作業を避け、薬物治療後も機能と事故リスクを継続して評価する。

出典

  1. 1.オレキシン作動薬「ORZEYFUL®」(一般名:オベポレクストン)、ナルコレプシータイプ1の治療薬として中国で承認(武田薬品工業株式会社・2026)中国国家薬品監督管理局(NMPA)が2026年7月23日にORZEYFUL(オベポレクストン)を「ナルコレプシータイプ1を有する16歳以上の患者さんの治療」として承認したこと、本剤が経口のオレキシン2受容体(OX2R)選択的作動薬であること、米国ではブレークスルーセラピー指定を受け優先審査のもとNDAが審査中、日本では先駆的医薬品指定を受けていること閲覧 2026-08-04
  2. 2.世界睡眠学会「World Sleep 2025」におけるナルコレプシータイプ1を対象とした画期的なoveporexton(TAK-861)の第3相臨床試験プログラムのデータ発表について(武田薬品工業株式会社・2025)第3相2試験の計273例・19カ国・12週間ですべての主要/副次評価項目に有意差が示され、2mg1日2回群の大多数がMWTで正常範囲(≥20分)に達したこと、カタプレキシーの無い日がベースラインの週0日から12週時点で週4〜5日へ改善したこと閲覧 2026-08-04
  3. 3.Oveporexton, an Oral Orexin Receptor 2-Selective Agonist, in Narcolepsy Type 1(New England Journal of Medicine 392(19):1905-1916(Dauvilliers Y, et al., DOI 10.1056/NEJMoa2405847)・2025)第2相無作為化プラセボ対照試験(計112例)で、8週時点のMWT平均睡眠潜時の変化が用量群により +12.5〜+25.4 分(プラセボ −1.2 分、全群 P≤0.001)であったこと、週あたりカタプレキシー発作回数が 2.48〜5.89 回(プラセボ 8.76 回)であったこと閲覧 2026-08-04