病態生理学

病態生理学 · P-1-17

血圧測定法と正しい測定の実際

Methods to measure blood pressure

前提:病態
高血圧の定義・分類、二次性高血圧、合併症
症状
低血圧

🧠 全体像: 血圧値は測定法だけでなく、休息、姿勢、カフの位置、会話などの条件にも左右される。したがって「正しい条件で反復測定し、測定環境に対応したで判定する」ことが要点である。

血圧の測定法

分類 方法 主な用途・特徴
(侵襲的) 動脈内にカテーテルを留置する などで用いる。侵襲的であり、日常診療には適さない
(非侵襲的) による半自動・自動血圧計 日常診療で広く用いられる
(非侵襲的) 検証済み圧力計を用いたKorotkoff音 で収縮期・を判定する
(非侵襲的) 血圧計 現在は主に目的で用いられる

正しい測定手技

⚠️ 測定の手技そのものが結果を決める。 条件がずれると、疾患としての高血圧の有無ではなくで診断・治療方針が変わってしまう。

  • 測定前30分間は、食事、飲料、飲酒、喫煙、運動を避ける1。
  • 静かで中立的な環境で5分以上安静にする。
    • 情動、温度、によるストレスを避ける。
    • 膀胱を空にしておく。
  • 背中を支え、筋肉を弛緩させて座位をとる。両脚は組まず、平行にして足底を床につける(脚を組むとが見かけ上上昇しうる)。
    • 上腕を心臓の高さに置き、肘を軽く曲げる。腕が心臓より低いと血圧は高く、高いと低く測定される。
  • カフの中央を上腕に合わせ、下縁をの2〜3 cm上方に置く。
    • ⚠️ カフの大きさは上腕周囲に合わせて選ぶ(膨張帯の幅が上腕周囲の37〜50%、長さが75〜100%となるものが目安)。カフが小さすぎると実際より高い値が、大きすぎると実際より低い値が測定される——上腕を過不足なく圧迫できないためで、日常診療で最も頻度の高いの原因である1。
  • 少なくとも3回測定し、最後の2回の平均値を報告する。測定は1〜2分間隔をあける( 2024のの手順と同じ2)。
  • 測定中は患者も検者も会話しない。
  • ⚠️ 初診時は左右両方の上腕で測定する。 以後は値が高いほうの腕で測定を続ける。左右差が持続して収縮期・拡張期のいずれかで10 mmHg以上あれば、などのやによる血流の左右差を疑う端緒になる1。
  • Korotkoff法では、の脈拍が触知できなくなる圧より約20〜30 mmHg高く加圧し、その後約2 mmHg/秒の速度で徐々に減圧する(脈が非常に遅い場合は1心拍ごとに2 mmHgずつ)1。

💡 会話や不十分な安静、腕の高さのずれは測定値を系統的に変化させる。単回値よりも、条件を標準化した反復測定の平均値が重要である。

聴診法(Korotkoff音)の判定と聴診間隙

では、加圧したカフを徐々に減圧しながら聞こえるKorotkoff音の変化で収縮期・を判定する。

  • 第1点(音が最初に聞こえ始める点)=。
  • 第5点(音が完全に消失する点)=1。

⭐ の前に、まずを触診しながら加圧し、脈が触れなくなる圧をの目安として見積もる。 そのうえで、見積もりより20〜30 mmHg高い圧から減圧を始めてする1。

⚠️ :一部の患者では、収縮期に相当する音がいったん聞こえた後、拡張期に達する前の中間圧域で音が消失し、より低い圧で再び聞こえ始めるという「無音区間」が生じる。これを知らずに、音が聞こえ始めた点だけを頼りに低い圧からを始めると、無音区間の下端を第1点と誤認し、真のを実際より低く読んでしまう。💡 上の「触診で先に見積もってから十分高い圧でを始める」手順を守れば、無音区間の内側から測り始める事態を避けられる(なお間隙という語自体は上記AHA声明には登場しない。古典的な教科書事項として扱う)。

自動血圧計(オシロメトリック法)の限界

は動脈壁の脈波振動を解析してアルゴリズムで血圧を推定する方式であり、拍動の間隔・振幅が心拍ごとに大きく変動する状況では推定精度が落ちる。心房細動などの不整脈では拍動間隔が不規則になるため、自動血圧計の値を拍動ごとの連続血圧測定と比べると、平均としての偏りは小さくても個々の患者でのばらつきが大きい(心房細動58例ではの差が+0.1±14.8 mmHg)。拍動ごとの血圧変動が大きい患者、心拍数が速い患者ほど精度は落ちる3。⚠️ したがって「集団としては合っている」ことは目の前の1人の値が正しい保証にならない。不整脈が疑われる患者で自動血圧計の値が症状や他の所見と合わない場合は、での確認や反復測定を検討する。

起立性低血圧の測定

血圧測定は臥位・座位だけでなく、時にも行う。は、座位または臥位で5分間安静にした後のに対して、起立後1分および/または3分の時点でが20 mmHg以上、またはが10 mmHg以上低下することで診断する2。1回だけの測定では、起立後しばらくして現れる遅発性の低下を見逃すため、複数の時点で測定する。

24時間自由行動下血圧測定の概要

24時間(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)は、通常24時間にわたり、昼夜を通して自動的に複数回の血圧を測定する方法である。

診断閾値

(家庭・ABPM)の血圧は診察室より低く出るため、測定環境ごとに別の閾値を使う。欧州・日本・ISHは同じ値を採り、米国だけが1段低い値を採る。

測定環境 2024・JSH2025・ISH 2020(高血圧) ACC/AHA 2025(病期1=診察室130/80に対応する値)
診察室 ≥140/90 ≥130/80
家庭 ≥135/85 ≥130/80
ABPM・昼間(覚醒時) ≥135/85 ≥130/80
ABPM・夜間(睡眠時) ≥120/70 110/65(対応値。判定に使うかは保留)
ABPM・24時間平均 ≥130/80 ≥125/75

単位はいずれも mmHg。左列は 20242、JSH20254、ISH 20205 の値で、3つの指針で一致する。右列は ACC/AHA 2025 が診察室130/80 mmHg に対応するとした値である6。

⚠️ 閾値は「どの指針か」と組にして覚える。 米国は夜間値の扱いを保留しており、の高値は覚醒時または24時間平均で判定するとしている6。表の読み方と、と目標を混同してはならない理由は測定法別のを参照。

まとめ

項目 要点
測定法 ()と(・Korotkoff音)。血圧計は主に用
測定前の条件 30分間は食事・・飲酒・喫煙・運動を避け、5分以上座位で安静。脚を組まず、上腕を心臓の高さに置く
カフ 膨張帯の幅は上腕周囲の37〜50%、長さは75〜100%。小さすぎると高く、大きすぎると低く測定される
回数 1〜2分間隔で3回以上測り、最後の2回を平均する。初診時は左右両腕で測り、以後は高いほうの腕を使う
触診で見積もった圧より20〜30 mmHg高く加圧し、約2 mmHg/秒で減圧。第1点=収縮期、第5点=拡張期。間隙に注意
自動血圧計の限界 心房細動では平均の偏りは小さいが個人ごとのばらつきが大きい
起立1分後および/または3分後に20/10 mmHg以上の低下
診断閾値 診察室140/90・家庭135/85・ABPM 24時間130/80( 2024・JSH2025・ISH 2020)。ACC/AHA 2025は診察室130/80を病期1とする

出典

  1. 1.Measurement of Blood Pressure in Humans: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association (AHA)・2019)正しい測定手技の詳細——カフの膨張帯は上腕周囲の37〜50%幅・75〜100%長(Table 2)、小さすぎるカフは血圧を高く・大きすぎるカフは低く測定し、「miscuffing」は診察室血圧測定で最も頻度の高い誤差である、測定前30分はカフェイン・運動・喫煙を避ける、初診時は両上腕で測定し以後は高いほうを用いる(収縮期・拡張期いずれかの左右差10 mmHg以上は臨床的に有意で、大動脈縮窄や上肢動脈閉塞が原因となりうる)、聴診法の第1点=収縮期・第5点=拡張期、触診で得た橈骨動脈消失圧より20〜30 mmHg高く加圧してから聴診する、減圧速度は2 mmHg/秒(徐脈時は1心拍あたり2 mmHg)。なお「聴診間隙(auscultatory gap)」という語はこの声明文には出てこない。閲覧 2026-08-14
  2. 2.2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension(European Society of Cardiology (ESC)・2024)本文全文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20241029003534)で確認した。Table 5は測定法別の高血圧閾値を診察室140/90、家庭135/85、ABPM昼間135/85、24時間130/80、夜間120/70 mmHg以上とし、その下の区分を血圧上昇(elevated BP)とする。5.5.3節は起立性低血圧を、座位または臥位で5分安静にした後、起立1分後および/または3分後に血圧が20/10 mmHg以上低下するものと定義する。聴診法では1〜2分間隔で3回測定し最後の2回の平均を記録するとする閲覧 2026-09-24
  3. 3.Accuracy of oscillometric blood pressure measurement in atrial fibrillation(Blood Pressure Monitoring(Feenstra RK, et al.)・2018)外来の心房細動58例・洞調律38例で自動オシロメトリック血圧計と拍動ごとの連続血圧(volume clamp法)を比較し、心房細動では収縮期血圧の差が+0.1±14.8 mmHgと平均の偏りは小さいものの個人差の幅が大きく、結論として「心房細動における自動オシロメトリック法の精度は限られており、個々の患者ではずれが相当大きくなりうる」とした。拍動ごとの血圧変動が大きい患者、心拍数が速い患者ほど精度が落ちるとした。閲覧 2026-08-14
  4. 4.The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025)(Hypertension Research(日本高血圧学会)・2026)英語版全文(出版社サイト)で確認した。Table 5-6は測定法別の高血圧基準を診察室140/90、家庭135/85、ABPM 24時間130/80、昼間135/85、夜間120/70 mmHg以上とする閲覧 2026-09-24
  5. 5.2020 International Society of Hypertension Global Hypertension Practice Guidelines(International Society of Hypertension (ISH)・2020)測定法別の高血圧診断閾値——診察室140/90、家庭135/85、ABPM 24時間平均130/80、昼間135/85、夜間120/70 mmHg以上閲覧 2026-08-14
  6. 6.2025 AHA/ACC Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults(American College of Cardiology / American Heart Association・2025)Circulation掲載版の本文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20260730224646)で確認した。診察室血圧130〜139/80〜89 mmHgを病期1、140/90 mmHg以上を病期2とし(2回以上の機会に得た2回以上の測定の平均に基づく)、Table 7は診察室130/80 mmHgに対応する値を家庭130/80、ABPM昼間130/80、夜間110/65、24時間125/75 mmHgとする。Table 9の脚注は診察室外血圧高値を覚醒時130/80以上または24時間125/75 mmHg以上と定義し、睡眠時血圧を判定に用いるべきかは不明確であるとする閲覧 2026-09-24