病態生理学

病態生理学 · P-1-22

足関節上腕血圧比(ABI)の定義と測定

Ankle-brachial index: definition & measurement

前提:病態
糖尿病の大血管合併症動脈硬化(アテローム性動脈硬化症)
応用トピック
動脈疾患の臨床像・身体診察・画像検査と糖尿病足下肢末梢動脈疾患の症状・診察・画像診断と糖尿病足末梢動脈疾患
画像所見
Mönckeberg型中膜石灰化

🧠 全体像: ()は、のを上腕ので割った指標である。下肢動脈狭窄の検出に用い、低値は末梢動脈病変と高い心血管リスクを示唆する。一方、動脈が石灰化して圧迫しきれない場合はがとなり、見かけ上正常〜高値でもを否定できない。

定義

は、と上腕のの比である。もともとは下肢の動脈狭窄を検出する目的で用いられた。

解釈

解釈
≤0.90 異常。()を支持し、心血管リスクも高い1
0.91〜0.99 境界域。労作時の下肢症状があれば運動負荷を行う(Class 1)1
1.00〜1.40 正常。ただし労作時の下肢症状があれば運動負荷を行う(Class 1)1
>1.40 。によりとなっている可能性を疑う1
<0.40 高度虚血の目安(上記「異常」域の一部)。・潰瘍・壊疽があれば()として緊急に評価する2

上の4区分(異常・境界域・正常・)は、2024年ACC/AHAガイドラインがClass 1(LOE B-NR)として「安静時はこの4区分で報告すべき」と定めたものである1。最下行の<0.40は別の枠組み——糖尿病+例における重症虚血の定義( <0.40、圧 <50 mmHg、圧 <30 mmHg、TcPO₂ <30 mmHg、または・消失した足部ドプラ波形のいずれか)の一項目であり、Global Vascular Guidelinesの定義をIWGDF/ESVS/SVSが踏襲したものである2。⚠️ この2つは目的の違う基準なので混ぜない——前者は「があるか」を報告する区分、後者は「今すぐ血管専門医に送るか」を決める閾値である。

💡 日本の高血圧診療では、はで測ることが多い。 JSH2025は、日本ではを主に簡便なで測り、baPWVと同時に測定することが多いとしたうえで、 0.90以下はの合併を反映するので専門医への紹介を考慮するとする。心血管リスクの面では、0.90以下に加えて0.91〜1.00もリスクを高め、高値側ではで1.40以上、で1.30以上がリスク上昇を示す(該当する患者は少ない)3。⚠️ 高値側の境界が測定法で違うので、の1.30〜1.39を「正常」と読み流さない。

⚠️ は高いほど良いとは限らない。 糖尿病・・高齢者では動脈の中膜が石灰化し、カフで圧迫しきれないために部の圧が実際より高く算出されることがある。 >1.40はこのを示唆する所見であり、良好な血流の証拠ではない。この場合は単独で判定せず、石灰化の影響を受けにくい・()と足部ドプラ波形で評価し直す(Class 1)1。TBI ≤0.70 は異常とされ、を示唆する病歴・身体所見をもつ >1.4 の患者では、これによりを診断できる。

運動負荷ABI

⭐ 安静時が正常〜境界域(それぞれ>0.90かつ≤1.40)であっても、労作時に下肢症状(関節由来でないなど)があるならを否定できない。この場合、運動負荷トレッドミル検査を行うべきである(Class 1、LOE B-NR)1。運動負荷(トレッドミル歩行後1〜5分以内に測定する)は、狭窄部を通過する血流量を増やして狭窄部のを顕在化させることで、安静時には現れない低下を検出し、診断感度を高める1。

測定方法

  • 使用機器:血圧計のカフと8〜10 MHzのDopplerプローブ
  • 体位・準備:10分間安静にした後、臥位で測定する。
  1. Doppler法で両上腕のを測定し、より高い値を分母に用いる。
  2. 各で、および(の連続)上のをDoppler法で測定する。
  3. 各下肢について、2動脈で得た高い方のを、両上腕で得た高い方ので除し、左右のをそれぞれ算出する。
ABI各下肢=その下肢の2動脈で得た高い方の両上腕で得た高い方の_{\text{各下肢}} = \dfrac{\text{その下肢の2動脈で得た高い方の}}{\text{両上腕で得た高い方の}}

⚠️ 上記の解釈区分は2024年ACC/AHAガイドラインの区分に基づくが1、施設や採用する手順によって境界値の運用が異なることがある。単独で診断・重症度を確定せず、症状、、の有無、必要に応じた・画像検査と合わせて判断する。

まとめ

項目 要点
定義 のを上腕ので割った比。下肢動脈の狭窄の検出に用いる
≤0.90 異常、0.91〜0.99 境界域、1.00〜1.40 正常、>1.40
高度虚血 <0.40 は糖尿病+例の重症虚血の定義の一項目で、緊急に血管専門医へ相談する(の有無を報告する区分とは別の枠組み)
日本の運用(JSH2025) 主にで測る。0.90以下で専門医紹介を考慮し、0.91〜1.00と高値(1.40以上、1.30以上)もリスク上昇を示す
糖尿病・・高齢者ので圧迫しきれず高く出る。>1.40 ではと足部ドプラ波形で評価し直す( ≤0.70 は異常)
運動負荷 安静時が正常〜境界域でも労作時の下肢症状があれば行う(Class 1)。トレッドミル歩行後1〜5分以内に測る
測定方法 10分間の臥位安静後、8〜10 MHzのDopplerプローブで両上腕と各の2動脈(・)を測る。各下肢の高いほうの圧を、両上腕の高いほうの値で割る

出典

  1. 1.2024 ACC/AHA/AACVPR/APMA/ABC/SCAI/SVM/SVN/SVS/SIR/VESS Guideline for the Management of Lower Extremity Peripheral Artery Disease(American College of Cardiology / American Heart Association・2024)安静時ABIを異常(≤0.90)・境界域(0.91〜0.99)・正常(1.00〜1.40)・非圧迫性(>1.40)の4区分で報告すべきとしたこと(Class 1、LOE B-NR)。非圧迫性(ABI>1.40)では足趾血圧・足趾上腕血圧比(TBI)と波形評価を追加すべきとし(Class 1、LOE B-NR)、TBI≤0.70を異常としてPADを示唆する所見をもつABI>1.4の患者ではこれによりPADを診断できるとしたこと。労作時の下肢症状(関節由来でないもの)があり安静時ABIが正常または境界域(それぞれ>0.90かつ≤1.40)の患者には運動負荷トレッドミルABI検査を行うべきとし(Class 1、LOE B-NR)、運動負荷は血流と狭窄部の圧較差を増やしてPAD検出の感度を高めること、運動負荷ABIは通常トレッドミル運動後1〜5分以内に測定することを本文で述べたこと閲覧 2026-08-14
  2. 2.The intersocietal IWGDF, ESVS, SVS guidelines on peripheral artery disease in people with diabetes mellitus and a foot ulcer(International Working Group on the Diabetic Foot (IWGDF) / European Society for Vascular Surgery (ESVS) / Society for Vascular Surgery (SVS)・2023)推奨13(Best Practice Statement)で、糖尿病・末梢動脈疾患・足潰瘍があり重症虚血——すなわちABI<0.4、足関節圧<50 mmHg、足趾圧<30 mmHg、TcPO2<30 mmHg、または単相性・消失した足部ドプラ波形——を認める患者では、血行再建の可否について緊急に血管専門医へコンサルトすべきとし、この重症虚血の定義はGlobal Vascular Guidelines(GVG)の定義を踏襲したものであると明記したこと。なお糖尿病足潰瘍の治癒予測に用いる閾値(推奨7・8のTP≥30 mmHg、TcPO2≥25 mmHg)はこれとは別の枠組みである。閲覧 2026-08-14
  3. 3.The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025)(Hypertension Research(日本高血圧学会)・2026)英語版全文(出版社サイト)で確認した。日本ではABIの測定に主に簡便なオシロメトリック法が用いられ、baPWV測定時のABI測定が一般的であるとする。ABI 0.90以下は下肢動脈疾患の合併を反映するので血管外科医などの専門医への紹介を考慮し、ABI 0.90以下または0.91〜1.00は心血管疾患の発症リスクを高め、ABI 1.40以上(ドプラ法)・1.30以上(オシロメトリック法)も患者数は少ないがリスク上昇を示すとする。高リスク患者ではABI測定を考慮すべきとする閲覧 2026-09-24