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Disease Atlas · 小児 · 病態

発達性言語障害

Developmental language disorder

別名
DLD特異的言語発達障害SLI
臓器系
小児神経精神
科目
PsychiatryNeurologyPediatrics
トピック
精神医学 A-16:乳幼児期・児童期・青年期に明らかとなる精神疾患神経内科 G2-16:発話・言語障害の分類小児科 1-27:小児の知的発達症
鑑別疾患
Landau-Kleffner症候群感音難聴自閉スペクトラム症社会的(語用論的)コミュニケーション症全般的発達遅滞知的発達症
関連疾患
注意欠如・多動症
検査値
純音聴力検査

🧠 全体像:(DLD)は、言語の獲得と使用だけが年齢の期待から大きく外れ、日常のやりとりや学業に持続的な支障をきたす状態である。押さえるべきは名称の変更で、2017年の CATALISE コンセンサスにより、それまで用いられていた「(SLI)」が DLD に置き換わった1。これは言い換えではなく診断の入口を作り替えた変更である——「特異的」を外した結果、①と言語能力の乖離を要求しない、② や読み書きの困難などの併存があっても外さない、の2点が変わった1。ただし「何でも DLD」になったわけではない。難聴・脳損傷・・などのがあるときは「◯◯に伴う」と別の名で呼ぶ1。の側から見た要点は単純で、GDD が2領域以上の遅れを指すのに対し、DLD は言語の困難が前景にあり、の基準を満たさない——つまり DLD は GDD の分類ではなく、5歳前後の再評価で分岐しうる行き先の1つである。

名称:SLI から DLD へ

CATALISE は57名の国際的な多職種パネルによるの合意形成で、第2段階が用語を扱った1。パネルはまず「」という語を、中期児童期以降も持続し、日常のや学業の進歩に有意な影響を及ぼす可能性が高い子どもに用いると定めた1。そのうえで、を伴わないを DLD と呼ぶことにした1。

SLI(旧) DLD(現行)
言語能力との乖離を求める運用が広く行われた 乖離を必要としない。 の基準を満たさない低めの非言語能力なら DLD に含める1
併存する困難 「特異的」の語が「言語以外に困難が無い」と読まれ、併存例が排除されがちだった2 注意・運動・読み書き・・・行動情緒の問題があっても適用する1
生物医学的な原因がある場合 除外 除外ではなく「◯◯に伴う」と別に名づける1

💡 「障害」という語が選ばれた理由の一つは、 と ICD-11 の双方がに対してこの語を使っていることである2。用語を国際的な診断体系と揃えることが、サービスへのアクセスと研究の比較可能性を確保する手段と考えられた。

定義:2段階で決める

flowchart TD
    A["言語の理解または産出に年齢期待から外れた困難"] --> B{"中期児童期以降も続き<br>日常の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='social'>社会的</span>なやりとりや学業に<br>有意な影響を及ぼす見込みがあるか"}
    B -->|"いいえ"| C["言語の遅れとして経過をみる<br>(診断名を与えない)"]
    B -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='speech disorders'>言語障害</span>"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='differentiating condition'>鑑別条件</span>を伴うか<br>(脳損傷・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acquired epileptic aphasia'>後天性てんかん性失語</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurodegenerative disease'>神経変性疾患</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral palsy'>脳性麻痺</span>・<br>感音難聴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Down syndrome'>ダウン症候群</span>などの遺伝性疾患・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intellectual disability, ID'>知的発達症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autism spectrum disorder'>自閉スペクトラム症</span>)"}
    E -->|"伴う"| F["◯◯に伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='speech disorders'>言語障害</span><br>(原因条件を名前に明示する)"]
    E -->|"伴わない"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='developmental language disorder'>発達性言語障害</span>(DLD)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='co-occurring condition'>併存条件</span>は診断を妨げない<br>注意・運動・読み書き・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='speech (utterance/production)'>発話</span>・行動情緒の問題"]

⚠️ とを混同しない。 は「がより複雑な障害像の一部として生じる生物医学的状態」であり、名前を付け替える理由になる1。は名前を変えない——、運動の不器用さ、を含む読み書きの困難、の問題などは、あっても DLD である1。

「特異的」を外した理由

⭐ 「特異的」の語は、その子が言語以外に困難を持たないという含意を生み、実態と合わなかった2。実際には言語の困難を持つ子の多くが注意・運動・読み書きの困難を併せ持つ。この含意のために、併存のある子が診断からもサービスからも外れていた。

もう一つの理由がによる線引きの根拠の薄さである。人口ベースの研究では、が平均域の児と低め平均域の児との間で、の重症度・社会情緒行動上の問題・学業成績のいずれにも差が無かった3。線を引く根拠が実証的に見つからなかったということである。

⚠️ この点は臨床倫理の問題でもある。 「遅れ」のプロファイルを理由にの対象から外す運用は、最も支援を必要とする子どもへの支援を拒むことになると指摘されている2。一方で、定義を緩めすぎると概念そのものがになるという反対の懸念も同時に表明されており2、による名前の分岐はその歯止めとして機能している。

全般的発達遅滞・知的発達症・自閉スペクトラム症との切り分け

これがこのノートの中核である。いずれも「言葉が出ない・遅い」という同じ入口から来るため、入口ではなく他の領域がどうなっているかで分ける。

診断 言語以外の領域 決め手
の基準を満たさない。 非言語能力が低めであること自体は除外理由にならない1 言語の困難が前景にあり、を伴わない。併存があっても診断は変わらない
運動・認知・社会性・のうち2領域以上が遅れる 5歳未満に限る。DLD はその再評価で分岐しうる行き先の1つであって、GDD の分類ではない
との双方がされる の基準を満たすなら DLD ではなく「に伴う」になる
・相互作用の持続的困難と 非言語的な相互性(視線・・情動の共有)とが中核。DLD では言語の形式と内容の獲得が中心で、これらは中核にならない
感音難聴 聴覚入力そのものが不足 は全例で必須。 未診断の難聴を言語の遅れとして扱わない
() いったん獲得した言語が失われる があれば DLD ではない。言語の喪失は緊急に評価する

⚠️ 「特異的を外した」ことは「やと混ぜてよい」ことを意味しない。 これらはではなくであり、該当すれば名前が「◯◯に伴う」に変わる1。外れたのはの乖離要件と併存する神経発達上の困難による除外であって、生物医学的な原因条件による区別ではない。

💡 との切り分けが実務上いちばん難しい。 言語が乏しい時期には相互性の評価も難しくなるためである。判断の軸は「言語水準から予想される以上に、非言語的な相互性が損なわれているか」に置く。併存も珍しくないので、どちらか一方に決めることを急がず、両方の領域を継続的に評価する。

DSM-5 の「言語症」との対応

(2013年)は、-IV の「」と「受容-表出」という2区分を統合し、の中にを1つ置いた4。の中核は「理解または産出の欠陥による、様式(話しことば・書きことば・その他)を越えた言語の獲得と使用の持続的な困難」と、年齢期待より実質的かつ量的に低い言語能力である4。

の CATALISE の DLD
言及を削除(の基準を満たさない限り)3 乖離を要求しない1
原因条件がある場合 診断体系の中で別の診断として扱う 「◯◯に伴う」という呼び方を明示的に推奨1
想定する経過 発達早期に発症し持続する 中期児童期以降も続く見込みを要件に含める1

⭐ 両者は実質的にほぼ同じ子どもを指す。 がへの言及を削除したことと、CATALISE が乖離要件を外したことは同じ方向の変更であり、DLD という語が ・ICD-11 と整合するよう選ばれたのもこのためである2。文献では「」「」「」「」が混在するので、どの体系のどの版に基づく語かを確認して読む。

💡 は同時にを新設した。語用——文脈や相手に合わせて言い方を変える、会話や語りの規則に従う——の困難が中心で、を伴わない場合に用いる。ただしの基準を満たす子どもにはこの診断を与えない4。

疫学

英国の人口ベース研究では、4〜5歳の12,398人のうち7,267人(59%)をスクリーニングし、層化標本529人に包括的評価を行った3。

(95%信頼区間)
全体 9.92%(7.38〜13.20)3
原因の分からない(DLD に相当) 7.58%(5.33〜10.66)3
または既知の医学的診断に伴う 2.34%(1.40〜3.91)3

⭐ 就学時のクラスに2人前後いる計算になる。 それでいて認知度は低い。同じ研究で、のある児の88%が期待される学業進歩を示さなかった3——言語の困難は学業の困難として現れるため、「勉強ができない子」として処理され、言語の問題が見落とされやすい。

評価と支援

まとめ

  • (DLD)は、言語の獲得と使用に持続的な困難があり、中期児童期以降も続いて日常のやりとりや学業に有意な影響を及ぼす状態のうち、を伴わないものを指す。
  • 2017年の CATALISE コンセンサスで「(SLI)」から置き換わった。変わったのは①と言語能力の乖離を要求しない、②併存する神経発達上の困難で除外しない、の2点である。
  • 「特異的」を外した理由は、その語が「言語以外に困難が無い」と読まれて併存例をサービスから排除していたこと、およびで線を引く実証的根拠が乏しかったことにある。
  • 要件は「非言語的なが保たれていること」ではなく「の基準を満たさないこと」である。 非言語能力が低めの子でも、の基準を満たさなければ DLD に含めてよい1。・・難聴・脳損傷などのがあるときは「◯◯に伴う」と呼び分ける。
  • は5歳未満ので2領域以上の遅れを指す。DLD はその再評価で分岐しうる行き先の1つであり、分類ではない。
  • のとほぼ同じ子どもを指す。 もの基準を満たさない限りへの言及を削除している。
  • 就学時のは原因不明ので7.58%と高く、88%が期待される学業進歩を示さなかった。との確認を必ず行い、確定を待たずに支援を始める。

出典

  1. 1.Phase 2 of CATALISE: a multinational and multidisciplinary Delphi consensus study of problems with language development: Terminology(Journal of Child Psychology and Psychiatry・2017)「言語障害」の語を「中期児童期以降も持続し日常の社会的相互作用や学業の進歩に有意な影響を及ぼす可能性が高い子ども」に用いると提案し(Statement 2)、鑑別条件を伴わない言語障害を developmental language disorder(DLD)と呼ぶと提案していること(Statement 7)、鑑別条件とは言語障害がより複雑な障害像の一部として生じる生物医学的状態であり脳損傷・小児期の後天性てんかん性失語・一部の神経変性疾患・脳性麻痺・感音難聴に伴う口頭言語の制約やダウン症候群などの遺伝性疾患を含み、これらには「◯◯に伴う言語障害」という呼び方を推奨すること(Statement 6)、DLDの診断に非言語能力と言語能力の大きな乖離は必要でなく、知的発達症の基準を満たさない低い非言語能力の子どもはDLDに含めうること(Statement 8)、注意の問題・運動の問題・読み書きの問題・発話の問題・適応行動の制約・行動および情緒の問題は併存障害でありその有無にかかわらずDLDの語を適用すべきとパネルの大半が合意したこと(Statement 9)、specific language impairment の語が研究文献で最も頻用されていたがパネル内の強い議論の末に棄却されたこと、「障害」の語を選んだ理由の一つがDSM-5およびICD-11との整合性であったこと閲覧 2026-08-20
  2. 2.Why is it so hard to reach agreement on terminology? The case of developmental language disorder (DLD)(International Journal of Language & Communication Disorders・2017)従来の specific language impairment という語を棄却した理由の一つが「特異的」の語によってその子が言語以外に困難を持たないと受け取られうる点であったこと、「特異的」の部分が逆効果で誤解を招くとの指摘があったこと、非言語性知能の役割をめぐる議論において、言語の遅れのプロファイルを持つ子を言語療法サービスの対象から外す提供者は最も助けを必要とする子どもへの支援を拒んでいることになると論じていること、より緩やかな言語障害の定義が概念の希薄化を招くとの懸念も同時に表明されていたこと、「障害」の語がDSM-5とICD-11の双方で言語の問題にも他の神経発達症にも用いられている語であることが選択理由の一つであったこと閲覧 2026-08-20
  3. 3.The impact of nonverbal ability on prevalence and clinical presentation of language disorder: evidence from a population study(Journal of Child Psychology and Psychiatry・2016)4〜5歳の総人口12,398人のうち7,267人(59%)をスクリーニングし層化下位標本529人に包括的評価を行ったこと、言語障害全体の人口有病率推計が9.92%(95%信頼区間7.38〜13.20)、原因の分からない言語障害が7.58%(95%信頼区間5.33〜10.66)、知的発達症または既知の医学的診断に伴う言語障害が2.34%(95%信頼区間1.40〜3.91)であったこと、非言語性知能が平均域の児と低め平均域の児との間で言語障害の重症度・社会情緒行動上の問題・学業成績のいずれにも差が認められなかったこと、言語障害児の88%が期待される学業進歩を示さなかったこと、DSM-5が知的発達症の基準を満たさない限り診断基準から非言語性知能への言及を削除したこと閲覧 2026-08-20
  4. 4.DSM-5 Diagnostic Criteria for Communication and Other Neurodevelopmental Disorders(American Speech-Language-Hearing Association・2013)DSM-5のコミュニケーション症群が language disorder・speech sound disorder・childhood-onset fluency disorder・social (pragmatic) communication disorder・unspecified communication disorder から成り、これがDSM-IVの expressive language disorder と mixed receptive-expressive language disorder という区分からの変更であること、language disorder の診断基準が「理解または産出の欠陥による、様式(話しことば・書きことば・手話その他)を越えた言語の獲得と使用の持続的な困難」および年齢期待より実質的かつ量的に低い言語能力であること、social (pragmatic) communication disorder がDSM-5で新設された診断であり自閉スペクトラム症の基準を満たす子どもにはこの診断を与えないこと閲覧 2026-08-20