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Disease Atlas · 神経 · 病態

概日リズム睡眠・覚醒障害

Circadian rhythm sleep-wake disorder

別名
概日リズム障害CRSWD
臓器系
神経精神
科目
Medical PhysiologyPsychiatry
トピック
生理学 8.11:脳波(EEG);睡眠現象。学習と記憶。精神医学 B-07:睡眠障害
鑑別疾患
睡眠不足症候群特発性過眠症不眠障害・ナルコレプシー
治療薬
メラトニンラメルテオン
症状
不眠日中傾眠
検査値
アクチグラフィ
下位分類
非24時間睡眠覚醒障害

🧠 全体像:は「眠れない・眠すぎる」病気ではなく、が刻む時刻と、に求められる時刻がずれているという「タイミングの病気」である。ずれた時間帯にさえ眠ろうとすれば、睡眠の長さも深さも保たれる——この一点がと決定的に違う。(SCN)をとする内因性リズムの周期は平均約24.18時間で、通常は光を主とするによって24時間ちょうどにされる1。治療の・は、こののタイミングを操作するであり、タイミングを間違えると症状を悪化させる方向にリズムがずれる。

病態

内因性のは光・を中心とするによって24時間周期に同期する。ヒトのは、光の影響を取り除いたで測ると平均約24.18時間、個人間のばらつきは小さく、若年者と高齢者で差が無い1。かつて広く引かれた「約25時間」という値は、が自由に室内照明を操作できる条件で測ったための過大評価であった。24時間との差はごくわずかだからこそ、毎日の光曝露による位相のリセットが欠けるだけでリズムは容易に流れ出す。この同期がうまくいかない機序は大きく2通りに分けられる。

  • 内因性リズムそのものが平均的な範囲からずれている:思春期に多い、加齢に伴い進む前進型。
  • を受け取れない、または一定しない:の非24時間型(光刺激がSCNに届かない)、認知症などでの不規則型、や渡航による強制的なの変化(型・型)。

の病態でも触れたとおり、「本人が眠れる時間帯と時刻がずれる」を見分けずにとして治療しても、症状は改善しない。はが十分にあるのに眠れない病態であるのに対し、では本人の望む時間帯にさえ眠らせれば睡眠の質・量は正常である。

💡 光を浴びる時刻・を服用する時刻によって、は前進(早まる)にも(遅れる)にも動く()。⚠️ ただし光とでは向きが逆である。両者のはおよそ12時間ずれた位相関係にあり、次のように整理できる。

  • 光:の前(就床後〜最低点に達するまでの夜間)に浴びるとし、後(明け方〜起床後)に浴びると前進する。
  • :の前にあたる夕方〜就床前の服用で前進し、後にあたる起床後の服用でする。

この向きを取り違えると、治療のつもりで症状を悪化させる方向にリズムを押してしまう。

病型

病型 典型例 特徴
() 若年に多い 入眠・覚醒時刻がに望ましい時刻より大きく遅れ、望む時刻には眠れないが遅い時刻なら正常に眠れる
() 高齢者に多い 夕方の早い時刻に眠くなり、早朝に自然覚醒してしまう
非24時間型() に多い 内因性リズムが24時間にできず、入眠・覚醒時刻が日々一定の方向にずれ続ける
不規則型() 認知症、脳損傷 明確な主要睡眠時間帯が無く、睡眠が24時間の中に不規則に分散する
型 シフト勤務者 仕事のスケジュールと内因性リズムの持続的な不一致
型() 急速な移動 一過性。新しい現地時刻へ内因性リズムが再するまでの期間に限られる

病型の判別は、・で得た入眠・覚醒時刻の並びを、次の順に読んでいくと整理しやすい。

flowchart TD
    A["不眠または日中の眠気を訴える"] --> B{"望む時間帯に眠れば<br>睡眠の量・質は保たれるか"}
    B -->|"保たれない"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insomnia disorder'>不眠障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='behaviorally induced insufficient sleep syndrome'>睡眠不足症候群</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='central disorders of hypersomnolence'>中枢性過眠症</span>などを評価"]
    B -->|"保たれる"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep diary'>睡眠日誌</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='actigraphy'>アクチグラフィ</span>を最低7日間<br>(非24時間型を疑えば14日間)記録"]
    D --> E{"外的スケジュールの<br>変更が引き金か"}
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shift work'>交代勤務</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shift work'>交代勤務</span>型"]
    E -->|"急速な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jet lag'>時差</span>移動"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jet lag'>時差</span>型(一過性)"]
    E -->|"引き金は無い"| H{"まとまった主要睡眠<br>時間帯が存在するか"}
    H -->|"存在せず24時間に分散"| I["不規則型(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='irregular sleep-wake rhythm disorder'>ISWRD</span>)<br>認知症・脳損傷に多い"]
    H -->|"存在する"| J{"入眠・覚醒時刻は<br>日々ほぼ同じ時刻か"}
    J -->|"毎日一定方向にずれ続ける"| K["非24時間型(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-24-hour sleep-wake rhythm disorder'>N24SWD</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='totally blind individual'>全盲者</span>に多い"]
    J -->|"ほぼ同じ時刻"| L{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='social'>社会的</span>に望ましい時刻に対し<br>どちらへずれているか"}
    L -->|"遅い側へずれる"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed sleep-wake phase disorder'>睡眠・覚醒相後退型</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed sleep-wake phase disorder'>DSWPD</span>)<br>若年に多い"]
    L -->|"早い側へずれる"| N["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='advanced sleep-wake phase disorder'>睡眠・覚醒相前進型</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='advanced sleep-wake phase disorder'>ASWPD</span>)<br>高齢者に多い"]

臨床像

いずれの病型も、訴えの中身は不眠(・)や(日中の眠気)だが、原因は睡眠の量や質ではなく時刻のずれにあるという共通点を持つ。本人にとって「望ましくない時間帯」に眠ろう・起きようとするときにだけ症状が出る。長期に続くと、遅刻・欠勤・学業不振、気分の落ち込み、事故のリスクにつながる。

診断

とを、できれば勤務日と休日の両方を含めて最低7日間、非24時間型では最低14日間記録し、入眠・覚醒時刻がに望ましい時間帯から持続的にずれているか、そのずれがどの方向へ、どの速さで進むかを確認する2。可能であれば、唾液・血漿の()などの生理学的指標で内因性リズムの位相を直接評価する。

⚠️ の非24時間型は、光刺激がSCNへ届かないために生じる。⚠️ 「」の定義で数字が大きく変わる。 を全く持たない者の割合は、総説により盲人の最大70%2から約20%まで幅がある——(視力による定義)と完()のどちらを分母に取るかが違う。⭐ 意味を持つのは「があるか」であって視力ではない。

治療

とを、に沿って正しいタイミングで用いることが治療の核である。

病型・対象 治療 タイミング 推奨の強さ 注意点
(成人) 時刻を定めた 就床前の夕方(を前進させる時間帯)。陽性試験は5 mgを19:00〜21:00 弱い推奨(行うことを提案) 起床直後に服用すると位相がさらにし、症状が悪化する
(小児・青年) 時刻を定めた 0.15 mg/kgを習慣的就床の1.5〜2.0時間前 弱い推奨(行うことを提案) 精神疾患の併存例でも同じく提案される
(成人) 起床後の(単独) 起床直後 推奨なし(根拠不十分) 効かないという意味ではなく、単独療法としての有効性を支持する根拠が足りないという意味
(小児・青年) 起床後の+行動療法 起床直後 弱い推奨(行うことを提案) 光単独ではなく行動療法との併用として提案されている
(成人) 夕方の 就床前の時間帯 弱い推奨(行うことを提案) 朝に浴びるとさらに前進し、早すぎる入眠・覚醒を助長する
非24時間型(成人) 時刻を定めた 望むの前、毎日同じ時刻に固定 弱い推奨(行うことを提案) 服用時刻が日によってばらつくとに失敗する
非24時間型(成人) — — 推奨なし(根拠不十分) いずれの治療についても根拠が不足している
不規則型(認知症の高齢者) 日中 弱い推奨(行うことを提案) この集団で提案されているのはである
不規則型(認知症の高齢者) — 弱い推奨(行わないことを提案) との併用も同じく行わないことが提案されている
不規則型(認知症の高齢者) — 強い推奨(行わないこと) このガイドライン中で唯一の強い推奨
不規則型(のある小児・青年) 時刻を定めた — 弱い推奨(行うことを提案) 認知症高齢者とは逆向きの推奨である点に注意

いずれも3による。⚠️ 「=このの中心治療」と一括りにしてはならない。 推奨の向きと強さは病型と対象で異なる。型と成人の非24時間型ではが提案される一方、認知症高齢者の不規則型ではは行わないことが提案されている。も同様で、前進型の成人や不規則型の高齢者では行うことが提案されるが、型の成人に対する起床後の単独使用は「推奨なし」であり、提案されているのは小児・青年での「起床後+行動療法」という組み合わせのほうである。強い推奨はただ一つ、認知症高齢者の不規則型にを用いないことだけで、他はすべて弱い推奨か推奨なしにとどまるため、個々の反応を見ながら調整する。用量については「概日作用に対するの最適用量は依然不明で、用量より投与時刻のほうが重要である」と明記されており、用量を細かく決めることよりも、正しい時刻に飲ませることが治療の本体である。

薬物療法に加え、規則正しいの固定、望ましくない時間帯の光曝露を避ける、型・型では勤務・渡航スケジュールに合わせた計画的な光曝露と仮眠の活用も重要である。

まとめ

  • は、睡眠の量・質は保たれているのにとな時刻要求がずれているために不眠・を来す「タイミングの病気」である。
  • 病型は、前進型、非24時間型(に多い)、不規則型、型、型に分かれる。
  • 診断はとを2週間前後記録し、ずれの方向と速さを確認する。
  • は平均約24.18時間で、24時間との差はごくわずかである。「約25時間」は光曝露を統制していない古い測定に基づく値である。
  • 治療の中心はとで、に沿った正しいタイミングで用いなければ逆方向に症状を悪化させうる。⚠️ 光とでは効く向きが逆である。
  • 推奨の向きと強さは病型・対象で異なる。型と成人の非24時間型ではが提案されるが、認知症高齢者の不規則型ではは用いないことが提案され、は強く避けるべきとされる。型成人への起床後の単独使用は「推奨なし」である。

出典

  1. 1.Stability, precision, and near-24-hour period of the human circadian pacemaker(Science(Czeisler CA, Duffy JF, Shanahan TL, Brown EN, Mitchell JF, Rimmer DW, Ronda JM, Silva EJ, Allan JS, Emens JS, Dijk DJ, Kronauer RE)・1999)光曝露の交絡を除いた強制脱同調法により、ヒト概日ペースメーカーの内因性周期が若年者・高齢者いずれでも平均24.18時間であり、分布が狭く両群で差が無いこと、従来報告の中央値25.2時間という値は概日周期の推定を交絡させる照度下での観察に基づいていたことを確認した閲覧 2026-08-19
  2. 2.Circadian Rhythm Sleep–Wake Disorders: a Contemporary Review of Neurobiology, Treatment, and Dysregulation in Neurodegenerative Disease(Neurotherapeutics(Steele TA, St Louis EK, Videnovic A, Auger RR)・2021)診断には睡眠日誌・アクチグラフィを最低7日間、非24時間型では最低14日間記録する必要があること、全盲者の最大70%が光を全く感知できず概日同調のための光・非光性同調因子への曝露を欠くため非24時間型のリスクが高いことを確認した閲覧 2026-08-19
  3. 3.Clinical Practice Guideline for the Treatment of Intrinsic Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders: Advanced Sleep-Wake Phase Disorder (ASWPD), Delayed Sleep-Wake Phase Disorder (DSWPD), Non-24-Hour Sleep-Wake Rhythm Disorder (N24SWD), and Irregular Sleep-Wake Rhythm Disorder (ISWRD). An Update for 2015(Journal of Clinical Sleep Medicine(Auger RR, Burgess HJ, Emens JS, Deriy LV, Thomas SM, Sharkey KM; American Academy of Sleep Medicine)・2015)睡眠・覚醒相後退型の成人・小児・青年に時刻を定めたメラトニンを提案(いずれもWEAK FOR。成人の陽性試験は5 mgを19:00〜21:00、小児・青年は0.15 mg/kgを習慣的就床の1.5〜2.0時間前に投与)する一方、「概日作用に対するメラトニンの最適用量は依然不明で、用量より投与時刻のほうが重要である」と明記していること、成人の起床後光療法単独は根拠不十分で推奨なし(No recommendation)、小児・青年の起床後光療法+行動療法はWEAK FOR、前進型成人の夕方光療法はWEAK FOR、全盲成人の非24時間型への時刻指定メラトニンはWEAK FOR、認知症高齢者の不規則型にはメラトニンをWEAK AGAINST・光療法をWEAK FOR・睡眠薬をSTRONG AGAINSTとしていることを確認した閲覧 2026-08-19