病態生理学

病態生理学 · P-1-10

内分泌疾患 症例2

Endocrine disorder, Case 2

前提:病態
急性・慢性副腎皮質機能低下症;先天性副腎過形成

🧠 やせ型の38歳女性が、半年で10 kgの体重減少・筋力低下・悪心・を訴え、も日光浴もしないのに皮膚の色素沈着が目立つ。 鍵は低血圧と起立性低下・Na⁺ 125・K⁺ 6.8()・3.0 mmol/L・色素沈着で、コルチゾールとアルドステロンがともに欠けた()と読む。母の1型糖尿病・姉のは自己免疫性の原因を示唆する。高K血症は心電図変化を伴う救急事態なので、確定検査を待たずにで治療を始める。

症例提示

38歳女性が、筋力低下とをにかかりつけ医を受診した。過去6か月で 10 kg の体重減少があるが、食事制限はしていない。悪心がしばしばあり、食前にめまいを起こしやすい。臥位・座位から立位になるとめまいは増悪する。

血圧: 96/68 mmHg, 脈拍 88/min, 呼吸数: 14/min, 体温 36.5 °C. 立位でが20 mmHg低下した。 身長: 160 cm, 体重: 50 kg, : 19.5.

: やせ型女性では中等度。明らかなを認める(は利用せず、暑熱で体調が悪化するため日光浴も好まない)。肺に異常なし。は整、時々を聴取し、脈は弱い。腹部は平坦で、肝脾は触知しない。重篤な異常はない。を認める。

8月から10月にに対して抗ヒスタミン薬を連用する以外、定期内服はない。既知の薬剤不耐性なし。

家族歴: 母は4歳時発症の 1型糖尿病。34歳の姉は2年前に と診断。に特記事項なし。

その他の検査異常: ECG: 、心拍数: 92/min、軸: 70°。を2発認める。全12誘導で T 波が高く、: 0.32 s。の所見を示唆。注目すべきは 血清ナトリウム: 125 mmol/L、: 6.8 mmol/L、: 3.0 mmol/L。

主要な記述と解釈

所見・数値 解釈
「筋力低下、」; 「10 kgの体重減少 … 食事制限なし」; 「しばしば悪心あり」 コルチゾール欠乏に伴う筋力低下、体重減少、消化器症状
血圧 96/68 mmHg; 立位で収縮期20 mmHg低下; 食前のめまい アルドステロン・コルチゾール欠乏による。食前のめまいは低血糖を反映
「顕著な」(日光曝露なし) コルチゾールの負のフィードバック消失に伴う /MSH 上昇による色素沈着(の特徴)
Na⁺ 125 mmol/L(低値); K⁺ 6.8 mmol/L(高値) アルドステロン欠乏による塩喪失性の低Na血症と高K血症(コルチゾール欠乏によるADH分泌の亢進も低Na血症に加わる)
3.0 mmol/L(低値) コルチゾール欠乏で糖新生が低下し低血糖
心電図: 「全12誘導でT波が高い」、 高K血症に一致する。も伴っており、の前段階として扱う
母 1型糖尿病; 姉 家族内の自己免疫疾患の集積は、(成人ので最も多い原因)を支持する。⚠️ ただし2型(。1型との違い)は、本人に副腎不全と・1型糖尿病が重なるときの診断であり、家族歴だけでは決まらない。原因の確認にはに対する自己抗体を測り、自己免疫性の原因が否定されていない限り、本人の・糖尿病などを定期的に(年1回でよい)スクリーニングする1

要点

  • 診断: ()。家族歴から自己免疫性が強く疑われ、本人に・1型糖尿病が見つかれば2型となる。確定には標準用量(250 µg)ので、30分または60分のコルチゾール頂値が500 nmol/L(18 µg/dL)未満であることを確かめる(測定法に依存)1。
  • 病態生理: 副腎皮質破壊によりコルチゾールとアルドステロンがともに欠乏。
  • コルチゾール欠乏の症状: 易疲労、体重減少、悪心、低血糖。
  • アルドステロン欠乏の症状: 低Na血症、高K血症、(塩喪失)。
  • 鑑別上の特徴: 高値に伴うは、続発性ではなくを示唆。
  • 危険性: ⚠️ K⁺ 6.8 mmol/L かつという所見はそれ自体が致死的不整脈を来しうる救急事態であり、など確定検査の結果を待たず、の是正との投与を直ちに開始すべきである。具体的には100 mgを静注し、以後200 mg/24時間の持続静注または50 mgを6時間ごとに筋注、あわせて500 mLを15分で投与する。ただし同ガイダンスはこの急速補液に「低Na血症の所見が無いこと」という条件を付け、電解質と水分バランスの慎重なモニタリングを求めている。Na⁺ 125 mmol/L の本例はこの条件を満たさないので、の量と速度は血清Naの推移を頻回に確かめながら決める(低Na血症の扱いについて、同ガイダンスは欧州の低Na血症診療ガイドラインを参照先に挙げている)2(に準じた対応)。順序としては、可能な範囲でコルチゾール・の採血だけ済ませてから治療に入る——採血のために治療を遅らせてはならないが、を入れた後では基礎値が測れなくなるためである1。

出典

  1. 1.Diagnosis and Treatment of Primary Adrenal Insufficiency: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2016)全文(PMC4880116)で確認した。推奨1.3で、重症の副腎不全症状または副腎クリーゼの患者では、診断検査の結果が得られる前に適切なストレス用量の静注ヒドロコルチゾンで直ちに治療することを推奨する(1⊕⊕⊕○)。あわせて可能であればヒドロコルチゾン投与前に診断目的の採血(コルチゾール・ACTH)を済ませておくことの重要性を述べる。推奨2.1で、標準用量(成人250 µg)の静注コルチコトロピン刺激試験を勧め、30分または60分のコルチゾール頂値が500 nmol/L(18 µg/dL)未満(測定法に依存)なら副腎不全を示すとする(2⊕⊕○○)。原因の診断には21-水酸化酵素に対する自己抗体の測定を含め、成人の原発性副腎不全で最も多い原因は副腎皮質の自己免疫性破壊である。Table 2 は自己免疫性多内分泌腺症候群2型に伴う特徴を自己免疫性甲状腺疾患と1型糖尿病とし、推奨5.3で自己免疫性の原因が除外されていない患者に甲状腺疾患・糖尿病・早発卵巣不全・セリアック病・自己免疫性胃炎などの定期的なスクリーニング(年1回でよい)を提案する。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Guidance for the prevention and emergency management of adult patients with adrenal insufficiency(Society for Endocrinology・2020)副腎クリーゼの初期対応としてヒドロコルチゾン100 mgを静注し、続いて5%ブドウ糖液に溶いた200 mg/24時間の持続静注または50 mgを6時間ごとに筋注すること、同時に生理食塩水による急速な補液(500 mLを15分でボーラス投与し、その後電解質欠乏を補正、24時間で3〜4 L)を示している。ただし Box 1 はこの急速補液に "providing no evidence of hyponatraemia" という条件を付け、電解質と水分バランスの慎重なモニタリングを求めている(PMC7385786 の Wayback 20250227111801 で確認、2026-09-24)。また「副腎不全が疑われる場合、診断検査を行うことやその結果を待つことで治療を遅らせてはならない」と明記している。閲覧 2026-09-24