病態生理学

病態生理学 · P-1-4

高血圧 症例4

Hypertension, Case 4

前提:病態
高血圧の定義・分類、二次性高血圧、合併症肥満の全身性影響

🧠 全体像: が疑われる事故を起こした44歳ののバス運転手で、2年で20 kg増え、起床時頭痛・日中の強い眠気・された無呼吸後のあえぎがあり、以前は正常だった血圧が170/95 mmHgに上がっている。鍵はいびき・無呼吸・の組み合わせで、によるを強く疑い、で確かめる。OSAを伴う高血圧はAHA/ACC 2025でスクリーニングのでもあるので、OSAの治療だけで片づけず二次性の検索も並行する。

症例提示

44歳のバス運転手が、重傷者のいない交通事故を起こした。調査で、普段から起床時頭痛、朝の強い倦怠感、日中の強い眠気が頻回にあることが判明した。ほかに明らかな症状はなく、常用薬もない。肥満はあるが、運動する時間がなく減量食も実施していない。喫煙はなく、飲酒は少量を時々のみ。持続する眠気のため、毎日濃いコーヒーを少なくとも5〜6杯飲んでいる。事故は短時間の居眠りが原因だった可能性が示唆された。評価には産業医も参加した。診察では、、body 体重: 105 kg、身長: 165 cm。血圧: 170/95 mmHg を両上肢で測定。は整で清、雑音なし、HR: 98 回/分。肺は呼吸音正常。腹部は膨隆するが軟で、圧痛・なし。肝は腫大するが圧痛なし。末梢動脈は良好に触知され、頸動脈・のは聴取しない。

過去の産業医健診では血圧は概ね正常で、150/85 mmHg が1回あったのみで再検では正常に戻っていた。最近は体重増加が著明で、2年前は 85 kg だった。本人は、この体重増加を運動不足、座位中心の業務、家系的体質によるものと考えている。

就寝時刻は早いが、睡眠の質は悪いことが多い。妻によれば、いびきが強く、睡眠中に大きないびき様の後のあえぎを時々認める。睡眠時は仰臥位が多い。上、胸痛や強いは否定。、めまい、、悪心もない。

実施検査: ECG - 、HR: 72 回/分、整、虚血所見なし。

ルーチン検査での有意所見は、: 6.9 mmol/L、SGOT・SGPT 軽度上昇であり、その他は内であった。

主要な記述と解釈

所見・数値 解釈
“起床時頭痛、朝の強い倦怠感、日中の強い眠気” に典型的な症状(と)
“強いいびき、睡眠中に大きないびき様の後のあえぎ、仰臥位で寝ることが多い” される強いいびきと無呼吸後のは、を強く示唆。仰臥位は舌根やがで後方へ落ち込み、上気道が狭くなりやすい体位である
体重 105 kg, 身長 165 cm ( ≈ 38.6); 85 kgからの最近の増加 38.6は肥満2度(分類のクラスII、 35.0–39.9)にあたり、しかも2年で20 kg増えた進行性の経過であり、OSA と高血圧双方の重要なリスク因子
血圧 170/95 mmHg(現在)、以前は概ね正常域 体重増加と睡眠症状の時期に一致して新たに出現した高血圧で、などの二次性を疑う契機になる
6.9 mmol/L;SGOT・SGPT 軽度上昇 6.9 mmol/L(約267 mg/dL)の高値はを示唆し、()・()の軽度上昇はに伴う肝への(())を疑わせる。⚠️ ただしはの診断項目ではない(同症候群は・トリグリセリド・コレステロール・・血圧の5項目で判定するが、本症例で確認できるのは血圧だけで、残る4項目は測定されていない。3項目以上を満たすことが必要なので、これでは判定できない)ため、この所見だけでと診断することはできず、・高血圧・脂質異常・という心代謝リスクの集積として捉えるにとどめる
“事故は居眠りが原因の可能性” が実生活での機能低下を生み、職業上・安全上の重大リスクとなっている

要点

  • 診断: 肥満を背景とした、によるが強く疑われる(で確定する前の段階)。・肝へのを伴う心代謝リスクの集積があるが、・トリグリセリド・・が測定されていないため、の確定診断はできない。
  • 病態生理: 反復する上気道虚脱 → 夜間の → 交感神経亢進 → 日中も持続する高血圧。
  • 増悪因子: 近年の著明な体重増加、、。
  • 次の一手: OSA 確認のための()。治療は減量とCPAPが中心。
  • の見落としに注意: 2025年のACC/AHA高血圧ガイドラインは、の節(3.2.3.1)の推奨1(Class 1)で、(の有無を問わない)・(または利尿薬による)・・見つかった副腎腫瘤・若年発症高血圧または若年(40歳未満)での脳卒中の家族歴のいずれかがある高血圧患者にのスクリーニングを推奨し、病期2高血圧でも考慮してよい(Class 2b)とした。変更点のが新しい推奨として挙げているのは「ではの有無によらずスクリーニングする」である(この一覧は網羅的ではないと断っている)1。本例はOSAが強く疑われる高血圧なので、OSAが確定すればこのClass 1の対象に当たるが、やは測定されていない。OSAの治療だけでの説明がつくと決めつけず、の評価も検討する。同ガイドラインはのを病期1高血圧で約5〜10%、病期2高血圧で11〜22%とする1。一般医から連続紹介された未選別の高血圧患者1,672例の研究でもは5.9%で、3段階の重症度区分(米国の病期1・2とは別の区分)の最も軽い段階の3.9%から最も重い段階の11.8%へ、重症度とともに上がった2。
  • 学習ポイント: OSA は可逆的な高血圧原因として重要であり、危険なの主要因でもある。目標は国・地域で異なり、米国ACC/AHA2025は130/80 mmHg未満1、欧州ESC2024はがあれば120–129/70–79 mmHgを目標とする3——採用する基準によって目標値が変わることを踏まえてを立てる。

出典

  1. 1.2025 AHA/ACC Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults(American College of Cardiology / American Heart Association・2025)2026-09-24にCirculation掲載版の本文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20260730224646)で確認した。Table 1(What Is New)は治療抵抗性高血圧で低カリウム血症の有無によらず原発性アルドステロン症をスクリーニングする推奨(COR 1)を新設の推奨として挙げる。3.2.3.1節の推奨1(COR 1、LOE C-EO)は、治療抵抗性高血圧(低カリウム血症の有無を問わない)、低カリウム血症(自然発生または利尿薬誘発)、閉塞性睡眠時無呼吸、偶然見つかった副腎腫瘤、若年発症高血圧または若年(40歳未満)での脳卒中の家族歴のいずれかがある高血圧患者でのスクリーニングを推奨し、推奨2(COR 2b)は病期2高血圧でのスクリーニングを考慮してよいとする。二次性高血圧の表は原発性アルドステロン症の手がかりに、治療抵抗性高血圧、低カリウム血症(自然発生または利尿薬による)、筋痙攣・筋力低下、偶然見つかった副腎腫瘤、閉塞性睡眠時無呼吸、若年発症高血圧または若年脳卒中の家族歴を伴う高血圧を挙げる。3.2.3.1節は原発性アルドステロン症の有病率を病期1高血圧で約5〜10%、病期2高血圧で11〜22%とする。要点は全成人の降圧目標を130/80 mmHg未満とする閲覧 2026-08-26
  2. 2.Prevalence and Clinical Manifestations of Primary Aldosteronism Encountered in Primary Care Practice(Journal of the American College of Cardiology・2017)抄録(Europe PMC、PMID 28385310)で確認した。イタリア・トリノの一般医19人から高血圧専門外来へ連続紹介された未選別の高血圧患者1,672例(新規診断569例・既診断1,103例)を、干渉薬を休薬してアルドステロン/レニン比でスクリーニングし、生理食塩水負荷または カプトプリル負荷で確定した。原発性アルドステロン症の有病率は5.9%(99例)であり、stage 1 の3.9%から stage 3 の11.8%へ高血圧の重症度とともに上昇した(3段階の重症度区分で、米国ACC/AHAの病期1・2とは別の区分)閲覧 2026-08-26
  3. 3.2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension(European Society of Cardiology (ESC)・2024)忍容性があれば診察室血圧120–129/70–79 mmHgを目標とし、この目標値は米国ACC/AHAの130/80 mmHg未満より低い閲覧 2026-08-26