検査値ノート一覧へ

Lab values · Published

睡眠脳波

Sleep EEG

別名
睡眠時脳波終夜脳波
臓器系
神経
科目
Medical PhysiologyNeurology
トピック
生理学 8.11:脳波(EEG);睡眠現象。学習と記憶。神経内科 G2-29:てんかん発作とてんかん(鑑別診断・分類・原因)
関連疾患
Landau-Kleffner症候群睡眠関連過運動てんかん睡眠時棘徐波活性化を伴うてんかん性脳症

🧠 全体像:は、傾眠・睡眠という状態がの出方を覚醒時とは違うパターンに変えるという性質を利用して、覚醒時のでは捉えきれない異常を引き出す検査である。(PSG)が「眠っていたかどうか」を判定して睡眠そのものを評価するのに対し、は睡眠という状態を、大脳皮質の電気活動を読むための「条件」として使う——問いの向きが逆である。自然睡眠でも、前夜の睡眠遮断で入眠を誘導しても記録でき、小児のてんかん性脳症では睡眠中の放電がどれだけ脳を占拠しているかそのものが評価対象になる。

検査の原理と実施方法

⚠️ 「睡眠中は覚醒中より放電が出やすい」と単純化しない。 の頻度は睡眠段階だけで一様に決まらず、焦点の局在に依存する。などmesial領域ではN2〜N3のNREM睡眠中に放電が覚醒時・REM睡眠時より増える一方、外側領域ではむしろ覚醒時の方が放電頻度が高いという逆のパターンが報告されている1。それでも睡眠遮断は覚醒・・光刺激と並ぶ法として臨床で広く用いられる2。実施法は目的で分かれる。

目的 方法
で異常が出ないの精査 通常のEEG記録中に自然な傾眠・入眠を待つ、または前夜の睡眠遮断で入眠を誘導する
睡眠中の放電の「量」そのものを評価する(など) NREM睡眠を十分な長さ記録し、が睡眠のどれだけを占めるかを判定する

⚠️ PSGとは記録している信号が違う。 PSGはに加え眼球運動・・呼吸・まで多チャンネルで記録し睡眠段階と呼吸イベントを判定するのに対し、は大脳皮質の電気活動そのものに主眼を置く。両者は装置も適応も別物である。

判読の指標と基準

小児のてんかん性脳症では、(NREM睡眠に占めるの割合)を算出する。文献上の閾値は25〜85%と幅が大きいが、診断には85%または50%が最もよく用いられてきた3。()では、この指数だけでなく発達の停滞・退行の証拠が診断に必須とされる。

異常パターンの意味

パターン 意味
覚醒時は正常、睡眠中に焦点性のが出現・増加する では捉えられない焦点性てんかんの存在を示唆する
NREM睡眠がでほぼ占拠される(が高い) を疑う所見。・停滞の証拠と併せて診断する
退行が言語に強く現れ、を伴う ——のうち言語優位の亜型として位置づけられる
睡眠中にもが出ない 焦点が深部・記録電極から離れている可能性を残し、単回の陰性所見だけで除外しない

⚠️ 実施上・判読上の注意

  • 良性の睡眠時変異波をとしない。 傾眠・軽睡眠中には、良性睡眠時鋭一過性波(BSSS)・wicket spike・6Hz・14&6Hz陽性・律動性中シータ突発など、正常でも出現する波形が並ぶ4。特にwicket spikeは過剰判定の最も多い原因とされ、後発のを伴わない点・アーチ状の形が真のとの鑑別点になる4。
  • 過剰判定は臨床的な害を生む。 良性変異波をと誤ると、・・失神など別のの診断が遅れ、不要な投与につながる4。
  • 睡眠遮断・鎮静薬はそのものを変える。 小児での鎮静導入や前夜の睡眠遮断は、判読の基準となる背景を変化させうるため、記録条件を判読に反映させる。
  • 単一夜の記録には限界がある。 睡眠中の放電量は夜ごとに変動しうるため、境界域の所見を単回の記録だけで確定させない。

次に進むべき検査/使い分け

呼吸や睡眠段階そのものが問題になる場合は(PSG)に進む。夜間の発作かかを見分けるには、と映像を睡眠段階と同時に記録できるPSGのが必要になる。逆に、問いが「大脳皮質の電気活動をどう読むか」に絞られる場合(焦点性てんかんの精査、睡眠時活性化の定量)は、PSGのフルセットを組まずにで足りる。

まとめ

  • は、傾眠・睡眠がの出方を覚醒時とは違うパターンに変える性質を利用し、では捉えられない異常を引き出す検査である。頻度の増減は睡眠段階だけで一様に決まらず、焦点の局在(内側か外側か)に依存する。
  • 実施は自然な入眠を待つ方法と、前夜の睡眠遮断で入眠を誘導する方法がある。PSGとは記録信号・目的が異なる。
  • 小児のてんかん性脳症では(NREM睡眠に占めるの割合)を算出し、85%または50%が閾値として用いられてきた。
  • ⚠️ 良性睡眠時変異波(BSSS・wicket spike・6Hz・14&6Hz陽性・律動性中シータ突発)をとすると、他のの診断が遅れ不要な投与につながる。
  • 睡眠段階・呼吸イベントの評価が必要ならPSGへ進む。単一夜の記録には限界があり、境界域の所見は単回で確定させない。

出典

  1. 1.Interictal epileptiform discharges show distinct spatiotemporal and morphological patterns across wake and sleep(Brain Communications(Fouad A, Azizollahi H, Le Douget JE, Lejeune FX, Valderrama M, Mayor L, Navarro V, Le Van Quyen M)・2022)N2〜N3のNREM睡眠は側頭葉内側などmesial領域の発作間欠期てんかん性放電を覚醒時・REM睡眠時より増加させる一方、外側新皮質領域では逆に覚醒時の放電頻度がNREM睡眠時より有意に高いこと、放電の増減が睡眠段階だけで一様に決まるのではなく焦点の局在(内側か外側か)に依存することを確認した。閲覧 2026-08-28
  2. 2.Electroencephalogram(StatPearls(Rayi A, Murr NI)・2022)覚醒開閉・過呼吸・光刺激とともに睡眠遮断が発作性放電を誘発する賦活法として用いられること、傾眠・睡眠の記録がどのEEG検査でも重要な構成要素であることを確認した。閲覧 2026-08-28
  3. 3.Electrical Status Epilepticus in Sleep(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)棘徐波指数がNREM睡眠に占める棘徐波の割合であり文献の閾値が25〜85%と幅広いが診断には85%または50%が最もよく用いられてきたことを確認した。閲覧 2026-08-20
  4. 4.EEG Benign Variants(StatPearls(Sheng S, Nalleballe K, Yadala S)・2024)傾眠期または軽睡眠中にほぼ限って出現する良性睡眠時鋭一過性波(BSSS、振幅50µV未満・持続50ms未満で背景活動を乱さない)、30歳以上の成人の軽睡眠中に多いwicket spike(後発の徐波を伴わずアーチ状の波形をとる)、傾眠・軽睡眠中またはREM睡眠中にも出現しうる6Hz棘徐波複合(振幅40µV未満で両側同期性)、思春期の傾眠・軽睡眠中に多い14&6Hz陽性棘波(正常集団の20〜60%にみられ病的意義を持たない)、傾眠・軽睡眠中に典型的な律動性中側頭部シータ突発(波形の進展を欠き単律動的である点でてんかん性放電と区別する)を確認したこと、これらを誤っててんかん性放電と判定すると心因性非てんかん発作・不安障害・失神など他の発作性疾患の診断が遅れ、不要な抗てんかん薬投与につながることを確認した。閲覧 2026-08-28