病態生理学

病態生理学 · 1-1

高血圧の定義・分類、二次性高血圧、合併症

Definition & forms of hypertension; secondary hypertension; complications

応用トピック
高血圧I―病因と診断高血圧の診断・合併症・血圧目標腎動脈狭窄症妊娠高血圧症候群・子癇・HELLP症候群高血圧 症例1血圧測定法と正しい測定の実際ABPM(24時間血圧測定)とその適応各測定法による高血圧の診断基準;家庭血圧測定高血圧 症例2高血圧 症例3高血圧 症例4
疾患
高血圧症網膜静脈閉塞症
画像所見
慢性虚血性白質病変

🧠 3行サマリー: 高血圧 = 心拍出量(CO)↑ および/または ↑ が持続した状態。原因の9割は本態性(原因不明)、残りは二次性(治せる原因がある)。怖いのは無症状のまま臓器を壊すこと()で、合併症はすべて「①圧で心臓が疲れる」「②血管が傷んで動脈硬化が早回しになる」の2系統に集約できる。

1. 定義と診断

  • (高血圧) = 体循環の動脈で血圧が持続的に高い状態。本質は 心拍出量↑ および/または ↑。
  • 多くは無症状 → 。出うる症状:
    • 頭痛
    • めまい
    • 胸痛
  • 心血管の罹患・死亡に対する 最も頻度が高く、かつコントロール可能な危険因子。・・障害の主要原因でもある。
  • 心血管リスクはに伴って連続的に増えるため、単一の「最適値」を固定しない。講義資料の「至適血圧115/75 mmHg、これを超えると心血管リスクが上がる」は、約100万人・61のので、通常血圧と血管死亡の比例的な関係が少なくとも115/75 mmHgまで閾値なく続き、それより下は根拠が乏しいと示されたことに由来する1。「115/75より下なら安全」という境界ではなく、「そこまでは下がるほどリスクが下がり続けることが観察された」という意味である。診断区分、薬物治療開始値、は採用する指針、測定環境、、で異なる。
  • 日本: 日本高血圧学会のJSH2025(高血圧管理・治療ガイドライン2025、2025年8月29日発刊、2019年版から6年ぶりの改訂)は、高血圧の自体( 140/90 mmHg以上・ 135/85 mmHg以上)をJSH2019から変更していない。変更されたのはで、JSH2019にあった75歳以上への緩和目標(140/90 mmHg未満)を廃し、原則として全年齢で診察室 130/80 mmHg未満・家庭 125/75 mmHg未満 に統一した2。「」と「」は別の数値であり、・ACC/AHA・JSHのどの指針の、どちらの値かを常に区別する。

🩺 診断: 標準化したを1〜2分間隔で複数回測定し、緊急の臓器障害がなければ別日を含む反復測定で持続性を確認する。可能ならまたは24時間を併用し、とを見分ける。2024年では ≥140/90 mmHg を高血圧とするが3、2025年ACC/AHAでは 130〜139/80〜89 mmHg を病期1とするため、採用指針を明記する。

2018年ESC/ESH資料における診察室血圧分類

下表は旧資料の区分である。2024年は 120〜139/70〜89 mmHg を、140/90 mmHg以上 を高血圧とする簡潔な区分へ変更しており、現行診療では旧区分名と混同しない。

分類 収縮期 拡張期
最適 < 120 かつ < 80
正常 120–129 かつ/または 80–84
130–139 かつ/または 85–89
グレード1高血圧 140–159 かつ/または 90–99
グレード2高血圧 160–179 かつ/または 100–109
グレード3高血圧 ≥ 180 かつ/または ≥ 110
< 140 かつ ≥ 90
≥ 140 かつ < 90

2. 測定法

  • : 。、周術期、の厳密な時などに用いる。
  • 非侵襲的: による自動血圧計、の。は用のみ。
  • : カフがを圧迫。第1の出現を、第5の消失をとして読む。音の正体はで部分的に狭窄した動脈を流れるである。
  • はと測定条件が異なるため、2024年では平均 ≥135/85 mmHg を高血圧の診断閾値とする3。

24時間自由行動下血圧

💡 1日通して測ることで「診察室だけの問題」か「隠れた高血圧」かを見抜ける。

3. 分類・病因

分類 頻度・疑う状況
本態性(原因不明・多因子) 多数を占めるが、単一の固定頻度で決めない(講義資料は90〜95%)
二次性 原疾患・薬剤による。2024年はで「推定10%」としつつ系統的スクリーニングではさらに高い可能性に触れ、二次性の節では定義とにより高血圧患者の10〜35%、治療抵抗性では最大50%とする(この推定は 40 未満の例を含む)3。2025年ACC/AHAは成人高血圧患者の約5〜25%で原因が同定されるとする4(講義資料は約5%)
(稀) 小児・思春期で発症したら疑う

💡 二次性の割合が資料で5%から35%まで開くのは、何を二次性に数えるかという定義と、どの集団をどこまで系統的に調べたかが違うからである( 2024 は「定義と対象コホートによる」と書く)。🧠 の「9割は本態性」は目安であり、治療抵抗性・若年発症・低 K⁺ などの手がかりがあれば割合はずっと高くなる。

単一遺伝子性

標的 病型 機序
腎臓 集合管 の機能亢進/
腎臓 Na⁺再吸収↑(WNK1/WNK4異常 → Na-Cl↑)
副腎皮質 (常染色体優性) アルドステロン↑ → Na⁺貯留
副腎皮質 (常染色体優性) 過剰な作用
副腎皮質 ・CYP17A1欠損 先天性4型・5型

4. 二次性高血圧

💡 覚え方: 二次性は「腎・血管・内分泌・睡眠・薬」。若年発症・治療抵抗性・低 K⁺ などがヒントになるが、低 K⁺ が無くても除外はできない(下記スクリーニングの項を参照)。

⚠️ は、低 K⁺ が無くてもスクリーニングの対象になる。 2025年ACC/AHA高血圧ガイドラインは、・低K血症(または利尿薬による)・・・若年発症高血圧や40歳未満の脳卒中の家族歴のいずれかがあればによるスクリーニングを推奨し(Class 1)、では値によらず行うことを新規点として明記した(2017年版の Class I の対象には無く、今回加わった)。さらに病期2高血圧(140/90 mmHg以上)ではスクリーニングを考慮してよい(Class 2b、の合意に基づく)としている4。同ガイドラインはを高血圧の5〜10%・の約20%とし、のを伴うのはその20〜50%にとどまると述べる4。低 K⁺ を伴わない例のほうが多いので、低 K⁺ が無いことだけを理由にスクリーニングを見送ってはならない。

💡 スクリーニング前にをすべて中止する必要はない。同ガイドラインは、診断の遅れを避けるため、を除く多くのは継続したままアルドステロンとを測ってよいとしている4。

カテゴリ 原因 機序
腎性 腎血管性(:動脈硬化、、圧迫、解離、動脈炎) ↓ → 活性化 →
腎性 (糸球体腎炎、腎盂腎炎、) ↓ / レニン↑ → Na⁺+H₂O貯留
機械的 上肢・頭部で高血圧、下肢で低血圧
() 塩・
が に作用
甲状腺機能亢進症/甲状腺機能低下症 孤立性収縮期↑ / 孤立性拡張期↑
(GH)↑ → 塩再吸収・心拍出量(CO)↑
カテコールアミン↑
↑
睡眠時無呼吸 低酸素が交感神経を活性化
医原性・薬剤性 副腎皮質ステロイド、経口避妊薬、、、、 直接の昇圧・

5. 合併症

🧠 すべては2系統に分かれる:①で心臓が壊れる、②血管傷害で動脈硬化が早回し → 全臓器が虚血する。

flowchart TD
  HTN["高血圧"] --> M1["① <span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure overload'>圧負荷</span>"]
  HTN --> M2["② 血管傷害 → 動脈硬化が加速"]
  M1 --> H["心:肥大・リモデリング<br>→ 拡張・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systolic dysfunction'>収縮機能障害</span> → 心不全<br>+冠動脈AS → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic heart disease (IHD)'>虚血性心疾患</span>"]
  M2 --> V["血管:脆弱なAS → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic heart disease (IHD)'>虚血性心疾患</span>(IHD)・脳卒中・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic aneurysm'>大動脈瘤</span>"]
  M2 --> K["腎:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertensive nephrosclerosis'>高血圧性腎硬化症</span> → 腎不全(高血圧を維持)"]
  M2 --> E["眼:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinopathy'>網膜症</span>(出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cotton-wool spots'>綿花様白斑</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papilledema'>乳頭浮腫</span>)"]
  M2 --> B["脳:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lacunar Infarcts'>ラクナ梗塞</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microinfarct'>微小梗塞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='white matter lesions'>白質障害</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular dementia'>血管性認知症</span>・脳卒中"]

心臓

  • → ・リモデリング → コンプライアンス↓()+ → 心不全。
  • 冠動脈 動脈硬化促進+O₂需要↑ → 。

血管

  • 加速・した動脈硬化 → (IHD)・脳卒中・。
  • → ・壁肥厚・内腔狭小化。小動脈の動脈硬化 → 。

眼 — 網膜症

腎 — 高血圧性腎硬化症

  • は、高血圧から腎不全へは徐々にしか進まないが、それでも腎不全の高頻度の原因である。
  • 腎 動脈硬化+・壁肥厚 → 間質・、(残りのが代償する)。 → ・↓。腎不全の高頻度原因で、かつ高血圧を維持する(自己増悪)。

脳 — 血管性認知症と脳卒中

  • 脳血管の変化:
    • 脳動脈のリモデリング・・動脈硬化(AS)
    • 白質/基底核血管の動脈硬化
    • 障害
    • の
  • 結果:

高血圧緊急症

  • 定義: 著明なに、新規または進行する脳、心臓、大動脈、腎、網膜、妊娠関連などの急性を伴う状態。2024年は 180/110 mmHg以上 の血圧に急性の高血圧性臓器障害を伴うものと定義する3。血圧値だけでは診断せず、臓器障害を伴わない無症候性高値へ静注薬で急速しない。
  • 講義資料の「」は、主にの患者で比較的急に血圧が上がる状態を指す。臓器障害を伴わない高値の呼び方は指針で違い、2025年ACC/AHAは「」の語をやめて「重症高血圧」とし、妊娠していない成人で急性のを伴わない 180/120 mmHg超 は経口の開始・再開・強化で対応し(できれば外来で)、短時間で積極的に下げたり静注薬を使ったりはしないとしている4。欧州(180/110)と米国(180/120)で拡張期の数値が違う点も区別する。
  • では監視下に可能な静注薬を用い、臓器病型に応じて速度を決める。多くの病型では過度のを避けるため段階的に下げるが、、脳卒中、妊娠関連高血圧などは個別の緊急目標に従う。
  • を示唆する症状・所見:
    • 頭痛
    • 嘔吐
    • 痙攣
    • 昏睡
    • ・腎不全・脳卒中を伴いうる
  • — がを超える → 動脈の受動的拡張・(、血液脳関門透過性↑、)→ 脳浮腫(主に)。

まとめ

項目 要点
本質 心拍出量↑ および/または ↑。多くは無症状()
リスクの 通常血圧と血管死亡の関係は少なくとも115/75 mmHgまで閾値なく続く
診断閾値 診察室140/90 mmHg以上( 2024・JSH2025)、家庭135/85 mmHg以上。ACC/AHA 2025は130〜139/80〜89を病期1とする
(JSH2025) 全年齢で診察室130/80 mmHg未満・家庭125/75 mmHg未満。とは別の数値
測定 第1=収縮期、第5音(消失)=拡張期。24時間測定で・・夜間の欠如を見分ける
病因 本態性が多数。二次性は 2024で10〜35%(では推定10%)、ACC/AHA 2025で約5〜25%。小児・思春期発症ならを疑う
二次性の手がかり 腎・血管・内分泌・睡眠・薬。は低K⁺を伴わない例が多く、ではK⁺値によらずスクリーニング(ACC/AHA 2025、Class 1)
合併症の2系統 ① → ・心不全・、②血管傷害・動脈硬化の加速 → 脳卒中・・・・
の有無で決める( 2024は180/110 mmHg以上+)。臓器障害の無い高値は静注で急速に下げない

出典

  1. 1.Age-specific relevance of usual blood pressure to vascular mortality: a meta-analysis of individual data for one million adults in 61 prospective studies(Lancet(Prospective Studies Collaboration)・2002)抄録(Europe PMC、PMID 12493255)で確認した。血管疾患の既往の無い成人約100万人・61の前向き観察研究の個人データのメタ解析で、通常血圧と血管死亡の比例的な関係は少なくとも収縮期115 mmHg・拡張期75 mmHgまで同じ傾きで続き、それより下では根拠が乏しい。解釈の節は中高年で115/75 mmHgまで閾値の証拠が無いと述べる。観察研究である閲覧 2026-09-24
  2. 2.高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025、2025年8月29日発刊)——改訂ポイント(阿部雅紀、日大医学雑誌 84(6):257-261)(日本高血圧学会(改訂点の解説は日本大学医学会)・2025)JSH2019にあった75歳以上への緩和降圧目標を廃し、原則として全年齢で診察室血圧130/80 mmHg未満・家庭血圧125/75 mmHg未満に統一。高血圧の診断基準自体(診察室140/90、家庭135/85 mmHg以上)はJSH2019から据え置き閲覧 2026-08-02
  3. 3.2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension(European Society of Cardiology (ESC)・2024)本文全文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20241029003534)で確認した。Table 5は診察室血圧140/90 mmHg以上・家庭血圧135/85 mmHg以上を高血圧、診察室120/70〜140/90 mmHg未満を血圧上昇(elevated BP)とする。3章は患者の推定10%が二次性とし、系統的スクリーニングではさらに高い可能性に触れる。7.6.1節は定義と対象集団により高血圧患者全体の10〜35%、治療抵抗性高血圧では最大50%が二次性と述べる(後者の推定には eGFR 40 mL/min/1.73 m² 未満の例が含まれると同節が注記する)。10.1.1節は高血圧緊急症を急性の高血圧性臓器障害を伴う180/110 mmHg以上の血圧と定義する閲覧 2026-09-24
  4. 4.2025 AHA/ACC Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults(American College of Cardiology / American Heart Association・2025)3.2.3.1節の推奨表(Circulation掲載版の画像 tab35、2026-09-24に出版社サイトから取得して目視)で、推奨1(Class 1、LOE C-EO)は治療抵抗性高血圧(低カリウム血症の有無によらない)・低カリウム血症(自然発生または利尿薬による)・閉塞性睡眠時無呼吸・副腎偶発腫・若年発症高血圧または若年(40歳未満)の脳卒中の家族歴のいずれかがあれば原発性アルドステロン症のスクリーニングを推奨し、推奨2(Class 2b、LOE C-EO)は病期2高血圧の成人でスクリーニングを考慮してよい(may be considered)とする。Table 1(What Is New)が2017年版からの新規推奨として挙げるのは、このうち「治療抵抗性高血圧では低カリウム血症の有無によらずスクリーニング(COR 1)」と「スクリーニング前にMRA以外の降圧薬の多くを継続(COR 1)」である(Table 1 は網羅的な一覧ではないと断っている。2017年版の JACC 全文5.4.2の Class I の対象には閉塞性睡眠時無呼吸も病期2高血圧も無かった)。2026-09-24にCirculation掲載版の本文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20260730224646)で次を確認した。3.2.3節は二次性の原因が成人高血圧患者の約5〜25%で同定されるとし、3.2.3.1節は原発性アルドステロン症を高血圧の5〜10%・治療抵抗性高血圧の20%と述べ、自然発生の低カリウム血症は原発性アルドステロン症の20〜50%にしか見られないので低カリウム血症の既往だけでスクリーニングを決めないよう求める。Table 1は「hypertensive urgency」の語を「severe hypertension」へ改め、要点10は妊娠していない成人で急性の標的臓器障害を伴わない血圧180/120 mmHg超の重症高血圧は経口降圧薬の開始・再開・強化で対応し(できれば外来で)、短時間で積極的に下げることはしないとしている閲覧 2026-08-14