病態生理学

病態生理学 · P-1-18

ABPM(24時間血圧測定)とその適応

ABPM and its indications

前提:病態
高血圧の定義・分類、二次性高血圧、合併症
疾患
仮面高血圧白衣高血圧

🧠 全体像: ABPMは日常生活と睡眠中の血圧推移を反復測定で捉え、だけでは見逃す、、夜間血圧低下の異常を明らかにする。

24時間自由行動下血圧測定

24時間(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)は、携帯型のカフと測定装置を患者が装着し、通常の活動中および睡眠中に、通常24時間にわたって自動的に複数回の血圧を測定する検査である。

適応

ABPMは、の1点測定だけでは判断がつかない場面で行う。

  • ・が疑われるとき:診察室での測定値と、日常生活・睡眠中の値との乖離を確認する、最も基本的な適応である1。
  • の評価:複数のを併用してもが目標に達しない患者で、による見かけ上の抵抗性(偽性治療抵抗性)を、実際に薬が効いていない真の治療抵抗性から区別する1。
  • 症状と血圧変動の対応を確認するとき:失神、めまいなど血圧の変化が疑われる症状が、実際の血圧の動きと一致する時間帯に起きているかを確認する。
  • ・早朝の血圧(モーニングサージ)の評価:は日中の一時点しか反映しないため、夜間の血圧や覚醒後の急激な上昇の有無は主にABPMで確認する。モーニングサージは定義も予後との関係も確立していない1。夜間から起床後にかけての連続した推移を記録できる点が、ABPMの特徴である。
  • 起立性・食後・薬剤性の低血圧や、に伴う血圧変動の評価:の日常生活下での再現性を確認する場合などに用いる。

💡 日本ではが先、ABPMは次の一手。 JSH2025はABPMの適応を、で決着がつかない場面として整理している——が135/85 mmHg付近またはが140/90 mmHg付近で揺れて診断が難しいとき、が高値血圧(125〜134/75〜84 mmHg)のとき、の変動が大きいとき、では・・を確定できないとき、が疑われるが職場で自己測定できないとき、(ノンディッパー・逆ディッパー)が疑われるのに家庭で夜間を測っていないとき、短期の血圧変動の情報が要るときである2。米国のACC/AHA 2025も、夜間血圧の情報はABPMに固有だが実際の診療ではのほうが実用的なことが多いとする3。

⚠️ 夜間だけ高い高血圧は、では原理的に見つけられない。 日中のが正常であっても夜間血圧だけが高い患者(孤立性)があり、これを検出できるのはABPM(および夜間に測定する)だけである。ABPMで測った夜間血圧の高値は心血管疾患リスクの上昇と関連する1。

⚠️ ただし、の再現性と血圧パターンの再現性は別物である。 ABPMの覚醒時・睡眠時・24時間の短期再現性は概ね良好だが、non-dipper、孤立性、孤立性日中高血圧といった日内パターンの分類は再現性が乏しい(・の再現性も中等度どまり)1。1回のABPMで付いた「non-dipper」というラベルをな体質のように扱わない。境界的な値のときは再検する。 2024も日内パターンの長期再現性は低いようだと述べる4。JSH2025はさらに慎重で、だけでなく24時間・昼間・夜間の平均値の再現性も活動や睡眠の条件しだいで必ずしも良好ではなく、1回のABPMは個人の血圧を正確には反映しないとする2——平均値の再現性の評価は資料によって書き方が異なる。

検出できる病態

病態 血圧パターン
診察室では高値だが、家庭などでは正常
診察室では正常だが、日中の特定の時間帯などで異常高値
異常 本来みられる夜間の血圧低下が失われる。重症・進行性高血圧を示唆しうるが、単独で重症度や進行性を断定する所見ではない

日内変動指数

健康な人では、血圧は朝に上昇し、夕方から夜間に低下するのパターンを示す。

指数(%)=血圧−血圧血圧×100\text{指数(\%)} = \frac{\text{血圧}-\text{血圧}}{\text{血圧}} \times 100
指数 分類・関連事項
10〜20% 正常
<10% ノンディッパー型。、高齢などでみられる
>20% エクストリームディッパー型
<0% 逆ディッパー型(<10%のうち、夜間に血圧が上昇するもの)

欧州の 2024も、夜間の低下が10%超20%未満を正常、10%未満をノンディッパー、20%超をエクストリームディッパー、夜間/昼間比が1.0を超える(夜間に上昇する)ものを逆ディッパーと定義する。ノンディッピングは睡眠時無呼吸、、、、糖尿病、高齢などと関連する4。これら正常範囲からの逸脱は、いずれも心血管リスク上昇と関連する。

日内変動が重要な理由

  • 夜間の血圧低下は、健全なを反映する。
  • 夜間低下の消失または逆転は、および心血管リスク上昇と関連する。
  • したがってABPMは、単回のでは得られない予後情報をもたらす。

診断閾値

測定時間帯 2024・JSH2025・ISH 2020(高血圧) ACC/AHA 2025(病期1=診察室130/80に対応する値)
昼間(覚醒時) ≥135/85 ≥130/80
夜間(睡眠時) ≥120/70 110/65(対応値。判定に使うかは保留)
24時間平均 ≥130/80 ≥125/75

単位はいずれも mmHg。左列は 20244、JSH20252、ISH 20205 で一致する値である。JSH2025は、が高血圧でなくても早朝・昼間・夜間のいずれかの時間帯で高血圧ならとみなす2。右列は ACC/AHA 2025 が診察室130/80 mmHg に対応するとした値で、米国は孤立性のも再現性も低いことから、睡眠時血圧を判定に使うべきかは不明確とし、覚醒時または24時間平均で判定する3。

⚠️ 欧州・日本で「夜間だけ高い」は高血圧に数えるが、米国はまだ判定の軸にしていない。 同じABPMの結果でも、採用する指針でが変わりうる。と目標を混同してはならない理由は測定法別のを参照。

まとめ

項目 要点
ABPMとは 携帯型の装置で通常24時間、活動中と睡眠中の血圧を自動で反復測定する
主な適応 ・の疑い、(偽性抵抗性の除外)、症状と血圧変動の対応、、起立性・食後・薬剤性低血圧や
日本での位置づけ で決着がつかないときに行う(JSH2025)
検出できる病態 、、夜間の血圧低下の消失(異常)
夜間低下10〜20%が正常。10%未満がノンディッパー、20%超がエクストリームディッパー、夜間に上昇するのが逆ディッパー
再現性 日内パターンの分類は再現性が乏しい。の短期再現性はAHA 2019では概ね良好とされるが、JSH2025は平均値も必ずしも良好ではないとし、1回のABPMで決めつけない
閾値 昼間135/85・夜間120/70・24時間130/80 mmHg以上( 2024・JSH2025・ISH 2020)。ACC/AHA 2025は昼間130/80・24時間125/75

出典

  1. 1.Measurement of Blood Pressure in Humans: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association (AHA)・2019)Clinical Indications for ABPM 節の適応一覧——白衣高血圧・仮面高血圧の評価、治療中の患者での降圧薬効果の確認(白衣効果の評価、仮面性コントロール不良の評価)、夜間高血圧の評価、起立性・食後・薬剤性低血圧の評価、自律神経障害に伴う低血圧の評価(睡眠中の臥位高血圧の監視も要する)。白衣効果は診察室でのコントロール不良や偽性治療抵抗性の一因とされること、ABPMでの夜間血圧高値が心血管疾患リスク上昇と関連すること(抄録)、モーニングサージは定義も予後との関連も不確かであること、ABPMの覚醒時・睡眠時・24時間平均血圧の短期再現性は概ね良好である一方、non-dipper・孤立性夜間高血圧・孤立性日中高血圧といった日内パターンの再現性は乏しく白衣高血圧・仮面高血圧の再現性も中等度どまりであること閲覧 2026-08-14
  2. 2.The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025)(Hypertension Research(日本高血圧学会)・2026)英語版全文(出版社サイト)で確認した。Table 5-6はABPMの高血圧基準を24時間130/80、昼間135/85、夜間120/70 mmHg以上とする。仮面高血圧については、診察室血圧が高血圧でなくても早朝・昼間・夜間のいずれかの時間帯で高血圧なら仮面高血圧とみなすと述べる。Table 5-4はABPMの適応を、家庭血圧が135/85または診察室血圧が140/90 mmHg付近で揺れて診断が難しいとき、家庭血圧が高値血圧(125〜134/75〜84 mmHg)のとき、家庭血圧の変動が大きいとき、家庭血圧で白衣高血圧・仮面高血圧・治療抵抗性高血圧を確定できないとき、職場高血圧が疑われるが職場で自己測定できないとき、夜間高血圧(ノンディッパー・逆ディッパー)が疑われるが家庭で夜間を測っていないとき、短期の血圧変動の情報が必要なときとして列挙する。ABPMの24時間・昼間・夜間の平均値の再現性も日内変動の再現性も、日中の活動や睡眠の条件によって必ずしも良好ではなく、1回のABPMは個人の血圧を正確には反映しないとも述べる閲覧 2026-09-24
  3. 3.2025 AHA/ACC Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults(American College of Cardiology / American Heart Association・2025)Circulation掲載版の本文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20260730224646)で確認した。Table 7は診察室130/80 mmHgに対応するABPMの値を昼間130/80、夜間110/65、24時間125/75 mmHgとする。Table 9の脚注は診察室外血圧高値を覚醒時130/80以上または24時間125/75 mmHg以上と定義し、孤立性夜間高血圧は有病率も再現性も低いため睡眠時血圧を判定に用いるべきかは不明確であるとする。ABPMは夜間血圧について固有の情報をもたらすが、家庭血圧のほうが実際の診療では実用的なことが多いとする閲覧 2026-09-24
  4. 4.2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension(European Society of Cardiology (ESC)・2024)本文全文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20241029003534)で確認した。Table 5はABPMの高血圧閾値を昼間135/85、24時間130/80、夜間120/70 mmHg以上とする。9.12.1節は睡眠中の血圧が日中より10〜20%下がるのが生理的とし、夜間の低下が10%超20%未満を正常、10%未満をノンディッパー、20%超をエクストリームディッパー、夜間/昼間比1.0超(夜間の上昇)を逆ディッパー(riser)と定義し、日内パターンの長期再現性は低いようだと述べる。9.12.2節は睡眠時無呼吸・起立性低血圧・自律神経障害・CKD・糖尿病・高齢などがノンディッピングと関連するとする閲覧 2026-09-24
  5. 5.2020 International Society of Hypertension Global Hypertension Practice Guidelines(International Society of Hypertension (ISH)・2020)ABPMの診断閾値——昼間(覚醒時)135/85、夜間(睡眠時)120/70、24時間平均130/80 mmHg以上閲覧 2026-08-14