病態生理学

病態生理学 · P-1-25

糖尿病性自律神経障害の検査;Ewingテスト

Diabetic neuropathy: autonomic testing & Ewing test

前提:病態
糖尿病の細小血管合併症
疾患
自己免疫性自律神経節障害純粋自律神経不全症糖尿病性自律神経障害
症状
乏汗症
検査値
シリコン印象法温熱発汗試験心拍変動検査定量的軸索反射性発汗試験
スコア
複合自律神経重症度スコア

🧠 全体像: 糖尿病性のうち、は心拍数・血圧の反射応答を用いてに評価できる。は、3項目と2項目を組み合わせた古典的な5検査である。

自律神経障害の評価

  • 消化管・泌尿生殖器のは機器検査を行う機会が比較的少なく、主にと症状から評価する。
  • には、複数の専用検査がある。

⚠️ 心血管自律神経障害の臨床的意義

(CAN)を検査で拾う意味は、単なるの確認にとどまらない。CANは・不整脈・・の独立した危険因子である。2型糖尿病8,000例超を対象としたACCORD試験では、従来のと多数の併存因子・服薬内容で調整してもなお、CANのある群の・のは最大2.14に達した1。のある患者ではのがおよそ2倍に上がり(1,468例を統合したのプール1.96、95%信頼区間1.53–2.51)、進行例は5年死亡率25〜50%と関連する重い予後因子でもある2(機序・消化管/泌尿生殖器症状を含む全体像はを参照)。

💡 CANとの関係は、版によって書き方が変わった。 2017年の見解表明はをの臨床像の1つに数え、低血糖のある患者ではCANの症状・徴候の評価を考慮するとしていた(推奨グレードC)1。一方、現行の診療基準2026年版は「低血糖への反応の障害はをもたらしうるが、と直接には結びついていない」と明記している3。2型糖尿病ではACCORD試験ので、CANが重症低血糖の初回・再発の独立した関連因子として報告されているが、その経路は十分に分かっていない2。⚠️ 「CANが交感神経の症状を鈍らせるからになる」と単純な因果で覚えない。

心血管反射検査

は非侵襲的で、比較的容易に実施できる。

調節系 主な刺激 測定する反応
副交感神経 呼吸、、 心拍数(HR)の変化
交感神経 起立、、寒冷昇圧・などの負荷 血圧(BP)の変化

心血管反射検査の5項目評価

は5種類のを標準化して組み合わせる。この採点法では、各検査を正常0点、境界域1点、異常2点として評価する。

採点基準

深呼吸・Valsalva・30:15比・試験の「正常」列の値と、起立時低下の異常閾値(30 mmHg以上)は、Ewingが提唱した古典的である4。起立時血圧の「正常(10 mmHg以下)」と、各検査の境界域・異常の区間は、授業で用いるな3区分表による。

反射検査 測定 正常 境界域 異常
副交感神経:深呼吸 最低・最高HRの差(bpm) ≥15 11–14 ≤10
副交感神経: Valsalva比 ≥1.21 1.11–1.20 ≤1.10
副交感神経:起立 30:15比 ≥1.04 1.01–1.03 ≤1.00
交感神経:起立 収縮期BP低下(mmHg) ≤10 11–29 ≥30
交感神経:試験 拡張期BP上昇(mmHg) ≥16 11–15 ≤10

判定

⭐ 点数を出したあと、何をもって「異常あり」とするかまで決めておく。 判定の流儀は3つあり、何を数えるかが違う。

判定法 数える対象 判定
Ewingらの原法 5検査すべて 2つ以上が異常ならあり(今も最も広く使われる)4
スコア 5検査の0/1/2点の合計 10点満点で4点以上を診断の目安とすることが多い4
Toronto 合意(2010年)の病期 心拍数を指標とする検査(深呼吸・Valsalva・30:15比など) 異常1つ=可能性あり・早期、2つ以上=確定、これにが加われば重症・5

💡 Toronto 合意の病期は、の血圧検査ではなく心拍数検査の異常の数で決まり、は「重症度を上げる所見」として別に扱う。は早期には無症状で、深呼吸時の低下だけで見つかることがあり、は進行してから現れる3。心拍数系の検査が早期の検出を、血圧系の検査が進行の判定を担うという役割分担として理解するとよい。

⚠️ これらは古典的な参照値であり、年齢、測定条件、施設の標準法によって判定基準が異なりうる。とくに心拍数を指標とする検査(深呼吸・Valsalva・30:15比)のは加齢とともに低下するため、年齢調整したを用いたときに診断精度が最も高くなる。実際の診断では使用するプロトコルのに従い、可能なら各施設が自施設の正常値を持つことが望ましい4。

⚠️ 判定前に、結果を偽陽性・偽陰性にしうる要因を確認する。 米国糖尿病学会は「CANの症状・徴候があるときは、CANに似た所見を来す他疾患や薬剤の影響・相互作用を除外する検査を行うべき」と推奨している(推奨グレードE)1。

  • の鑑別:貧血、甲状腺機能低下症、発熱、心房細動・などの心疾患、脱水、副腎不全、(喘息治療薬、/プソイド含有の感冒薬)、喫煙・アルコール・、などの乱用薬物1。
  • 起立時血圧低下の鑑別:副腎不全、、出血・急性貧血、脱水、妊娠・、不整脈、心不全、心筋炎、、弁膜症、アルコール、および薬剤——抗アドレナリン薬・・・・利尿薬・阻害薬/・麻薬・抗精神病薬・鎮静薬1。

💡 の血圧低下の閾値と、の定義は別物である。 の異常閾値は収縮期30 mmHg以上の低下で、特異度を重視した値である。一方、米国自律神経学会・米国神経学会が支持するの合意定義は起立後3分以内に収縮期20 mmHg以上または拡張期10 mmHg以上の低下で、CANの研究にもこの閾値を用いるものがある4。米国糖尿病学会も、進行したCANのを「心拍数の適切な増加を伴わない収縮期20 mmHg超または拡張期10 mmHg超の低下」と記述している3。

💡 心拍数を指標とするの3検査(深呼吸・・起立)も、心拍数に影響する薬剤の使用下では判定が難しくなる。これらを除外してから神経障害由来と判定する。

実施方法

  1. 調節呼吸時のHR変動(副交感神経):最低HRと最高HRの差を求める。
  2. (副交感神経):40 mmHgを15秒間維持し、手技後の最長を手技中の最短で除してValsalva比を求める。
  3. (副交感神経):素早く起立して1分間記録する。最大頻脈はおよそ第15心拍、最大徐脈はおよそ第30心拍に現れ、その比を評価する。
  4. 起立時血圧(交感神経):仰臥位でBPを測定した後に起立し、1分後と5分後に再測定する。仰臥位からの収縮期BPの最大低下を求める。
  5. 試験(交感神経):記載された手順では、利き腕の最大を5分間維持し、反対側の腕でBPを測定して拡張期BPの上昇を求める。

⚠️ 持続試験は、計で最大を測ってからその30%の力を最大5分間維持し、毎分血圧を測るのが標準的な手順である4。最大そのものを5分間維持する記載はそのまま臨床手順として用いない。

まとめ

項目 押さえる点
評価の対象 消化管・泌尿生殖器は主に症状と、(CAN)は反射検査でに評価する
CANの意義 ・の独立した予測因子(ACCORDでは最大2.14)。が約2倍、進行例は5年死亡率25〜50%
2017年はCANの評価を考慮(C)。2026年版は障害とは直接には結びつかないとする
3項目(深呼吸・Valsalva比・30:15比)+2項目(起立時低下・時上昇)。正常の目安は ≥15 bpm・≥1.21・≥1.04・収縮期低下 ≤10 mmHg・拡張期上昇 ≥16 mmHg
判定 原法は5検査中2つ以上の異常。スコアは10点中4点以上。Toronto 合意は心拍数検査の異常1つで早期、2つ以上で確定、が加われば重症
解釈の注意 心拍数系のは加齢で下がるので年齢調整を使う。貧血・・脱水・心疾患・薬剤などの紛らわしい原因を先に除外する

出典

  1. 1.Diabetic Neuropathy: A Position Statement by the American Diabetes Association(American Diabetes Association (Diabetes Care)・2017)心血管自律神経障害(CAN)が独立した死亡予測因子であることは2型糖尿病8,000例超のACCORD試験で確認され、従来の心血管危険因子・服薬内容などで調整してもなお全死亡・心血管死亡のハザード比が最大2.14に達したこと、低血糖無自覚のある患者ではCANの症状・徴候の評価を考慮すべきこと(推奨グレードC)、CANの症状・徴候があるときはCANに似た所見を来す併存疾患や薬剤影響を除外する検査を行うべきこと(推奨グレードE)、Table 6が安静時頻脈の鑑別に貧血・甲状腺機能低下症・発熱・心房細動/粗動・脱水・副腎不全・交感神経刺激薬などを、起立性低血圧の鑑別に副腎不全・循環血液量減少・不整脈・心不全・アルコールおよび抗アドレナリン薬/抗狭心症薬/抗不整脈薬/抗コリン薬/利尿薬/ACE阻害薬・ARB/麻薬/抗精神病薬/鎮静薬を挙げていることを、CAN節・Table 6で確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Cardiovascular autonomic neuropathy in diabetes: an update with a focus on management(Diabetologia・2024)心血管自律神経障害と無痛性心筋虚血の関連について、本総説が引用するメタ解析でプールされた有病率リスク比が1.96(95%信頼区間1.53-2.51、1468例)であったこと、進行した心血管自律神経障害が5年死亡率25〜50%と関連すること、心血管自律神経反射検査(CARTs)が1982年にEwingとClarkeにより記載されCAN診断の基準法とされていること、CARTsによる病期分類として1項目のみの異常は潜在的・早期のCANを、2項目以上の異常は確定的なCANを示唆し、起立性低血圧が心拍数検査の異常に加わる場合は重症・進行期を示すことを確認した。あわせて同総説が、ACCORDの事後解析で心血管自律神経障害が重症低血糖の初回・再発の独立した関連因子だったとしつつ、ADA Standards of Care を引いて「低血糖への拮抗調節反応の障害は無自覚性低血糖をもたらしうるが、自律神経障害と直接には結びつかない」と述べていることを確認した。閲覧 2026-08-14
  3. 3.12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMC12690177で全文を閲覧した(diabetesjournals.orgは403)。自律神経障害の節が「1型・2型糖尿病における低血糖への拮抗調節反応の障害は低血糖無自覚をもたらしうるが、自律神経障害と直接には結びついていない」と明記していること。心血管自律神経障害は早期には全く無症状で深呼吸時の心拍変動低下によってのみ検出されることがあり、進行すると安静時頻脈(>100 bpm)と起立性低血圧(起立時に心拍数の適切な増加を伴わない収縮期>20 mmHgまたは拡張期>10 mmHgの低下)を伴いうるとしていること。推奨12.19が自律神経障害の症状・徴候を2型は診断時から・1型は診断5年後から少なくとも年1回評価するとしていること(E)を確認した。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Cutoffs, sensitivity and specificity of the Ewing battery in evaluating autonomic nervous system disorders: a systematic review(Clinical Autonomic Research・2026)Table 3で「Ewingが提唱したカットオフ」としてValsalva比≥1.21、深呼吸時の最大−最小心拍数差≥15 bpm、30:15比≥1.04、等尺性握力試験での拡張期血圧上昇≥16 mmHg、起立時収縮期血圧低下≤30 mmHgを挙げていること、各検査を0(正常)・1(境界域)・2(異常)で採点し10点満点で4点以上を診断の目安とする累積スコア方式が10研究で用いられていること、Ewing・Clarkeの原法は5検査中2つ以上の異常で自律神経障害ありと判定するもので今も最も広く使われていること、心拍数系指標のカットオフは年齢・性別の影響を受け年齢調整基準値を用いたときに診断精度が最も高くなることを確認した。境界域の区間(深呼吸11〜14 bpmなど)はこのレビューの表には無い。等尺性握力試験の手順を最大随意収縮の30%を最大5分間維持し毎分血圧を測るものとし、起立時収縮期血圧低下の異常閾値は38研究が≥30 mmHg(Ewingの古典的閾値、特異度が高い)、ほかの研究が≥20 mmHgを用い、米国自律神経学会・米国神経学会が支持する起立性低血圧の合意定義が起立3分以内の収縮期≥20 mmHgまたは拡張期≥10 mmHgの低下であることも確認した。閲覧 2026-08-14
  5. 5.Diabetic neuropathies: update on definitions, diagnostic criteria, estimation of severity, and treatments(Diabetes Care・2010)Europe PMCの全文(PMC2945176)で確認した。Toronto専門家会議が心血管自律神経障害の診断基準と病期について「心拍数を指標とする迷走神経系の検査(cardiovagal test)の異常が1つなら可能性あり・早期、心拍数検査の異常が少なくとも2つで確定、心拍数検査の異常に起立性低血圧(無症候性か症候性かを問わない)が加われば重症・進行期」とすることを提案していること。閲覧 2026-09-24