疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 精神 · 病態

注意欠如・多動症(ADHD)

Attention-deficit/hyperactivity disorder

別名
ADHD注意欠如多動症注意欠如・多動性障害
臓器系
精神神経
科目
PediatricsPsychiatry
トピック
小児科 3-14:小児行動・神経発達症精神医学 A-16:児童青年期の精神疾患
鑑別疾患
気分障害(うつ病・双極性障害)自閉スペクトラム症重篤気分調節症素行症知的発達症反抗挑発症不安症群不眠障害・ナルコレプシー
関連疾患
チック症(トゥレット症候群)物質使用症群
治療薬
メチルフェニデートアンフェタミン誘導体アトモキセチンクロニジン
元疾患
神経線維腫症1型
適応薬
リスデキサンフェタミン

🧠 全体像(ADHD)は、および/またはが発達水準に比べて持続し、家庭、学校、職場、など複数場面の機能を損なうである。診断はや集中力検査だけで決めず、12歳以前からの発達歴、複数情報源、現在の機能障害、鑑別・併存症を統合する。治療では環境調整と本人・家族への支援を土台に、年齢、目標、併存症、有害事象を踏まえて行動的介入と薬物療法を組み合わせる。

病態

ADHDには高い遺伝的寄与があり、注意の配分、反応抑制、、時間管理などに関わる―線条体―小脳ネットワークと、ドパミン・ノルアドレナリン系の発達差が関与する。単一の遺伝子、脳画像、血液検査で診断できる病態ではなく、早産、周産期要因、環境要因なども個人ごとに異なる組合せで関わる。

育て方の失敗、怠け、意志の弱さが原因ではない。一方、症状による困難は、課題の長さ、刺激の多さ、性、支援の有無で変化する。構造化された環境では目立たず、要求が増える進学、就職、独立後に初めて明らかになることもある。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝的素因</span>と神経発達の多様性"] --> B["注意調整・反応抑制・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reward'>報酬</span>処理の困難"]
    B --> C["忘れ物・課題未完了・待てない・割り込み"]
    C --> D["叱責・失敗経験・対人葛藤"]
    D --> E["自己評価低下・回避・二次的な不安や抑うつ"]
    F["環境調整・技能支援・適切な治療"] --> G["課題負荷と症状のずれを小さくする"]
    G --> H["学習・就労・関係・安全を改善"]

臨床像

中核症状

領域 小児でみられやすい例 青年・成人でみられやすい例
指示を最後まで聞けない、課題を終えない、忘れ物、物をなくす、気が散る 期限管理、予定、書類、家事、金銭管理が不安定。長い会議や読書に集中しにくい
席を離れる、走り回る、静かに遊べない、話し続ける 外見上の走り回りより、落ち着かなさ、過密な予定、休むことの苦手さとして現れる
答えを待てない、順番を待てない、会話や遊びへ割り込む 性急な決断、危険運転、衝動買い、対人場面での遮りとして機能を損なう

同じ人でも年齢と環境により症状の表れ方は変わる。は加齢で目立ちにくくなる一方、、時間感覚、整理、感情調整の困難は成人まで続き得る。興味の強い活動へ長時間集中できることは、状況に応じて注意を配分し直す困難と矛盾しない。

では、優勢な症状の組合せにより優勢、多動・衝動優勢、混合の各臨床像を記載する。臨床像はな人格類型ではなく、経過で変わり得る。

併存症と二次的影響

⚠️ 成績不振や落ち着かなさをすべてADHDに帰属させない。併存症は症状を増幅し、と安全性を変える。、活動増加が明確なエピソードとして生じる場合は躁・を優先して評価する。

診断

診断基準の骨格

要件 内容
症状数 9項目、9項目のうち、17歳未満は各領域6項目以上、17歳以上は5項目以上
持続 発達水準に不釣合いな症状が6か月以上続く
発症時期 症状のいくつかが12歳以前に存在する。成人では通知表、家族、過去記録などで発達歴を再構成する
場面 家庭、学校、職場、友人関係など2つ以上の重要な場面に存在する
影響 社会、学業、就労などの機能を妨げる明確な証拠がある
除外 の経過中だけに起こるものではなく、他の精神・身体疾患や物質作用でよりよく説明されない

症状数を満たすだけでは診断しない。本人、保護者・パートナー、教員・職場、過去の記録から、症状がどの場面で何を損なうかを具体化する。評価尺度は情報を標準化し治療反応を追う助けになるが、単独で確定または除外できない。、脳画像、遺伝学的検査をルーチンの確定検査として用いない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inattention'>不注意</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperactivity'>多動性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impulsivity'>衝動性</span>による困難"] --> B["本人と複数情報源から発達歴を収集"]
    B --> C{"12歳以前から<br>6か月以上続くか"}
    C -->|"いいえ・不明"| D["発達記録を補い、他の原因を評価"]
    C -->|"はい"| E{"2場面以上で<br>機能障害があるか"}
    E -->|"いいえ"| F["環境特異的な負荷・関係・学習課題を評価"]
    E -->|"はい"| G["視聴覚・睡眠・身体・精神・物質要因を評価"]
    G --> H["併存する発達症・学習症・気分不安症を評価"]
    H --> I{"基準を満たし<br>他疾患でよりよく説明されないか"}
    I -->|"いいえ"| J["主な原因に応じて支援・治療"]
    I -->|"はい"| K["ADHDの臨床像と支援<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needs'>ニーズ</span>を共有"]
    K --> L["家庭・学校・職場を含む治療計画"]

鑑別と評価

鑑別 区別の要点
睡眠不足・ 睡眠機会、いびき・無呼吸、抵抗しがたい眠気、を確認する
不安症うつ病 心配、、抑うつエピソードに伴うか、幼少期から場面横断的かをみる
ADHDは持続的な発達特性。躁病では気分・活動・睡眠欲求の変化がエピソード性に出現する
相互性、、感覚特性を評価する。ADHDと併存し得る
学習症・ 特定教科または全般的な認知・と課題要求のずれを評価する
トラウマ、虐待、家庭・学校環境 発症の時間関係、、回避、解離、安全、特定場面への限局を確認する
身体・薬物要因 視聴覚障害、、てんかん、薬剤、などの物質使用を確認する

評価時には、学業・就労、事故・運転、関係、金銭管理、睡眠、食事、物質使用を尋ね、抑うつ、・自殺、虐待・搾取の安全評価を行う。小児では成長と血圧、成人では心血管リスクも確認する。

治療

共通の土台

  • 本人と家族へ、ADHDの特性、強み、利用できる支援、治療の利益と害を説明し、目標を「症状数」だけでなく宿題、遅刻、事故、対人葛藤など具体的な機能で定める。
  • 課題を短く分ける、明確な指示、視覚的予定、休憩、刺激の少ない席、時間延長、提出・持物の仕組み化など環境を調整する。
  • 小児では保護者トレーニング、教室での行動的介入、支援を組み合わせる。成人では構造化されたADHDに焦点を当てた心理的介入や、時間・金銭・業務管理の支援を検討する。
  • 睡眠、運動、規則的な食事を整え、併存する学習症、気分・不安症、を並行して治療する。除去食やを全例の中核治療として一律に勧めない。

年齢に応じた治療

年齢・状況 第一段階 薬物療法の位置づけ
就学前 ADHDに焦点を当てた保護者トレーニングと教室・家庭の行動的介入 NICEは5歳未満では高度なの助言なしに開始しない。AAPは4歳から6歳の誕生日前で、行動介入後も中等度〜重度の障害が続く場合にを慎重に検討する
学童(おおむね6〜11歳) 家庭・学校の環境調整、保護者支援、介入 持続する重大な機能障害にはが薬物を検討し、と併用する
12〜17歳 本人の理解・同意を重視し、学校技能、運転、物質使用、服薬流用を扱う 承認薬を症状と機能へ合わせて用い、成人医療への移行を早期から計画する
成人 環境調整、心理的介入、職場・学業支援 中等度以上の持続的障害には薬物を検討し、血圧・脈拍・体重、物質使用、妊娠可能性を含め個別化する

成人医療への移行

小児科・児童精神科で治療中の青年は、学校卒業時期に成人期も治療が必要かを再評価する。継続が必要なら、原則18歳までに成人診療へ円滑に移れるよう、本人と必要に応じ家族を交えて計画し、小児側と成人側の担当者が診断根拠、治療反応、有害事象、併存症、教育・就労上の支援を引き継ぐ。移行後は成人診療側が、生活、教育、就労、対人機能に加え、物質使用、気分・不安症、学習上の困難などを包括的に再評価する。

薬物療法

薬剤の承認年齢と使用可能性は国・製剤で異なるため、現地の添付文書と専門診療に従う。NICEでは5歳以上の小児・青年の第一選択を、成人の第一選択をまたはとし、十分な期間・用量で効果不十分またはなら別の刺激薬、などを段階的に検討する。

flowchart TD
    A["環境調整後も重大な機能障害"] --> B["年齢・目標・併存症・本人の希望を確認"]
    B --> C["心血管歴・家族歴・血圧・脈拍<br>身長・体重・精神状態を評価"]
    C --> D{"刺激薬が適切か"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methylphenidate'>メチルフェニデート</span>または<br>年齢に応じた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amphetamine'>アンフェタミン</span>系"]
    D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atomoxetine'>アトモキセチン</span>または<br>小児・青年の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='guanfacine'>グアンファシン</span>など"]
    E --> G["少量から症状と有害事象で漸増"]
    F --> G
    G --> H{"目標機能が改善し<br>有害事象を許容できるか"}
    H -->|"はい"| I["継続監視と少なくとも年1回の総合見直し"]
    H -->|"いいえ"| J["服薬状況・診断・併存症・製剤を再評価"]
    J --> K["別系統への変更または専門施設へ相談"]
薬剤群 主な特徴 重要な安全事項
効果発現が速く、年長児・成人では第一選択になりやすい 食欲低下、体重減少、不眠、血圧・脈拍上昇、変化、精神病・躁症状。乱用、依存、転用、のリスクを反復評価する
。効果判定には刺激薬より時間を要する 小児・青年のに関するFDA枠付き、血圧・脈拍上昇、食欲・成長、まれな重篤肝障害を監視する
。小児・青年で用い、や睡眠問題を伴う例で選択肢になり得る 傾眠、低血圧、徐脈、失神。急な中止はを起こし得るため段階的に減量する
国により小児ADHDの選択肢。鎮静が目立ち得る 低血圧、徐脈、傾眠。急に中止せずする

急性の精神病または中はADHD薬を中止し、エピソード治療後に利益と害を再評価する。、不安症、の併存だけで刺激薬を一律に除外せず、ゆっくり漸増して症状と有害事象を個別に追う。

刺激薬は他者と共有せず、施錠できる場所などで安全に保管し、残薬は地域の回収方法に従って廃棄する。処方どおりを超える用量・頻度で使わないよう説明し、服薬を求めてくる友人・同僚の存在も確認する。

開始前評価と監視

時点 確認事項
開始前 診断と治療必要性、併存症、処方薬・物質使用、乱用・転用リスク、身長・体重、血圧・脈拍、心血管症状・診察、若年突然死・重篤不整脈の家族歴
漸増中 本人・家族・学校などから標準尺度と具体的機能を確認し、各用量変更で効果、食欲、睡眠、気分、血圧・脈拍を評価する
維持中 血圧・脈拍を用量変更前後と少なくとも6か月ごと、児童青年の身長を6か月ごとに測定する。体重は10歳以下で3か月ごと、10歳超では開始3・6か月後と以後6か月ごと、成人では6か月ごとを目安にする
長期 目標機能、有害事象、併存症、服薬の必要性、・減量希望、学校・就労支援を少なくとも年1回総合的に見直す

心血管病歴・家族歴と診察が正常なら、刺激薬、開始前の心電図を一律には必要としない。・胸痛、突然始まる規則的な、心不全徴候、・心臓、若年、持続する高血圧などがあれば、開始前に循環器専門評価を行う。

成長停滞、体重減少、頻脈、高血圧、失神、重い気分変化、精神病・躁症状、があれば、原因と緊急性を評価して用量、投与時刻、薬剤、食事支援、の適否を見直す。ではなく本人の生活目標が改善しているかを継続的に確認する。

まとめ

  • ADHDはおよび/またはによるで、育て方や意志の弱さが原因ではない。
  • 診断では、6か月以上、12歳以前から、2場面以上、発達水準に不釣合い、明確な機能障害という条件を複数情報源で確かめる。
  • 評価尺度や集中力検査だけで診断せず、睡眠、学習、発達、気分、不安、トラウマ、身体疾患、薬剤・物質を評価する。
  • 環境調整、保護者・学校支援、本人の技能支援は年齢を問わず治療の土台であり、未就学児では行動的介入を先行する。
  • 薬物療法はが個別化し、効果と機能に加えて成長、体重、血圧・脈拍、睡眠、気分、乱用・転用・を監視する。