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Symptoms · Published

化学眼外傷

Chemical eye injury

別名
眼化学外傷眼薬傷角膜化学外傷
臓器系
眼科
科目
HistologyPathologyPharmacology
トピック
組織学 17.1:感覚器:眼病理学 A/04:凝固壊死(臓器別の所見)病理学 A/05:融解壊死(液化壊死)薬理学 Core36:先端治療医薬品・ワクチン
起因薬
マラチオン硝酸銀

🧠 全体像は眼科領域で唯一、診断より先に治療を始めるべき病態である。も視力測定もも、すべて大量洗浄のに回す——このノートの節立てそのものがその優先順位を映している。予後を左右するのはただ3つ、受傷物質がアルカリか酸か、洗浄開始までの時間、そしての再生源であるがどれだけ虚血に陥ったかである。

定義と用語の整理

「目に薬品が入った」というの背後にあるは、pHの方向で機序と重症度がまったく異なる。

区分 代表的な物質 損傷機序 深達傾向
アルカリ 、アンモニア、生石灰、セメント・漆喰 脂質をして細胞膜を破壊する 反応が続く限り組織内へ浸透し続け、受傷後も障害が深部へ進行する1
硫酸、 タンパクを変性・凝固させる 凝固した層自体が障壁となり、浅くとどまりやすい1
フッ化水素酸(例外) フッ化水素 イオンが組織を通過する 酸でありながらアルカリのように前眼部全体まで深く浸透する1

「アルカリの方が重篤」という非対称が、の判断を左右する。 同じ受傷直後の見た目でも、アルカリ外傷は酸外傷よりも強い警戒を要し、洗浄をより長く・より入念に行う根拠になる。

病態生理

  • アルカリの機序:脂肪酸のにより細胞膜が破壊され、実質の基質とが壊れる。損傷を受けた組織自体がMMPを含むプロテアーゼを放出するため、洗浄が終わったあとも実質の融解が進み続ける1——病理で言うに近い経過をたどる。
  • 酸の機序:接触したタンパクを直ちに変性・凝固させ、その凝固層自体がそれ以上の浸透を妨げる障壁になる1——で組織の輪郭が保たれ拡大が抑えられるのと同じ構図である。
  • 共通の終末像は虚血。 どちらの機序でも障害が強ければ輪部の血管が閉塞し、を絶えず供給するが失われる。輪部が白く貧血様に見えるほど上皮の再生源そのものが失われていることを意味し、この「血管の白さ」が長期予後を決める。

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ 洗浄前にや検査で時間を使うこと。 ・視力測定・はすべて大量洗浄の後に回す。時間の経過そのものが視力予後に最大の影響を及ぼす1
  • ⚠️ 中和剤を使うこと。 酸性・アルカリ性の溶液で中和しようとすると発熱反応が起こり、追加のを招く1。中和剤ではなくまたは水で大量に洗い流す。
  • ⚠️ 生石灰・セメントの粒子をに残したまま洗浄を終えること。 上下の眼瞼をして円蓋を掃引しなければ粒子は残り、除去しない限り反応が続く1
  • ⚠️ 虚血を過小評価すること。 輪部は幹細胞の座であり、白く貧血様であるほど重症度と予後不良を意味する。見た目の派手さ(・充血)よりも輪部の血流の有無を優先して評価する。
  • ⚠️ の見落とし。 重症熱傷の15〜55%に生じ、前眼部構造の炎症性収縮・中の炎症性微粒子・流出路自体の障害が機序となる1。急性期だけでなく慢性期にかけてもを継続してモニタリングする。
  • ⚠️ ・穿孔、 プロテアーゼによる実質の融解は洗浄後も進行し穿孔に至りうる。の瘢痕は円蓋短縮・として週〜月単位で顕在化する1

初期対応と重症度評価の順序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical substance'>化学物質</span>の眼曝露"] --> B["直ちに大量洗浄を開始<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Anamnesis'>病歴聴取</span>より先)"]
    B --> C["点眼麻酔薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid speculum'>開瞼器</span>を使用可"]
    C --> D["上下眼瞼を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eversion (of foreskin)'>翻転</span>し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fornix'>円蓋部</span>の粒子を除去"]
    D --> E["洗浄後5分以上待って<br>pHを確認"]
    E --> F{"生理的pHで安定したか"}
    F -->|"いいえ"| B
    F -->|"はい"| G["ここで初めて<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Anamnesis'>病歴聴取</span>・視力測定・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp examination'>細隙灯検査</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal limbus'>角膜輪部</span>虚血の範囲を評価"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Roper-Hall classification'>Roper-Hall分類</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dua classification'>Dua分類</span>で<br>重症度を判定"]

輪部虚血の範囲との程度で重症度を分類する。

角膜所見 輪部虚血
I度 上皮障害のみ なし
II度 があるがの詳細は見える 1/3未満
III度 上皮全欠損、実質の詳細が不明瞭 1/3〜1/2
IV度 角膜は不透明、・瞳孔とも不明 1/2超

はこれをさらに6段階へ細分し、輪部侵襲を時計時間(0〜12時間)、侵襲を0〜100%で評価する。区分が細かい分、重症熱傷のではより優れる2

対応の考え方

時間軸で組み立てる。を取り除くことそのものが治療である急性期と、の枯渇というに向き合う慢性期とでは、目標がまったく違う。

  • 急性期(受傷直後〜数週):洗浄の継続に加え、ステロイド点眼(軽症は1日4回、重症は毎時から開始し10〜14日以降に)、(コラーゲン合成の補)、ドキシサイクリン(プロテアーゼ活性の抑制)、無添加を組み合わせ、壊死上皮は炎症源として早期に除去する。中等症以上では受傷後1週間以内を目安にを行い、抗炎症作用との予防を図る1
  • の管理のモニタリングを急性期から慢性期まで継続し、上昇があれば緑内障に準じた治療を行う。
  • 慢性期(への対応):炎症が落ち着いてもなお上皮の再生不全が残る場合、片眼罹患ならからの、両眼罹患ならを検討する。が瘢痕として固定した最重症例ではまで選択肢が広がる1。慢性期にはの破壊によるも残り、無添加の継続を要する。

まとめ

  • は診断より先に大量洗浄を始めるべき唯一の眼科病態で、・視力測定・はすべて洗浄後に回す。
  • アルカリは脂質のにより組織内へ浸透し続け、酸はタンパクの凝固層が障壁となり浅くとどまる(フッ化水素酸は例外)。この非対称がの判断を左右する。
  • 洗浄は生理的pH(7〜7.2)に達するまで続け、中和剤の使用とへの粒子の残置は避ける。
  • 虚血の範囲がの核であり、輪部血管の「白さ」そのものが予後を決める。
  • (重症熱傷の15〜55%)、・穿孔、は急性期から慢性期にかけて起こりうる合併症で、慢性期には移植やが視野に入る。

出典

  1. 1.Chemical (Alkali and Acid) Injury of the Conjunctiva and Cornea(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)化学眼外傷ではアルカリが脂質を鹸化して組織内へ浸透し続けるのに対し酸は変性・凝固したタンパクの層自体が障壁となり浸透が浅くとどまること(フッ化水素酸は例外でフッ化物イオンが深部まで浸透すること)、初期対応は病歴聴取に先立つ直ちの大量洗浄であり生理的pH(7〜7.2)に達するまで最低30分・1〜3L(重症では最大20L)を要し洗浄後最低5分待ってpHを確認すること、中和剤の使用と開放性眼球損傷への洗浄は禁忌であること、重症熱傷の15〜55%に続発緑内障を生じること、急性期はステロイド・アスコルビン酸・ドキシサイクリン・羊膜移植、慢性期は輪部幹細胞移植へと進むことを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Current and Upcoming Therapies for Ocular Surface Chemical Injuries(Ocular Surface (Baradaran-Rafii et al., PMC)・2016)Roper-Hall分類(4段階、角膜混濁の程度と輪部虚血の範囲が1/3未満・1/3〜1/2・1/2超で区分される)と、Dua分類(6段階、輪部侵襲の時計時間0〜12時間と結膜侵襲0〜100%による、より細かい区分)の具体的な等級基準、およびDua分類が重症熱傷の予後予測でRoper-Hall分類より優れることを確認した。閲覧 2026-08-03