病態生理学

病態生理学 · P-1-11

内分泌疾患 症例3

Endocrine disorder, Case 3

前提:病態
甲状腺機能亢進症の発症機序と症状

🧠 やせた28歳女性が、食欲があるのに3か月で9〜10 kg痩せ、・下痢・暑がり・不安・不眠・月経の減少を訴える。 鍵は・・fT4/fT3高値で著明低値・TRAb陽性で、自己免疫性のによる甲状腺機能亢進症と読む。のはで良性の嚢胞であり、の原因ではないとして切り分ける。

症例提示

病歴: 28歳女性。増えてきた多彩な不調をに受診した。食欲は保たれているのに、過去3か月で 9-10 kg の体重減少がある。食事は通常食で、特別な食事制限はしていない。排便回数が多く下痢もあるため、「食べたものがそのまま出てしまう」感覚がある。が強く、ほぼ常に心拍をする。加えて不安感と感がある。夜間に何度も覚醒して睡眠の質が悪い。昨夏は暑さに耐えられず非常につらかった。筋力低下と感をし、集中力低下ともある。月経はこの3か月で減少し、少量出血が2回のみ。の妊娠検査は陰性。母と従姉妹1名にの既往がある。

定期内服はないが、の鎮静性睡眠補助薬(キャットニップ抽出物 含有)を時々1〜2錠服用している。既知の薬剤アレルギーなし。

: 体格中等度の女性。身長: 168 cm、体重: 49 kg、: 17。あり。皮膚は発汗が多く触れると温かい。血圧 158/88 mm Hg、安静時 脈拍 98/min。呼吸数: 20/min。腱反射は亢進し、両側に軽度筋力低下。両手振戦あり。腹部診察で明らかな異常はないが、でを認める。末梢脈拍は良好に触知され、も良好。甲状腺はびまん性に腫大し圧痛なし。左葉に約1 cm の軟らかいを触知する。

: は、 32 mm/h、: 6.8 mmol/L、: 3.6 mmol/L、fT4 と fT3 が、TSH は 0.001 mIU/L(基準: 0.4-4 mIU/L)と著明低値。: ↑↑。TRAb(TRAK): ↑↑

: 甲状腺はびまん性腫大。右葉とに 5-7 mm の嚢胞性病変、左葉にも 1.2 cm の嚢胞性病変を認める。その他の異常所見はない。

: 甲状腺はびまん性に腫大。超音波で見えた部位にを認める一方、その他の領域は集積が均一に亢進している。

結果: 左葉の 1.2 cm 病変を穿刺。吸引細胞診で悪性所見なし。評価は 。

主要な記述と解釈

所見・数値 解釈
「食欲は保たれるが9〜10 kg体重減少」; 「排便回数が多く下痢もある」 過代謝とを示し、甲状腺ホルモン過剰に一致
「が強い」; 脈拍 98/min; 「両手振戦」; ; 不安 甲状腺機能亢進に伴う交感神経・の
血圧 158/88 mmHg(脈圧 70 mmHg) 低下(NO産生亢進)と心拍出量増加によると。甲状腺機能亢進症に特徴的な
「暑さに耐えられない」; 皮膚「発汗が多く触れると温かい」 と熱産生亢進
「あり」 に特徴的な所見
「甲状腺はびまん性に腫大」 単一結節ではなく全体刺激による
fT4・fT3 高値; 0.001 mIU/L(著明に低値) 原発性甲状腺機能亢進症の所見(遊離ホルモン高値によりが負のフィードバックで抑制)
↑↑; TRAb(TRAK)↑↑ 受容体刺激抗体陽性で自己免疫性のを支持。⭐ のでは、新しいTRAb測定(結合法・)はに対して感度96〜97%・特異度99%であり、陽性なら最も多い原因であるを確定できるので、臨床像だけで病因が決まらないときにのよい検査とされる1
6.8 mmol/L(高値傾向); 3.6 mmol/L(低値) 甲状腺ホルモン過剰による糖新生・亢進とインスリン抵抗性でが悪化する一方、回転亢進・受容体活性亢進でコレステロールは低下する。6.8 mmol/Lは糖尿病の基準(7.0 mmol/L以上)には届かず、の域にある
「月経はこの3か月で減少し、少量出血が2回のみ」 甲状腺ホルモン過剰によるSHBG上昇とエストロゲン動態の変化を介した・。⚠️ 「の女性の約半数にが出る」という古い教科書的記述に対し、閉経前の女性214人の検討では、は21.5%(対照群8.4%)にとどまり、大半(78.5%)は月経が正常で、無月経の症例は1例もなかった2。したがってはを疑う手掛かりにはなるが、「無いから否定的」とは言えないし、頻度も過大に見積もらない
:「」だがで良性の びまん性に過機能の甲状腺を背景とした偶発性の良性嚢胞であり、の主因ではない

要点

  • 診断: による自己免疫性甲状腺機能亢進症。
  • 病態生理: 受容体刺激抗体(TRAb)により甲状腺全体が化し、fT4/fT3過剰、抑制を来す。
  • 臨床像: 過代謝症状(体重減少、下痢、)に、症状(頻脈、振戦、不安)を伴う。
  • : とは、よりを支持する。
  • : 「コールド」結節はで良性嚢胞であり、別個の。

出典

  1. 1.2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis(American Thyroid Association・2016)本文で確認した。甲状腺中毒症では病因を特定すべきであり、臨床像と初期の生化学検査で診断が明らかでなければTRAb測定などの検査を行うこと、顕性の甲状腺中毒症では新しいTRAb結合測定・バイオアッセイがバセドウ病に対して感度96〜97%・特異度99%であり、陽性なら最も多い原因を確定できるのでTRAbは費用対効果がよいとしていること(2026-09-24、Wayback保存の誌面PDFで再照合)、大きな結節(とくに4 cm超)や非機能性(コールド)結節の存在は治療法として手術を選ぶ側に働く因子であることを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Menstrual disturbances in thyrotoxicosis(Clinical Endocrinology・1994)抄録の主要結果を確認した。閉経前の甲状腺中毒症女性214人のうち月経周期が不整だったのは46人(21.5%)、正常は168人(78.5%)で、年齢・体重をマッチさせた対照214人では18人(8.4%)が不整だった。無月経の症例は1例もなかった。序論は「甲状腺機能亢進症の女性のほぼ50%に過少月経・希発月経・無月経が伴う」という教科書の記述を挙げ、結論で月経異常との関連は従来考えられていたより少ないとする(単一の甲状腺外来の検討)。月経異常は喫煙とTT4高値に強く関連した閲覧 2026-09-24