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Disease Atlas · 血液 · 疾患

メトヘモグロビン血症

Methemoglobinemia

臓器系
血液
科目
BiochemistryPharmacologyInternal MedicineForensic MedicineDermatologyPediatrics
トピック
生化学 4/3:解糖系生化学 1/5:ヘモグロビンとミオグロビンの構造-機能相関薬理学 A10:局所麻酔薬薬理学 C2:抗抗酸菌薬(抗結核薬)内科学 L-81:意識障害の内科的原因法医学 31:一酸化炭素中毒とヒ素・シアン化物・鉛・メタノール中毒皮膚科 3-15:自己免疫性水疱症小児科 2-02:小児腫瘍救急
鑑別疾患
一酸化炭素中毒
原因薬剤
ベンゾカインリドカインダプソンプリマキンラスブリカーゼニトログリセリンニトロプルシドナトリウム
症状
チアノーゼ頭痛めまい呼吸困難倦怠感錯乱痙攣昏睡
検査値
動脈血液ガス

🧠 全体像は、ヘモグロビンのがFe2+(酸素を運べる型)からFe3+(酸素と結合できない型)へ酸化された状態が異常に蓄積する病態である。健康な人でも自動酸化により常に少量のメトヘモグロビンが生じているが、通常は還元酵素がそばから元に戻している。発症するのは「酸化が増えたか」「還元が追いつかないか」のどちらかであり、このが先天性・後天性の分類の骨格になる。診断の核は「酸素投与に反応しないチアノーゼ」と「SpO2との解離」で、確定にはCO-オキシメトリを要する。治療の中心はだが、その有効性自体がもう一つの還元系(NADPH経路)に依存するため、では話が単純ではない。

原因

は先天性(還元酵素・ヘモグロビン自体の異常)と後天性(を起こす薬物・毒物への曝露)に大別される。

先天性

機序 遺伝形式 特徴・予後
I型 可溶性(赤血球型)酵素のみが欠損 赤血球に限局。チアノーゼのみで生命予後は正常
II型 可溶性・(ミクロソーム型)の両方が欠損し全身の細胞に及ぶ チアノーゼに加え脳症・・重度知的障害などの進行性神経症状を伴い、多くは10歳までに死亡する予後不良な型
のヘム近傍のアミノ酸置換(多くは→チロシン)によりFe3+型が構造的に安定化し、還元酵素の基質になりにくい 常染色体優性 CYB5R3活性は正常。出生時からチアノーゼを示すが無症状のことが多い

⚠️ 先天性の機序はCYB5R3欠損だけではない。 は還元酵素ではなくグロビン構造自体の異常であり、機序も遺伝形式も別枠として区別する必要がある。

後天性

酸化性の薬物・への曝露が主体で、CYB5R3活性が低いやG6PD欠損など先天性の素因があると、同じでも発症しやすい。

病態

正常な赤血球でも自動酸化により少量のメトヘモグロビンが絶えず生じているが、還元系がこれを速やかにFe2+へ戻すため定常状態では1〜2%程度に保たれている。この還元系は性質の異なる2系統からなる。

系統 生理的な役割
NADH-b5還元酵素(CYB5R3)系 由来のNADH 生理的還元のほとんどを担う主経路
NADPH- (G6PD)由来のNADPH 生理的にはほとんど働かない予備経路
flowchart TD
    A["ヘモグロビンFe2+は自動酸化により<br>常に少量がFe3+(メトヘモグロビン)へ変化"] --> B{"産生の増加か<br>還元の破綻か"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>の増加"| C["酸化性の薬物・毒物への曝露"]
    B -->|"還元酵素の欠損"| D["CYB5R3欠損(先天性I型・II型)"]
    B -->|"還元されにくいHb"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemoglobin M disease'>ヘモグロビンM症</span>"]
    C --> F["メトヘモグロビンの蓄積"]
    D --> F
    E --> F
    F --> G["酸素と結合できない<br>残る<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygenated hemoglobin, HbO₂'>酸素化ヘモグロビン</span>の解離曲線も<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left shift'>左方移動</span>"]
    G --> H["組織への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial oxygen supply'>酸素供給</span>が低下"]

💡 が効く理由はここにある。 ふだんほとんど働かないNADPH-系は、を投与すると外因性の体()として働き、この予備経路を人為的に活性化する。つまりの効果はNADPHを供給できるかどうか、すなわちG6PD経路が機能しているかどうかに依存する。

メトヘモグロビンが増えると単にが減るだけでなく、同じヘモグロビン内でFe3+サブユニットがFe2+サブユニットのを高め、させる。その結果、残ったも組織へ酸素を放出しにくくなり、見かけの濃度以上にが重くなる。

臨床像

症状はメトとおおむね相関するがが大きい。

濃度の目安 主な症状・所見
10%未満 無症状のことが多い
約10% チアノーゼが明らかになり始める
約15%以上 採血した血液が「チョコレート色」になる
15〜20% 不安、めまい、頭痛
30〜50% 頻呼吸、低下
50%前後以上 痙攣、不整脈、代謝性アシドーシス、昏睡のリスク
70%超 しばしば致死的

チアノーゼがあるのに呼吸・循環の診察所見に乏しく、酸素投与しても改善しない」 という組み合わせが最大の手掛かりである。頭痛めまい呼吸困難感は一般と見分けがつきにくく、重症になると痙攣昏睡に至る。

診断

パルスオキシメトリの限界

⚠️ 通常の(2波長式)はを除外できない。 メトヘモグロビンは660nmと940nmの両方の光を強く吸収するため、が1.0に近づくとSpO2は実際の濃度によらずおよそ85%前後で頭打ちになる。一方、は血漿に溶けたを反映するため正常のことが多く、SpO2と(あるいは実測の動脈血)が乖離するのが特徴的な所見になる。

確定診断

多波長のCO-オキシメトリでメトを直接測定するのが確定検査である。採血した血液が空気に触れても赤変せず、チョコレート色のまま変わらない点もベッドサイドの手掛かりになる。

flowchart TD
    A["酸素投与に反応しないチアノーゼ"] --> B["通常のSpO2と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial oxygen partial pressure'>PaO2</span>を確認"]
    B --> C{"SpO2が約85%前後で頭打ち<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial oxygen partial pressure'>PaO2</span>は正常"}
    C -->|"乖離あり"| D["CO-オキシメトリで<br>メト<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemoglobin concentration'>ヘモグロビン濃度</span>を直接測定"]
    C -->|"乖離なし"| E["心肺疾患やCO中毒など<br>他の原因を再評価"]
    D --> F["原因薬物・毒物の曝露歴と<br>G6PD欠損の有無を確認"]
    F --> G["濃度・症状に応じて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

を障害しヘモグロビン由来の色調異常を来す点で紛らわしいが、皮膚色調はむしろ保たれることが多く(古典的な「」はまれ)、通常のだけでは信頼できない点は共通する。への曝露歴の聴取が鑑別の鍵になる。

治療

  1. 原因となる薬物・毒物を直ちに中止・除去する。
  2. 酸素を投与する。メトヘモグロビン自体には作用しないが、残る正常ヘモグロビンの酸素化を最大化する意味で行う。
  3. 症状がある、または無症状でも高濃度(目安として20〜30%以上)ならの適応を検討する。

で、外因性体としてNADPH-系をし、Fe3+を速やかにFe2+へ戻す。効果は通常30〜60分以内に現れ、不十分なら追加投与を検討する。投与量・追加投与のタイミングは施設のプロトコル・添付文書で確認する。

⚠️ ではの評価が単純ではない。 の作用機序自体がG6PD由来のNADPH供給に依存するため、G6PD欠損があれば理論上効果が乏しい。加えて自体がとなり、G6PD欠損赤血球の溶血を悪化させうる。近年の知見では通常用量でのというより「議論があり慎重投与」という位置づけに近いが、実臨床では溶血が悪化した症例報告も続いており、G6PD欠損が既知・強く疑われる場合は投与を避けるか最小限にとどめ、高用量など他の手段を検討する。

⚠️ 的に重要な例外がある。 の治療で用いるは、にメトヘモグロビンを作りを捕捉させる薬剤だが、同時曝露が疑われる患者には投与しない。 すでにが落ちている状態でさらにメトヘモグロビンを増やすと有害である。

のように代謝が遅く半減期の長い原因薬物では、投与後にいったん改善してもメトヘモグロビンが(リバウンド)することがあり、反復測定と必要に応じた追加治療を要する。

まとめ

  • がFe2+からFe3+へ酸化された状態が蓄積した病態で、常に「産生の増加」か「還元の破綻」のどちらかが背景にある。
  • 先天性はCYB5R3欠損(I型=赤血球限局で予後良好、II型=全身型で神経症状を伴い予後不良)とに分かれ、機序が異なる。
  • 生理的な還元はNADH-CYB5R3系が担うが、はふだん使われないNADPH経路を人為的にして効く。
  • 診断の核は酸素投与に反応しないチアノーゼとSpO2・の乖離で、SpO2は約85%前後で頭打ちになる。確定にはCO-オキシメトリを要する。
  • 治療の中心はだが、では効果が乏しく溶血を悪化させうるため、代替手段を含め慎重に判断する。