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Symptoms · Published

聴覚性失認

Auditory agnosia

別名
聴覚失認
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G2-17:失認・失行・失読・失書神経内科 G2-12:側頭葉・後頭葉障害の症候神経内科 G1-06:失語症の型と局在
関連疾患
Landau-Kleffner症候群

🧠 全体像:は、耳は正常に聞こえているのに、聞こえた音の意味が分からないという所見であり、末梢の聴覚障害(難聴)とはまったく別のものである1。⭐ が正常であることが診断の出発点になる——音は届いているのに、それを言語・環境音・音楽として認識する段階が壊れている。言語音だけが障害される言語性()・環境音だけが障害される非言語性・両方が障害されるの3型に分かれ、これらは互いに解離しうる1。小児ではのとして、成人では脳卒中・脳炎のとして現れる。

定義と用語の整理

患者・家族は「耳が聞こえていないみたい」「呼びかけに反応しない」と表現することが多く、難聴と誤認されやすい。しかし聴力検査()は正常か、それに近い結果を示す1。障害されているのは音の伝達ではなく、音を意味のある単位として認識する処理過程である。

同じ「聞いても分からない」でも、とは区別する。(など)では・・にもが及ぶことが多いのに対し、純粋なでは読み書きやが比較的保たれる——聴覚という単一の入力経路だけが選択的に障害される点が特徴である。

型 障害される対象 保たれるもの
() 話し言葉の理解のみ 環境音・音楽の認識、・・
環境音・音楽の認識のみ 話し言葉の理解
言語音・非言語音の両方 —

病態生理

flowchart TD
    A["音(音波)が内耳・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='auditory nerve'>聴神経</span>を経て正常に伝導"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary auditory cortex'>一次聴覚皮質</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Heschl gyrus'>Heschl回</span>)へ到達"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dominant hemisphere'>優位半球</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='language area'>言語野</span>側)の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='auditory cortex'>聴覚皮質</span>・皮質下経路は<br>障害されているか"}
    C -->|"障害されている<br>(片側または両側)"| D["言語音の処理が障害されやすい<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='verbal auditory agnosia'>言語性聴覚失認</span>は100%が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dominant hemisphere'>優位半球</span>病変を伴う)"]
    C -->|"障害されていない"| E["言語音の処理は保たれやすい"]
    D --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nondominant hemisphere'>非優位半球</span>(対側)も<br>同時に障害されているか"}
    F -->|"はい(両側性)"| G["環境音の処理も障害される<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='generalized auditory agnosia'>全般性聴覚失認</span>は84.1%が両側性病変"]
    F -->|"いいえ(片側のみ)"| H["環境音の処理は比較的保たれ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='verbal auditory agnosia'>言語性聴覚失認</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='word deafness'>語聾</span>)になりやすい"]

の局在には型ごとの偏りがある。はほぼ例外なく(側)の病変を伴い(単独39例中39例=100%)、そのうち3分の2ほど(66.7%)は対側にも病変が及ぶ両側性である1。一方、は両側性病変が主体で(63例中53例=84.1%)、片側のみの病変は少数(左半球単独9.5%、右半球単独6.3%)にとどまる1。損傷の深さで見ると、皮質に及ぶ例が74.1%、皮質下のみにとどまる例が25.9%を占める1。損傷は一次・非そのものだけでなく、皮質下のにも及びうる。もう一つの機序として、半球内の経路やの——は保たれているのにへの路が断たれる——が想定されている1。

💡 極端な型としてがある。 聴覚刺激にほとんど、または不適切にしか反応しない状態で、選択的なとは区別される1。「音そのものへの気づきがあるか」が両者を分ける目安になる。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 急性発症で言語音・環境音の両方が障害される(の)は、両側性病変を来す脳卒中・脳炎を疑う。 原因は脳卒中が最多で、・脳炎・腫瘍が続く1。急性〜亜急性の経過、発熱を伴えばを含む脳炎を鑑別に入れ、画像・を急ぐ。

⚠️ 小児のでは、聴力検査が正常でも安心しない。 は「退行が主に言語に現れ後天性のを伴う」病態と位置づけられ2、が正常であることをもって難聴を除外し経過観察へ流すと、という次の一手にたどり着けない。⚠️ 「聞こえているのに反応しない」小児を難聴として片付ける前に、後天性のというを確認する。

⚠️ 進行性の場合はを考える。 ・でもが生じうる1。急性の血管障害と違い、数か月〜数年単位で緩徐に進行する経過であれば、脳卒中の検索だけで終わらせずの評価に進む。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["「聞いても分からない」を確認"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pure-tone audiometry'>純音聴力検査</span>"]
    B -->|"異常"| C["末梢性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conductive'>伝音性</span>の難聴として評価"]
    B -->|"正常"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reading'>読字</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='writing (written language)'>書字</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='speech (utterance/production)'>発話</span>も障害されるか"}
    D -->|"はい(言語全般が障害)"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aphasia'>失語症</span>として評価"]
    D -->|"いいえ(聴覚のみ選択的)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='auditory agnosia'>聴覚性失認</span>と判断"]
    F --> G{"障害されるのは言語音のみか<br>環境音・音楽のみか、両方か"}
    G -->|"言語音のみ"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='verbal auditory agnosia'>言語性聴覚失認</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='word deafness'>語聾</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dominant hemisphere'>優位半球</span>病変を疑う"]
    G -->|"環境音・音楽のみ"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonverbal auditory agnosia'>非言語性聴覚失認</span><br>専用の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='psychoacoustic testing'>心理音響検査</span>を要する"]
    G -->|"両方"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='generalized auditory agnosia'>全般性聴覚失認</span><br>両側性病変を疑う"]
    F --> K{"小児で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='language regression'>言語退行</span>を伴うか"}
    K -->|"はい"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep EEG'>睡眠脳波</span>を必ず撮る<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Landau-Kleffner syndrome'>Landau-Kleffner症候群</span>を疑う"]

所見への対応

そのものを直接治す薬物治療は確立していない。対応は2方向に分かれる。原疾患が治療可能なら(のなど)その治療を優先し、脳卒中のように原疾患の可逆性が乏しい場合は、視覚的手がかり(、、、絵カード)を用いた代償とによるリハビリテーションが中心になる。難聴と誤認して補聴器だけで対応しない——伝導路ではなく認識の障害であるため、音を大きくしても理解は改善しない。

まとめ

  • は、末梢の聴力(で確認)が保たれているのに、音の意味を認識できない中枢性の障害である。
  • 言語音のみが障害される言語性()・環境音のみの非言語性・両方のに分かれ、互いに解離しうる。
  • 言語性は病変にほぼ例外なく結びつく(単独で100%、そのうち3分の2は両側性)。は両側性病変が主体(84.1%)で、損傷の深さはが74.1%・皮質下のみが25.9%。半球内・連絡線維のも機序になる。
  • 急性発症なら脳卒中・脳炎を、小児のを伴うならを疑いを撮る。緩徐進行ならを考える。
  • 難聴と誤認しない。原疾患が治療可能ならそれを優先し、そうでなければ手段とで対応する。

出典

  1. 1.The Auditory Agnosias: a Short Review of Neurofunctional Evidence(Current Neurology and Neuroscience Reports・2023)聴覚性失認が末梢性の難聴では説明できない中枢神経障害後の聴覚入力処理障害であること、言語音のみが選択的に障害される言語性聴覚失認(語聾)・環境音のみが障害される非言語性聴覚失認・両方が障害される全般性聴覚失認の3型に分かれこれらは解離しうること、全般性聴覚失認は63例中53例(84.1%)が両側性病変を伴い左半球単独病変は6例(9.5%)・右半球単独病変は4例(6.3%)にとどまること、損傷は皮質に及ぶ例が86例(74.1%)・皮質下のみにとどまる例が30例(25.9%)を占めること、言語性聴覚失認は39例中39例(100%)が優位半球病変(対側への同様病変の併存を含む)を示し内訳は両側性66.7%・優位半球単独28.2%・非優位半球単独(交叉性失語相当)5.1%であること、全般性・言語性を合わせた102例では98例(96.1%)が優位半球病変を示すこと(全般性59/63=93.7%、言語性39/39=100%)、半球内経路と脳梁交連線維の離断がもう一つの機序として想定されていること、原因が脳卒中を筆頭に頭部外傷・脳炎・腫瘍・Alzheimer病や前頭側頭型認知症などの神経変性疾患・MELAS・Landau-Kleffner症候群にまで及ぶこと、非言語性処理障害の診断には通常の純音聴力検査を超えた専用の検査手技を要すること、皮質性聾は聴覚刺激にほとんどまたは不適切にしか反応しない極端な型であり選択的な失認とは区別されることを確認した閲覧 2026-08-28
  2. 2.Developmental and/or Epileptic Encephalopathy With Spike-Wave Activation in Sleep (DEE-SWAS, EE-SWAS)(epilepsydiagnosis.org(International League Against Epilepsy)・2024)Landau-Kleffner症候群が「退行が主に言語に現れ後天性の聴覚性失認を伴う、EE-SWASの特定の亜型」と明記されていることを確認した閲覧 2026-08-28