小児科学

小児科学 · 3-14

小児行動・神経発達症:自閉スペクトラム症・ADHD・チック症

Childhood Behavioral Disorders: Autism Spectrum Disorder, ADHD and Tic Disorders

前提:正常
アドレナリン受容体;各臓器におけるアドレナリン/ノルアドレナリン作用の分子機構;ドパミンとセロトニンの合成と代謝;輸送体と受容体の性質;パーキンソン病の生化学的基盤;グルタミン酸受容体とGABA受容体
疾患
チック症(トゥレット症候群)限局性学習症自閉スペクトラム症社会的(語用論的)コミュニケーション症注意欠如・多動症(ADHD)発達性協調運動症

🧠 全体像:診断名より、家庭・学校・対人場面で何が困難かを複数情報源からし、環境調整と発達支援を治療の土台にする。

自閉スペクトラム症

・相互作用の持続的困難と、・興味・感覚特性を早期発達期から示す。旧来の自閉症、Asperger障害などはスペクトラムに統合されている1。

  • 会話の相互性、非言語的、関係形成を評価する。
  • 、、限局した興味、・を確認する。
  • 聴力、言語、知的能力、てんかん、睡眠、摂食、遺伝性疾患を評価する。
  • 早期発達支援、言語・、教育調整、保護者支援を個別化する。・などは重度のに用いることがあるが、中核特性を「治す」薬ではない。

💡 では自閉性障害・Asperger障害・特定不能のという3つの診断が単一の「」に統合された。統合によりが厳格化され、これまで診断されていた児が見逃されるのではという懸念があったが、米国11地域の実地調査で-IV-TR基準による症例数と基準による症例数の差は5%未満、は約86%であり、この懸念は支持されなかった1。のは上昇を続けており、2022年の米国調査では8歳児の32.2/1,000(31人に1人)と過去最高を更新した2。ただしこの上昇は、診断概念の拡大・他の発達障害からの診断の付け替え・サービス利用可能性や認知の向上を反映している可能性が高いとされており、実際のそのものが上昇したことを意味するとは限らない3。

注意欠如・多動症

および/または多動・がに不相応で、12歳以前から複数場面に存在し機能障害を起こす4。17歳未満は各領域6症状以上、17歳以上は5症状以上が目安である4。

💡 ではの発症年齢基準が-IVの7歳未満(症状・機能障害とも)から12歳未満(症状のみ)に緩和され、17歳以上の青年・成人で必要な症状数も各領域9項目中6項目から5項目に緩和された。これにより成人でも診断しやすくなった4。世界の小児・青年を対象とした地域住民ベースのではの世界プールは3.4%(95%CI 2.6〜4.5%)と推定されている5。学年内で相対的に年少な児童(就学直前生まれ)は診断の1.38、治療薬処方の1.28と有意に高く、この相対年齢効果は教師評価では認められたが保護者評価では認められなかった6。

💡 NIMHのMTA研究では、当初14か月間の治療の種類(薬物療法・行動療法・併用・地域治療)による群間差は6〜8年後の追跡ではほとんどので消失し、薬物療法の当初の優位性は長期的には縮小した7。就学前児(4歳〜6歳の誕生日まで)では、2019年ガイドラインが保護者向け行動管理トレーニング・行動的学級介入を薬物療法に先立つ第一選択とし、6〜11歳では薬物療法と行動療法の併用、12〜18歳では本人の同意を得た薬物療法を推奨している8。

チック症・トゥレット症

は反復性の運動または発声で、と一時的抑制を伴うことがある。Tourette症は複数と1つ以上のが1年以上持続し、18歳未満に発症する9。は一部にすぎない。

💡 Tourette症候群の小児における人口はプール推定0.52%とされ、最終的な推定範囲は0.3〜0.9%である。臨床受診例に基づく研究は地域住民ベースの調査より低い推定値になりやすい9。は平均4〜6歳で発症し10〜12歳で最も重症となったのち、多くは思春期を通じて軽快し、成人早期までにおよそ4分の3で著明な軽快、3分の1超で消失に至る10。(CBIT)は9〜17歳のTourette症・慢性患者を対象としたRCTで、支持的療法・の対照群より重症度の改善が有意に大きく、多くの診療指針で薬物療法に先立つ第一選択として位置づけられている11。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tic'>チック</span>を確認"] --> B["期間・運動/音声・生活障害を評価"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='attention-deficit/hyperactivity disorder'>ADHD</span>・OCD・不安・睡眠を評価"]
    C --> D{"本人の困難が大きい"}
    D -->|"いいえ"| E["教育・経過観察"]
    D -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tic'>チック</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comprehensive behavioral intervention for tics (CBIT)'>包括的行動的介入</span>"]
    F --> G["必要時α2作動薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antidopaminergic drug'>抗ドパミン薬</span>など"]

まとめ

  • ASD・・は併存しうる。
  • 複数場面での機能障害を診断の中心に置く。
  • 支援は本人の特性と生活目標に合わせ、薬物療法のみで完結させない。

出典

  1. 1.Prevalence of Autism Spectrum Disorder Among Children Aged 8 Years — Autism and Developmental Disabilities Monitoring Network, 11 Sites, United States, 2014(MMWR Surveillance Summaries(CDC)・2018)米国11地域のADDM Networkによる2014年調査(8歳児対象)で、DSM-5導入に伴い自閉スペクトラム症の症例定義をDSM-IV-TR基準からDSM-5基準へ切り替えた際の一致度を検証したところ、DSM-IV-TR基準による症例数がDSM-5基準による症例数を上回った差は5%未満、両基準の一致率(kappa)は0.85(約86%が両方の定義を満たした)であったこと、性別・人種民族・知的能力による症例の特徴もDSM-IV-TRとDSM-5でほぼ同様であったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Prevalence and Early Identification of Autism Spectrum Disorder Among Children Aged 4 and 8 Years — Autism and Developmental Disabilities Monitoring Network, 16 Sites, United States, 2022(MMWR Surveillance Summaries(CDC)・2025)米国16地域のADDM Networkによる2022年調査で、8歳児における自閉スペクトラム症の有病率が1,000人あたり32.2人(31人に1人)とこれまでで最も高い値であったこと、2018年生まれの児は2014年生まれの児より48か月時点での累積診断・特別支援教育適格率が1.7倍高く、より早期の評価・識別が進んでいることが示されたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Global prevalence of autism and other pervasive developmental disorders(Autism Research・2012)世界各地の自閉症・広汎性発達障害の疫学調査を系統的にレビューした報告で、有病率推定値の中央値は10,000人あたり62人であり、経時的に上昇してきた有病率推定値は診断概念の拡大、他の発達障害からの診断の付け替え、サービス利用可能性、一般・専門家双方における認知の向上を反映している可能性が最も高いと考察し、実際の発生率上昇を示す証拠であるとは限らないとしたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Changes in the Definition of ADHD in DSM-5: Subtle but Important(Neuropsychiatry・2013)DSM-5でADHDの発症年齢基準(基準B)がDSM-IVの「7歳未満で症状・機能障害の両方が存在」から「12歳未満で症状のみ存在」に変更されたこと、17歳以上の青年・成人で必要な症状数が各症状領域9項目中6項目から5項目に緩和されたこと、これらの変更はDSM-IVの症状域値が幼児には妥当でも青年・成人のADHD関連機能障害の同定には有効でなかったという知見を踏まえ、成人でも診断しやすくする狙いで設計されたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Annual research review: A meta-analysis of the worldwide prevalence of mental disorders in children and adolescents(Journal of Child Psychology and Psychiatry・2015)27か国・41研究の地域住民ベースの小児・青年(DSM/ICD診断・標準化評価法使用)を統合した世界規模のメタ解析で、ADHDの世界プール有病率は3.4%(95%CI 2.6〜4.5%)と推定され、地理的地域や調査年による有意差はみられず、標本代表性・診断面接法・機能障害要件の有無が推定値のばらつきの主な説明因子であったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Systematic review and meta-analysis: relative age in attention-deficit/hyperactivity disorder and autism spectrum disorder(European Child & Adolescent Psychiatry・2025)32研究(ADHD対象31件・ASD対象2件)を統合した系統的レビュー・メタ解析で、学年内の就学カットオフ直前生まれで相対的に年少な児童はADHD診断のリスク比1.38(95%CI 1.36〜1.52)、ADHD治療薬処方のリスク比1.28(95%CI 1.21〜1.36)と有意に高く、この相対年齢効果は教師評価のADHD症状スコアでは認められたが保護者評価では認められなかったこと、限られた研究ながら自閉スペクトラム症についても学年内で最も年少な児童が診断されやすい傾向が確認されたことを抄録から確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.The MTA at 8 years: prospective follow-up of children treated for combined-type ADHD in a multisite study(Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry・2009)NIMHの多施設共同研究MTA(混合型ADHD児436人)で、当初無作為割付けした14か月間の治療群(薬物療法・行動療法・併用・地域治療)は、6年後・8年後の追跡でほとんどの症状・機能アウトカムに有意差がなくなり、薬物療法の当初の優位性が長期的には縮小したこと、最初の3年間のADHD症状経過が治療の種類によらずその後のアウトカムの55%を予測したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  8. 8.Clinical Practice Guideline for the Diagnosis, Evaluation, and Treatment of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Children and Adolescents(American Academy of Pediatrics / Pediatrics・2019)米国小児科学会2019年ADHD診療ガイドラインのKey Action Statement 5aで、4歳から6歳の誕生日までの就学前ADHD児には保護者向け行動管理トレーニング・行動的学級介入をエビデンスに基づく第一選択治療として処方すべきとしていること、6〜11歳(KAS 5b)ではFDA承認薬と行動療法の併用、12〜18歳(KAS 5c)では本人の同意を得たうえでのFDA承認薬の処方を推奨していることを確認した。閲覧 2026-08-27
  9. 9.Population prevalence of Tourette syndrome: a systematic review and meta-analysis(Movement Disorders・2015)小児におけるTourette症候群の人口有病率に関する系統的レビュー・メタ解析で、地域住民ベースの21研究を統合したプールされた有病率推定値が0.52%(95%信頼区間0.32〜0.85%)であり最終的な推定範囲を0.3〜0.9%としたこと、臨床受診例に基づく研究は地域住民ベースの研究より有意に低い推定値を示したことを抄録で確認した。閲覧 2026-08-27
  10. 10.Clinical course of Tourette syndrome(Journal of Psychosomatic Research・2009)Tourette症候群のチック重症度の長期経過に関する総説で、チックの発症年齢は平均4〜6歳、最も重症となる年齢は平均10〜12歳であり思春期を通じて重症度は平均的に軽快していくこと、成人早期までにおよそ4分の3の患児でチック症状が著明に軽快し3分の1超がチックの消失に至ることをResults節で確認した。閲覧 2026-08-27
  11. 11.Behavior therapy for children with Tourette disorder: a randomized controlled trial(JAMA・2010)Tourette症・慢性チック症の9〜17歳児童・青年126人を対象としたRCTで、8回・10週間の包括的行動的介入(CBIT)は支持的療法・心理教育の対照群と比べてYale Global Tic Severity Scaleの改善が有意に大きかったことを確認した。閲覧 2026-08-27