病態生理学

病態生理学 · P-1-26

糖尿病の血管機能:レーザードップラー/TcPO2 — 加温反応

Diabetic vascular function: laser Doppler/TcPO2 — heating response

前提:病態
糖尿病の細小血管合併症糖尿病の大血管合併症
検査値
足趾収縮期血圧・経皮酸素分圧

🧠 全体像: レーザードップラー血流計は皮膚表層の血流を、は組織への酸素到達を反映する指標として評価する。いずれも絶対値そのものより、同一部位でのや刺激前後の変化で解釈する検査である。加温時にはによる初期ピークと、NO依存性血管拡張による持続性が生じる。糖尿病では加温反応が全体として低下する。後期の低下は内皮の障害を、による初期成分の低下はの障害(神経障害)を示唆する。

レーザードップラー血流測定

  • 送光部と受光部を備えたプローブを用い、反射光の量と周波数を測定する。
  • 移動物体により反射光の周波数が変化するドップラー現象を利用し、動く赤血球から血流を算出する。
  • 主に皮膚表層の血流を測定する。
  • 温度上昇や食後など、物理的・生理的変化に対する血流応答を評価できる。

⚠️ レーザードップラー血流計が出力する値は血流の絶対量(mL/分など)ではなく、その部位の相対的な灌流を表す任意単位である。組織の光学的性質や血管密度は・部位差が大きいため、個人間・部位間で絶対値を比較する検査には向かない。同一部位で安静時値を基準とし、刺激前後の比やとして評価するのが原則である。

負荷 正常な血流応答
温度上昇 血流が著明に増加する
食事 消化管など特定領域への血流が増加する

経皮酸素分圧

は皮膚表面のO₂分圧を測定し、組織にどの程度O₂が到達しているかを推定する。

  • O₂センサーは皮膚を約43℃(電極自体は45℃)まで加温する1。これは本ノートで扱う加温反応と同じ「皮膚加温による」を利用しており、動脈血に近いO₂分圧が皮膚表面まで届くようにして測定する。
  • ⚠️ 測定条件によって値がぶれる向きは一方向ではない。1 低く出る(過小評価)のは、浮腫(O₂のが延びる)、皮膚硬化、室温22℃未満、送風、骨突起・表在腱・の上での測定(局所の流が乏しい)、会話、疼痛・不安・2時間以内の喫煙やコーヒー摂取(血管収縮)である。高く出る(過大評価)のは、炎症(局所の充血で血流が増える)、室温24℃超、臥位ではなく座位での測定である。💡 浮腫と炎症は同じ患部に併存しうるうえ、値をずらす向きが逆なので、「創部の近くだから低め/高めに出る」と単純に読めない。測定条件は一定に保ち、条件が違う値どうしを比較しない。
  • 極端な低値では細胞生存性が懸念され、壊死を避けるための切断レベルや創傷治癒可能性を検討する材料になりうる。後の創傷治癒を検討したの多くでは、下腿TcPO₂ >40 mmHgは治癒率が高いことと、<20 mmHgは治癒不良のリスクが高いことと関連づけられているが、明確なコンセンサスは定まっていない1。こうした灌流評価は、・のリスクを層別化するの虚血グレード判定にも用いられる。の治癒予測に関するより詳しいは・を参照。

⚠️ TcPO₂は測定条件の影響を受けるため、単独の値だけでを決定せず、や他の血流評価と統合する。

正常な加温時血流応答

flowchart TD
    A["皮膚を加温"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axon reflex'>軸索反射</span>"]
    B --> C["血流の初期ピーク"]
    C --> D["NO依存性血管拡張"]
    D --> E["持続性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plateau'>プラトー</span>"]

初期ピークは主に(皮膚の感覚神経終末からCGRP・が放出され、周囲の血管を拡張させる機序)によって加温開始から10分以内に生じる。これに対し後期は主に内皮由来のNOに依存しており、確立までに20〜30分の加温を要する2。

糖尿病における加温反応の変化

💡 2つの成分は、それぞれ別の障害を映す。 糖尿病性血管機能障害では内皮のNO産生・が低下するため、NOに依存する後期が低下しうる。一方、初期の性ピークはの機能を映しており、⚠️ 「保たれる」とは限らない。44℃加温で起こる性のは、神経障害のある2型糖尿病で健常者より有意に小さく、神経障害の無い2型糖尿病でも小さかった(各群12名の比較)3。したがって「後期だけが選択的に低下する」と一般化はできず、初期ピークの低下は()の障害を、後期の低下はを示唆するものとして読み分ける。

13件の・857例を統合したでも、安静時の皮膚血流は健常者と糖尿病患者で差が無かった一方、局所加温に対する血流応答(加温反応)は糖尿病患者で大きく低下していた(統合効果量: -0.78)。糖尿病の病型・による差は認められず、糖尿病そのものが皮膚微小血管機能障害を来すことを示唆する2。ただし研究ごとに加温時間がばらつき、に達していない研究もあったため、このでは初期ピークと後期のどちらが障害されているかは評価できなかった2。

糖尿病性血管機能障害

内皮細胞機能が障害されると、血管収縮・炎症・・血管壁リモデリングが促進される。

flowchart TD
    A["内皮細胞機能障害"] --> B["ROS・TXA₂など血管収縮性メディエーターの増加"]
    B --> C["血管収縮と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>の促進"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adhesion molecules'>接着分子</span>の増加"]
    D --> E["白血球接着と炎症"]
    E --> F["ROS・NF-κBの増加"]
    A --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth factor'>増殖因子</span>の作用"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular matrix'>細胞外基質</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular matrix'>ECM</span>)と平滑筋の増殖"]
    C --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcirculatory dysfunction'>微小循環障害</span>"]
    F --> I
    H --> I
    I --> J["創傷治癒低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulceration'>潰瘍形成</span>"]
    J --> K["感染リスク上昇"]
  • TXA₂はを促進する。
  • 高血糖環境はを助長しうるうえ、低下と創傷治癒障害が感染リスクを高める。
  • これらのは、の背景にもなる。

まとめ

項目 押さえる点
レーザードップラー血流計 皮膚表層の相対的な灌流を任意単位で示す。個人間・部位間で絶対値を比べず、同一部位の刺激前後の比やで読む
電極45℃(皮膚約43℃)で加温して測る。浮腫・室温22℃未満・喫煙などで低く、炎症・室温24℃超・座位で高く出る
切断レベルの目安 下腿TcPO₂ >40 mmHgは治癒率が高いこと、<20 mmHgは治癒不良のリスクと関連するが、コンセンサスのは無い。単独でを決めない
正常な加温反応 10分以内のによる初期ピーク → 20〜30分でNO依存性の
糖尿病での変化 安静時血流は変わらず、加温反応が大きく低下する。後期の低下は、初期ピークの低下はの障害を示唆する
の帰結 血管収縮・・炎症・基質増殖 → → 創傷治癒低下・潰瘍・感染

出典

  1. 1.What Is Currently the Role of TcPO2 in the Choice of the Amputation Level of Lower Limbs? A Comprehensive Review(Journal of Clinical Medicine (MDPI)・2021)TcPO2測定では電極を45℃に加温し、皮膚面では約43℃相当になるとした。Table 1(測定値の信頼性に影響する条件)で、皮膚硬化・浮腫・室温22℃未満・送風・骨突起や表在腱/表在静脈上での測定・会話・疼痛・不安・2時間以内の喫煙やコーヒー摂取は値を過小評価させ、逆に炎症・室温24℃超・(臥位に対する)座位での測定は過大評価させるとした。下腿切断後の創傷治癒を検討した多くの後ろ向き研究で、下腿TcPO2>40 mmHgは治癒率が高いことと、<20 mmHgは治癒不良のリスクが高いことと関連づけられているが、コンセンサスとなる正確なカットオフ値は無いとした。閲覧 2026-08-14
  2. 2.The association between diabetes and dermal microvascular dysfunction non-invasively assessed by laser Doppler with local thermal hyperemia: a systematic review with meta-analysis(Cardiovascular Diabetology・2017)13件の横断研究・857例を統合したメタアナリシスで、安静時皮膚血流は健常者と糖尿病患者で差が無かったが、局所皮膚加温に対する血流応答(レーザードップラーで測定した加温反応)は糖尿病患者で健常者より大きく低下していた(統合効果量:標準化平均差 -0.78、95%CI -1.06〜-0.51)とした。糖尿病の病型・罹病期間による差は無く、糖尿病自体が微小血管機能障害を来すことを示唆するとした。全文では、加温反応は最初の10分以内に主に感覚神経の軸索反射(CGRP・サブスタンスP)による初期ピークを示し、20〜30分の加温で主にNOによるプラトーに達すると説明する一方、研究ごとに加温時間が異なりプラトーに達していない研究もあったため、2つのピークの差は評価できず、糖尿病の微小血管機能障害の機序(どちらの成分が障害されるか)は検討できなかったと明記している。閲覧 2026-08-14
  3. 3.The LDIflare: A Novel Test of C-Fiber Function Demonstrates Early Neuropathy in Type 2 Diabetes(Diabetes Care・2004)抄録で確認した。皮膚を44℃に加温して起こる軸索反射性の潮紅(C線維を介する)の面積をレーザードップラー画像で測る方法で、健常者8名では局所麻酔で潮紅が著明に縮小し神経原性であることが確かめられた。計36名(神経障害のある2型糖尿病12名、神経障害の無い2型糖尿病12名、年齢・性をそろえた健常対照12名)の比較で、神経障害のある群の潮紅面積は健常群・神経障害の無い糖尿病群より有意に小さく、神経障害の無い糖尿病群も健常群より小さかった。閲覧 2026-09-24