薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · A5 CNS stimulants / 中枢神経刺激薬 · 必修

ピトリサント

pitolisant

分類
Histamine H3 receptor inverse agonists / ヒスタミンH3受容体逆作動薬
商品名(EU)
Wakix
科目
PharmacologyPsychiatry
トピック
A5: Indirect sympathomimetics. Selective α1 agonists精神医学 B-07:睡眠障害
承認適応
不眠障害・ナルコレプシー
副作用
不眠悪心不安頭痛
影響検査値
QT延長

🧠 全体像は、覚醒を「足す」のではなくヒスタミン神経系のブレーキを外すという他の治療薬にはない機序を持つ。ヒスタミンH3受容体はとして働き、通常はヒスタミン放出を抑えている。はこの受容体のとしてブレーキそのものを外し、覚醒中枢のヒスタミン作動性トーンを底上げする。と並んでにもにも効く数少ない薬でありながら、と違ってではなく(米国の治療薬で唯一スケジュール指定を受けていない)乱用リスクも低いという臨床的な使いやすさが際立つ。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 機序 への効果 への効果
弱い阻害+系への作用(詳細不明) あり 実績は限定的
H3受容体逆作動によるヒスタミン あり あり(HARMONY-CTPで実証)
GABA-B/GHB受容体を介した夜間睡眠の質的改善 あり あり
DA/NA あり 明確な効果は示されていない

AASMは成人の治療薬としてをいずれも強く推奨するが、根拠となった試験での双方に臨床的に有意な改善が示されたのはの2剤である1の推奨はに対するもので、は改善が示された転帰に挙げられていない。

への効果は試験HARMONY-CTPで確認されている。9カ国16施設の106例(54例・52例)を7週間の安定用量投与まで追跡し、週あたり発作回数は群でベースライン9.15回から2.27回へ75%減少し、群の7.31回から4.52回へ38%減少を有意に上回った(率比0.512、95%CI 0.43-0.60、p<0.0001)2

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pitolisant'>ピトリサント</span>"] --> B["ヒスタミンH3受容体(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic'>シナプス前</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoreceptor'>自己受容体</span>)を逆作動"]
    B --> C["H3受容体による負のフィードバックが解除"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tuberomammillary nucleus'>結節乳頭核</span>からのヒスタミン放出が増加"]
    D --> E["覚醒中枢(皮質・視床下部)のヒスタミン作動性トーン上昇"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arousal'>覚醒度</span>の改善"]
    E --> G["情動誘発性のREM<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atonia'>アトニア</span>侵入が抑制される(推定)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataplexy'>カタプレキシー</span>発作の減少"]

💡 「H3受容体拮抗薬」ではなく「」である点が重要。 単純な拮抗薬は受容体に結合してリガンドの作用を遮断するだけだが、は受容体の恒常的な活性()そのものを引き下げる方向に働く。H3受容体はを持つことが知られており、この性質のためは通常の拮抗薬より強くヒスタミン放出を促進できる。

薬物動態

を受ける薬剤であり、中等度では最大用量を17.8 mgに制限し、高度には禁忌となる。腎機能低下(eGFR 60未満)でも同様に最大17.8 mgへ減量する3

適応

領域 使いどころ
睡眠 (6歳以上)の、または

用法・用量

PO、1日1回朝に内服する。成人は8.9 mgから開始し、を見ながら1週間ごとに17.8 mg、最大35.6 mgまで漸増する3。実際の用量は年齢・体重・肝腎機能で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌への過敏症、高度
  • ⚠️ QT延長作用がある。 QT延長を来す他剤との併用、不整脈の既往、のある患者では慎重に検討する3
  • ⚠️ の効果を減弱させる。 投与中および中止後21日間は非ホルモン避妊法または追加の避妊法を用いる3の中止後1か月というより短い点に注意)
  • 肝機能・腎機能に応じたが必要(上記「」参照)
  • 薬として用いている場合、急な中止はの誘因になりうるためする

副作用

頻度 内容
高頻度(成人) 不眠(6%)、悪心(6%)、不安(5%)
小児で高頻度 頭痛(19%)、不眠(7%)
注意 QT延長、頭痛、

まとめ

  • ヒスタミンH3受容体ののブレーキを外してヒスタミン放出を増やし、覚醒中枢を底上げする、他剤にない機序を持つ。
  • と並び、の双方に有意な効果が示されている(HARMONY-CTPで週あたり発作回数が比有意に減少)。には効かない。
  • ではなく(米国の治療薬で唯一スケジュール指定なし)、のような乱用・依存の懸念は小さい。
  • QT延長作用があり、QT延長薬・不整脈・電解質異常には注意する。
  • の効果を減弱させるため、投与中と中止後21日間は非ホルモン避妊法が必要。
  • 高度は禁忌。中等度肝障害・腎機能低下では最大用量を17.8 mgに制限する。

出典

  1. 1.WAKIX (pitolisant) tablets, for oral use — full prescribing information(U.S. Food and Drug Administration・2024)成人適応が6歳以上のナルコレプシーにおける日中過眠またはカタプレキシーであること、初回承認が2019年であること、成人用量が1日1回朝8.9 mgから開始し週単位で17.8 mg・最大35.6 mgまで漸増すること、中等度肝機能障害・eGFR 60未満の腎機能障害では最大17.8 mgに制限し高度肝機能障害は禁忌であること、QT延長作用がありQT延長薬・不整脈・低カリウム血症・低マグネシウム血症との併用に注意を要すること、ホルモン避妊薬の効果を減弱させ投与中および中止後21日間は非ホルモン避妊法を要すること、成人の主な副作用(5%以上かつプラセボの2倍以上)が不眠6%・悪心6%・不安5%であることを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.Treatment of central disorders of hypersomnolence: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline(American Academy of Sleep Medicine / Journal of Clinical Sleep Medicine・2021)成人ナルコレプシーに対しモダフィニル・ピトリサント・オキシベート製剤・ソルリアムフェトールがいずれも強い推奨(STRONG)であること、ピトリサントの根拠試験では日中過眠・カタプレキシー・疾患重症度の3転帰で臨床的に有意な改善が示されたのに対し、モダフィニルの根拠試験で改善が示された転帰は日中過眠・疾患重症度・QOLでカタプレキシーは挙げられていないことを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.Safety and efficacy of pitolisant on cataplexy in patients with narcolepsy: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial (HARMONY-CTP)(The Lancet Neurology・2017)9カ国16施設で実施された無作為化プラセボ対照試験(ピトリサント群54例・プラセボ群52例、5〜40 mgの柔軟用量調整後7週間の安定用量投与)で、週あたりカタプレキシー発作回数がピトリサント群でベースライン9.15回から2.27回へ75%減少しプラセボ群では7.31回から4.52回へ38%減少にとどまったこと(率比0.512、95%CI 0.43-0.60、p<0.0001)、有害事象はピトリサント群28%・プラセボ群12%で頭痛・易刺激性・不安・悪心が主なものであったことを確認した閲覧 2026-08-10