病態生理学

病態生理学 · P-1-2

高血圧 症例2

Hypertension, Case 2

前提:病態
高血圧の定義・分類、二次性高血圧、合併症本態性高血圧;治療の原則

🧠 全体像: 糖尿病とをもつ55歳女性で、診察室155〜160/90〜95 mmHg、家庭約140/90 mmHg、ABPM平均150/90 mmHg。鍵は診察室との値の読み分けで、もABPMもの高血圧基準を超えるので、ではなくと判定する。はとして存在するにとどまり、心血管リスクの集積が治療開始を後押しする。

症例提示

55歳女性で、産業医が血圧 155/95 mmHg、脈拍 102 回/分 を測定したため、かかりつけ医へ紹介となった。患者本人は、これまで血圧は問題ないと思っていた。糖尿病とで内服中である。かかりつけ医で両上肢測定すると、血圧 160/90 mmHg、脈拍 105 回/分 であった。一方、自宅測定では RR が約 140/90 mmHg であったため、かかりつけ医はABPM(24時間)を実施した。ABPM の平均は 150/90 mmHg、平均 HR は 90 回/分 であった。はを行い、薬物療法を開始した。

主要な記述と解釈

所見・数値 解釈
診察室:155/95 → 160/90 mmHg;家庭:約140/90 mmHg がより収縮期で15〜20 mmHgほど高く、のがある。ただし約140/90 mmHg自体がの高血圧基準(ESC2024は135/85 mmHg以上1。ACC/AHA2025の対応表では診察室130/80 mmHgに家庭130/80 mmHgが対応する2)を超えており、が正常なではない
“かかりつけ医がABPM(24時間)を施行” ABPMは真の高血圧を確認し、を除外するための標準的手法
ABPM 平均 150/90 mmHg、平均脈拍 90 回/分 24時間平均150/90 mmHgは、ESC2024の24時間ABPMの高血圧基準(130/80 mmHg以上)を明らかに超え1、ACC/AHA2025の対応表で診察室160/100 mmHgに対応する24時間値(145/90 mmHg)をも上回る2。だけではないを確認
“糖尿病とで内服中” 糖尿病との併存により、心血管リスクが集積

要点

  • 診断: を伴うが、ABPM で確認された(二次性の手がかりが無ければ本態性と考える)。
  • ⚠️ 脈拍にも目を向ける。 脈拍は診察室で102〜105回/分、ABPMの24時間平均でも90回/分と速めである。診察時の緊張による交感神経亢進だけでは24時間平均の速さまでは説明しにくく、「本態性」と呼ぶ前に甲状腺機能亢進症などの二次性の手がかりとして確かめておく(はである)。
  • 診断手段: ABPM とにより、真の高血圧とを鑑別し、を決定する。
  • リスク背景: 糖尿病とにより全体の心血管リスクが上昇する。⚠️ ただし現行のESC20241・ACC/AHA20252・JSH20253はいずれも目標の数値自体を糖尿病の有無で分けておらず、「糖尿病があるからさらに低い数値まで下げる」のではない。⚠️ ここを「JSH2019までは糖尿病だから目標が低かった」と誤解しない——JSH2019でも糖尿病の目標は75歳未満の一般成人と同じ130/80 mmHg未満であり、別枠で置かれていたのは75歳以上・・蛋白尿陰性に対する140/90 mmHg未満という緩和目標のほうである。JSH2025が廃止したのはこの緩和目標で、その結果として全年齢・全患者背景が130/80 mmHg未満へ統一された3。リスクが高いことの意味は、薬物治療を開始する閾値が下がり、すでに一律に厳格化された目標(ESC2024はがあれば120–129/70–79 mmHg、ACC/AHA2025・JSH2025は130/80 mmHg未満)の達成をより優先すべき、という点にある。
  • 病態生理: 診察場面での不安による交感神経亢進がを上げる一方、ABPM 平均値が実際の血圧負荷を示す。
  • 管理: と薬物療法を併用し、を踏まえて厳密に管理する。

出典

  1. 1.2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension(European Society of Cardiology (ESC)・2024)忍容性があれば診察室血圧120–129/70–79 mmHgを目標とし、この目標値は糖尿病の有無で分けていない。2026-09-24に本文全文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20241029003534)で、9.6.3節が糖尿病の全患者に可能で忍容性があれば120–129/70–79 mmHgを目標とし糖尿病の有無で目標を分ける強い根拠は無いとすること、Table 5が高血圧を診察室140/90・家庭135/85・日中ABPM 135/85・24時間ABPM 130/80・夜間ABPM 120/70 mmHg以上と定義することを確認した閲覧 2026-08-14
  2. 2.2025 AHA/ACC Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults(American College of Cardiology / American Heart Association・2025)多くの成人で降圧目標は130/80 mmHg未満であり、糖尿病があるからといって、より低い数値を個別に設定するものではない。2026-09-24にCirculation掲載版の本文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20260730224646)で、要点が全成人の目標を130/80 mmHg未満とすること、診察室血圧と家庭・ABPMの対応表が診察室130/80に家庭130/80・24時間ABPM 125/75を、診察室140/90に家庭135/85・24時間ABPM 130/80を、診察室160/100に家庭145/90・24時間ABPM 145/90を対応させていることを確認した閲覧 2026-08-14
  3. 3.高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025、2025年8月29日発刊)——改訂ポイント(阿部雅紀、日大医学雑誌 84(6):257-261)(日本高血圧学会(改訂点の解説は日本大学医学会)・2025)JSH2019では75歳以上・脳血管障害・蛋白尿陰性CKDに対して140/90 mmHg未満という緩和した降圧目標が置かれていた(糖尿病は75歳未満の一般成人と同じ130/80 mmHg未満で、糖尿病だから目標が低かったわけではない)。JSH2025はこの緩和目標を廃し、原則として全年齢・全患者背景で診察室130/80 mmHg未満・家庭125/75 mmHg未満に統一した。高血圧の診断基準(診察室140/90 mmHg以上)は据え置かれている閲覧 2026-08-14