病態生理学

病態生理学 · P-1-21

生理的動脈脈波とその加齢変化

Physiological arterial pulse wave and changes with aging

前提:病態
動脈硬化(アテローム性動脈硬化症)

🧠 全体像: 動脈脈波は「左心室から進む波」と「末梢から戻る反射波」の合成である。加齢で動脈が硬くなると脈波と反射波が速くなり、反射波が収縮期に早く戻ってと脈圧を押し上げる。

生理的な動脈脈波

動脈脈波は、左心室のにより生じ、動脈系を伝わる圧波である。伝播中に複数の部位で反射する。

  • 動脈分岐部:主に下肢で重要である。

検出される波形は、前進する波と反射波が重なったものである。反射波の圧が波の圧に加わる現象を増大という。

flowchart TD
    A["左心室の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ejection'>駆出</span>"] --> B["前進する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ejection'>駆出</span>波"]
    B --> C["分岐部・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resistance vessels'>抵抗血管</span>で反射"]
    C --> D["反射波が中枢へ戻る"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ejection'>駆出</span>波と反射波が重なる"]
    E --> F["圧が増大した動脈脈波"]

脈波増幅

脈波がから末梢動脈へ伝わると、その形態は次のように変化する。

  • 波形が狭くなる。
  • は大きく変化しないまま、振幅が増大する。

これは、末梢動脈がより硬いために圧波が変形し、硬い動脈ほど圧波が速く伝わるためである。

加齢による変化

によりが増大し、大動脈壁が硬くなる。

変化 脈波・血圧への影響
時の圧上昇が大きくなる が上昇する
脈波が末梢へ速く伝わる 反射波も早く戻る
反射波が収縮期に早く帰還する がさらに上昇する
脈波増幅が低下し、やがて消失する 中枢と末梢の波形差が小さくなる
中枢でが上昇し、が低下する 脈圧が増大する
反射波の寄与が増える 増大圧とが上昇する

これらの指標はの良好な指標であり、主に脳卒中と心筋梗塞を含む心血管リスクの上昇と関連する。

⭐ 反射波の帰還が早まり収縮期に重なってを押し上げる一方、は上昇しない、あるいはむしろ低下するため、脈圧が拡大する。これが、高齢者に多い(は正常域のままのみが上昇する病型)の中心的な機序である。

上腕血圧と中心血圧

⚠️ 上腕(末梢)で測る血圧と、の中心血圧は同じではない。 大動脈から末梢へ向かうにつれて波形が狭まり振幅が増す脈波増幅により、若年者では中心よりも上腕の・脈圧のほうが高く測定される。

加齢とともに反射波が速く戻り収縮期に重なるようになると、この脈波増幅は低下し、中心血圧と上腕血圧の差は縮小する。したがって高齢者では、上腕で測った血圧が中心血圧により近い値になる。18〜90歳の健常・正常血圧者4,001例を横断的に調べた研究(大動脈PWVは998例の部分集団で測定)でも、末梢・中心の脈圧、、大動脈PWVはいずれも加齢とともに上昇したが、その変化は直線的ではなく、(反射波の寄与)は若年層でより大きく、大動脈PWVは高齢層でより大きく上昇した。著者らは、は若年者で動脈硬化とリスクのより鋭敏な指標になりうる一方、高齢者では大動脈PWVのほうが良い指標になりそうだとしている1。

💡 同程度まで上腕血圧を下げても、薬剤の種類によって中心血圧への効果は同じではない。ASCOT試験のサブ解析であるCAFE試験では、上腕の群間差が0.7 mmHgとほぼ同等だったにもかかわらず、Ca拮抗薬・阻害薬を中心とする群はβ遮断薬・利尿薬を中心とする群に比べ中心大動脈が4.3 mmHg、中心大動脈脈圧が3.0 mmHg低かった。さらに、中心大動脈脈圧は心血管イベント・の複合(事後に設定された評価項目)と有意に関連した2。上腕血圧だけでは、こうした薬剤間の差は見えない。⚠️ ただしこの試験が無作為に割り付けたのは治療レジメンであって中心血圧そのものではないため、「中心血圧を下げれば予後が改善する」ことを直接証明した研究ではない。

脈波の検出法

方法 原理
皮膚・組織へ光を照射する。光の一部は赤血球に吸収され、残りは反射されるため、検出器に届く光強度が変化する
Doppler超音波法 血流による周波数変化を利用して脈波を検出する

💡 加齢性動脈硬化では、反射波そのものが強くなるだけでなく「戻る時刻が早まる」ことが、上昇の鍵となる。

まとめ

項目 要点
動脈脈波 左心室ので生じた前進波と、分岐部・からの反射波の合成。反射波が加わることを増大という
脈波増幅 中枢から末梢へ進むと、はほぼ変わらずに波形が狭く振幅が大きくなる
加齢変化 動脈が硬くなり脈波が速く伝わる。反射波が収縮期に早く戻り、が上がりは上がらないか下がるため脈圧が開く
臨床的意味 高齢者のの中心的な機序。増大圧・の上昇は心血管リスク上昇と関連する
上腕血圧と中心血圧 若年者では上腕のほうが高い。加齢で脈波増幅が落ちると両者の差は縮む
薬剤による差 CAFE試験では上腕がほぼ同じでも中心血圧の低下に差が出た。ただし中心血圧を下げれば予後が改善することの直接の証明ではない
脈波の検出 、Doppler超音波法

出典

  1. 1.Normal vascular aging: differential effects on wave reflection and aortic pulse wave velocity: the Anglo-Cardiff Collaborative Trial (ACCT)(Anglo-Cardiff Collaborative Trial (ACCT)・2005)18〜90歳の健常・正常血圧者4,001例で末梢・中心血圧、増大圧、増大係数(AIx)を測定した横断研究(大動脈・上腕PWVは部分集団998例のみで測定)で、末梢および中心の脈圧・増大圧・AIx・大動脈PWVはいずれも加齢とともに有意に上昇したが、AIxの加齢変化は若年でより顕著、大動脈PWVの加齢変化は高齢でより顕著という非線形パターンを示したこと。著者らはAIxが若年でのより鋭敏な指標になりうる一方、高齢では大動脈PWVのほうが良い指標になりそうだと結論した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Differential Impact of Blood Pressure-Lowering Drugs on Central Aortic Pressure and Clinical Outcomes: Principal Results of the Conduit Artery Function Evaluation (CAFE) Study(CAFE Investigators, for the Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial (ASCOT) Investigators・2006)ASCOT試験のサブ解析であるCAFE試験において、上腕収縮期血圧の群間差が0.7 mmHgとほぼ同等だったにもかかわらず、Ca拮抗薬・ACE阻害薬を中心とする群はβ遮断薬・利尿薬を中心とする群に比べ中心大動脈収縮期血圧が4.3 mmHg、中心大動脈脈圧が3.0 mmHg低く、中心大動脈脈圧が心血管イベント・腎機能障害の複合アウトカム(事後設定:post hoc)と有意に関連したこと。なお2群の割付は治療レジメン(アムロジピン±ペリンドプリル vs アテノロール±サイアザイド)であり、中心血圧を目標にした無作為化ではない点に注意。閲覧 2026-08-14