病態生理学

病態生理学 · 1-11

糖尿病の大血管合併症

Macrovascular complications of diabetes mellitus

応用トピック
心血管リスク因子と一次・二次予防動脈疾患の臨床像・身体診察・画像検査と糖尿病足下肢末梢動脈疾患の症状・診察・画像診断と糖尿病足糖尿病患者と合併症の管理足関節上腕血圧比(ABI)の定義と測定糖尿病の血管機能:レーザードップラー/TcPO2 — 加温反応糖尿病の血管機能:レーザードップラー/TcPO2 — 反応性充血肥満・糖尿病 症例3

🧠 = 糖尿病の主要死因。 が「で守れる」のに対し、大血管(動脈硬化)は 同等治療でも残るリスク が大きい。だから血糖だけでなく脂質・血小板まで含めた多面的・積極的管理が要る。

意義

動脈硬化 — プラーク形成(縦の進行)

flowchart TD
  A["1. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='initial lesion'>初期病変</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intimal thickening'>内膜肥厚</span>(孤立した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foam cells'>泡沫細胞</span>・SMC遊走)"] --> B["2. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty streak'>脂肪線条</span>:細胞内脂質(融合<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foam cells'>泡沫細胞</span>)"]
  B --> C["3. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermediate lesion (pre-atheroma)'>中間病変</span>:細胞内+細胞外脂質"]
  C --> D["4. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='atheroma'>アテローマ</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular lipid core'>細胞外脂質コア</span>"]
  D --> E["5. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibroatheroma'>線維性アテローマ</span>:複数の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipid core'>脂質コア</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fiber layer'>線維層</span>(石灰化)"]
  E --> F["6. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='complicated lesion'>複合病変</span>:表面欠損・出血・血栓症"]

AS の危険因子

危険因子 AS への効果
マクロファージの脂質取込み↑、低が阻害、壁肥厚が排出阻害
高血圧 ↑→、阻害、表面傷害↑
喫煙 ox-生成、NO消費+壁炎症、血栓症↑
  • これらの危険因子は重なると互いの効果を強め合い、動脈硬化の進行を速める。ここまでは糖尿病の有無を問わず誰にでも起こる過程で、糖尿病ではこれに次の「」がされる。

残存リスク(同等治療でも残るリスク)

💡 糖尿病者は「治療しても普通の人より動脈硬化が速く進む」。その分が。

flowchart TD
  D["糖尿病"] --> R1["① <span class='jp-term jp-term-diagram' title='atherogenic dyslipidemia'>動脈硬化惹起性脂質異常症</span>"]
  D --> R2["② <span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet hyperreactivity'>血小板過反応性</span>"]
  D --> R3["③ 高血糖による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮傷害</span>"]
  D --> R4["④ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic dysfunction (neuropathy)'>自律神経障害</span>"]
  R1 --> AS["加速したAS → CVD進行・予後悪化"]
  R2 --> AS
  R3 --> AS
  R4 --> AS

動脈硬化惹起性脂質異常症

血小板過反応性

ACS・脳卒中の予後を悪化、で既存。

  1. :
    • PAI↑(線溶遅延)
    • フィブリノゲン↑(凝集↑)
  2. 内皮機能: 抗凝固/↓(↓、↓、↑、NO↓、↓)。
  3. 血小板自体:
    • ↑
    • /NO反応↓
    • ADP過反応

管理と治療

  • だけでは大血管イベントを十分に減らせない(上記の「」参照)→ 脂質・・の心血管保護作用まで含めた多面的管理が必要。

脂質低下療法

  • スタチンが第一選択。強度・目標はリスク層で分ける1。
    • 40〜75歳で(性心血管疾患)が無ければ中等度強度スタチン。
    • 40〜75歳で心血管リスクが高い(の追加の危険因子を1つ以上もつ等)なら高強度スタチンでをベースラインから50%以上低下させ、目標<70 mg/dLとする。
    • 既に(心筋梗塞・脳卒中・など)があるでは、年齢を問わずを用い、を50%以上低下かつ目標はさらに厳しくLDL<55 mg/dL。
  • 最大耐量のスタチンで目標未達なら、または阻害薬(・等)を追加する。ADAの推奨はこの2つを並べて挙げており、「→阻害薬」という順序は定めていない(では推奨、の無い高リスク例で 70 mg/dL以上なら考慮してよい、という強さの違いがある)1。
  • スタチンが使えない(不耐)場合はが代替となる1。

抗血小板薬

  • ⚠️ アスピリンは、では標準治療だが、では一律に推奨されない。 (既に・脳卒中・などのがある)ではアスピリンが標準治療だが、(既往の無い糖尿病患者)では位置づけが異なる。
    • ASCEND試験(2018、糖尿病患者15,480例・平均追跡7.4年)では、アスピリン100 mg/日で主要が12%相対的に減少した一方、大出血が29%増加し(増加分の大半は消化管出血とその他の頭蓋外出血)、正味の利益がほぼされた3。
    • そのため現行ADAガイドラインは、としてのアスピリン(75〜162 mg/日)を心血管リスクが高い例で、出血リスクとの比較を患者と十分に話し合った上で考慮してよいという位置づけにとどめ(推奨10.36)、本文で70歳を超える人ではリスクが利益を上回るようだと述べている1。
  • 阻害薬(等):急性期・()後の2剤併用の主体。
  • GP IIb/IIIa阻害薬(等):周術期の短期静注に限定して使用。⭐ 強力な阻害薬が普及した現在は適応が縮小しており、ルーチンの前投与ではなく、血栓量が多い・no-reflow を来したなどの術中の救済的投与が主な位置づけである。

血糖降下薬による心血管保護(HbA1cとは独立)

無症状者のスクリーニング

  • 危険因子が治療されていれば、無症状者に冠動脈疾患のルーチンのスクリーニングは行わない(転帰を改善しないため)。心血管症状・頸動脈雑音・・・心電図異常(など)があれば精査を考慮する1。
  • 65歳以上、いずれかの部位の、、その他の糖尿病による臓器障害のいずれかがある無症状者では、診断で管理が変わるならでをスクリーニングする。では典型的な症状はむしろ少なく、新たに診断された例の約半数は無症状である1。

まとめ

論点 要点
位置づけ は糖尿病の主要な死因。講義の「約80%」は米国の最近のデータと合わず、米国では血管疾患死の割合は34.1%(2010〜15年)まで下がった
同じ治療をしても残る分。① ② ③高血糖による ④
脂質異常 TAG↑・↓・sdLDL↑ → → 破裂・血栓 →
PAI↑・フィブリノゲン↑、内皮の↓、↑・ADP過反応。から存在
は中等度強度スタチン、高リスクは高強度で<70 mg/dL、は<55 mg/dL。未達ならまたは阻害薬
はアスピリンが標準。は高リスク例で出血との比較を話し合って考慮する程度
・・複数の危険因子があれば、に関わらず心血管利益の示された阻害薬・受容体作動薬

出典

  1. 1.10. Cardiovascular Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMCのHTML全文(PMC12690187)で推奨文を逐語で確認した。一次予防のアスピリン(75〜162 mg/日)は心血管リスクが高い例で出血リスクとの比較を十分に話し合った上で考慮してよい(Rec 10.36、A)こと、本文が70歳を超える人ではリスクが利益を上回るようだと述べていること。40〜75歳でASCVDが無ければ中等度強度スタチン(10.18、A)、1つ以上の追加の危険因子をもつなど心血管リスクが高ければ高強度スタチンでLDL-Cを50%以上低下かつ70 mg/dL未満(10.20、A)、その上でLDL-C 70 mg/dL以上ならエゼチミブまたはPCSK9阻害薬の追加を考慮してよい(10.21、B)こと。ASCVDがある場合は高強度スタチンでLDL-C 50%以上低下かつ55 mg/dL未満を目標とし、未達ならエゼチミブまたはPCSK9阻害薬を追加する(10.27、B)こと、スタチン不耐ではベンペド酸(10.24、A)を用いること。ASCVDまたはCKDをもつ2型糖尿病では心血管利益が示されたSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬を推奨し(10.40a、A)、本文がこれらを追加の血糖降下の必要性やメトホルミン使用の有無に関わらず治療計画に含めるべきとしていること。無症状者の冠動脈疾患のルーチンのスクリーニングは推奨しない(10.37a、A)こと、65歳以上・細小血管障害・足病変などがある無症状者では管理が変わるなら足関節上腕血圧比で末梢動脈疾患をスクリーニングする(10.39、B)こと。ASCVDが糖尿病患者の罹患と死亡の主因であると本文が述べていること。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Trends in cause-specific mortality among adults with and without diagnosed diabetes in the USA: an epidemiological analysis of linked national survey and vital statistics data(The Lancet・2018)米国の全国健康面接調査と死亡統計の連結データ(1985〜2015年)の抄録で、糖尿病をもつ成人の死亡に占める血管疾患死の割合が1988〜94年の47.8%から2010〜15年の34.1%へ低下し、非血管・非癌死が33.5%から46.5%へ増えたこと、血管疾患死の死亡率自体も10年ごとに32%低下したことを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Effects of Aspirin for Primary Prevention in Persons with Diabetes Mellitus(ASCEND Study Collaborative Group / New England Journal of Medicine・2018)心血管疾患の既往が無い糖尿病患者15,480例(平均追跡7.4年)で、アスピリン100 mg/日は主要血管イベントを12%相対的に減少させた一方、大出血(主にGI・頭蓋外出血)を29%増加させ、正味の臨床的利益がほぼ相殺されたことを確認。閲覧 2026-08-14