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Disease Atlas · 皮膚 · 先天性疾患

腸性肢端皮膚炎

Acrodermatitis enteropathica

別名
腸性先端皮膚炎Danbolt-Closs症候群
臓器系
皮膚消化器小児内分泌・代謝
科目
PathologyPediatrics
トピック
病理学 C/37:吸収不良症候群小児科 3-37:アトピー性皮膚炎・蕁麻疹・おむつ皮膚炎
鑑別疾患
接触皮膚炎
合併症
脱毛症成長不良
症状
下痢爪囲炎易刺激性羞明味覚障害
検査値
亜鉛アルカリホスファターゼ

🧠 全体像:は、腸管の ZIP4(SLC39A4) が働かずを吸収できなくなる疾患である。⚠️ この病気の核は症状ではなく「時間関係」にある。 母乳にはの吸収を助ける因子が含まれているため、は生後しばらく守られ、を境に発症する——ではより早く発症する12。・四肢末端の皮疹+下痢+脱毛という三徴を「のころから始まった」という病歴と結びつけられるかどうかが診断の分かれ目になる。を補充すれば劇的に治るが、やめれば必ず再発する——ここが後天性の症との決定的な違いである。

ZIP4が担う吸収の入り口

SLC39A4 は8q24.3に位置し、タンパクZIP4をコードする1。ZIP4は主に十二指腸と空腸のに発現し、管腔側から細胞内へを取り込む輸送体である2。両アレルの変異でこの取り込みが失われる。

は100万人あたり1〜9人、発症率は新生児50万人に1人と報告されている12。

なぜ離乳期に発症するのか

flowchart TD
    A["SLC39A4 <span class='jp-term jp-term-diagram' title='biallelic mutation'>両アレル変異</span><br>(ZIP4を介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zinc'>亜鉛</span>吸収が欠損)"] --> B{"栄養は何か"}
    B -->|"母乳"| C["母乳中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zinc-binding ligand'>亜鉛結合因子</span>が<br>吸収を助ける"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zinc'>亜鉛</span>が足りている間は無症状"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='weaning'>離乳</span>"]
    E --> F["保護が失われ、欠損した輸送体に依存する"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='infant formula'>人工乳</span>"| F
    F --> G["全身性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zinc deficiency'>亜鉛欠乏</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='periorificial'>開口部周囲</span>・四肢末端の皮疹"]
    G --> I["下痢"]
    G --> J["脱毛"]
    G --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth failure'>成長障害</span>・易感染性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired wound healing'>創傷治癒不良</span>"]

⭐ 「母乳をやめたころから顔と肛門周囲がただれ、下痢が続き、髪が抜けてきた」という一連の並びが本症の合図である。 では保護期間が無いため、より早い時期に同じ像が出る1。

三徴と皮疹の分布

徴候 内容
皮疹 境界明瞭で乾燥したの。顔面の(口囲・鼻囲・眼囲)と、および四肢末端(手足・)に生じ、痂皮や潰瘍を伴う12
下痢 遷延性
脱毛 。頭髪だけでなく眉毛・睫毛にも及ぶ

⚠️ 「が治らない」として扱われ続けることがある。 ()は摩擦と尿便に曝される凸部が主体で皮膚ひだが比較的保たれるのに対し、本症の皮疹は開口部を取り囲む分布をとり、しかも顔面や四肢末端にも同時に出る。1か所だけを見ていると気づけない。

その他の所見

系統 所見
爪 を含む爪の変化1
眼 結膜炎・眼瞼炎・・1
神経・行動 ・1
成長・発達 ・2
創傷 治癒不良2
感染 黄色ブドウ球菌とCandida albicansによる1
味覚 (依存性の活性低下による)

💡 症状の並びは「依存酵素が働かなくなった結果」として一本の線でつながる。 表皮の分化・機能・・の酵素活性がいずれもを必要とするためで、個々の対応はの項に整理されている。

診断

血清の低値で疑い、SLC39A4 ので確定する。⚠️ の・採血条件(と早朝空腹時採血)・低値をきたす他の原因の整理はの項に譲る。 本症で見るべきなのは値そのものより、「との時間関係」と「補充を止めたときに再発するか」である。

はの補因子であるため、ではが低値をとる。⭐ 年齢相応より低いは、を裏づける安価で見落とされやすい手掛かりである。

後天性の亜鉛欠乏症との線引き

⚠️ 臨床像だけでは区別できない。 皮疹も下痢も脱毛も、原因が先天性でも後天性でも同じように出る。分けるのは背景・年齢・治療への依存である。

(先天性) 後天性の
原因 SLC39A4(ZIP4)の 摂取不足(・を含まない経腸/)、(・・)、喪失増加(・熱傷・肝硬変・透析)、
発症時期 期(ではより早期) 原因が生じたあとの任意の年齢
家族歴 。同胞発症がありうる 無い
補充への反応 反応する(1週間で皮疹が改善) 反応する
⭐ 補充を止めたとき 通常再発する2 原因が解消していれば恒久的に改善する2
補充の期間 生涯1 原因が続く間

💡 診断が確定していない段階でも、を補充して反応を見ること自体は誤りではない。 ただし「効いたから後天性」ではない——両者とも効く。決め手は中止後の経過とである。

治療

項目 内容
初期投与量 として1日体重1 kgあたり3 mg12
報告例では1日体重1 kgあたり2 mgで維持された2
期間 生涯にわたる補充を要しうる1
反応 補充再開後1週間で皮疹が改善した2。で治療された患者の反応率は100%1
無治療の転帰 早期死亡に至りうる1

⚠️ 生涯補充であるがゆえに、の側の副作用を監視する必要がある。 の長期高用量投与は腸管でを誘導しての吸収を妨げ、による貧血・好中球減少・を来しうる。成長に伴う体重変化に合わせたと、の状態の確認を並行して行う。

まとめ

  • SLC39A4 のでZIP4を介した十二指腸・空腸での吸収が失われる疾患。発症率は新生児50万人に1人程度。
  • ⭐ 核は時間関係。 母乳中のに守られているあいだは無症状で、を境に発症する(ではより早期)。
  • 三徴は・四肢末端の皮疹+下痢+脱毛。、(結膜炎・眼瞼炎・・)、、、、黄色ブドウ球菌・Candida albicansのを伴う。
  • ⚠️ として扱われ続けることがある。 開口部を取り囲む分布と、顔面・四肢末端への同時発症が手掛かり。
  • 低値と低で疑い、SLC39A4 ので確定する。と採血条件はの項に委ねる。
  • ⚠️ 後天性のとの違いは「補充を止めたら再発するか」。 本症は生涯補充を要し、3 mg/kg/日で開始する。長期投与ではの監視を忘れない。

出典

  1. 1.Acrodermatitis Enteropathica(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)本症が8q24.3上のSLC39A4の変異により亜鉛リガンド結合タンパクZIP4(腸管の亜鉛輸送体)が働かなくなる疾患であること、有病率が100万人あたり1〜9人で世界の発症率が新生児50万人に1人であること、母乳栄養児では離乳の時期に、人工乳栄養児ではより早期に発症すること、古典的三徴が脱毛・下痢・開口部周囲および四肢末端の皮疹であること、皮疹が境界明瞭で乾燥した鱗屑性の紅斑性局面として顔面の開口部周囲または肛門性器部に生じること、爪囲炎を含む爪の変化がみられうること、易刺激性と嗜眠が記載されていること、結膜炎・眼瞼炎・角膜混濁・羞明がみられうること、黄色ブドウ球菌とCandida albicansによる二次感染が報告されていること、生涯にわたる1日体重1 kgあたり3 mgの元素亜鉛の補充を要しうること、亜鉛で治療された患者の反応率が100%である一方、亜鉛なしでは早期死亡に至りうることを確認した。⚠️ 本章が挙げる血清亜鉛のカットオフは「空腹時70 microgram/L未満、非空腹時65 microgram/dL未満」と同一文中で単位が割れており(空腹時の閾値が非空腹時より緩くなる向きに逆転する)、誤記と判断して採用しなかった。基準値は血清亜鉛の検査値ノートに委ねている閲覧 2026-09-02
  2. 2.Congenital Zinc Deficiency from Mutations of the SLC39A4 Gene as the Genetic Background of Acrodermatitis Enteropathica(Journal of Korean Medical Science・2010)SLC39A4が8q24.3に位置しZIP4亜鉛輸送体をコードして主に十二指腸と空腸での亜鉛吸収を担うこと、常染色体潜性遺伝で推定発症率が小児50万人に1人であること、母乳には亜鉛の吸収を助ける亜鉛結合因子が含まれており離乳によりその保護が失われて欠損した輸送体に依存するようになるため症状が出現すること、古典的三徴が四肢末端の皮膚炎・下痢・脱毛であること、皮疹が四肢末端および開口部周囲の紅斑性鱗屑性局面で痂皮と潰瘍を伴うこと、成長障害・思春期遅発・創傷治癒不良がみられること、報告例で血清亜鉛が18.8 µg/dLと著明に低下していたこと、初期治療が1日体重1 kgあたり3 mgの元素亜鉛で長期には1日体重1 kgあたり2 mgで維持されたこと、補充再開後1週間で皮疹が改善したこと、後天性の亜鉛欠乏は補充により恒久的に改善するのに対し本症では亜鉛の供給を止めると通常再発することを確認した。全文を閲覧した閲覧 2026-09-02