薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · A5 Adrenergic agonists / アドレナリン作動薬 · 必修

ヒドロキシアンフェタミン

hydroxyamphetamine

分類
Adrenergic agonists / アドレナリン作動薬
科目
Pharmacology
トピック
A5: Indirect sympathomimetics. Selective α1 agonists
禁忌疾患
閉塞隅角緑内障
副作用
頻脈頭痛羞明
相互作用
モクロベミド

🧠 全体像:はであり、と同じ「からノルアドレナリン貯蔵を遊離させて働く」機序を持つ。眼科での実質的な役割はただ1つ、と診断された患者で、障害部位が(第1〜2ニューロン)か(第3ニューロン)かを鑑別する薬理学的検査試薬である。この使い分けの軸は単純明快:そのものが壊れていれば、そこから遊離させるノルアドレナリンの貯蔵自体が枯渇しており、を点眼しても瞳孔はしない。逆にの障害ではは健常なので、正常な貯蔵から放出が起こり両眼ともする。が「かどうか」を判定する検査であるのに対し、は「と分かった後、どこが悪いか」を絞り込む検査であり、両者は同じ検査系列の異なる段階を担う。

薬効群の中での位置づけ

同じ「」でも、の臨床的な使われ方は他の代表薬とはっきり異なる。

薬剤 機序の系統 主な臨床用途
+(混合型)。ノルアドレナリン遊離+受容体への 時の低血圧、鼻閉
型(α1受容体を直接刺激) (診断的用途)、鼻閉、低血圧の是正
純粋な型(節後終末からのノルアドレナリン遊離のみ、受容体へのは乏しい) における・の鑑別のみ。単独での用途はほぼ無い

⭐ 「型」という機序そのものが、この薬を検査試薬たらしめている。 型のならが壊れていてものα1受容体を直接刺激してさせてしまうため、・の鑑別に使えない。が「節後終末に貯蔵されたノルアドレナリンを遊離させる」というしか持たないからこそ、その貯蔵の有無(=が健常かどうか)を映し出す鏡になる。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydroxyamphetamine'>ヒドロキシアンフェタミン</span>を点眼"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postganglionic sympathetic nerve terminal'>節後交感神経終末</span>に取り込まれる"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postganglionic fiber'>節後線維</span>は健常か"}
    C -->|"健常(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preganglionic'>節前性</span>の障害)"| D["終末内のノルアドレナリン貯蔵から<br>ノルアドレナリンが遊離される"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilator pupillae'>瞳孔散大筋</span>のα1受容体を刺激"]
    E --> F["瞳孔が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilation (mydriasis)'>散大</span>する(両眼とも)"]
    C -->|"変性している(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postganglionic'>節後性</span>の障害)"| G["終末そのものが失われ<br>ノルアドレナリン貯蔵も枯渇している"]
    G --> H["遊離すべきノルアドレナリンがない"]
    H --> I["患側の瞳孔は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilation (mydriasis)'>散大</span>しない<br>(健常側だけ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilation (mydriasis)'>散大</span>し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anisocoria'>瞳孔不同</span>が残る)"]

💡 との役割分担を混同しないことが要点である。 は「」という、神経が絶たれてさえいれば・を問わず陽性になる現象を利用するため、の有無を判定できてもどこが悪いかまでは教えてくれない。は逆に、そのものの健全性を試す検査であるため、と診断された後でなければ意味を持たない——診断の順序は「で陽性→で局在」であり、逆にはならない。

適応

適応の系統 内容
診断的(唯一の実質的用途) と確認された患者における・の鑑別。両眼なら(中枢~頸部のの障害)、患側のが乏しければ(周囲の障害)を示唆する1
診断的(配合剤として) 米国で承認されている製剤はとので、承認された効能は「な診断手技における」であり、疾患名では書かれていない2

⚠️ 米国で承認された2製剤は、いずれも販売中止になっている(2026年9月時点)。 単剤のPAREDRINE(NDA 000004、Pharmics)も、配合剤のPAREMYD(NDA 019261、Epic Pharma)も、Drugs@の販売区分はDiscontinuedである34。⚠️ 「Paremydなら手に入る」とは書けない。 実施するには施設の調剤薬局が1%溶液を個別に調製する必要があり、この入手性のは、と並び検査が実地で使われにくくなっている一因になっている。⚠️ の記述は日付つきの事実なので、「現在は◯◯を使う」と書くときは必ず時点を添える。 なお添付文書そのものはDailyMedに残っており(第6版、2022年9月更新)、禁忌・副作用の記述は今も参照できる2。

用法・用量

両眼に同じ量(1〜2滴)を点眼し、薬効が最大に達した時点で左右のを比較する。⚠️ 判定の時刻は「点眼後30分」では早い。 健常者10例で本剤を含む3剤のを赤外線瞳孔計で追った研究は、点眼前と点眼後10〜15分ごとに測定を続け、に達するのは通常45〜60分後だったと記している5。配合剤Paremydの米国添付文書も、通常の目的では15分程度で作用が発現し60分程度でに達するとしている2。早すぎる時点で判定すると、まだが進んでいないだけの左右差を「」と読む方向へ倒れる。

⚠️ 濃度は資料によって0.5%と1%が併存する。 1995年の報告は、このに従来用いられてきたの濃度を0.5%とし、それが入手できなくなったため1%フォレドリンを代替として提案している5。一方、米国で流通していた製剤(単剤PAREDRINE、配合剤Paremyd)はいずれも1%であり23、StatPearlsも1%と記している1。どちらか一方を「正しい濃度」として覚えない。

必ずまたはで陽性と確認した後に行う——健常者に対して行っても両眼とも一様にするだけで診断的意味を持たない。

⚠️ 先行する点眼から48時間あける。 点眼または点眼を行った後は、48時間待ってからでなければ検査を実施してはならない1。「で陽性→で局在」という順序は正しいが、同じ受診の中で続けて行う検査ではない。

⚠️ 判定は左右差で行い、しきい値は約1mmである。 対照40例では片眼が他眼より最大1.0mm小さくしうるので、原著は異常をそれを超える左右差(患側のが他眼より1.0mmを超えて小さい)と定義している6。1.0mmちょうどは対照でも起こりうる範囲なので、異常側に入れない。

⚠️ この検査の弱点は非対称である。 StatPearlsは・がいずれも高いとする1が、病変部位が判明している25例で検証した研究は「異常な結果は第3ニューロンの病変を確実に示すが、正常な結果は診断の助けにほとんどならない」としている——実際、第3ニューロン病変10例のうち異常値が出たのは4例にとどまった6。⭐ 「しない=」は当てにできるが、「した=」は当てにならない。 いずれにせよ結果を単独で確定的に扱わず、診断の補助として用いる5。

⚠️ 発症直後の急性期には偽陰性になりうる。 であっても、変性が完成し終末内のノルアドレナリン貯蔵が実際に枯渇するまでには時間を要するため、発症から日が浅い時期に検査を行うと、本来であるにもかかわらず両眼ともする(様の)結果が出ることがある7。結果の解釈は発症からの経過期間を踏まえて行い、急性期の陰性所見だけでを除外しない。

禁忌・注意

  • 禁忌:・の患者(によりを誘発しうる)、本剤成分に対する過敏症2
  • 型のため、節後終末のノルアドレナリン取り込み・貯蔵に影響する薬剤(、など)を直前に使用していると偽陰性・偽陽性の原因になりうる。・点眼の後は48時間あける1
  • に共通の注意として、ではの一過性上昇が起こりうる。高血圧・甲状腺機能亢進症・糖尿病・不整脈やのある患者、および高齢者では点眼後の観察を要する。まれに中枢神経系の障害(精神症状・行動異常、性ないし)が報告されており、乳幼児・小児・高齢者でとくに危険である2
  • (など)投与中の患者では、に共通するの増強に注意する
  • ⚠️ の色素が濃いほどは小さい。 健常者での比較で、濃く色素沈着したをもつは本剤を含む3剤いずれでも青色・ヘーゼルのをもつより有意にが小さかった(F=41.676、p<0.001)5。量の絶対値を個人間で比べる意味は乏しく、判定はあくまで同一患者の左右差で行う
  • 検査結果は単独で確定診断とせず、画像検査・臨床経過と合わせて判断する

副作用

頻度 内容
高頻度 点眼時の刺激感、、、(による)
中頻度 頻脈、頭痛、悪心・嘔吐
重篤・まれ アレルギー反応、蒼白、、精神症状・行動異常などの中枢神経系障害、点眼直後の心筋梗塞・による死亡例および著明な低血圧(配合剤Paremydとしての報告)2

まとめ

  • は純粋なで、節後終末のノルアドレナリン貯蔵を遊離させてを刺激する。
  • 眼科での実質的な役割はにおける・の鑑別のみ:が健常なら()両眼ともし、自体が変性していれば()患側はしない。
  • (の有無を判定)とは役割が異なり、と確認された後に局在を絞り込む検査として位置づく。診断の順序を逆にしない。
  • 判定は点眼後45〜60分(の時点)に左右のを比べ、患側のが他眼より1.0mmを超えて小さいときを異常()とする。濃度は資料により0.5%と1%が併存する。
  • 発症直後の急性期にはの変性が完成しておらず偽陰性になりうるため、急性期の陰性所見だけでを除外しない。⭐ 弱点は非対称で、「しない=」は確実だが「した=」は当てにならない(第3ニューロン病変10例中、異常値が出たのは4例)。
  • ・点眼の後は48時間あけてから行う。 順序は正しくても、同じ受診の中で続けて行う検査ではない。
  • 米国ではもも2026年9月時点でDrugs@上は販売中止であり、実施には調剤薬局による調製が要る。
  • ・の患者には禁忌。・の併用歴は検査結果の解釈を歪めうる。

出典

  1. 1.Anisocoria(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)最終更新が2023年8月8日である版で、ヒドロキシアンフェタミン(1%)が第3ニューロンの障害を第1・第2ニューロンの障害から区別しうること、ノルアドレナリンを遊離させるため第1・第2ニューロンの障害では両眼が散瞳すること、Horner側の瞳孔が散瞳しないことは第3ニューロンの機能障害を示すこと、コカインまたはアプラクロニジンの点眼後は48時間待たなければならないこと、偽陽性率・偽陰性率がいずれも高いことを確認した閲覧 2026-09-08
  2. 2.PAREMYD (hydroxyamphetamine hydrobromide 1% / tropicamide 0.25%) Ophthalmic Solution — Prescribing Information(Akorn, Inc. (DailyMed)・2016)添付文書の本文末尾に印刷された改訂表示が2016年6月であること(DailyMedのSPL更新日は2022年9月14日、第6版)、承認された効能が「日常的な診断手技における散瞳および短時間の瞳孔散大が望まれる状態」であって疾患名を挙げていないこと(このためindicationDiseasesは空のままとした)、閉塞隅角緑内障・狭隅角の患者および本剤成分に過敏症のある患者に禁忌であること、副作用として一過性の刺激感・口腔乾燥・霧視・羞明・頻脈・頭痛・アレルギー反応・悪心・嘔吐・蒼白・筋強剛が挙げられ、まれに心筋梗塞・心室細動による死亡および著明な低血圧といった重篤な心血管系事象が本剤点眼直後に発生したと記されていること、用法が結膜嚢へ1〜2滴で作用発現15分・最大効果60分であること、枠組み警告の項目が無いことを確認した。臨床薬理の項は「ヒドロキシアンフェタミンは受容体への直接作用がほとんど無いため、シナプス前終末が障害されている場合(例としてHorner症候群)には通常散瞳が起こらない」と述べる一方、配合剤としての散瞳が同じ影響を受けるかは不明としている。閲覧 2026-09-08
  3. 3.Drugs@FDA — NDA 000004 (PAREDRINE, hydroxyamphetamine hydrobromide)(U.S. Food and Drug Administration・2026)2026年9月8日時点でNDA 000004(PAREDRINE 1%点眼液、申請者はPharmics)の販売区分がDiscontinued(販売中止)であることを確認した。閲覧 2026-09-08
  4. 4.Drugs@FDA — NDA 019261 (PAREMYD, hydroxyamphetamine hydrobromide; tropicamide)(U.S. Food and Drug Administration・2026)2026年9月8日時点でNDA 019261(PAREMYD、申請者はEpic Pharma LLC)の販売区分がDiscontinued(販売中止)であることを確認した。openFDAの添付文書データベースにも現行の製品として収載が無い。閲覧 2026-09-08
  5. 5.Pholedrine: a substitute for hydroxyamphetamine as a diagnostic eyedrop test in Horner's syndrome(Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry・1995)健常者10例でチラミン・ヒドロキシアンフェタミン・フォレドリンの点眼による散瞳を比較した研究。方法の PUPIL MEASUREMENTS の節に、両眼の垂直瞳孔径を赤外線瞳孔計で点眼前と点眼後10〜15分間隔で測定し、薬物の最大効果に達するまで(原文は "usually at 45-60 minutes")続けたと記されていること、3剤とも用量依存性の散瞳を示しヒドロキシアンフェタミンに対する力価がフォレドリン0.62・チラミン0.047であったこと、虹彩の色素が濃い被験者では3剤いずれでも青色・ヘーゼルの虹彩をもつ被験者より散瞳が有意に小さかったこと(F=41.676、p<0.001)、著者らが従来この診断検査に用いられてきたヒドロキシアンフェタミンの濃度を0.5%とし、それが入手できなくなったため1%フォレドリンを代替として提案していること、Horner症候群におけるこの種の点眼検査は診断の補助以上のものとして用いるべきでないと結論していることを、PMC1073320の全文PDF(Europe PMC経由)で確認した閲覧 2026-09-13
  6. 6.Localization of Horner's syndrome. Use and limitations of the hydroxyamphetamine test(Journal of the Neurological Sciences・1983)対照40例と病変部位が判明しているHorner症候群25例で左右眼の反応を比較した研究で、対照では片眼が他眼より最大1.0mm小さく散大しうること、患者で異常に弱い散大(他眼との差が1.0mmを超える)が生じたのは第3ニューロン病変の症例に限られたが、そうした10例のうち4例にとどまったこと、残る6例のうち2例は健常眼側の反応が乏しく4例は後に眼交感神経機能が回復した(=除神経が起きていなかったことを示唆する)こと、結論として「異常なヒドロキシアンフェタミン検査は第3ニューロンの病変を確実に示すが、正常な検査結果は診断の助けにほとんどならない」とされていることを抄録で確認した(全文は未取得)閲覧 2026-09-13
  7. 7.False-negative hydroxyamphetamine (Paredrine) test in acute Horner's syndrome(American Journal of Ophthalmology (Donahue SP, Lavin PJ, Digre K)・1996)急性発症のHorner症候群2例で、発症第1週のヒドロキシアンフェタミン検査は両眼とも散大し節前性を示唆したが、第2週の再検査では節後性の所見に変わり、画像でも節後性の局在が確認されたこと、すなわち節後終末の機能が保たれている発症直後には偽陰性(節前性と誤る)が起こりうることを確認した閲覧 2026-08-10