病態生理学

病態生理学 · 1-2

本態性高血圧;治療の原則

Essential hypertension; principles of treatment

応用トピック
高血圧II―治療と高血圧性心疾患高血圧 症例1高血圧 症例2高血圧 症例3

🧠 は「犯人が1人いない」病気。 の土台に、神経内分泌の乱れ → 腎が塩を捨てられない() と 血管が硬く老化する が重なり、互いを増悪させる悪循環で血圧が固定される。

flowchart TD
  G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝素因</span>(家族歴35–50%・数百の遺伝子座)"] --> X["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary hypertension'>本態性高血圧</span>"]
  N["神経内分泌の乱れ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='renin-angiotensin-aldosterone system'>レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renin-angiotensin-aldosterone system'>RAAS</span>)・交感神経・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial dysfunction'>内皮機能障害</span>・免疫炎症"] --> SALT["腎の Na 排泄不全 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='Salt Sensitivity'>塩分感受性</span>↑"]
  SALT --> X
  X --> VA["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Vascular Aging'>血管老化</span>:硬化・リモデリング"]
  VA --> X

主要な発症機序

1. 遺伝素因

  • 家族歴が重要。35–50% が家族性素因と関連。
  • 講義資料は血圧関連の遺伝子座を「約120」とするが、その後ので数は大きく増えた。2025年ACC/AHAガイドラインは、血圧はの高い形質で数百の独立した遺伝子座が報告されているが、1つ1つの効果は小さく、既知の遺伝子座を全部合わせても血圧のの10%未満しか説明しないと述べる1。💡 は「単一の」ではなく、小さな効果の多数の変異と環境・との相互作用で働く(1つの遺伝子の変異で起こるの高血圧は別枠で、高血圧の定義・分類で扱う)。

2. 神経内分泌異常→ 塩分感受性

💡 要は「血管を締める力 > 緩める力」へ傾く。 締める側(・交感神経・)が優位、緩める側((NO)・)が劣勢になる。

  • RAAS:
    • 全身性: 腎低灌流で。本態性の約15%で高値(異常、↑、()↓)。長期的に腎が高血圧を維持。
    • 局所: で活性化 → 血管・心のリモデリング、、、線維化・炎症促進。
  • : ↑で心筋から放出 → 血管拡張+(で()↑、抑制、レニン/アルドステロン↓)。=血圧を下げる側。
  • 内皮: 機能障害 → NO の↓(、II(ANGII)/アルドステロン、糖尿病、炎症、喫煙)+相対的に↑ → 血管収縮。
  • : → 血管収縮((TPR)↑)、心拍出量(CO)↑、レニン↑ → Na⁺/。長期で、(SMC)増殖、。
  • 免疫系: 炎症 → 、→ 局所RAS、 → ↑。炎症性/T細胞の不均衡 → 進行+臓器障害。

塩分感受性

💡 悪循環: 塩で血圧が上がる人は、その塩自体が感受性をさらに高める。

  • 高塩分 → +BP↑。通常は適応で緩衝(、↓、、NO、↑)。
  • : 5 g 以上の塩で数時間以内に収縮期が10 mmHg以上↑。
  • 腎の塩排泄不全:
    • WNK4異常(遠位NaCl)
    • /Corin欠乏
    • 腎
  • がを増強(NO↓)。
  • 皮膚 (GAG)↓(加齢):GAGはNa⁺と結合して緩衝し、塩負荷への適応を助ける。Na⁺の結合はマクロファージを介した()の放出を促し、の発現上昇との発達につながる。GAGが減るとこの緩衝と適応が損なわれる。

血管老化

主要な基盤機序。HTNがこれを加速(悪循環)。年齢とともにが進んで血圧が上がり、ほかの危険因子はこの過程を早める。

  • 構造的:
    • 外径↑(内腔↓)
  • 機能的:
    • ()
    • → 大動脈の 障害
  • 細胞性(局所の亢進がこれら全てを加速):
    • SMCの増殖/
    • 線維化+沈着(コラーゲン/↑)
    • (BMP2、骨芽細胞因子)
    • (NO↓、↑)
    • 血管炎症
  • 昇圧因子(、アルドステロン、交感神経の)は、それ自体で高血圧を起こすと同時にも早める。

治療

降圧目標

指針ごとに数値が異なるので、必ずどの指針の値かとセットで覚える。

指針 目標() 補足
2024 があれば 120–129/70–79 mmHg2 120–139/70–89 mmHgは「」として高血圧そのものとは区別する
ACC/AHA 2025 多くの成人で 130/80 mmHg未満1 による10年心血管リスク7.5%以上を薬物治療開始の目安に採用
JSH2025 原則全年齢で診察室130/80 mmHg未満(家庭125/75 mmHg未満)3 診断基準(診察室140/90・家庭135/85 mmHg以上)はJSH2019から据え置き。変わったのは目標側だけで、75歳以上への緩和目標(140/90 mmHg未満)は廃止された
  • ⭐ 「」と「」は別の数字。 とくにJSH2025はを動かさず目標だけを引き締めた点を混同しない。

非薬物療法

  • 塩分制限:ACC/AHA2025はナトリウム 2,300 mg/日未満(理想は1,500 mg/日未満)を推奨1。ESC2024はナトリウム約2 g/日(食塩約5 g/日)を目安とする2
  • カリウム摂取↑(腎機能低下例ではに注意し、一律には勧めない)
  • アルコール:が第一の目標。飲む場合でも男性2ドリンク/日、女性1ドリンク/日まで1
  • 定期的な(頻度・時間を固定の基準に限定するより、継続することを重視)
  • 減量:・肥満があれば、まず 5%以上の減量 を目標にする(それだけで有意にする)1
  • 禁煙
  • ストレス軽減

薬物療法

💡 は「CO を下げる」か「TPR を下げる」か「循環血液量を減らす」のどれを狙うかで整理できる。

主な血行動態効果 現行ガイドラインでの位置づけ
阻害薬 トーン↓ → TPR↓ 第一選択の1つ21
トーン↓ → TPR↓ 第一選択の1つ。阻害薬と同じく抑制だが、乾性咳が問題になる患者で置き換える21
トーン↓ → TPR↓ 第一選択の1つ21
利尿薬(/類似) +前負荷↓ 第一選択の1つ21
β1遮断薬 収縮力↓ → CO↓;レニン↓ → 循環血液量/前負荷↓ ⚠️心血管イベント抑制の根拠がある「主要5系統」には入るが、一般的な高血圧治療の第一選択の4系統には含まれない。狭心症・心不全・・心拍数の調節が要るときに優先して追加する位置づけで、他の系統より脳卒中の予防効果が劣り、副作用による中止も多い2
トーン↓ → TPR↓;血管拡張 → 前負荷↓ 合併など限られた場面の追加薬
中枢性α2刺激薬 中枢機序で交感神経の作用↓ などでの追加薬
  • 現行のESC2024・ACC/AHA2025はいずれも阻害薬・・・/の4系統を第一選択とし(両指針とも「4系統」と数える。阻害薬とを阻害薬としてまとめれば3群)、β遮断薬は含めていない21。⚠️ 阻害薬とは同じ系を二重に遮断することになるので、この2つを組み合わせる併用は推奨されない2。
  • ⭐ 単剤から始めるとは限らない。 ESC2024は多くの成人で低用量の2剤併用(配合剤が望ましい)を初期治療として推奨し、単剤開始(あわせて緩徐な増量・低用量)を考慮する場面として、心血管リスクの高い(120〜139/70〜89 mmHg)、中等度〜重度、余命が限られる例、症候性、85歳以上を挙げる2。ACC/AHA2025も病期2高血圧(≥140/90 mmHg)では2剤併用を初期治療とし、病期1(130–139/80–89 mmHg)では単剤開始から段階的に追加してよいとする1。

まとめ

項目 要点
の成り立ち 単一の原因は無い。+神経内分泌の乱れ(・交感神経・・免疫炎症)→ 腎の Na 排泄不全()+が悪循環をつくる
遺伝 家族性素因は35–50%。遺伝子座は数百報告されているが、合わせても血圧のの10%未満しか説明しない
食塩5 g以上の負荷で数時間以内に収縮期が10 mmHg以上上がる。高塩分そのものが感受性を高める
外径↑・中膜肥厚・・。局所が加速し、高血圧がさらに老化を早める
目標 2024:があれば120–129/70–79 mmHg/ACC/AHA 2025:多くの成人で130/80 mmHg未満/JSH2025:全年齢で診察室130/80・家庭125/75 mmHg未満
(ACC/AHA:ナトリウム2,300 mg/日未満、:約2 g/日)、カリウム摂取、〜、運動、5%以上の減量、禁煙、ストレス軽減
阻害薬・・・/の4系統(阻害薬との併用はしない)
β遮断薬 第一選択ではない。狭心症・心不全・・などで追加する
開始の仕方 多くは低用量2剤併用(配合剤が望ましい)から。単剤開始は・85歳以上・・などで考慮( 2024)、ACC/AHA 2025は病期1で単剤開始を許容

出典

  1. 1.2025 AHA/ACC Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults(American College of Cardiology / American Heart Association・2025)第一選択薬がサイアザイド系利尿薬・長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca²⁺チャネル遮断薬・ACE阻害薬・ARBで、本文は「4 classes of first-line agents」と数え、β遮断薬を含まないこと(β遮断薬は第一選択薬より効果が劣るとする)。3.2.1節は血圧の遺伝率が高く数百の独立した遺伝子座が報告されているが、既知の遺伝子座を合わせても血圧の分散の10%未満しか説明しないと述べること(2026-09-24にCirculation掲載版の本文をWayback Machine の id_ 付き出版社ページ20260730224646で確認)。病期2高血圧(≥140/90 mmHg)では2剤併用(配合剤が望ましい)を初期治療とし、病期1(130–139/80–89 mmHg)では単剤開始も許容されること。多くの成人で降圧目標は130/80 mmHg未満であること。生活習慣介入としてナトリウム2,300 mg/日未満(理想は1,500 mg/日未満)、飲酒は断酒を目標としつつ少なくとも男性2ドリンク/日・女性1ドリンク/日以下、過体重・肥満では初期目標として5%以上の減量を推奨すること閲覧 2026-08-14
  2. 2.2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension(European Society of Cardiology (ESC)・2024)現行ESCガイドラインでは一般成人の第一選択薬がACE阻害薬・ARB・ジヒドロピリジン系Ca²⁺チャネル遮断薬・サイアザイド/サイアザイド類似利尿薬の「主要4系統」であり(ACE阻害薬とARBの併用は推奨しない)、β遮断薬は心血管イベント抑制の根拠がある主要5系統には数えられるが第一選択の4系統には入らず、狭心症・心不全・心筋梗塞後・心拍数調節など特定の場面で追加される位置づけであること(8.3.2節は、β遮断薬は他系統より脳卒中予防の効果が劣り副作用による中止が多いと述べる。2026-09-24に本文全文をWayback Machine の id_ 付き出版社ページ20241029003534で確認)。多くの成人で低用量2剤併用(配合剤が望ましい)を初期治療とし、単剤開始・緩徐な増量・低用量は、心血管リスクの高い血圧上昇域、中等度〜重度フレイル、余命が限られる例、症候性起立性低血圧、85歳以上で考慮するとしていること。忍容性があれば診察室血圧120–129/70–79 mmHgを目標とすること。生活習慣介入としてナトリウム摂取を最大2 g/日(食塩約5 g/日未満)に制限することをClass Iで推奨すること閲覧 2026-08-14
  3. 3.高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025、2025年8月29日発刊)——改訂ポイント(阿部雅紀、日大医学雑誌 84(6):257-261)(日本高血圧学会(改訂点の解説は日本大学医学会)・2025)JSH2019にあった75歳以上への緩和降圧目標を廃し、原則として全年齢で診察室血圧130/80 mmHg未満・家庭血圧125/75 mmHg未満に統一。高血圧の診断基準自体(診察室140/90、家庭135/85 mmHg以上)はJSH2019から据え置き閲覧 2026-08-14