病態生理学

病態生理学 · 1-19

甲状腺機能亢進症の発症機序と症状

Pathogenesis of hyperthyroidism and its symptoms

応用トピック
甲状腺疾患の症状・診断・治療甲状腺機能亢進症甲状腺腫(goiter)の症状・診断・治療内分泌疾患 症例3
疾患
バセドウ病圧迫性視神経症
症状
眼球突出眼瞼後退兎眼

🧠 甲状腺ホルモン過剰 = 全身の「アクセル踏みっぱなし」。 “常に運動しているかのよう”と覚える(頻脈・体重減少・発汗・振戦・暑がり)。原発性は ↓、は 受容体を刺激する自己抗体が犯人。

甲状腺ホルモン生理

  • 軸:TRH → TSH → T4+T3。細胞内で遺伝子発現に作用 → O₂消費↑、BMR↑、ATP回転↑、↑ → 熱 → 皮膚血流↑ → 発汗。合成にヨウ素が必要。

甲状腺機能亢進症の分類

💡 の向きで分ける: 原発性は腺が暴走 → T3/T4↑・TSH↓。続発性は下垂体が暴走 → T4/T3↑・↑または不適切に正常(甲状腺腫)。

flowchart TD
  HYP["甲状腺機能亢進症"] --> PRI["原発性:T3/T4↑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>↓"]
  PRI --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Graves disease'>バセドウ病</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>受容体を慢性刺激する自己抗体)"]
  PRI --> A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic adenoma'>中毒性腺腫</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Graves disease'>バセドウ病</span>の母親から生まれた児の新生児一過性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span>(母体の自己抗体IgGが胎盤を通過)/外因性の甲状腺ホルモン摂取"]
  HYP --> SEC["続発性:T4/T3↑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>↑または不適切に正常 → 甲状腺腫(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>産生<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary adenoma'>下垂体腺腫</span>)"]
  HYP -.->|"鑑別"| DEST["破壊性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span><br>(無痛性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postpartum thyroiditis'>産後甲状腺炎</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='De Quervain / subacute granulomatous thyroiditis'>亜急性甲状腺炎</span>など。合成亢進ではなく漏出。真の機能亢進ではない)"]

💡 破壊性は「甲状腺機能亢進症」ではない。 (de Quervain病)や無痛性・では、濾胞が壊れて貯蔵されていたホルモンが血中に漏れ出すだけで、合成そのものは亢進していない。したがっては低下し、合成を止める(・)は無効である。などの合成亢進型との鑑別はで行う(詳細は甲状腺炎とを参照)。講義資料は(出産後の一過性の)を原発性機能亢進症の原因に並べているが、機序としてはこの破壊性に属するので、上の図では鑑別側に置いた。

続発性の代表である産生は、・が高いのにが高値または不適切に正常であることで疑う(〈〉2016年ガイドライン推奨121)1。「↑」だけで覚えると、正常範囲のを見逃す。原発性のは、甲状腺内の結節がホルモンを作り続ける病型である。

バセドウ病

  • は、受容体刺激自己抗体(TRAb/TSI)が甲状腺を持続的に刺激することで起こる甲状腺機能亢進症(T3/T4↑、↓)。女性30–40歳に好発し、+誘因(ウイルス、ストレス)で発症する。
  • も高率に陽性となるが、これは甲状腺機能低下症()でも陽性になる別の自己抗体であり、受容体を刺激するのはTRAb/TSIである。
  • :
    • 頻脈
  • 💡 (・)と(脛骨前面の)は、他の原因のでは見られずにほぼ特異的な所見である。 甲状腺機能や治療経過とは必ずしも並行せず、TRAbが眼窩・皮膚の線維芽細胞も標的にする別軸の自己免疫過程として進行しうる。
  • 治療: (を第一選択)・(¹³¹I)・手術の3つが対等な選択肢で、β遮断薬は頻脈・振戦などの症状コントロールとして橋渡し的に併用する。

⚠️ の重大な副作用:

  • 。頻度はデンマークの研究で()0.27%・()0.11%、日本の全国データベースで0.1〜0.15%と推定され、成人全体では両薬で約0.3%とも記される。はどの用量でも低用量より起こしやすく、ではである。内服中に発熱・が出たら直ちに服薬を中止し、好中球数を確認して受診する。など重篤な副作用を起こした患者に他方の薬へ切り替えることは、の危険から禁忌とされる。ただし投与中にを起こした患者が生命を脅かす()に陥った場合は、とくに投与期間が短ければ の禁忌を再考しうるとも書かれている1。
  • は・に至りうる重篤な肝毒性()を持つため、漫然と長期の第一選択としては使わない1。
  • ⚠️ 妊娠中の使い分け: は・などの催奇形性()があるため妊娠第1三半期はを用い、第1三半期より後に開始するならを用いる( 2016推奨80、強い推奨)1。は両薬で起こりうるが、によるもののほうが重く、によるものは軽い傾向がある1。
  • ⚠️ 第1三半期にを使った妊婦をにへ切り替えるかは、資料によって書き方が違う。 米国の添付文書は、母体の肝毒性を考えると第2・にはへ切り替えるほうが望ましい場合がある(may be preferable)とする2。一方 2016推奨88は、切り替えても、残りの妊娠期間をで続けてもよいとし、利益と危険を評価する根拠が不十分なため推奨を出していない1。切り替えそのものが一時的な甲状腺機能の乱れを招きうることが、その理由として挙げられている。

⚠️ は中等度以上かつ活動性のでは悪化させうるため避ける(特に喫煙者はリスクが高い)。軽度の活動性でを行う場合はグルココルチコイドの予防投与を併用する3。

臓器への影響(“常に運動中”)

系統 影響
頻脈、SV/CO↑、収縮力↑(心筋Ca²⁺↑)、
血管系 TPR↓(NO↑)→ (脈圧↑)
神経系 ・落ち着きのなさ、振戦、精神病/うつ、。筋障害、骨粗鬆症(50–60%、破骨細胞↑)。(、GAG沈着、浮腫→)
皮膚 発汗・・温感。はにほぼ特異的
消化器(GI) 摂取↑にも体重減少(BMR↑)。GI運動↑でが短くなり吸収不良+下痢。肝障害(壊死・線維化)
腎 RBF/↑
血液 血液量↑(T3→↑)
代謝 /↓、慢性高血糖

甲状腺クリーゼ

まとめ

項目 要点
原発性 T3/T4↑・↓。、、新生児一過性、外因性摂取
続発性 T4/T3↑・↑または不適切に正常・甲状腺腫。産生
破壊性 無痛性・産後・。合成亢進ではなく漏出なので↓、は無効
TRAb/TSIが受容体を刺激。(・・頻脈)。とはほぼ特異的
治療 (が原則)・・手術。β遮断薬で症状を抑える。に注意し、発熱・で中止して受診
妊娠 第1三半期は、それ以降に始めるなら。に切り替えるかは米国添付文書と 2016で書き方が違う
と 中等度以上・活動性のでは避け、軽度・活動性ではステロイド予防を併用する
臓器への影響 「常に運動中」:頻脈・・振戦・骨粗鬆症・発汗・体重減少・下痢
ストレスを誘因とするT4/T3サージ。・・下痢・肝不全・頻脈。β遮断薬→→1時間以上あけて高用量ヨウ素、

出典

  1. 1.2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis(American Thyroid Association・2016)全文(出版社PDFのWayback保存版、2020-03-07取得分)で確認した。無顆粒球症はデンマークの研究でプロピルチオウラシル0.27%・メチマゾール0.11%、日本の全国データベースで0.1〜0.15%と推定され、小児の節は成人でMMIまたはPTU服用者の約0.3%と記す。PTUはどの用量でも低用量MMIより無顆粒球症を起こしやすいとされ、MMIでは用量依存性である。無顆粒球症など重篤な副作用を起こした患者に他方の薬を使うことは交差反応の危険から禁忌とする(ただしMMI投与中の無顆粒球症の患者が甲状腺クリーゼに陥った場合、とくに投与期間が短ければPTUの禁忌を再考しうるとする)。推奨13はMMIを妊娠第1三半期(PTUを優先)・甲状腺クリーゼ・MMIへの軽い反応でRAIや手術を拒む患者を除くほぼ全例に用いるとし(強い推奨)、推奨80は妊娠第1三半期にはPTU、第1三半期より後に開始するならMMIを用いるとする(強い推奨)。推奨88は、第1三半期にPTUを用いた妊婦は第2三半期の初めにMMIへ切り替えても、残りの妊娠期間をPTUで続けてもよいとし、利益と危険を評価する根拠が不十分なため推奨なし(No recommendation)とし、PTUの副作用の危険を、切り替えが一時的な甲状腺機能異常を招く危険と比べて考えるべきだとしている。先天異常は両薬で起こりうるが、MMIによるもののほうが重く、PTUによるものは軽い傾向があると述べる。甲状腺クリーゼの表はヨウ素を抗甲状腺薬の1時間後まで開始しないとする。推奨121はTSH産生下垂体腺腫の診断を、FT4・総T3高値に伴う不適切に正常または高値のTSHに基づくとする。閲覧 2026-08-14
  2. 2.PROPYLTHIOURACIL TABLETS, USP - Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration・2015)PDF全文(12頁、Reference ID 3699805)で確認した。PRECAUTIONSのPregnancyは逐語で「propylthiouracil may be the preferred agent during organogenesis, in the first trimester of pregnancy. Given the potential maternal adverse effects of propylthiouracil (e.g., hepatotoxicity), it may be preferable to switch from propylthiouracil to methimazole for the second and third trimesters.」と述べる。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Comparison of the 2021 EUGOGO guidelines and the 2022 ATA/ETA consensus statement for the management of Graves' orbitopathy(European Thyroid Journal(Bartalena et al.)・2025)全文(PMC12687763)で確認した。EUGOGO 2021は、軽症・活動性の甲状腺眼症で放射性ヨウ素治療を選ぶなら低用量プレドニゾンによるステロイド予防を行い、中等度〜重症で活動性なら抗甲状腺薬が望ましく放射性ヨウ素を避けるとし、中等度〜重症で非活動性の例に放射性ヨウ素を用いるときは喫煙者など再燃リスクのある患者でステロイド予防を考慮するとしている。ATA/ETA 2022の合意声明も、中等度〜重症・活動性では放射性ヨウ素を避け、軽症の眼症では多くの場合ステロイド予防を併用するとしている。喫煙は放射性ヨウ素治療とともに甲状腺眼症の外因性危険因子に挙げられている。閲覧 2026-08-14