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Symptoms · Published

味覚障害

Dysgeusia

別名
味覚異常味覚消失異味症taste disorder
臓器系
耳鼻咽喉科神経内分泌・代謝
科目
PhysiologyENTPharmacology
トピック
生理学 8.6:平衡感覚の生理学。味覚と嗅覚。耳鼻咽喉科 14:中枢性・末梢性顔面神経麻痺の鑑別、末梢性麻痺の原因と鑑別診断耳鼻咽喉科 15:乳突削開術と根治的乳突削開術耳鼻咽喉科 16:鼓室形成術の意義と種類薬理学 Core72:薬剤性有害反応:歯・口腔の有害反応
関連疾患
ウイルス性脳炎新型コロナウイルス感染症
起因薬
エスゾピクロンソニデギブチオプロニンテプロツムマブトアルクエタマブボリノスタットロミデプシン

🧠 全体像:患者の「味がしない」を字義通りに受け取らないことがこのノートの出発点である。風味の知覚は嗅覚が大半を担っており、狭義の味覚(・酸味・・うま味の5)は一部分でしかない。そのうえでの機序は、伝導路()・受容器(・唾液)・中枢・全身性(欠乏・薬剤)の4群に整理すると鑑別が立てやすい。最頻の原因群は薬剤性と性だが、の随伴所見、中耳・後の医原性損傷、頭頸部悪性腫瘍の初発症状という危険な鑑別を先に外す。

定義と用語の整理

」は量的異常(感じる強さの変化)と質的異常(感じ方そのものの歪み)に大別され、さらに以下のように細分される。

用語 意味 患者の訴え方の例
味を感じる閾値が上がる(量的低下) 「味が薄い、感じにくい」
特定の、または全ての味を全く感じない 「全く味がしない」
特定の味質だけが分からない 「甘みだけ分からない」
口腔内に刺激はあるが本来と違う味に感じる 「醤油が苦く感じる」
何を食べても不快な味に感じる 「何を食べても嫌な味になる」
口腔内に何も入れていないのに味を感じる 「口の中に何もないのに苦い・渋い」
通常量の刺激を過度に強く感じる 「味が濃く感じる」

この分類は厚生労働省の副作用対応マニュアルに基づく1

⚠️ 患者の「味がしない」の相当数は由来である。 食品のフレーバー(風味)知覚は、狭義の味覚だけでなく、中に口腔から鼻腔後方へ抜ける香気成分をが捉える経路()に大きく依存する。感冒罹患直後に「味がしない」と訴える患者では、による味覚自体は正常であることが多く、実体はである1で「においも分からないか」を早期に確認し、真のと風味障害を分けることが鑑別の出発点になる。

病態生理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='taste disturbance'>味覚障害</span>の機序"] --> B["伝導路の障害"]
    A --> C["受容器の障害"]
    A --> D["中枢の障害"]
    A --> E["全身性の関与"]
    B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chorda tympani'>鼓索神経</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior (part of the) tongue'>舌前</span>2/3の味覚)"]
    B --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glossopharyngeal nerve, IX'>舌咽神経</span><br>(舌後1/3・咽頭)"]
    B --> B3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater petrosal nerve'>大錐体神経</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='soft palate'>軟口蓋</span>)"]
    C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='taste buds'>味蕾</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gustatory cells'>味細胞</span><br>ターンオーバー低下"]
    C --> C2["唾液減少による<br>味物質運搬障害"]
    D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleus tractus solitarius (NTS)'>孤束核</span>・視床・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insular cortex'>島皮質</span>の病変"]
    E --> E1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zinc deficiency'>亜鉛欠乏</span>"]
    E --> E2["薬剤"]
    E --> E3["腎不全・肝不全などの代謝異常"]

💡 伝導路の障害は、舌のどの部位の味覚が落ちているかで病変の高さを推定できる。 2/3の味覚は顔面神経の枝であるが運ぶ一方、同じ範囲の触覚・温度覚は三叉神経第3枝()が別に運ぶ。だけが障害されると「舌の感覚は正常なのに味だけ分からない」という解離が起こり、これはの病変を絞る手がかりにもなる。局在診断の枠組みはを参照。

受容器の障害は、そのものののターンオーバー低下と、唾液減少による味物質運搬障害の2経路に分けられる。唾液は味物質を溶解しまで届ける溶媒であり、症候群を持つ薬剤によるはこの経路を介して味覚を障害する。

中枢の障害は・視床・のいずれの病変でも起こりうるが頻度としては低く、が主な原因になる。

全身性の関与では欠乏が代表格である。分化に必要な補因子であり、欠乏するとのターンオーバーが遅延し受容体感度が低下する。日本臨床栄養学会の指針は60 µg/dL未満を症、60〜80 µg/dL未満をと定義しており2の段階でもが先行しうる。薬剤性のも機序としては単一でなく、を抑える経路、しての再生を妨げる経路、による血中濃度変化を介する経路などが重なって生じる1。個々の薬剤名の一覧は Core72を参照し、ここでは薬剤名ではなく上記の機序と対処の枠組みで捉える。

緊急・見逃してはいけない疾患

危険度の高い順に並べる。頻度が高いのは薬剤性・性だが、それらを疑う前にまず以下を除外する。

  • ⚠️ ・頭蓋内病変。 からまでの中枢経路のどこでもを来しうる。急性発症で・失調などの神経症状を伴うなら、単独の精査より先に脳卒中の評価経路に乗せる。
  • ⚠️ の随伴所見としての意味。 がどこまで随伴するかは、顔面神経のうちどの高さまでが障害されているかを示す局在情報になる。単なる随伴症状として読み流さず、病変の診断に使う。詳細は
  • ⚠️ 中耳手術・後の損傷。 ではの走行上、・切断を来しうる。でも顔面神経本幹とともに損傷しうる。周術期の説明と記録に含めるべき合併症であり、術後にが生じても「経過観察でよい想定外の訴え」として扱わない。
  • ⚠️ 悪性腫瘍の初発症状。 頭頸部悪性腫瘍は疼痛や腫瘤を欠いたままだけが先行することがある。で片側性、体重減少や嗄声を伴うならを含めて検索する。

鑑別の進め方

でまず由来を除外し、次に薬剤歴・を確認する。原因薬剤の服用開始から多くは2〜6週間で症状が出るため、は薬剤性を疑う手がかりになる1。局所があれば画像を急ぎ、なければを含む血液検査に進む。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='taste disturbance'>味覚障害</span>の訴え"] --> B{"感冒の先行があり<br>においも分からないか"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='olfactory dysfunction'>嗅覚障害</span>・風味障害を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gustatory testing'>味覚検査</span>自体は正常のことが多い"]
    B -->|"いいえ"| D["薬剤歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical history'>手術歴</span>・放射線治療歴の確認"]
    D --> E{"時期が一致する<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='culprit (suspected) drug'>被疑薬</span>・術後経過があるか"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='culprit (suspected) drug'>被疑薬</span>の中止・変更を検討"]
    E -->|"なし"| G["身体所見<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial nerve function'>顔面神経機能</span>・舌/口腔粘膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='xerostomia'>口腔乾燥</span>"]
    G --> H{"局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological findings'>神経所見</span>・急性の片側性がある"}
    H -->|"あり"| I["画像検査<br>頭部MRI・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal bone CT'>側頭骨CT</span>"]
    H -->|"なし"| J["血液検査<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='serum zinc'>血清亜鉛</span>・貧血・腎肝機能・血糖"]
    J --> K{"異常を同定できたか"}
    K -->|"なし"| L["特発性として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zinc supplementation'>亜鉛補充</span>を試験的に開始し反応を見る"]

原因別の報告割合は特発性・・薬剤性・性・感冒後がいずれも大きな割合を占め、や医原性は数としては少数派になる1。⭐ が正常範囲でもを除外できない点はのノートを参照。

対症療法の考え方

治療の軸は原因の除去である。薬剤性であればの中止・減量、が証明されれば剤の補充が中心で、この2点で多くの症例が改善する1。原疾患の治療上どうしてもできない場合は、同効薬への変更を検討する。

の中止から症状消失までの期間は一定でなく、数日で軽快することもあれば、緩解まで数か月を要することもある1。急激な改善を期待しにくいことは患者にあらかじめ説明しておく。

を伴う例ではを促す対症療法(・口腔保湿・を促す製剤)を補助的に行うが、これは口腔内環境を整えるものであり、味覚そのものを直接回復させる薬剤ではない。⭐ 対症療法は原因除去を補助する位置づけであり、原因検索を後回しにして対症療法だけで様子を見るべきではない。

まとめ

  • 「味がしない」は由来のことが多く、風味の大半は嗅覚が担う。真のかをまず切り分ける。
  • は別の現象であり、患者の言葉を専門用語に翻訳して聞く。
  • 機序は伝導路・受容器・中枢・全身性の4群で整理する。2/3の味覚だけが落ちる解離は病変を示唆する。
  • 危険な鑑別は頻度でなく危険度で並べる:の随伴所見、中耳・後の医原性損傷、頭頸部悪性腫瘍の初発症状。
  • 最頻の原因群は薬剤性と性。薬剤性は抑制・・薬物相互作用など複数機序が重なる。
  • 対症療法の軸は原因の除去(の中止・)であり、対策などの対症的手段は補助にとどまる。

出典

  1. 1.亜鉛欠乏症の診療指針2024(一般社団法人 日本臨床栄養学会・2024)血清亜鉛60 µg/dL未満を亜鉛欠乏症、60〜80 µg/dL未満を潜在性亜鉛欠乏と定義する。血清亜鉛には日内変動があり午後は低下するため早朝空腹時の採血を推奨し、血清アルブミン値による補正式も提案されているが検証は未確立とする。閲覧 2026-08-02
  2. 2.重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害(厚生労働省・2022)薬物性味覚障害の自覚症状を味覚減退・味覚消失(無味症)・解離性味覚障害・異味症・錯味症・悪味症・味覚過敏・自発性異常味覚・片側性味覚障害の8型に分類し、発症機序を味物質の運搬(唾液)・味覚受容器・神経伝達・薬物相互作用の4群に整理した。原因薬剤の服用開始から多くは2〜6週間で発症し、治療は原因薬剤の中止・減量と、低亜鉛血症があれば亜鉛剤補給を主体とし、口腔乾燥に対する唾液分泌を促す対症療法は補助的とした。原因別の報告割合として特発性18.2%、心因性18.6%、薬剤性16.9%、亜鉛欠乏性13.5%、感冒後12.5%、全身性6.0%、医原性4.8%、鉄欠乏性4.2%、外傷性2.8%を挙げた。閲覧 2026-08-02