疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 症候群

Landau-Kleffner症候群

Landau-Kleffner syndrome

別名
LKS後天性てんかん性失語
臓器系
神経小児
科目
NeurologyPediatrics
トピック
神経内科 G1-06:失語症の型と局在小児科 3-10:小児てんかんと熱性けいれん
上位概念
睡眠時棘徐波活性化を伴うてんかん性脳症
鑑別疾患
自閉スペクトラム症発達性言語障害
治療薬
プレドニゾロンメチルプレドニゾロン
症状
失語発達退行発作聴覚性失認
検査値
睡眠脳波

🧠 全体像:は、それまで順調に言葉を獲得してきた小児が「聞こえてはいるのに言葉として意味が取れない」状態(後天性の)に陥り、言語が退行する病態である。ILAE 2022の枠組みでは独立した症候群ではなく、退行が主に言語に現れるの特定の亜型として位置づけられた1。⚠️ 発作がまばら、あるいは全く無い例があるため、てんかんとして持ち込まれない——難聴やを疑われて耳鼻科や発達外来を巡るうちに時間を失うのが典型的な経過で、を撮るかどうかがになる2。

上位概念の中での位置

(一般)
退行の広がり 認知・言語・行動・運動に広く及ぶ 言語に集中し、非言語能力は相対的に保たれる2
領域を問わない退行・停滞 後天性の1
発作 多くの例で存在 まばらか、無いことも多い2
発症前の発達 では正常、では障害あり を経てから退行する2

💡 ILAEの枠組みでは、この症候群の発達障害は「基礎にある発達障害のせい」ではなく「睡眠でされるてんかん性活動そのもののせい」と考える2。だからこそ、てんかん性活動を止めれば言語が戻りうるという治療可能性が前提に置かれる。

臨床像

発症は3〜7歳に多い。報告される発症年齢の幅は18か月〜14歳と広く、男児が女児のおよそ2倍を占める3。⚠️ ILAEの枠組みでは、2歳未満または12歳を超える発症は除外項目にあたる4。年齢が外れるなら、まず別の病態を考える。

言語の退行は受容面から始まるのが典型である。の聴力は保たれているのに言語音を音として認識できず、名前を呼んでも反応しない、指示が通らないという形で気づかれる。受容面の障害が続いた結果として表出面も痩せていき、最終的にほとんどしなくなることもある。

⚠️ 最初に疑われるのは、たいていてんかんではない。

  • 難聴——反応しないので疑われるが、聴力検査は正常。ここで検査結果に安心して経過観察に流れると診断が遠のく。
  • ——言語の遅れと反応の乏しさが重なるため紛らわしいが、ではいったん獲得した言語を失うという時間の順序がある。獲得の遅れではなく喪失であることが決定的な違いになる。
  • ——同じ「言葉が出ない」でも、発達の過程で言語が育たない病態であり、獲得した言語を失う本症候群とは時間の向きが逆になる。
  • の・行動上の問題——行動面の変化が前景に立つ例で疑われる。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='typical development'>定型発達</span>だった小児の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='language regression'>言語退行</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pure-tone audiometry'>純音聴力検査</span>"]
    B -->|"正常"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep EEG'>睡眠脳波</span>を必ず撮る"]
    B -->|"難聴あり"| D["難聴として精査"]
    C --> E["NREM睡眠の50%超を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spike-and-wave'>棘徐波</span>が占める"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='language regression'>言語退行</span>と時間的に対応するか確認"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Landau-Kleffner syndrome'>Landau-Kleffner症候群</span>と診断"]
    C --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='waking EEG'>覚醒時脳波</span>だけでは<br>正常に見えることがある"]

⚠️ や原因不明の認知の頭打ちに対して、が一貫して行われていないことが診断の遅れの主因として名指しされている2。が正常でも除外にならない。

⚠️ 一方で、異常だけではを満たさない。 発達の停滞または退行の証拠が必須である2。睡眠中のを見つけただけで治療に踏み込まない。

遺伝的病因としてはGRIN2Aが最も高頻度に関連する5。

何%以上を「活性化」と呼ぶか

見ているのは——NREM睡眠に占めるの割合である。ILAEの診断表ではNREM睡眠の50%超を占める2 Hz未満の持続性が必須項目で、を撮ること自体が診断の必須条件とされる4。⚠️ 外来の短時間記録ではまで到達しないことがあり、その場合は終夜のが要る4。

💡 閾値の数字は文献によって動く。 旧来のはの85%超を占めるてんかん性活動と定義されてきたが、それより低い割合でも有意な退行と結びつきうる4。報告される閾値は25〜85%と幅があり、診断には85%または50%が最もよく用いられてきた5。本症候群の総説では全例がNREM睡眠の85%超で両側性のを示すと記載されている3。「何%だったか」で決めず、退行と時間的に対応しているかで決める。

治療

薬物療法は概念に準じ、(経口の連日投与、または静注の)が軸になる。を対象とした集積でも、ステロイドの反応率80%は通常のの49%を上回る5。具体的な用量・期間はの項に譲る。

⚠️ フェニトイン・・カルバマゼピンは発作コントロールを悪化させうる5。発作が目立たない症例では「とりあえず一般的なを」となりやすいが、その選択が増悪方向に働きうる。

外科では、(皮質を下で細かく横切し、機能を担う皮質を切除せずに水平方向の放電の広がりだけを断つ)が本症候群に用いられる唯一の術式である。ただし言語・行動の転帰における有効性は一定しない2。そのものが焦点になるため切除術が使えないという事情が、この特殊な術式が持ち出される理由である。

予後

発作と睡眠時活性化は思春期前後に軽快する1。⚠️ しかしてんかん性活動が寛解しても、言語と学業の困難は残ることが多く、とくに治療の開始が遅れた場合に顕著である2。「が治った」ことと「言語が戻った」ことは別に評価する。

まとめ

  • は、を経た小児が後天性のによって言語を失う病態で、ILAE 2022では退行が主に言語に現れるの一型として位置づけられた。
  • 退行は言語に集中し非言語能力は相対的に保たれる。発作はまばらか無いことも多く、てんかんとして受診しない。
  • 難聴・と紛らわしいが、いったん獲得した言語を失うという時間の順序が決定的な違いになる。
  • 発症は3〜7歳に多く(報告範囲18か月〜14歳)、男児が約2倍。2歳未満・12歳超の発症はILAEの除外項目にあたる。
  • 聴力が正常なを見たらを撮る。の正常は除外にならない。ILAEの必須項目はNREM睡眠の50%超を占める持続性で、旧来のの85%超という数字とは別物。一方、異常だけではを満たさず、退行の証拠が要る。
  • 治療はが軸。フェニトイン・・カルバマゼピンは増悪させうる。が唯一の術式だが有効性は一定しない。
  • てんかん性活動が寛解しても言語・学業の困難は残りやすく、治療の遅れがそれを大きくする。

出典

  1. 1.Developmental and/or Epileptic Encephalopathy With Spike-Wave Activation in Sleep (DEE-SWAS, EE-SWAS)(epilepsydiagnosis.org(International League Against Epilepsy)・2024)症候群の概要ページで、Landau-Kleffner症候群が「退行が主に言語に現れ後天性の聴覚性失認を伴う、EE-SWASの特定の亜型」と明記されていること、上位のEE-SWASが発症前の発達が正常な例に用いられる用語であること、発作と睡眠時棘徐波活性化が思春期前後に軽快することを確認した閲覧 2026-08-20
  2. 2.Developmental and/or epileptic encephalopathy with spike-and-wave activation in sleep: Pathophysiological insights and treatment options(Epilepsia(Specchio N, Auvin S, ほかERN EpiCARE。DOI 10.1002/epi.70271)・2026)序論でLandau-Kleffner症候群が「EE-SWASの典型例」であり、それまで定型発達だった小児の後天性の言語退行を特徴とし発作はまばらか無いことが多いこと、ILAEの枠組みでは発達の障害が基礎の発達障害ではなく睡眠賦活性のてんかん性活動によって主に引き起こされていると考えること、発作が認知障害に先行せず存在しないことや誤診・過小診断されうること、第5節でLKSが言語ネットワークの脆弱性を示し受容・表出の両面の言語退行を来す一方で非言語能力は相対的に保たれること・てんかん性活動が寛解しても言語と学業の困難が残りやすくとくに治療が遅れた場合に顕著であること、第6節で軟膜下多切術がLKSに用いられる唯一の術式だが言語・行動の転帰における有効性は一定しないこと、第7節で言語退行や原因不明の認知の頭打ちに睡眠脳波が一貫して行われていないこと・脳波異常のみでは診断基準を満たさないことを確認した閲覧 2026-08-20
  3. 3.[Landau-Kleffner Syndrome: Current Etiopathogenesis and Management](Revista de Neurología(Méndez-Álvarez AD ほか。DOI 10.31083/rn42643)・2025)疫学の節(2.2)で報告される発症年齢が18か月〜14歳と幅がありながら3〜7歳に発症が多いこと・男児が女児の2倍を占めること・5〜19歳の有病率が約30万〜41万人に1人と推定されること、臨床像と診断の節(2.3)で全例がNREM睡眠の85%超で両側性の棘徐波を示しREM睡眠ではこの活動が中断・減弱または部分的に消失しうること・覚醒時の背景活動は正常なことが多いことを確認した閲覧 2026-08-20
  4. 4.ILAE Classification and Definition of Epilepsy Syndromes with Onset in Childhood: Position Paper by the ILAE Task Force on Nosology and Definitions(International League Against Epilepsy Task Force on Nosology and Definitions(Specchio N, Wirrell EC ほか。Epilepsia 2022;63:1398-1442)・2022)D/EE-SWASの節で、この症候群がLandau-Kleffner症候群・睡眠時持続性棘徐波を示すてんかん性脳症・非定型良性部分てんかん(pseudo-Lennox症候群)を包含し旧称を用いないよう勧めていること、発作の発症年齢が2〜12歳(ピーク4〜5歳)で睡眠時棘徐波活性化が発作発症の1〜2年後に認知・行動の退行とともに現れること、診断表(Table 10)の必須項目がNREM睡眠の50%超を占める2 Hz未満の持続性棘徐波と睡眠での賦活および脳波の睡眠時棘徐波活性化と時間的に対応する認知・行動・運動の退行または停滞であり2歳未満または12歳超の発症とてんかん性スパズムが除外項目であること、睡眠脳波の実施が診断に必須で外来の睡眠脳波では徐波睡眠に到達しないことがあるため終夜の睡眠脳波を要しうること、旧来のCSWSが徐波睡眠の85%超を占めるてんかん性活動と定義されてきたがより低い割合でも有意な退行や認知・行動の変動と関連しうること、主要な単一遺伝子病因がGRIN2Aであることを確認した閲覧 2026-08-20
  5. 5.Electrical Status Epilepticus in Sleep(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)治療の節でフェニトイン・フェノバルビタール・カルバマゼピンが発作コントロールを悪化させうることとコルチコステロイドの反応率80%が通常の抗てんかん薬の49%を上回ること、評価の節で棘徐波指数がNREM睡眠に占める棘徐波の割合であり文献の閾値が25〜85%と幅広いが診断には85%または50%が最もよく用いられてきたこと、病因の節で単一遺伝子変異のうちGRIN2Aが最も高頻度に関連することを確認した閲覧 2026-08-20