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Drug Atlas · B30 Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤 · 必修

テプロツムマブ

teprotumumab

分類
Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤
商品名(EU)
Tepezza
科目
Pharmacology
トピック
B30: Immunopharmacology III (Antibodies and fusion proteins)
承認適応
バセドウ病
副作用
難聴耳鳴筋痙攣悪心下痢味覚障害頭痛
監視検査値
血糖

🧠 全体像は、という「甲状腺そのものではなく眼窩線維芽細胞を標的にする」特異な病態に対して、その線維芽細胞が持つ受容体そのものを狙い撃ちするという理にかなった設計の薬である。眼窩線維芽細胞ではTSH受容体とIGF-1受容体(IGF-1R)が機能的な複合体を形成しており、TRAbによるTSH受容体刺激シグナルの増幅にIGF-1Rが関与する。はこのIGF-1Rを遮断することで、甲状腺機能そのものに手を出さずに眼窩の炎症・組織増生を鎮める。効果は明確だが、聴覚障害という他の生物学的製剤にはあまり見られない特有の副作用を伴う点が、この薬を語るうえで避けて通れない。

薬効群の中での位置づけ

中等症〜重症の活動性では、静注グルココルチコイドが薬物治療の中心となる。どちらを第一選択とするかはガイドラインで一致していない。

治療 標的 位置づけ
静注グルココルチコイド 眼窩の炎症全般を非特異的に抑制 2021年EUGOGOガイドラインの第一選択。安価で経験が豊富だがそのものの軽減効果は限定的
(抗IGF-1R抗体) 眼窩線維芽細胞のIGF-1R/TSH受容体複合体を選択的に遮断 2022年ATA/ETAコンセンサスは改善・軽減を目標とする場合の第一選択に位置づける。2025年6月にEU承認
眼窩容積そのものを外科的に拡大 を伴う重症例の緊急処置、またはに対する

「甲状腺機能を正常化してもは改善しないことがある」という前提が、の存在意義そのもの。 は甲状腺機能とは別軸で進行しうるため、・手術で甲状腺機能を制御してもには無効なことが多く、眼窩線維芽細胞を直接標的にする薬剤が独立して必要とされる。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Graves disease'>バセドウ病</span>:TSH受容体刺激自己抗体(TRAb/TSI)が持続的に産生される"] --> B["眼窩線維芽細胞表面でTSH受容体とIGF-1受容体(IGF-1R)が機能的複合体を形成"]
    B --> C["TRAbによるTSH受容体刺激シグナルがIGF-1Rを介して増幅される"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycosaminoglycan (GAG)'>グリコサミノグリカン</span>産生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adipocyte'>脂肪細胞</span>への分化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>放出が亢進"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraorbital'>眼窩内</span>組織の腫脹・線維化→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Diplopia'>複視</span>"]
    F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='teprotumumab'>テプロツムマブ</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fully human'>完全ヒト型</span>抗IGF-1R IgG1モノクローナル抗体)を投与"] --> G["IGF-1Rに結合しシグナル伝達を遮断"]
    G --> H["TSH受容体との複合体を介した増幅シグナルが断たれる"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycosaminoglycan (GAG)'>グリコサミノグリカン</span>産生・炎症・組織増生が抑制される"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Diplopia'>複視</span>が軽減"]

💡 甲状腺そのものには一切作用しない点が最大の特徴。 ・手術はいずれも甲状腺のホルモン産生を標的とするが、は眼窩線維芽細胞のIGF-1Rだけを標的にするため、甲状腺機能の状態(コントロール良好か否か)にかかわらずに対する効果を期待できる。

薬物動態

項目 値・特徴
分子の型 IgG1モノクローナル抗体
のみ
半減期 約20日(IgG1抗体に典型的な長い半減期)
代謝 他のと同様、経路で処理される(肝・腎の酵素は関与しない)

適応

領域 使いどころ
内分泌・眼科 (活動性・を問わない)1。中等症〜重症の活動性では改善・軽減を目標とする場合の有力な選択肢

2025年6月にEUでも販売承認を取得し、EU域内におけるに対する初のになった2。日本国内の承認情報は2026年8月時点で確認できない。

用法・用量

初回10mg/kgを投与し、以降20mg/kgを3週ごとに7回(初回を含め計8回の投与する。1回の投与は60〜90分かけて行う(初回・2回目は90分以上)1

禁忌・注意

米国添付文書にの節は無く、以下はいずれも重要な・注意の節に置かれた項目である1

  • 妊娠:IGF-1R阻害という機序と(胎盤変化、胎児発育・体格の低下、外表・骨格異常)に基づきのおそれがある。投与開始前・投与中・最終投与後6か月は有効な避妊を行う1
  • ⚠️ 聴覚障害が重要な副作用。 重度でときに永続的な聴覚障害(感音難聴・など)を来しうる。投与開始前に聴力の包括的評価を行い、治療中・治療後も聴力を継続的にモニタリングする1では聴覚障害のでRR 3.57、観察研究でRR 2.78と群で有意に高く、治療中止後の寛解率は広い定義で約50%にとどまり、は寛解しやすい一方、感音難聴は最も寛解しにくい(約46%)3
  • 高血糖:約10%に発現し、うち2/3は糖尿病・の既往を持つ。投与前後の血糖モニタリングを行う1
  • の増悪:既往の有無にかかわらず症状をモニタリングする1
  • Infusion reaction:約4%に発現。多くは軽度〜中等度で標準的な対応で管理できる1

副作用

頻度 内容
高頻度(5%以上) (25%)、悪心(17%)、脱毛(13%)、下痢(12%)、疲労(12%)、高血糖(10%)、難聴を含む聴覚障害(10%)、(8%)、頭痛(8%)、皮膚乾燥(8%)、体重減少(6%)、爪の異常(5%)1
注意 、Infusion reaction、の増悪
重篤・まれ 重度・永続的な聴覚障害、(妊娠中)

💡 「聴覚障害10%」という数字だけでは重症度・が伝わらない。 による寛解率のデータを踏まえると、投与中止後も回復しない例が相当数含まれることを患者に事前に説明し、聴力の定期評価を治療前後で組み込むそのものが治療の一部と考える必要がある。

まとめ

  • は、眼窩線維芽細胞のIGF-1R/TSH受容体複合体を標的にする抗IGF-1RモノクローナルIgG1抗体で、甲状腺機能そのものには作用せずの炎症・組織増生を直接抑制する。
  • 適応は活動性・を問わない1。中等症〜重症の活動性では改善・軽減を目標とする有力な選択肢で、静注グルココルチコイドとどちらを第一選択とするかはガイドラインで一致していない。
  • 用法・用量は初回10mg/kg、以降20mg/kgを3週ごとに7回(計8回)、する1
  • 聴覚障害が最も重要な副作用。 重度・永続的なこともあり、投与前後・投与中の聴力評価が必須。では聴覚障害のリスクが有意に高く、感音難聴は治療中止後も寛解しにくい3
  • そのほか高血糖(既存の糖尿病・患者で頻度が高い)、の増悪、Infusion reaction、妊娠中のにも注意する。
  • 2020年に米国FDAで承認され、2025年6月にはEUでも承認されたに対する初の2。日本国内の承認情報は2026年8月時点で確認できない。

出典

  1. 1.TEPEZZA (teprotumumab-trbw) — Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration(DailyMed、2026年6月改訂版)・2026)適応は活動性・罹病期間を問わない甲状腺眼症。用量は初回10mg/kg、以降20mg/kgを3週ごとに7回(計8回)、60〜90分かけて静脈内投与する(初回・2回目は90分以上)。枠組み警告の節は無い。頻度5%以上の有害事象は筋痙攣25%、悪心17%、脱毛13%、下痢12%、疲労12%、高血糖10%、聴覚障害10%、味覚障害8%、頭痛8%、皮膚乾燥8%、体重減少6%、爪の異常5%。重要な警告・注意(WARNINGS AND PRECAUTIONS)として、重度で永続的なこともある聴覚障害(治療前後・治療中の聴力評価を推奨)、Infusion reactionが約4%、高血糖(約10%、うち2/3は糖尿病・耐糖能異常の既往あり、投与前後の血糖モニタリングが必要)、炎症性腸疾患(既往の有無を問わずモニタリング)が記載されている。IGF-1R阻害という機序と動物実験に基づき妊娠中は胎児毒性のおそれがあるため、投与開始前・投与中・最終投与後6か月は有効な避妊が必要。初回承認は2020年。閲覧 2026-08-10
  2. 2.Association Between Teprotumumab and Hearing Impairment: A Meta-Analysis(Cureus・2026)無作為化比較試験4件(153例)と観察研究5件(2,000例超)を統合したメタ解析。広い定義の聴覚障害のリスク比は無作為化比較試験でRR 3.57(95%CI 1.27-9.97)、観察研究でRR 2.78(95%CI 2.38-3.24)とテプロツムマブ群で有意に高かった。治療中止後の寛解率は広い定義の聴覚障害全体で約50%にとどまり、耳鳴は寛解しやすい(約100%)一方、感音難聴は最も寛解しにくい(約46%)ことを確認した。閲覧 2026-08-10
  3. 3.Tepezza (teprotumumab) — EPAR medicine overview(European Medicines Agency・2025)テプロツムマブが2025年6月にEU域内で販売承認を取得し、甲状腺眼症に対するEU初の分子標的治療になったことを確認した。閲覧 2026-08-10