病態生理学

病態生理学 · 1-9

2型糖尿病の発症機序

Pathogenesis of Type 2 diabetes mellitus

応用トピック
糖尿病の皮膚症状血糖異常の原因と診断糖尿病の分類と診断妊娠と糖尿病・妊娠糖尿病肥満・糖尿病 症例1
疾患
2型糖尿病前糖尿病
検査値
高血糖

🧠 全体像:2型糖尿病は「インスリン抵抗性」と「」の二人三脚で進む。初めはβ細胞が分泌を増やして代償するが、と・などが重なると代償できなくなり、2型糖尿病へ進む。が残るためは1型より少ないが、重症感染、、阻害薬などを背景に2型でも起こり得る。

2型糖尿病

2型糖尿病はインスリン抵抗性と進行性を中心とする。成人に多いが小児・若年者にも発症し、肥満を伴わない例もある。多くは緩徐・無症候性だが、だけでなくで発症することもある。「」は、病状によりインスリン治療を必要とする事実を隠すため用いない。

遺伝・環境因子

  • 遺伝性: 多数のとを認め、も強い遺伝的寄与を支持する。ただし発症率や家族歴に伴うは、集団、年齢、環境、観察期間により大きく異なるため固定値で一般化しない。
    • TCF7L2 多型は強い関連を示し、主にβ細胞の応答や作用の差に関与する。ただし単一多型だけで発症や治療反応を決めない。
  • :
    • 過剰エネルギー+肥満
    • 吸収の速い加工食品

危険因子

種類 因子
加齢、家族歴、、歴など
、食事、、睡眠、喫煙、高血圧、

自然史

  1. 遺伝+環境 → インスリン抵抗性、β細胞がに分泌を増やす → 血糖正常(この時期から動脈硬化リスクが集積し得る)。
  2. から: β細胞の代償が不十分となり分泌が低下する。高血糖によると、脂肪組織からの流入・によるが、インスリン抵抗性とをさらに悪化させる。診断時点ですでに・を伴うことがある。

インスリン抵抗性の3つの標的組織

組織 影響
骨格筋 グルコース取込み↓、↓、異所性
肝臓 糖新生↑(↑)、トリグリセリド/分泌↑
脂肪組織 が十分に抑制されず、が肝TAG/の基質となる。残存インスリンは通常を抑えるが、相対的・欠乏が強まれば2型でもを起こす

💡 筋・肝・脂肪組織とβ細胞だけでは治療標的を説明しきれない。 DeFronzoが提唱したでは、これに・腸管()・腎・脳を加えた8つの異常として理解する。阻害薬や受容体作動薬が効く理由は、この拡張されたモデルの中にある。

部位 異常
高血糖でもグルカゴン分泌が抑制されず、をさらに押し上げる
腸管() β細胞が・GIPに反応しにくくなり、食後を増強する「」が減弱する
腎臓 の発現が増え、糖再吸収の閾値が上昇して高血糖を温存する
脳 視床下部のインスリン抵抗性・神経伝達物質異常によりが得られにくく、体重増加が病態を助長する

分子機序

💡 共通の落とし所は。 も炎症もも、最終的に を阻害してインスリンシグナルを切る。

flowchart TD
  EF["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic fat'>異所性脂肪</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='diacylglycerol'>DAG</span>↑+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ceramide'>セラミド</span>↑ → PKC"] --> IRS["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin receptor substrate'>IRS</span> を阻害"]
  INF["炎症→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='damage-associated molecular patterns'>DAMPs</span> → NF-κB/MAPK/JNK"] --> IRS
  GC["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucocorticoids'>糖質コルチコイド</span>/11β-HSD1 → コルチゾール活性化 → JNK"] --> IRS
  IRS --> R["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin signaling'>インスリンシグナル伝達</span>↓ → インスリン抵抗性"]

β細胞生物学

インスリン分泌

グルコース → でβ細胞へ流入 → 解糖 → ATP増加 → 閉鎖 → 脱分極 → 開口 → 細胞内Ca²⁺増加 → インスリンの。とGIPはを介してこの分泌を増強する(第1相:急速、第2相:持続)。

💡 β細胞の入口の輸送体はヒトとげっ歯類で違う。 を入口とする像はげっ歯類で確立したもので、成人ヒトβ細胞で主に発現するのは である。 は一部の細胞に発現するにとどまる。ヒトでは がグルコース取り込みとに必要で、 の機能もヒト幹細胞由来の様細胞で示されている1。ヒトβ細胞の 量はの約100分の1で、血糖センサーとして重要なのは輸送体ではなくである2。

糖毒性

💡 短期と長期で正反対。 短期の高血糖はβ細胞を刺激するが、長期の高血糖はと細胞死を進める。

  • 過剰グルコース → → JNK → インスリン産生↓。インスリン↓ → FOXO1抑制なし → β細胞生存↓、アポトーシス↑。

診断

  • 古典的徴候や明白な高血糖を欠く場合は、2つの異常結果が必要である。同時に測った2つの異なる検査(例:と)でも、同じ検査を2つの時点で測ったものでもよい(本文は、異なる2検査が別の時点で測られていても両方が診断域なら確定するとしている)。異なる検査の結果が食い違ったら、糖尿病域だったほうの検査を繰り返す3。
検査 閾値
≥ 7.0 mmol/L(126 mg/dL)
典型的高血糖症状またはを伴い≥11.1 mmol/L(200 mg/dL)
75 g 2時間値 ≥ 11.1 mmol/L(200 mg/dL)
HbA1c ≥ 6.5%(48 mmol/mol)
  • 寛解: が自然に、または介入の後に6.5%(48 mmol/mol)未満に戻り、通常のを使わない状態で少なくとも3か月続くことと定義される。判定の は、薬物療法なら中止から3か月以上、なら手術から3か月以上かつ薬の中止から3か月以上、なら開始から6か月以上かつ薬の中止から3か月以上たってから測る。 が当てにならない場合は、126 mg/dL(7.0 mmol/L)未満や CGM から算出した推定 6.5%未満で代える4。
    • 💡 「治癒」と呼ばないのは、高血糖がしうるうえ、寛解後も・腎症・神経障害や心血管リスクの増大が起こりうるからで、網膜検査などの定期的な評価を続ける4。寛解率は介入の種類やで大きく違う。薬物療法なしでの正常化を指すので、薬で血糖が改善しただけの状態とは区別する。
  • : ADA基準では空腹時5.6〜6.9 mmol/L(100〜125 mg/dL)だが、といくつかの糖尿病関連組織は下限を6.1 mmol/L(110 mg/dL)に置く3。日本糖尿病学会もと同じ110 mg/dLを境界とする。同じ「」という語でも該当者が変わるので、採用基準を明記する。
  • : 75 g 2時間値7.8〜11.0 mmol/L(140〜199 mg/dL)。

治療

生活支援と薬物療法を診断時から開始し、、低血糖リスク、体重、費用・負担、で個別化する。

まとめ

  • 2型糖尿病ではインスリン抵抗性をβ細胞が一時的に代償するが、進行性機能不全によって持続性高血糖へ至る。
  • 筋の糖取り込み低下、の抑制不良、亢進が高血糖とを増幅する。
  • 診断は標準化検査とで行い、治療は血糖だけでなく心血管・心不全・腎・体重・低血糖リスクで個別化する。
  • 寛解は「なしで 6.5%未満が少なくとも3か月続く」状態であり、治癒ではないので合併症の評価を続ける。

出典

  1. 1.Glucose Transporters Are Key Components of the Human Glucostat(Diabetes・2024)成人ヒトβ細胞で主に発現するグルコース輸送体は GLUT1 で、GLUT2 は少数ながら有意な亜集団に検出されるにとどまること(成人ドナー6例の膵島で、GLUT1 のみを発現するβ細胞が77.6%、GLUT1 と GLUT2 の共発現が13.2%)、GLUT1 と GLUT2 がいずれもヒトβ細胞のグルコース取り込みとインスリン分泌に機能的に必要であることを確認した(2026-09-27、Consensus の抄録と全文抜粋で確認)閲覧 2026-09-27
  2. 2.Human and rat beta cells differ in glucose transporter but not in glucokinase gene expression.(Journal of Clinical Investigation・1995)ヒトβ細胞はげっ歯類β細胞と異なり主に GLUT2 ではなく GLUT1 を発現し、3-O-メチルグルコース輸送の Km は約3 mmol/L と低いこと、ヒトβ細胞の GLUT2 量はラットの約100分の1であること、グルコキナーゼの発現は両者で同程度で、ヒトβ細胞のグルコースセンサーでは GLUT2 ではなくグルコキナーゼが重要であることを確認した(2026-09-27、Consensus の抄録で確認)閲覧 2026-09-27
  3. 3.2. Diagnosis and Classification of Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMC12690183で全文を閲覧した(diabetesjournals.orgは403)。診断基準(空腹時血糖7.0 mmol/L以上、典型的な高血糖症状または高血糖クリーゼを伴う随時血糖11.1 mmol/L以上、75g OGTT2時間値11.1 mmol/L以上、HbA1c 6.5%〈48 mmol/mol〉以上)と、明白な高血糖が無い場合は、同時に測った2つの異なる検査(例:HbA1cと空腹時血糖)か、同じ検査を2つの時点で測った2つの異常値で確定し、異なる検査の結果が食い違えば糖尿病域だった検査を繰り返すこと(本文は、異なる2検査が同時でも別の時点でも両方診断域なら確定するとする)。ADAの空腹時血糖異常が5.6〜6.9 mmol/L(100〜125 mg/dL)で、WHOといくつかの糖尿病関連組織は下限を6.1 mmol/L(110 mg/dL)に置くこと、耐糖能異常が75g OGTT2時間値7.8〜11.0 mmol/L(140〜199 mg/dL)であることを確認した。閲覧 2026-08-14
  4. 4.Consensus Report: Definition and Interpretation of Remission in Type 2 Diabetes(American Diabetes Association / EASD / Diabetes UK / Endocrine Society・2021)Europe PMCの全文XML(PMC8929179)で確認した。寛解を「HbA1cが自然に、または介入の後に6.5%(48 mmol/mol)未満に戻り、通常の血糖降下薬が無い状態で少なくとも3か月持続すること」と定義し、判定のHbA1cは薬物療法なら中止から少なくとも3か月後、手術なら手術から少なくとも3か月後かつ薬物療法の中止から3か月後、生活習慣介入なら開始から少なくとも6か月後かつ薬物療法の中止から3か月後に測ること、継続の確認は3か月ごとより頻回にも年1回より稀にもしないこと、HbA1cが信頼できない場合は空腹時血糖126 mg/dL(7.0 mmol/L)未満またはCGMから算出した推定HbA1c 6.5%未満を代替基準にできること、治癒(cure)は全ての面が正常化し追跡不要と示唆するため用いないこと、寛解後も網膜症・腎症・神経障害・心血管リスクの増大は起こりうるので定期的な網膜検査などを続けるべきとしていることを確認した。閲覧 2026-08-14
  5. 5.9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)動脈硬化性心血管疾患・心不全・慢性腎臓病がある、または高リスクの成人では、HbA1cの値やメトホルミン使用の有無に関わらず、心血管・腎保護作用が示されたGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬を優先することを確認閲覧 2026-08-14