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Disease Atlas · 血液 · 腫瘍

ランゲルハンス細胞組織球症

Langerhans cell histiocytosis

別名
LCHヒスチオサイトーシスX好酸球性肉芽腫症
臓器系
血液腫瘍運動器小児
科目
PathologyPulmonology and Thoracic SurgeryPediatrics
トピック
病理学 A/46:喫煙関連障害の病理呼吸器内科 39:原因が明らかな間質性肺疾患小児科 1-20:小児の肝腫大・脾腫
鑑別疾患
Birt-Hogg-Dubé症候群Erdheim-Chester病Rosai-Dorfman病骨髄炎若年性黄色肉芽腫
合併症
尿崩症
治療薬
プレドニゾロンシタラビンベムラフェニブ
症状
骨痛皮疹耳漏多尿肝腫大脾腫眼球突出
画像所見
溶骨性病変薄壁嚢胞下垂体MRI

🧠 全体像:(LCH)は、正常な皮膚とは別物のが、MAPK経路(多くはBRAF V600E)のによってクローン性に増殖し、骨・皮膚・下垂体・肺・肝脾・骨髄など全身のどこにでも肉芽腫様病変を作る疾患である。臨床の分かれ目は一つ——病変が単一臓器・単一にとどまるか、それとも肝・脾・骨髄という「」を巻き込むか——であり、これが治療強度と予後をほぼ決定する。単一のは経過観察やだけで軽快しうる一方、陽性のは無治療なら致死的になりうるの対象である。

病態:骨髄系樹状細胞前駆細胞のクローン性増殖

LCHの病変を構成する「LCH細胞」は、表皮に常在する正常なとCD1a・CD207(langerin)・S100という免疫染色プロファイルを共有するが、由来は別であり、にコミットしたがクローン性に増殖したものである1。この増殖を駆動するのが、MAPK(RAS-RAF-MEK-ERK)経路のどこか一段階に入るで、最多はBRAF V600E(50〜60%)、MAP2K1などを含めるとMAPK経路の変異はLCH全体の約8割に及ぶ2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myeloid'>骨髄系</span>にコミットした<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dendritic cell'>樹状細胞</span>前駆細胞"] --> B["MAPK経路の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatic activating mutation'>体細胞活性化変異</span><br>(BRAF V600Eが最多、約50〜60%)"]
    B --> C["ERKの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constitutive activation'>恒常的活性化</span>"]
    C --> D["CD1a・CD207(langerin)・S100陽性の<br>クローン性「LCH細胞」の蓄積"]
    D --> E["好酸球・リンパ球・マクロファージを伴う<br>肉芽腫様病変の形成"]
    E --> F{"病変が単一臓器・単一<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lesion (focal)'>病巣</span>か<br>多臓器・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organ at risk, OAR'>リスク臓器</span>陽性か"}
    F -->|"単一系統"| G["骨・皮膚・リンパ節などに限局<br>(低リスク)"]
    F -->|"多系統+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organ at risk, OAR'>リスク臓器</span>"| H["肝・脾・骨髄を巻き込む<br>全身性病変(高リスク)"]

💡 病理組織では、CD1a・CD207陽性細胞が病変細胞のごく一部(10%未満)を占めるにすぎず、大半は好酸球・リンパ球・マクロファージなどの反応性浸潤細胞が占める。「」という古い名称は、このの組織像に由来する。

分類:単一系統か多系統か、リスク臓器を含むか

現行の層別化は、正式なではなく病変臓器の広がりに基づく1。

病型 定義 予後
単一系統・ 1臓器の1のみ(が最多) 最も良好。・経過観察のみで軽快しうる
単一系統・多発性 1臓器に複数(多発など) 良好だがより治療を要することが多い
多系統性・陰性 複数臓器(骨・皮膚・リンパ節・下垂体など)に病変があるが肝・脾・骨髄は正常 致死的になることはまれだが、・のリスクは高い
多系統性・陽性 肝・脾・骨髄のいずれかに病変(血球減少・・脾腫として現れる) 最も予後不良。治療開始後6週間の反応が不良な例では死亡率が約35%に達しうる2

⚠️ 肺病変・骨格病変単独はもはやに含まれない。 小児の肺単独LCHは高リスク病変として扱わない2。成人の肺LCHは小児とは背景が異なり、喫煙がほぼ必発の危険因子である(肺LCHの生検例48例〔15〜54歳、中央値33歳〕の臨床病理学的検討では全例が喫煙者であった)3。

臨床像

部位 所見
骨(最多) 頭蓋骨を筆頭に、患者の最大50%にがみられる1。・局所腫脹で発症することが多い
皮膚 様の発疹(乳児の頭皮では「長引く乳児」とされやすい)から、紫斑を伴う皮疹、まで幅がある
・耳 慢性の・外耳道・による難治性中耳炎様の像を呈し、単なる中耳炎とされやすい
下垂体・視床下部 への浸潤により中枢性(多尿・)を来す。が多いほど、またが長く活動性であるほどリスクが増す
肝・脾・骨髄() ・脾腫、血球減少。これらの臓器病変の有無が治療強度を左右する
眼窩 による
肺 成人ではほぼ喫煙者にみられると、上・中優位の(肺LCH=PLCH)。・とともにの主要鑑別に入る
中枢神経() 振戦・失調・・精神症状が数年かけて進行する遅発性の合併症で、1〜4%にみられる。下垂体病変・BRAF変異・を持つ患者でリスクが高い2

💡 「なぜ耳鼻科・整形外科・小児科の各科で見た目の違う疾患に見えるのか」は、同じクローン性前駆細胞病変がどこに現れるかだけの違いだからである。 難治性中耳炎、治らない、原因不明の・、説明のつかない——いずれもLCHを鑑別に残す所見であり、単独では非特異的でも、複数が重なれば疑いが強まる。

診断

確定診断はでの免疫染色による。CD1a陽性および/またはCD207(langerin)陽性のが、好酸球・リンパ球・マクロファージを伴う病変を形成していることを確認する1。でのの証明はかつて必須とされたが、CD207染色で代替でき、現在は必須ではない。

診断確定後は病変の広がりを評価する。(より感度が高いとされる)、造影を含む頭部MRI(下垂体病変やのリスク評価)、多系統病変を疑う例ではを行う。末梢血・でのBRAF変異検査はと(の適応判断)に用いる2。

治療

治療強度は単一系統・か、多系統・陽性かでほぼ決まる。

flowchart TD
    A["生検でLCHを確定"] --> B["病変の広がりを評価<br>(骨X線・頭部MRI・必要なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow examination'>骨髄検査</span>)"]
    B --> C{"単一系統・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solitary (unifocal)'>単発性</span>か"}
    C -->|"はい"| D["経過観察、または病変<span class='jp-term jp-term-diagram' title='curettage'>搔爬</span>・限局的治療"]
    C -->|"いいえ:多発性・多系統"| E{"肝・脾・骨髄(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organ at risk, OAR'>リスク臓器</span>)を<br>侵しているか"}
    E -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic chemotherapy'>全身化学療法</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prednisolone'>プレドニゾロン</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vinblastine'>ビンブラスチン</span>)"]
    E -->|"はい"| G["より強力な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic chemotherapy'>全身化学療法</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prednisolone'>プレドニゾロン</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vinblastine'>ビンブラスチン</span>を軸に強化)"]
    F --> H{"BRAF V600E変異陽性かつ<br>難治・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relapse'>再燃</span>"}
    G --> H
    H -->|"はい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='BRAF inhibitor'>BRAF阻害薬</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vemurafenib'>ベムラフェニブ</span>等)を検討"]
  • 単一系統・の:や、無治療での経過観察のみで軽快することが多い。
  • 多系統性(陰性・陽性を問わず):系ステロイドとを軸とするが標準治療である(国際試験の多くは同効薬ので実施されており、本稿ではその等価薬として国内で汎用されるの表記に統一する)。国際(LCH-III)では、この併用療法を12か月継続した群で全生存率84%が得られた2。
  • ⭐ 治療期間を6か月から12か月へ延長すると、低リスク群のが54%から37%へ低下する。 短期間で切り上げず、一定期間の継続投与が予防につながる2。
  • 難治・例:などを含むが選択肢になる。
  • ⚠️ BRAF V600E変異陽性の難治性・高リスク病変にはなどのが臨床的を示すが、多くの症例が中止後にする。 標的薬は「治す」薬というより「を抑え込む」薬として位置づけ、化学療法との併用・切り替えのタイミングを個別に判断する2。

予後

早期(治療開始6〜12週)の治療反応性が、診断時年齢よりも予後を左右する強い因子である2。陽性の多系統病変は、この時期の反応が不良な例では歴史的に死亡率が約35%に達したが、早期からの強力な治療介入により全生存率は大きく改善している2。単一系統・病変はまれにしか致死的にならないが、は病型により10〜50%と幅があり、やなど長期にわたるが主な問題になる。

まとめ

  • LCHはがMAPK経路の(BRAF V600Eが最多)でクローン性に増殖する疾患で、正常な皮膚とは由来が異なる。
  • 臨床の骨格は「単一系統・か、多系統・(肝・脾・骨髄)陽性か」で決まり、これが治療強度と予後をほぼ規定する。
  • (最大50%)、脂漏性皮疹、慢性、、肝脾腫、など現れ方は多彩で、いずれも他科でされやすい非特異的所見として現れる。
  • 診断はCD1a・CD207(langerin)陽性細胞の生検確認による。
  • 単一系統・は経過観察・局所治療で足りることが多いが、多系統性は+の(12か月投与でが低下)が標準で、BRAF変異陽性の難治例にはを検討する。
  • 早期治療反応性が最大の予後因子であり、陽性の高リスク群でも早期の強力な治療介入では大きく改善している。

出典

  1. 1.Langerhans Cell Histiocytosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)LCHがCD1a・CD207陽性の骨髄系コミット済み造血前駆細胞のクローン性増殖であること、TET2変異と続発するBRAF・MAPK経路変異の組み合わせが関与しうること、病型を単一系統単発性・単一系統多発性・多系統性(予後最不良)に分類すること、頭蓋骨の溶骨性病変が患者の最大50%にみられること、LCHには正式な病期分類(staging system)が存在せず病変臓器の広がりで層別化することを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Langerhans Cell Histiocytosis Treatment (PDQ®)(National Cancer Institute (PDQ Pediatric Treatment Editorial Board)・2025)LCHが骨髄系樹状細胞前駆細胞に由来しMAPK経路の活性化変異(BRAF V600Eが50〜60%、MAP2K1などを含めるとMAPK経路変異全体で約80%)で駆動されること、リスク臓器を肝・脾・骨髄と定義し肺・骨格病変単独では高リスクに含まれなくなったこと(小児の肺単独病変はもはや高リスクに分類されない)、多系統・リスク臓器陽性型のうち治療開始後6週間の反応が不良な例の死亡率が約35%であったこと、標準治療がビンブラスチン+プレドニゾンでHISTSOC-LCH-III試験では12か月投与により全生存率84%が得られたこと、治療期間を6か月から12か月へ延長すると低リスク群の再燃率が54%から37%へ低下したこと、BRAF V600E変異陽性の難治性・高リスク例にベムラフェニブ・ダブラフェニブなどのBRAF阻害薬が奏効しうるが多くが中止後に再燃すること、中枢性尿崩症の15年累積発生率が約20%(多系統病変で8.9%、LCH-I/II試験で14.2%など病型により異なる)であり頭蓋顔面病変があると相対危険度4.6で増加すること、神経変性LCHが1〜4%に生じ下垂体病変(オッズ比30.88)・BRAF変異(同9.8)・頭蓋底病変(同2.13)と関連すること、早期(治療開始6〜12週)の治療反応性が診断時年齢よりも予後を左右する強い因子であることを確認した。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Pulmonary Langerhans cell granulomatosis (histiocytosis X). A clinicopathologic study of 48 cases(The American Journal of Surgical Pathology・1993)肺ランゲルハンス細胞肉芽腫症48例(年齢中央値33歳、範囲15〜54歳)の臨床病理学的検討で、抄録に「All patients were cigarette smokers.」とあり対象患者全例が喫煙者であったことを確認した。閲覧 2026-09-23