病態生理学

病態生理学 · P-1-5

肥満・糖尿病 症例1

Obesity–Diabetes, Case 1

前提:病態
2型糖尿病の発症機序糖尿病の細小血管合併症
検査値
γ-GTP

🧠 全体像: 3年前の健診異常を放置していた48歳の肥満女性が、左下肢の筋力低下と両足ので受診した。12.3 mmol/Lと 9.2%で糖尿病は確定し、肥満・高血圧・高トリグリセリド・低の集積から2型糖尿病との像である。と足のはを示唆するが、運動優位・急な発症・左右差という非典型な点があるので、別の原因を除外してから糖尿病によるものとする。

症例提示

48歳の肥満女性。左下肢の筋力低下感があり、ときに両足のをする。症状は3週間前に出現した。3年前、無料健診で random 血糖 7.8 mmol/L、コレステロール 5.8 mmol/L を指摘されたが、症状がなかったため精査・を受けなかった。を訴えるが、血尿、排尿時灼熱感、疼痛はない。

: 足部皮膚は乾燥しを伴う。両下肢に軽度の感を認める。

  • 血圧: 165/100 Hgmm
  • 身長: 159 cm
  • 体重: 92 kg

検査結果(空腹時):

  • Na⁺: 139 mmol/l
  • K⁺: 4 mmol/l
  • Cl⁻: 102 mmol/l
  • HCO₃⁻: 22 mmol/l
  • BUN: 5 mmol/l
  • クレアチニン: 79 mmol/l
  • 血糖: 12.3 mmol/l
  • AST: 19 U/L
  • ALT: 13 U/L
  • ALP: 43 U/L
  • γ-GT: 115 U/L
  • 尿酸: 458 μmol/L
  • : 18 μmol/L
  • : 2.8 μmol/l
  • Total コレステロール: 6.37 mmol/l
  • HDL: 0.7 mmol/l
  • トリグリセリド: 5.18 mmol/l
  • HbA1c: 9.2%

尿検査:

  • pH: 5.8
  • 比重: 1008 g/L
  • ビリルビン: neg.
  • 蛋白: neg.
  • ケトン 試験: 陰性
  • : 陽性
  • 尿沈渣に 赤色 blood cells、白血球、bacteria は認めない。

主要な記述と解釈

所見・数値 解釈
HbA1c 9.2%; 12.3 mmol/L; 陽性 糖尿病コントロール不良。7.0 mmol/L(126 mg/dL)以上と 6.5%以上を同じ採血で満たしており、ADAの基準では明らかな高血糖症状が無くても異なる2検査の異常で糖尿病と診断できる1。 は慢性高血糖を反映し、陽性は超過を示す
3年前の健診: 7.8 mmol/L、コレステロール 5.8 mmol/L の(典型的な高血糖症状またはを伴う場合に11.1 mmol/L〔200 mg/dL〕以上)には届かない値1で、この時点では糖尿病と診断できない。ただし肥満のある成人ではやでの再評価につなげる手がかりだった。2型糖尿病は高血糖がゆっくり進み初期には典型症状を欠くため、長年診断されないことが多い1
“” によるに伴う多尿。なおによる膀胱機能障害でも頻尿・は起こりうる2
“左下肢の筋力低下と両足の”; “軽い感”; “足部皮膚の乾燥と” まず遠位対称性のを考える。皮膚の乾燥・は、発汗を支配する自律神経の障害()が一因と考えられる2。⚠️ ただしはであり、・腎疾患・ビタミンB12欠乏・・血症など、治療可能な非を除外してから確定する2。本症例は、運動症状(左下肢の筋力低下)が前景にあること・3週間という比較的急な発症・左右差の3点が、ADAがな特徴として挙げる「感覚より運動が優位」「急な発症」「非対称」に当たり、この場合はや神経内科への紹介が勧められる2。鑑別にはなど別機序の併存のほか、糖尿病自体の非典型型である()も入る。ただしこの病型は主に2型糖尿病の男性に、片側大腿の強い痛みと体重減少に続いて筋力低下が現れるもので2、痛みや体重減少の記載が無い本例は典型像とはいえない
体重 92 kg、身長 159 cm( ≈ 36.4);血圧 165/100 mmHg 肥満2度(分類のクラスII、 35.0–39.9)の肥満および高血圧
6.37 mmol/L、 0.7 mmol/L(低値)、トリグリセリド 5.18 mmol/L(高値) 高トリグリセリド・低を中心とする脂質異常。インスリン抵抗性に典型的な組み合わせである
γ-GT 115 U/L(高値);尿酸 458 µmol/L(高値) ()とが示唆される(・は内)。⚠️ どちらもの診断項目そのものではなく、併存しやすい所見という位置づけである。またγ-GTはや他の肝胆道疾患でも上昇するため、この所見単独でと確定はできない
ケトン試験 陰性;HCO₃⁻ 22 mmol/L(正常) は無い。肥満・高血圧・脂質異常の集積とあわせて2型糖尿病に合致する。⚠️ ただしが無いことだけでは1型糖尿病を否定できない。ADAは1型を示唆する特徴として診断時35歳未満・ 25未満・意図しない体重減少・・血糖20 mmol/L超を挙げる一方、肥満があっても1型の検査を妨げるべきではないとしている1
“クレアチニン: 79 mmol/l” ⚠️ 単位は μmol/L の誤記と考えられる(79 mmol/L は生体ではありえない値。79 μmol/L なら約0.89 mg/dL で内)。腎機能はおおむね保たれていると読むが、の蛋白陰性だけでは早期の(の段階)を否定できないので、で評価する

要点

  • 診断: 長年放置された健診異常を背景に判明した、コントロール不良の 2型糖尿病( 9.2%、 12.3 mmol/L の2項目で診断が確定する1)。
  • 既存合併症: 糖尿病性末梢が疑われる。ただしであり、運動優位・急な発症・左右差というな特徴があるので、などで他の原因を除外してから確定する2。
  • : 血圧 165/100 mmHg(≥130/85)、トリグリセリド 5.18 mmol/L(≥1.7)、 0.7 mmol/L(女性で<1.3)、 12.3 mmol/L(≥100 mg/dL≒5.6 mmol/L)と、5項目中4項目を満たす。2009年の統一基準ではを必須項目とせず、5項目中3項目で診断が成立するため、が測られていない本症例でも基準は満たしている3。同基準は、2型糖尿病の大半がこの基準でに該当すると自ら注記している3。⚠️ ただし国際糖尿病(IDF)の2005年定義や日本のは()を必須項目とするため、これらの基準では判定できない——「」と書くときは、どの基準に拠っているかを意識する。 36.4は全身の過剰体脂肪を示すが、の指標であるの代わりにはならない。なおとはいずれの診断項目にも含まれないが、しばしば併存する所見である。
  • 病態生理: インスリン抵抗性 → 慢性高血糖 → と神経障害。
  • 鑑別点: ケトン陰性かつ HCO₃⁻ 正常で、は否定的。病型は肥満・メタボリック所見の集積から2型が考えやすいが、が無いことだけでは1型を否定できない(ADAは、診断時の若年・意図しない体重減少・・早期のインスリン導入など1型と重なる特徴をもつ成人では、標準化された検査で病型を分類するよう推奨する)1。

出典

  1. 1.2. Diagnosis and Classification of Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)2026-09-24にPMC版(PMC12690183)の本文で確認した。Table 2.1は糖尿病の診断基準をHbA1c 6.5%以上、空腹時血漿血糖126 mg/dL(7.0 mmol/L)以上、75g OGTT 2時間値200 mg/dL(11.1 mmol/L)以上、典型的な高血糖症状または高血糖クリーゼを伴う随時血漿血糖200 mg/dL(11.1 mmol/L)以上とし、明らかな高血糖が無ければ異なる2検査(同時採血でもよい、例:HbA1cと空腹時血糖)または同じ検査の2時点で異常が要るとする。1型を示唆する特徴に診断時35歳未満・BMI 25未満・意図しない体重減少・ケトアシドーシス・来院時血糖360 mg/dL(20 mmol/L)超を挙げ、肥満があっても1型の検査を妨げるべきではないとする。推奨2.10は1型と重なる表現型の危険因子(若年での診断・意図しない体重減少・ケトアシドーシス・インスリン導入までの期間が短い)をもつ成人では標準化された膵島自己抗体検査で分類するよう推奨する。2型糖尿病は高血糖がゆっくり進み初期には典型症状を欠くため長年診断されないことが多いとする閲覧 2026-09-24
  2. 2.Diabetic Neuropathy: A Position Statement by the American Diabetes Association(American Diabetes Association (Diabetes Care)・2017)本文を確認した。糖尿病性ニューロパチーは除外診断であり("Diabetic neuropathy is a diagnosis of exclusion")、甲状腺疾患・腎疾患・ビタミンB12欠乏・HIV・B型肝炎・全身性血管炎・パラプロテイン血症・アミロイドーシスなど治療可能な非糖尿病性ニューロパチーを除外する必要があること、発汗異常(sudomotor dysfunction)が皮膚乾燥・無汗症・暑熱不耐性として現れること、遠位対称性多発ニューロパチーのスクリーニングは2型糖尿病では診断時から開始し以後少なくとも年1回行うことを確認した。2026-09-24にPMC版の本文で、電気生理検査や神経内科への紹介は臨床像が非典型的なときに要し、非典型的な特徴として感覚より運動が優位・急な発症・非対称な発症を挙げること、非典型型に神経根神経叢ニューロパチー(腰仙部多発神経根障害・近位運動性筋萎縮症)があり、主に2型糖尿病の男性に片側大腿の強い痛みと体重減少に続いて運動麻痺が現れ、変性椎間板疾患などとの鑑別に電気生理学的評価が要ること、自律神経障害の泌尿生殖器症状の表に頻尿・尿意切迫・夜間頻尿を挙げることを確認した閲覧 2026-08-14
  3. 3.Harmonizing the metabolic syndrome: a joint interim statement of the International Diabetes Federation Task Force on Epidemiology and Prevention; National Heart, Lung, and Blood Institute; American Heart Association; World Heart Federation; International Atherosclerosis Society; and International Association for the Study of Obesity(Circulation・2009)抄録本文で確認した。腹囲(中心性肥満)を必須項目とせず("there should not be an obligatory component")、5項目中3項目の異常でメタボリックシンドロームと診断すること、腹囲以外は単一のカットポイントを用いることで各団体が合意した。2026-09-24に本文(Wayback Machine の id_ 付き出版社ページ、20231204213020)のTable 1で、トリグリセリド150 mg/dL(1.7 mmol/L)以上、HDLコレステロール男性40 mg/dL(1.0 mmol/L)未満・女性50 mg/dL(1.3 mmol/L)未満、血圧収縮期130かつ/または拡張期85 mmHg以上、空腹時血糖100 mg/dL以上(いずれも薬物治療中は該当とみなす)、腹囲は集団・国別の定義とすること、脚注で2型糖尿病の大半はこの基準でメタボリックシンドロームに該当するとしていることを確認した閲覧 2026-08-14