疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 皮膚 · 病態

虫刺され

Insect bite reaction

別名
虫刺症刺咬症insect bite reaction
臓器系
皮膚免疫・膠原病
科目
PediatricsDermatologyPharmacology
トピック
小児科 25:乳幼児・小児期のアレルギー疾患、アトピーの定義皮膚科 1-03:蕁麻疹の病態機序と臨床病型薬理学 B26:ヒスタミンおよび抗ヒスタミン薬
鑑別疾患
ジアノッティ・クロスティ症候群結節性痒疹丹毒・蜂窩織炎疥癬痒疹蕁麻疹
合併症
細菌性皮膚感染症(伝染性膿痂疹・毛包炎・せつ・よう)
関連疾患
アナフィラキシー
治療薬
(レボ)セチリジン(デス)ロラタジンヒドロキシジンクロロピラミンジメチンデンベンゾカインモメタゾントリアムシノロン
症状
掻痒丘疹紅斑腫脹小水疱掻破痕発熱リンパ節腫脹

🧠 全体像:⭐ 主題は虫の側ではなく、刺された側にある。 同じ蚊に刺されても、何も出ない人・翌日に痒い丘疹が出る人・数分でが出る人がいる。この差は唾液成分に対する感作がどの段階にあるかでほぼ説明でき、段階は曝露の反復とともに進む1。⚠️ もう一つ最初に分けておくべきなのは「刺す虫」と「咬む虫」である。 アナフィラキシーの主役はを持つ(ハチ・アリ)であって2、蚊に刺されて全身反応に至る報告は世界で30例未満と極めてまれである1。

「刺す虫」と「咬む虫」を分ける

群 代表 注入されるもの 主な問題
吸血して咬む 蚊・・ノミ・ハエ・ 唾液(吸血のための抗凝固・血管拡張成分) への局所の過敏反応、
で刺す() ミツバチ・スズメバチ・アシナガバチ・ヒアリ につながる針からの毒液 IgE介在の全身反応・アナフィラキシー

⚠️ の「刺される」は両方に使われるが、免疫学的にはまったく別の出来事である。 ハチ・スズメバチ・アリは咬まず、刺すことで皮膚反応を起こす3。

⚠️ ただし「咬む虫は安全」ではない。 ブユ・など一部のハエは、アナフィラキシーを含む重篤なアレルギー反応を起こしうる2。

⭐ 反応の大きさを決めるのは感作の段階

蚊刺に対する反応は、曝露の反復とともに5つの段階を移る(Mellanby、1946年)1。

段階 見え方
第I期 なし なし 初回刺咬後の小さな紅色斑のみ
第II期 なし あり 翌日に痒い丘疹が出る
第III期 あり あり 直後に、翌日に丘疹
第IV期 あり なし 直後にだけが出て翌日は引く
第V期 なし なし 刺されても何も出ない

💡 「刺された直後は何ともなかったのに翌日に腫れた」は矛盾ではない。 だけが立っている第II期の像である。逆に「直後に膨れたが翌日には消えた」は第IV期にあたる。

⭐ 第I期と第V期はどちらも「反応が出ない」だが、意味が正反対である。 前者は未感作、後者は長期曝露によるの結果で、後者へは反復曝露で到達しうる1。小児が成長とともに反応しなくなるのは、こので説明されている3。

即時反応と遅延反応

機序 IgEによる肥満細胞の活性化 唾液特異的IgGの上昇、Th2優位の炎症・CD4陽性T細胞・
時間 20〜30分 24〜36時間で最大
皮疹 の丘疹

いずれも刺した虫の毒性ではなく、に対する宿主側の反応である1。初回曝露では反応が生じず、反復曝露ではじめて皮疹が出るのはこのためである3。

組織像も両相を反映し、初期のから、リンパ球・・多数の好酸球を含む血管周囲および間質の密な浸潤へ移る2。

丘疹性蕁麻疹

⭐ 感作が進んだ小児に典型的なである。 通常2〜10歳の小児に生じ、思春期・成人にもみられる。⚠️ 感作に時間を要するため新生児にはみられない3。蚊・ノミ・・・ハエなど、複数の節足動物の刺咬が原因になる。

慢性または反復性に、と丘疹が出没する。分布は左右対称で、紅斑期のものとを残したものが混じった色調の異なる皮疹が群れをなすのが特徴で、ほとんどの小児は反復曝露によるで成長とともに軽快する3。

⭐ 感作が進んだ個体では、反応が「誇張された過敏反応」として遷延することがある。 はその一つの型で、もう一つが持続性のである2。の反復が加わればとして固定し、刺咬の記憶が消えたあとも痒みだけが残る。

⚠️ 名前は似ているが蕁麻疹とは別である。 蕁麻疹のは個々が24時間以内に移動・消退するが、の丘疹は同じ場所に数日以上とどまる。水疱性のは重篤な水疱症に似ることがある3。

Skeeter症候群

蚊刺に対するである。刺咬後数時間以内に発赤・熱感・腫脹・掻痒が広がり、発熱やリンパ節腫脹を伴うことがある1。

⚠️ 蜂窩織炎と取り違えて抗菌薬を出さない。 分けるのはで、Skeeter症候群は数時間で立ち上がるのに対し蜂窩織炎の経過はより緩徐である。Skeeter症候群は3〜10日で消退する1。

💡 発熱があるからといって感染とは限らない。 そのものが発熱とリンパ節腫脹を伴いうる。

⚠️ 蚊刺過敏症と背景疾患

・感染・NK細胞が同一患者に併存する病態はHMB--NK病と呼ばれ、刺咬部に水疱・潰瘍・壊死を生じる。CD4陽性T細胞が起点となりNK細胞が唾液への反応を増幅する1。

⚠️ 蚊に刺されただけで潰瘍・壊死になるのは正常の範囲ではない。 感作の段階では説明がつかず、背景のを疑う入口になる。

節足動物媒介感染症への入口

⚠️ 皮疹の治療で終わらせない。 地域・野外活動・渡航歴を取り、媒介されうる感染症を考える。詳細は各疾患のノートに委ねる2。

媒介する節足動物 主な感染症
マダニ ライム病、、、、、
蚊 マラリア、・・、West Nileウイルス感染症、
ノミ 、、
、、
(Orientia tsutsugamushi)

鑑別

診断は病変の形態・分布・曝露歴による臨床診断で、特異的な検査はない2。

flowchart TD
    A["刺咬後に皮疹が出た"] --> B{"呼吸困難・低血圧・失神など<br>全身症状があるか"}
    B -->|"あり"| C["アナフィラキシーとして<br>筋注エピネフリンを即時投与"]
    B -->|"なし"| D{"刺したのは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venomous sting'>毒針</span>を持つ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hymenoptera'>膜翅目</span>か"}
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hymenoptera'>膜翅目</span>"| E["刺針の除去と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='local therapy'>局所療法</span><br>再曝露時のリスクを評価する"]
    D -->|"咬む虫・不明"| F{"病変は刺咬部にとどまるか"}
    F -->|"広がる紅斑・熱感"| G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upstroke'>立ち上がり</span>は数時間か、<br>より緩徐か"}
    G -->|"数時間で拡大"| H["Skeeter症候群など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='large local reaction'>大型局所反応</span>として対症療法"]
    G -->|"緩徐に進行"| I["蜂窩織炎を考え<br>抗菌薬の適応を評価する"]
    F -->|"とどまる"| J{"水疱・潰瘍・壊死があるか"}
    J -->|"あり"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypersensitivity to mosquito bites'>蚊刺過敏症</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Epstein-Barr virus'>EBウイルス</span>関連<br>NK細胞<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Proliferative Diseases'>増殖性疾患</span>を疑う"]
    J -->|"なし"| L["局所の過敏反応として<br>掻痒の制御と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scratching (excoriation)'>掻破</span>の停止"]
鑑別 分かれ目
・手関節・陰部の好発部位、、同居者の掻痒、鏡検
蕁麻疹 個々のが24時間以内に移動・消退する
蜂窩織炎 が緩徐で、掻痒より疼痛・熱感が前面に出る
優位の慢性・左右対称の湿疹病変と既往歴
硬い結節が左右対称に多発し、を伴って数か月以上続く

このほか・・肥満細胞症・水疱症・膿瘍・・も鑑別に挙がる2。

治療

⭐ 中心は掻痒の制御との停止である。 管理の要点は「保護衣・掻痒の制御・忍耐」の3点にまとめられる3。

予防

効果持続 注意
DEET 5時間 小児では最大33%濃度。2歳未満には推奨されない
8〜10時間 2歳未満には推奨されない

いずれも1による。保護衣による物理的な遮断を併用する3。

まとめ

  • 反応の大きさを決めるのは虫ではなく、に対する感作の段階である(Mellanbyの5段階:→遅延のみ→即時+遅延→即時のみ→)。第I期と第V期はどちらもだが、未感作とで意味が正反対である。
  • はIgE介在で20〜30分の、はT細胞主体で24〜36時間で最大になる痒い丘疹。
  • は2〜10歳に多く新生児にはみられない。左右対称に色調の異なる皮疹が群発し、で成長とともに軽快する。蕁麻疹(24時間以内に消退する)とは別である。
  • Skeeter症候群は蚊刺後数時間で立ち上がるで、発熱・リンパ節腫脹を伴いうる。緩徐に進む蜂窩織炎とで区別し、反射的に抗菌薬を出さない。
  • ⚠️ アナフィラキシーの主役はを持つであり、蚊刺による全身反応の報告は世界で30例未満と極めてまれ。ただしブユ・など一部のハエは例外になりうる。
  • 蚊刺部の水疱・潰瘍・壊死は正常の範囲を超えており、関連のNK細胞(HMB--NK病)を疑う。
  • 治療は掻痒の制御との停止が中心。には対照試験の裏づけがあるが、は対照試験で検証されていない。
  • 皮疹の治療で終わらせず、曝露歴からを考える。

出典

  1. 1.Update on mosquito bite reaction: Itch and hypersensitivity, pathophysiology, prevention, and treatment(Frontiers in Immunology・2022)Mellanby(1946年)に由来する蚊刺への反応の5段階(第I期=初回刺咬後の小さな紅色斑、第II期=遅延反応のみ、第III期=即時反応と遅延反応の併存、第IV期=即時反応のみ、第V期=即時反応も遅延反応も生じない)、長期曝露により自然脱感作が起こりうること、即時反応がIgEによる肥満細胞活性化を介し20〜30分で膨疹として現れること、遅延反応が唾液特異的IgGの上昇とTh2優位の炎症・CD4陽性T細胞・IL-4を伴い刺咬後24〜36時間で最大になること、Skeeter症候群が大型局所炎症反応で蚊刺後数時間以内に発赤・熱感・腫脹・掻痒として現れ発熱やリンパ節腫脹を伴いうること、経過が緩徐な蜂窩織炎とは時間経過で区別でき3〜10日で消退すること、蚊刺による全身性アナフィラキシーの報告が世界で30例未満と極めてまれで前失神・低血圧・失神を呈すること、蚊刺過敏症・EBウイルス感染・NK細胞増殖性疾患が同一患者に併存する病態がHMB-EBV-NK病と呼ばれ水疱・潰瘍・壊死を呈しCD4陽性T細胞が起点となりNK細胞が反応を増幅すること、レボセチリジン5 mgがプラセボ対照試験で膨疹径と掻痒の双方を減らしたこと、セチリジン10 mgとエバスチンがプラセボと比べ膨疹径を30〜40%・掻痒を70〜80%減らしたこと、小児のロラタジンが膨疹径を45%(p<0.001、25例)・掻痒を78%減らしたこと、外用ステロイドは著者らが有効とみなすものの対照臨床試験で検証されていないこと、DEETの効果持続が5時間で小児では最大33%濃度・2歳未満には推奨されないこと、ピカリジンの効果持続が8〜10時間で同じく2歳未満には推奨されないことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Insect Bites(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)節足動物刺咬による症状が外傷・局所炎症・唾液成分への過敏反応から生じること、咬む昆虫(蚊・トコジラミ・ノミ・ハエ・シラミ)と毒腺につながる針で刺す膜翅目(ミツバチ・スズメバチ・アシナガバチ・ヒアリ)を区別すること、組織像が好中球優位から始まりリンパ球・組織球・多数の好酸球を含む血管周囲および間質の密な浸潤へ進むこと、感作された個体では誇張された過敏反応が丘疹性蕁麻疹や持続性の結節性痒疹として現れうること、アナフィラキシーが膜翅目のほかブユ・アブなど一部のハエでも起こりうること、診断が病変の形態・分布・曝露歴による臨床診断であること、鑑別に接触皮膚炎・薬疹・肥満細胞症・水疱症・蜂窩織炎・膿瘍・伝染性膿痂疹・毛包炎が含まれること、掻痒に中等度力価の外用ステロイド、中等度から高度の掻痒に経口H1・H2拮抗薬を用いること、二次細菌感染には適切な抗菌薬を用いること、アナフィラキシーには即時の筋注エピネフリンを投与し必要に応じて5〜15分ごとに反復すること、媒介される感染症がマダニではライム病・ロッキー山紅斑熱・バベシア症・野兎病・アナプラズマ症・回帰熱、蚊ではマラリア・黄熱・デング熱・West Nileウイルス感染症・チクングニア熱・ジカ熱、ノミではペスト・野兎病・発疹熱、サシガメではシャーガス病、コロモジラミでは発疹チフス・回帰熱・塹壕熱、ツツガムシではツツガムシ病であることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Insect bite reactions(Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology・2013)丘疹性蕁麻疹が通常2〜10歳の小児に生じ思春期・成人にも時にみられること、感作に時間を要するため新生児にはみられないこと、蚊・ノミ・トコジラミ・ヌカカ・吸血性ハエなど節足動物の刺咬への過敏反応として生じること、慢性または反復性の膨疹と掻痒性丘疹として現れ左右対称の分布と色調の異なる皮疹の群発を特徴とすること、反復曝露による脱感作でほとんどの小児が成長とともに軽快すること、初回曝露では反応が生じず反復曝露で唾液・接触蛋白への宿主反応として皮疹が出ること、水疱性の丘疹性蕁麻疹が重篤な水疱症に似ることがあること、ハチ・スズメバチ・アリは咬まずに刺すことで皮膚反応を起こすこと、管理の3つのP(保護衣・掻痒の制御・忍耐)、治療が対症的で軽症には外用ステロイドと抗ヒスタミン薬・重症例には全身性ステロイドの短期投与を用いること、アナフィラキシーのリスクがある個人にはエピネフリン自己注射薬の携行が強く推奨されることを確認した。閲覧 2026-09-03