症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

乏汗症

Oligohidrosis

別名
乏汗症・高体温低汗症発汗低下
臓器系
皮膚神経小児
科目
Medical PhysiologyPharmacologyMedical Genetics and Immunology (Genetics)Translational Medicine and Pathophysiology
トピック
生理学 8.10:温度受容器・体温調節・皮膚循環の調節薬理学 A3:ムスカリン受容体遮断薬遺伝学 4.8:伴性遺伝病態生理学 P-1-25:糖尿病性自律神経障害の検査;Ewingテスト
関連疾患
Fabry病Ross症候群ハーレクイン症候群ハンセン病魚鱗癬自己免疫性自律神経節障害純粋自律神経不全症小径線維ニューロパチー特発性後天性全身性無汗症乏汗性外胚葉異形成症
起因薬
アトロピンオキシブチニン

🧠 全体像:は「汗をかけない」という所見そのものに意味があるのではなく、汗をかけないことで熱を体外へ捨てられなくなるというの破綻に意味がある。発汗という所見全般の鑑別は発汗に、発熱とを分けるは発熱に譲ったうえで、本ノートは「→・」という一本の連鎖に絞る。この連鎖が実務で最も切実になるのは、視床下部から汗腺までの経路のどこかが壊れている患者と、を持つを内服中の小児である。

定義と用語の整理

は発汗量の減少、は発汗の消失を指す。とは対義の関係にあり、発汗という所見全般の詳しい鑑別は発汗の項に譲る。

用語 意味 手掛かり
発汗量の減少 部分的な汗腺・神経の障害
発汗の消失 より広範・完全な障害
障害を免れた汗腺の過剰な発汗 ・のになりうる
発汗量の増加そのものが とは別の鑑別軸。発汗の項へ

⭐ 分布(全身性かかか)が病変部位の手掛かりになる。 全身性なら中枢性・薬剤性を、・なら末梢神経の支配領域に沿った障害を考える。💡 患者が「汗が増えた」と訴えても、実は一部領域のを残りの汗腺が代償しているだけということがある。を見たら、逆にのある領域を探すという発想の転換が要る。

病態生理

発汗の経路は次の順に並ぶ——視床下部→→→→。この経路のどこが破れてもになる。

flowchart TD
    A["視床下部(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thermoregulatory center'>体温調節中枢</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermediolateral nucleus of the spinal cord'>脊髄中間外側核</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preganglionic sympathetic fiber'>交感神経節前線維</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postganglionic sympathetic fiber'>交感神経節後線維</span><br>(例外的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholinergic'>コリン作動性</span>)"]
    D --> E["アセチルコリンが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscarinic receptor'>ムスカリン受容体</span>を刺激"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eccrine sweat gland'>エクリン汗腺</span>が発汗"]

⚠️ 汗腺へのはアセチルコリンを伝達物質としを介する。 でありながらという数少ない例外であり、が汗腺の発汗を直接遮断できる理由でもある。⭐ の主役は(発汗)である。 高温環境や運動負荷では・伝導・放射だけでは熱を捨てきれず、に依存する比率が跳ね上がる。があると、この局面で直ちにの上昇——・——に繋がる。これが本ノートの骨格である。

原因の群分け

経路の階層で群にまとめると漏れない。

群 代表 手掛かり
中枢性 視床下部病変、、 他の自律神経症状・を伴う
末梢神経性(代謝・) (糖尿病)、、 ⚠️は小児期からのと四肢のが診断の入口1。糖尿病は遠位優位の+代償性の体幹発汗が典型
末梢神経性(自律神経・脱髄) 、シェーグレン症候群に伴う、(GBS)、 感覚障害・など他の末梢神経徴候を伴う
汗腺・皮膚の異常 ()、(・)、放射線・熱傷・強皮症による瘢痕 ⚠️は乳幼児期の原因不明の発熱として発見されることがある
薬剤性() ・・ ⚠️とくに小児で・が起こり、で入院に至ることがある23
薬剤性(抗コリン・抗精神病) 、(など)、抗ヒスタミン薬、、抗精神病薬 汗腺のを直接遮断、またはへの作用との両方で寄与

💡 の多くはX連鎖性で、()の変異により汗腺を含む外胚葉由来組織の発生が障害される。罹患男児では汗腺が著しく減るが、⚠️ 完全に欠くわけではない——病名が「」ではなく「性」なのはこのためで、大半の患者は限定的ながら発汗能を保つ。はの比率に応じての汗腺分布を示すため、症状の重さにが大きい。

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ ・。 の上昇に意識障害・せん妄などのを伴う。発熱と違っては無効で、直ちにを開始する。はこの病態の危険因子だが診断の必須条件ではない——では型はむしろ大量に発汗していることが多く、汗の有無だけで除外しない。
  • ⚠️ 小児の・内服中の高温環境。 小児はが体重比で大きくの上昇が成人より速いため、同じがあっても危険度が上がる2。保護者への具体的な指導——高温下での激しい運動を避ける、こまめなと冷却、や体温上昇に気づいたら受診する——がそのまま予防になる3。
  • ⚠️ 。 見逃すと不可逆な腎・心・へ進むが、という有効な治療がある1。小児期からの四肢との組み合わせでする。
  • ⚠️ の乳児。 汗腺そのものが乏しいため、暑熱環境で体温がする。原因不明の反復する発熱として救急外来を受診することがあり、・などほかの外胚葉由来組織の異常を併せて確認する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligohidrosis'>乏汗症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypohidrosis'>発汗低下</span>に気づく"] --> B{"分布:全身性か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='segmental'>分節性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='localized'>局所性</span>か"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='segmental'>分節性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='localized'>局所性</span>"| C["支配神経領域と皮膚病変を確認"]
    B -->|"全身性"| D{"発症は乳幼児期からか"}
    D -->|"乳幼児期から"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ectodermal dysplasia'>外胚葉異形成症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fabry disease'>Fabry病</span>を考える"]
    D -->|"後天性"| F["薬剤歴を確認<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antiepileptics'>抗てんかん薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anticholinergics'>抗コリン薬</span>・抗精神病薬)"]
    F --> G{"随伴する自律神経症状・末梢神経障害があるか"}
    G -->|"あり"| H["糖尿病・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amyloidosis'>アミロイドーシス</span>・GBS<br>シェーグレン症候群・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leprosy'>ハンセン病</span>を評価"]
    G -->|"なし"| I["皮膚生検・熱曝露歴を確認"]
    C --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quantitative sudomotor axon reflex test'>定量的軸索反射性発汗試験</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thermoregulatory sweat test'>温熱発汗試験</span><br>皮膚生検・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha-galactosidase A activity'>αガラクトシダーゼA活性</span>で確認"]
    E --> J
    H --> J
    I --> J

💡 の評価には、心拍数・血圧の反射応答をみるなどが広く使われるが、それは循環調節の評価であり、発汗機能そのものの障害は・QSARTで別に確認する必要がある。両者を混同すると、が正常だからも否定できると誤ってしてしまう。

対症療法の考え方

原疾患の治療より先に、環境と行動の管理そのものが治療である。 高温環境の回避、こまめな冷却と、活動する時間帯の調整、学校・保護者への説明——ここまでが対症療法の本体であり、原因の特定を待たずに始められる。

原因薬剤は減量・中止を検討するが、では発作コントロールとの兼ね合いを処方医が判断するべきで、自己判断で中止しない。・を発症してしまった場合は、ではなく直ちにへ切り替える。

まとめ

  • は「汗をかけないために熱を捨てられない」というの破綻である。発汗症状全般の鑑別は発汗、発熱との区別のは発熱に譲る。
  • 発汗の経路は視床下部→→→(例外的に)→で、どこが破れてもになる。
  • 原因は中枢性・末梢神経性・汗腺皮膚性・薬剤性に整理する。を持つ(・・)は小児で・のリスクが高い。
  • 見逃してはいけないのは・、小児の内服中の高温曝露、、の乳児。
  • 鑑別は分布→発症年齢→薬剤歴→随伴する自律神経・の順に絞り込み、発汗で確認する。
  • 対症療法は環境・行動管理が本体であり、原因薬剤の減量・中止は原疾患とのバランスで判断する。

出典

  1. 1.Fabry Disease(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)Fabry病がα-ガラクトシダーゼA欠損によるグロボトリアオシルセラミド等の糖脂質のリソソーム内蓄積を来すX連鎖疾患であること、小児期からの四肢の発作性疼痛(先端疼痛発作)・乏汗症などの異常な発汗・血管角皮腫が典型的な初発症状であること、診断は白血球・血漿でのα-ガラクトシダーゼA活性低下と遺伝子検査で確定すること、酵素補充療法は診断直後に臨床徴候の有無にかかわらず開始することを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Anhidrosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)⚠️ 本資料は乏汗性外胚葉異形成症について「罹患男性は汗腺を欠く」と記すが、GeneReviews は「患者の大半は少なくとも限定的な発汗能をもつため hypohidrotic のほうが病態を正確に反映する」と述べており、この記述は採らない。無汗症・乏汗症の原因が中枢神経性・末梢性(汗腺自体の異常)・特発性の3群に分類されること、発汗が体温調節の主要な機序であり乏汗症患者は熱中症のリスクが高く小児では中核体温がより速く上昇すること、原因薬剤としてムスカリン受容体拮抗薬(アトロピンなど)・ニコチン受容体拮抗薬・カルシウムチャネル遮断薬・α遮断薬/α2作動薬(クロニジン)・トピラマート・5-フルオロウラシルがあること、診断に定量的軸索反射性発汗試験(QSART)・温熱発汗試験・皮膚生検を用いること、X連鎖性乏汗性外胚葉異形成症では罹患男性は汗腺を欠き女性保因者は発汗が減少・低下することを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.ZONEGRAN (zonisamide) Capsules — Full Prescribing Information(米国FDA(DailyMed収載の添付文書)・2023)日本での承認前開発治験で小児403例中1例に乏汗症が報告され米国では発売初年度に2例が報告されたこと、入院を要する熱中症の診断例があること、とくに小児患者は高温環境下で発汗低下・体温上昇の徴候について綿密な観察が必要であること、小児患者は成人よりゾニサミド関連の乏汗症・高体温のリスクが高いことを確認した閲覧 2026-08-03