症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

兎眼

Lagophthalmos

別名
兎眼症閉瞼不全
臓器系
眼科神経
科目
AnatomyNeurologyPathophysiology
トピック
解剖学 7.2:頭部:頭皮と顔面神経内科 G1-02:顔面神経障害の症候病態生理学 1-19:甲状腺機能亢進症の発症機序と症状
関連疾患
小脳橋角部腫瘍

🧠 全体像は、が「瞼縁そのものの位置の異常」であるのとは別の軸に立つ——という運動の結果の異常であり、瞼縁の位置が正常でも起こりうる(などのでは瞼縁の位置は正常なのに閉じられなくなる)。この独立性こそ本ノートの存在理由である。臨床の核心は2つ——①が完全に達成できない機序を群でまとめて鑑別に使うこと、②同じ量のでもの重症度を大きく左右するのはの有無であり、診察でここを確認するのが実用上の要であることである。

定義と用語の整理

「まぶたが閉じない」という訴え・所見の背景には、瞼縁の位置の異常と、という機能の異常という、別次元の2つの異常があり得る。

用語 異常の種類 との関係
という運動の結果の異常。瞼縁の位置そのものは問わない 本ノートの主題
瞼縁そのものの位置の異常 とは別次元の異常。位置が正常でもは起こりうるし、があっても自体は可能なことがある
の結果として角膜が持続的に外気へ晒され、により上皮が障害された状態 の下流にある合併症であり、そのものではない
覚醒時の随意は保たれるが、睡眠中の弛緩によりが不完全になる の一亜型。軽いでのみ現れ、強いでは気づかれないことがある

病態生理

という運動のどこが壊れるかで、は5つの機序群に分かれる。

の有無が予後を大きく左右する。 を試みた際に眼球がする生理的な防御反射がであり、これが保たれていれば角膜下方が瞼で覆われて曝露が軽減される。を欠くは、同じ量でも角膜障害がより重くなる3。ただし自体、睡眠中には陽性率が42%程度にとどまるという報告があり、で角膜が保護されるとは限らない2

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid closure'>閉瞼</span>を試みても<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpebral fissure'>瞼裂</span>が完全に閉じない"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial nerve palsy'>顔面神経麻痺</span>の随伴所見があるか"}
    B -->|"あり"| C["麻痺性を疑う<br>中枢性か末梢性か、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Bell palsy'>ベル麻痺</span>かを鑑別"]
    B -->|"なし"| D{"熱傷・化学外傷・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid surgery'>眼瞼手術</span>歴があるか"}
    D -->|"あり"| E["瘢痕性を疑う"]
    D -->|"なし"| F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exophthalmos'>眼球突出</span>・眼瞼腫瘍があるか"}
    F -->|"あり"| G["機械性を疑う"]
    F -->|"なし"| H{"全身麻酔・ICU鎮静下か"}
    H -->|"あり"| I["医原性を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid closure'>閉瞼</span>が保たれているか確認"]
    H -->|"なし"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nocturnal lagophthalmos'>夜間兎眼</span>を疑う<br>軽い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid closure'>閉瞼</span>でのみ現れないか確認"]
    C --> K["軽い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid closure'>閉瞼</span>・強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid closure'>閉瞼</span>の<br>両方で残存<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpebral fissure'>瞼裂</span>幅をmmで実測"]
    E --> K
    G --> K
    I --> K
    J --> K
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Bell&#39;s phenomenon'>Bell現象</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal sensation'>角膜知覚</span>を確認し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescein staining'>フルオレセイン染色</span>で曝露の程度を評価"]

対応の考え方

そのものを治すことではなく、角膜を守ることが目的という順序が核になる。

  • 一時的処置無添加の頻回点眼、夜間の潤滑、眼瞼で眼表面を保護する2
  • :上眼瞼への金・白などがある1
  • 可逆性か非可逆性かで選択が決まる。 のように数週間以内の回復が見込まれる例では一時的縫合など可逆的な処置にとどめ、麻痺が恒久的・長期化する例ではなど恒久的な手術へ進む3
  • 原因治療(の治療、の眼窩病変への対応など)はそのものへの対応と並行して進める。

まとめ

  • という運動の結果の異常であり、瞼縁の位置の異常であるとは別次元にある。瞼の位置が正常でも起こりうる点が本ノートの存在理由である。
  • 機序は麻痺性(、最多)・瘢痕性(熱傷・化学外傷・術後瘢痕)・機械性(・眼瞼腫瘍)・・医原性(鎮静下・全身麻酔下の消失)の5群に整理する。
  • の有無が予後を大きく左右し、同じ量でもを欠く例は角膜障害が重くなる。診察でを確認することが実用上の核である。
  • 最も見逃してはいけないのはから角膜潰瘍・穿孔への進展で、)を合併すると症状のないまま進行する。
  • 対応は角膜保護が目的であり、一時的処置(潤滑点眼・)と)を、原因の可逆性・非可逆性で使い分ける。

出典

  1. 1.Lagophthalmos(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)兎眼が涙膜の安定と眼表面の健康維持に必要な完全閉瞼ができない状態であること、麻痺性兎眼が最多で顔面神経麻痺(米国では年間10万人あたり30〜40人、うちベル麻痺が80%を占める)に起因すること、瘢痕性(化学熱傷・眼瞼類天疱瘡・Stevens-Johnson症候群など眼瞼組織への傷害)と夜間性という分類があること、診察では眼瞼辺縁間の残存瞼裂幅の実測・角膜知覚検査・フルオレセイン染色による点状上皮糜爛の確認を行うこと、治療が防腐剤無添加人工涙液・夜間軟膏・眼瞼テープなどの一時的処置と金/白金重錘挿入・瞼板縫合(数週間以内の回復が見込まれる場合の一時的選択)・眼瞼緊張術などの外科的治療に分かれ、選択が重症度・持続期間・病因・患者の年齢と期待に基づくことを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Lagophthalmos Evaluation and Treatment(American Academy of Ophthalmology (EyeNet Magazine)・2008)Bell現象が眼瞼閉鎖を試みた際に眼球が上転する反射であり、この反応が保たれていれば角膜がより良く保護され曝露による障害の重症度が軽減されること、診察では下方視と閉瞼を指示して上下眼瞼縁間の残存瞼裂幅をミリメートル単位で測定し眼輪筋の力・瞬目の頻度と完全性も評価すること、フルオレセイン染色では特に下部角膜の上皮欠損に注目すること、治療方針が数週間以内の回復が見込まれる可逆例では側方三分の一を縫合する一時的瞼裂縫合、非可逆・長期例では永久瞼裂縫合・金の重り挿入・眼瞼短縮術など回復期間の予測に基づいて分かれることを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Exposure Keratopathy(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)兎眼の原因分類が麻痺性(顔面神経障害)・眼瞼構造異常・瘢痕性(過度な瘢痕形成または眼瞼手術時の過度な切除)・生理的(夜間兎眼など)の4群に分かれること、鎮静薬・筋弛緩薬がまばたき反射とBell現象の両方を障害するためICU鎮静下患者の兎眼発生率が21〜75%と報告されていること、夜間兎眼が一般人口の最大23%に何らかの程度でみられること、Bell現象は睡眠中には234人中42%でしか陽性でないという報告があること、治療の基本が防腐剤無添加人工涙液の頻回点眼と夜間の潤滑軟膏であり難治例では眼瞼形成術などの外科的治療に進むことを確認した。閲覧 2026-08-03