病態生理学

病態生理学 · P-1-1

高血圧 症例1

Hypertension, Case 1

前提:病態
高血圧の定義・分類、二次性高血圧、合併症本態性高血圧;治療の原則

🧠 全体像: を2週間自己中断した48歳の肥満患者が、両上肢で215/125 mmHg と頭痛・悪心・嘔吐・めまいを呈した症例。鍵は数値の高さではなく急性のがあるかで、あればとして静注薬で段階的に下げ、無ければ臓器障害の無い重症高血圧としての再開・強化で下げる。症状だけで緊急症と決めず、眼底・・画像で臓器障害を能動的に確かめるのがこの症例の要である。

症例提示

48歳の患者が、強い鈍い、悪心、嘔吐、めまいをに救急外来を受診した。既往として、かかりつけ医で治療中の高血圧がある。本人の申告では他の疾患はない。家族歴として、父は高血圧があり前立腺がんで死亡、母は心筋梗塞で死亡、兄弟も高血圧で内服治療中である。では、肥満体型、胸郭は左右対称、呼吸音は正常、両側胸郭運動も保たれている。は整で清、雑音なし、HR: 104 回/分。RR: 215/125 mmHg を両上肢で測定。腹部は、軟で、病的圧痛やなし、肝はやや腫大、脾は触知せず、末梢動脈は両側で。は認めない。

を進めると、患者は処方更新のために受診する時間が取れず、約2週間前からを自己中断していたことが判明した。この2週間は症状がなかったため、血圧測定も行っていなかった。

主要所見 - 記述と解釈

所見・数値 解釈
“両上肢で測定したRR: 215/125 mmHg” 著明なでありを示唆。ただしか、急性を伴わない(従来の。2025年ACC/AHAは「重症高血圧」と呼ぶ1)かは、この数値だけでは決まらず、の有無で判定する。両上肢に左右差がないので、を示唆する上肢間の血圧差は無い——ただし左右差を伴わない解離もあり、左右差が無いことだけでは否定できない。は上肢と下肢の血圧差で探す所見なので、両上肢の比較では評価できない
“、悪心、嘔吐、めまい” 急性の重症高血圧に一致する症状で、を疑わせる。は、が脳血管のを超えて上昇し、動脈が受動的に拡張・を来して脳浮腫(主に)を生じる機序で説明される。⚠️ ただし頭痛・悪心・めまいはそれ自体では非特異的で、だが臓器障害のない例でも疼痛・不安に伴ってしばしばみられる——この症状があるから緊急症だ、と短絡しない。 眼底(・・滲出)、と、必要に応じ頭部画像を確認して、急性の有無を能動的に確かめる
“約2週間前にの内服を中断” 不良による血圧コントロール破綻(誘因)
父(高血圧、前立腺がんで死亡)・母(心筋梗塞で死亡)・兄弟(高血圧で内服中) 父と兄弟の高血圧、母の心筋梗塞死という家族歴があり、本態性(一次性)高血圧と心血管疾患のを支持
“肥満”; HR 104/min 肥満は主要なリスク因子。頻脈はを反映
“は認めない” 頭痛の原因として髄膜炎やの可能性は低い

評価 - 要点

項目 内容
診断 を背景とした。神経症状があるので()を最優先で疑うが、症状だけでは決まらない——眼底・意識と・必要に応じ頭部画像で急性を確かめ、あれば緊急症、無ければ臓器障害の無い重症高血圧と判定する
誘因 2週間前からのの急な中断
リスク背景 高血圧(父・兄弟)と心血管死(母の心筋梗塞)の家族歴に加え、肥満
病態生理 血圧未制御 → 脳を含むへの急激な → 標的臓器ストレス症状
治療の原則 ⚠️ 急性を伴うでは、モニター下で可能な静注を用いる。特別な病態が無ければ最初の1時間のを約25%にとどめ、その後24〜48時間かけて段階的に下げる1(StatPearls はを最初の1〜2時間で20〜25%下げ、2〜6時間で160/100 mmHg程度、その後2日ほどで正常域へ、と書く2)。長年の高血圧では臓器血流のが障害されており、正常域への急速な補正は重要臓器の低灌流を招きうる1。例外はで、最初の1時間以内に収縮期120 mmHg未満まで速やかに下げる(ACC/AHA2025の薬剤表は20分以内に120 mmHg以下)1——本症例は両上肢に左右差がなく、の記載も無いので解離を疑う手がかりは乏しいが、左右差が無いことだけで否定はできない。臓器障害が確認されなければ静注薬で急速に下げず、経口の再開・強化で対応する1——本症例の誘因は自己中断なので、その場合は中断した薬の再開が治療の軸になる
学習ポイント ではと継続診療が極めて重要。💡 血圧が安定した後の慢性期の目標は国・学会で異なり、ACC/AHA2025は多くの成人で130/80 mmHg未満を目標とする一方1、ESC2024はがあれば120–129/70–79 mmHgを目標とする3——どちらかに揃えるのではなく、外来でどちらの基準に基づく目標か確認する必要がある

出典

  1. 1.2025 AHA/ACC Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults(American College of Cardiology / American Heart Association・2025)2026-09-24にCirculation掲載版の本文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20260730224646)で確認した。要点は全成人の降圧目標を130/80 mmHg未満とし、施設入所・予後限定・妊娠では別途考慮するとする。6.2節は高血圧緊急症を急性標的臓器障害を伴う180/120 mmHg超の血圧と定義し、長年の高血圧患者で正常域へ急速に補正すると自動調節の喪失のため重要臓器の低灌流を招きうるとする。急性標的臓器障害の無い重症高血圧(従来の高血圧切迫症)は短期に積極的に下げず静注薬も用いず、経口降圧薬の再開・強化(できれば外来)を推奨する。特別な病態の無い緊急症では最初の1時間で25%の降圧を目指し、24〜48時間でさらに段階的に下げる。大動脈解離では最初の1時間で収縮期120 mmHg未満を目指し、薬剤表は20分以内に120 mmHg以下としている閲覧 2026-08-26
  2. 2.Hypertensive Emergency(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)2026-09-24にWayback Machine保存版(20260422045950、Last Update July 24, 2023)の本文で確認した。高血圧緊急症では平均動脈圧を最初の1〜2時間で20〜25%下げることを目標とし、Current Guidelinesの節は最初の1時間で25%下げたのち2〜6時間で160/100 mmHgへ、その後2日ほどかけて正常域へ段階的に下げるとする。同じ節は大動脈解離のような急性病態で「最初の1時間で140 mmHg未満」と書くが、これは現行のACC/AHA 2025(解離は収縮期120 mmHg以下)と一致しないため、本ノートでは解離の目標にこの出典を用いない閲覧 2026-08-26
  3. 3.2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension(European Society of Cardiology (ESC)・2024)現行ESCガイドラインでは、忍容性があれば診察室血圧120–129/70–79 mmHgを慢性期の降圧目標とすること。閲覧 2026-08-26