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Drug Atlas · A10 Local anesthetics / 局所麻酔薬 · 必修

ベンゾカイン

benzocaine

分類
Local anesthetics / 局所麻酔薬
商品名(日本)
ビーゾカイン
科目
Pharmacology
トピック
A10: Local anesthetics
副作用
チアノーゼ皮疹
対象疾患
歯髄炎虫刺され
原因となる疾患
メトヘモグロビン血症

🧠 全体像:は、他のが持つ末端のを欠く特殊な。生理的pHでほぼ完全に(中性)のまま存在するため水へのが乏しく、注射剤として使えず専用になる。この構造的な特殊さが、もう一つの際立った特徴————にもつながる。ヘモグロビンのFe2+をFe3+へ酸化するを起こしやすく、内視鏡前の咽頭スプレーなど粘膜からの吸収が意外と多い場面で重篤な事故が繰り返し報告されている。⚠️ 米国の一般用医薬品の添付文書は、この危険を理由に「には使わない」と「2歳未満には使わない」を別々の禁止として並べている1。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 化学的特徴 主なリスク
注射(浸潤) を持つ典型的 アレルギー
表面(粘膜) も併せ持つ 血管収縮・乱用
表面のみ(注射不可) を欠く。生理的pHで

⭐ 3剤の中で唯一「注射できない」薬。 がないためできず水溶性製剤を作れないという構造上のが、そのまま臨床上の使い方(のみ)を決めている。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='benzocaine'>ベンゾカイン</span>は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tertiary amine'>第三級アミン</span>を持たない<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='weak bases'>弱塩基</span>(pKa約3.5)"] --> B["生理的pHではほぼ完全に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-ionized'>非イオン型</span>のまま"]
    B --> C["水溶性に乏しく注射製剤にできない<br>→皮膚・粘膜表面のみに作用"]
    B --> D["表在の感覚神経終末でNaチャネルを<br>部分的に阻害(機序の本体は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lidocaine'>リドカイン</span>と共通)"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>により<br>ヘモグロビンのFe2+をFe3+へ酸化"]
    E --> F["メトヘモグロビン(Fe3+型)が増加"]
    F --> G["酸素と結合できないメトヘモグロビンが増え<br>組織への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial oxygen supply'>酸素供給</span>が低下"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulse oximeter'>パルスオキシメータ</span>の値が<br>実際の組織酸素化を反映しなくなる"]

💡 通常はNADH依存性がFe3+を速やかにFe2+へ戻すため問題にならない。 この還元能を上回るがかかったとき(高用量・反復スプレー・新生児の未熟な酵素系・欠損症)にが顕在化する。

薬物動態

項目 値・特徴
表面のみ(皮膚・粘膜)
代謝 組織・
全身吸収 通常はわずかだが、咽頭・気管支粘膜への反復スプレーではできない量が吸収される
リスクの スプレー回数・接触時間に比例してリスクが上がる

適応

領域 使いどころ
歯科・口腔 ・歯肉痛・・矯正装置やによる痛み・軽微な歯科処置の一時的緩和(20%ゲル/スプレー)1
内視鏡・気管支鏡 咽頭麻酔スプレー(前を含む)。⚠️ 一般用医薬品の添付文書はこの用途を掲げておらず、施設のプロトコルに拠る2
・OTC 日焼け・用外用薬
肛門科 痔疾患用外用薬

⭐ 歯科領域では、確定的治療までのつなぎとしての位置づけが診療ガイドラインで明示されている。 米国歯科会の2024年ガイドラインは、確定的歯科治療(・・膿瘍の・)にすぐ到達できない状況の——症候性(可逆性または症候性で、症候性の有無を問わない)と、にないしを伴うもの——について、10%または20%の外用を使わない場合と比べて使うことを提案している(推奨4、条件付き推奨・エビデンスの確実性は低)3。⚠️ 対象は12歳以上(青少年12歳以上17歳未満・成人・高齢者)と定義されており、確定的治療の代わりではなく、それまでの短期の一時的管理として置かれている3。

用法・用量

⚠️ 反復・過量塗布がの主因になるので、回数と期間の上限が製剤ごとに決まっている。

製剤 添付文書上の用法
20%ゲル(口腔) 2歳以上の成人・小児で患部にえんどう豆大を1日4回まで。・歯科の指示がなければ7日を超えて使わない。12歳未満は成人の監督下で用いる1
20%スプレー(口腔・咽頭) 延長を患部から1〜2インチに置き、0.5秒噴霧(押して直ちに離す)。必要ならもう1回だけ繰り返す。約20秒で効果が出る。2歳以上で1日4回まで2

⚠️ 内視鏡・気管支鏡のは一般用医薬品の添付文書が掲げる用途ではなく、噴霧の回数と時間は施設のプロトコルで定める2。皮膚用の外用薬は患部に薄く塗布する。

禁忌・注意

⚠️ 「使わない」は2つあり、掛かる対象が違う。 米国の一般用医薬品の添付文書はゲル剤・スプレー剤とも Do not use 欄に 「for teething(に)」 と 「in children under 2 years of age(2歳未満の小児に)」 を別々の項目として並べている12。

  • ⚠️ には年齢を問わず使わない。 「2歳以上なら歯固め用に使ってよい」と読み替えない
  • ⚠️ 2歳未満には用途を問わず使わない。 でもでも同じ
  • 「カイン」系(・ブタカイン等)へのアレルギーの既往がある患者には使用しない1
  • 欠損症・先天性欠損などのがある患者では発症リスクが高い(⚠️ ただしこれは薬理学的な高リスク群であって、上記の添付文書が禁忌として掲げているものではない)
  • やなど他のを起こす薬剤との併用でリスクがされる
  • 内視鏡・気管支鏡での反復・大量スプレーはができなくなるため回数を守る
  • スプレー剤には「内容物をに濃縮して吸入する誤用は有害または致死的となりうる」という注意が置かれている2

副作用

頻度 内容
高頻度 部位の一過性
注意 、皮疹
重篤・まれ (チアノーゼ、酸素投与に反応しない・の値が改善しない)

⭐ 添付文書が患者に示している「受診すべき徴候」がそのまま鑑別の手がかりになる。 蒼白・灰色ないし青色の皮膚(チアノーゼ)、頭痛、頻脈、呼吸困難、めまい・、倦怠感——これらが出たら使用を中止して直ちに受診するよう求められている1。⚠️ 以前に問題なく使えた患者でも起こりうると明記されており、「前回大丈夫だったから」は安全の根拠にならない1。

⚠️ の治療はだが、欠損症では効果が乏しく溶血を悪化させ得る。 による還元反応自体が依存性の経路を必要とするため、欠損が疑われる場合はやなど別の対応を検討する。

まとめ

  • 末端のを欠く特殊な。生理的pHでほぼ完全に。
  • 水溶性に乏しく注射できないため、の中で唯一「専用」。
  • 内視鏡・気管支鏡前の咽頭スプレーなど粘膜からの反復吸収がの主な原因になる。用法の上限(ゲルはえんどう豆大を1日4回・7日まで、スプレーは0.5秒噴霧を最大2回・1日4回)がそのものである。
  • 添付文書の「使わない」は(年齢を問わず)と2歳未満(用途を問わず)の2本立てで、どちらか一方だけの制限ではない。欠損症は薬理学的な高リスク群として別に押さえる。
  • 歯科では、確定的治療にすぐ到達できない(症候性を含む)に対する短期のつなぎとして、10%または20%の外用が条件付きで提案されている(12歳以上が対象)。
  • はチアノーゼと値の解離が手がかり。
  • 治療のは欠損症では無効・有害になり得るため使い分けが要る。

出典

  1. 1.ANBESOL MAXIMUM STRENGTH- benzocaine gel(DailyMed(米国国立医学図書館。Foundation Consumer Brands の一般用医薬品添付文書)・2026)DailyMedの現行版(version 5、2026年6月23日公開)の全文をHTMLで読んで確認した。①有効成分がベンゾカイン20%で、用途は歯痛・歯肉痛・アフタ性潰瘍・矯正装置・軽微な歯科処置・義歯による口腔と歯肉の痛みの一時的緩和であること。②警告欄の筆頭が「METHEMOGLOBINEMIA WARNING」で、本剤の使用がメトヘモグロビン血症を起こしうること、以前に使用したことがあっても起こりうること、蒼白・灰色ないし青色の皮膚(チアノーゼ)・頭痛・頻脈・呼吸困難・めまいやふらつき・倦怠感が現れたら使用を中止して直ちに受診することを求めていること。③「Do not use」欄が「for teething」と「in children under 2 years of age」の2項目を並べていること——歯牙萌出時痛への使用は年齢を問わず不可、2歳未満は用途を問わず不可という、掛かる対象の異なる2つの禁止である。④プロカイン・ブタカインなど「カイン」系局所麻酔薬へのアレルギーの既往がある者は使用しないこと。⑤用法が「2歳以上の成人および小児は患部にえんどう豆大を1日4回まで、または医師・歯科医師の指示に従う」であり、医師・歯科医師の指示がなければ7日を超えて使用しないこと、12歳未満では成人の監督下で使うこと、2歳未満は使用しないことが用法欄でも重ねて示されていること閲覧 2026-09-07
  2. 2.HURRICAINE TOPICAL ANESTHETIC- benzocaine spray(DailyMed(米国国立医学図書館。Beutlich Pharmaceuticals の一般用医薬品添付文書)・2025)DailyMedの現行版(version 42、2025年5月23日公開)の全文をHTMLで読んで確認した。①ベンゾカイン20%の口腔用スプレーで、投与経路がORAL, DENTAL, PERIODONTAL、規制上は一般用医薬品モノグラフ(M022)に基づく製品であること。②噴霧の手順が「延長チューブを患部から1〜2インチの位置に置き、0.5秒噴霧する(アクチュエータを押して直ちに離す)。必要ならもう1回繰り返す。約20秒で麻酔が得られる」であり、2歳以上の成人・小児で1日4回までとされること、12歳未満は監督下で用い、2歳未満には使用しないこと。③本剤にも「Methemoglobinemia warning」が置かれるが文言はゲル剤と完全には同じではなく、ゲル剤の a rare but serious condition に対し本剤は a serious condition で rare but を欠くこと。「Do not use」については、「Do not use」に「for teething」「in children under 2 years of age」が並ぶこと。④「意図的に内容物を濃縮して吸入する誤用は有害または致死的となりうる」という注意が置かれていること。⚠️ 本添付文書の用途に内視鏡・気管支鏡の前処置は挙がっていない(一般用医薬品としての用途は口腔・咽頭の軽微な痛みの緩和である)閲覧 2026-09-07
  3. 3.Evidence-Based Clinical Practice Guideline for the Temporary Pharmacologic Management of Acute Dental Pain — Toothache in Adolescents, Adults, and Older Adults With No Immediate Access to Definitive Dental Treatment (chairside guide)(American Dental Association, University of Pittsburgh School of Dental Medicine, University of Pennsylvania School of Dental Medicine・2024)PDF全文をpdftotextで読んで確認した。本ガイドラインが対象とする「歯痛(toothache)」は症候性歯髄炎(可逆性または症候性不可逆性歯髄炎で、症候性根尖性歯周炎の有無を問わない)と歯髄壊死+症候性根尖性歯周炎または急性根尖膿瘍であり(脚注2)、確定的歯科治療(抜髄・非外科的根管治療・膿瘍の切開排膿・抜歯)がすぐに受けられない状況にのみ適用されること(脚注1)、対象年齢が青少年12歳以上17歳未満・成人17歳以上65歳未満・高齢者65歳以上と定義されていること(脚注3)。推奨4が「For the short-term temporary management of toothache prior to definitive dental treatment in adolescents, adults, and older adults, the guideline panel suggests the use of 10% OR 20% topical benzocaine compared with not using topical benzocaine (Conditional, Low certainty)」であり、10%または20%の外用ベンゾカインを使わない場合と比べて使うことを提案する条件付き推奨(エビデンスの確実性は低)であること。臨床経路の図でもベンゾカインは「Topical anesthetic (optional)」として短期の一時的管理の枠に置かれ、鎮痛薬による受診後の疼痛管理と併存する位置づけであることを確認した閲覧 2026-09-07