病態生理学

病態生理学 · 1-8

1型糖尿病の発症機序

Pathogenesis of Type 1 diabetes mellitus

応用トピック
血糖異常の原因と診断糖尿病の分類と診断妊娠と糖尿病・妊娠糖尿病糖尿病性ケトアシドーシスの管理小児糖尿病と高血糖肥満・糖尿病 症例2酸塩基平衡障害 症例2
薬剤
テプリズマブ
疾患
1型糖尿病
検査値
CペプチドGAD65抗体IA-2抗体インスリン自己抗体

🧠 T1DM = 「T細胞がβ細胞を殺す自己免疫病」。 +(等)→ → β細胞が破壊されに。自己抗体は犯人ではなく“進行中の目印(マーカー)“である点が要注意。

糖尿病 — 総論

  • 糖尿病はインスリン作用の不足を特徴とする代謝疾患で、主にで診断する。: 糖尿病域には達しないが正常より高い血糖(より軽い代謝異常)。

診断基準(DM)[^ada-soc-2026-ch2]

以下の4基準のいずれかを満たせば糖尿病と診断する。典型的な高血糖症状またはがありが11.1 mmol/L(200 mg/dL)以上なら、その1回で臨床的に診断できる。そうでなければ確認が要り、同時に測った2つの異なる検査(例:と)が両方とも糖尿病域か、同じ検査を2つの時点で測って2回とも糖尿病域であることで確定する(2回目は同じ検査の再検でも別の検査でもよく、速やかに行う)。2つの異なる検査の結果が食い違ったら、糖尿病域だったほうの検査を繰り返す1。

検査 糖尿病域
7.0 mmol/L(126 mg/dL)以上
75 g 2時間値 11.1 mmol/L(200 mg/dL)以上
HbA1c 6.5%(48 mmol/mol)以上。NGSP認証・DCCT標準化の測定法で
典型症状(多尿・・)またはを伴い11.1 mmol/L(200 mg/dL)以上

初発時の症状

1型糖尿病

1型糖尿病:(IDDM)、若年発症:糖尿病の 5–10%1、小児発症(ピーク10–14歳)、+体重減少、を伴う急性発症、、自己免疫性β細胞破壊。

💡 「子どもの病気」「痩せた人の病気」と決めつけない。 講義によれば発症年齢は二峰性で、10〜14歳のピークのほかに40歳以降でも緩やかに増える。β細胞破壊の速さは人によって大きく違い、乳幼児・小児では速いことが多く、成人では遅いことが多い(いずれも例外がある)1。成人ではを防げる程度のβ細胞機能が何年も残ることがあるが、最終的にはインスリン依存になる1。また一般人口で肥満が増えているので、肥満があっても1型糖尿病の検査を省かない1。

⚠️ 他の自己免疫疾患を合併しやすい。 ・Graves病・セリアック病・・・・重症筋無力症・などが挙がる1。

遺伝・環境因子

自然史

古典的1987年モデル

→ → 自己抗体 → β細胞死 → インスリン放出の進行性喪失。(単純化しすぎ。)

段階モデル(縦の進行で覚える)

💡 自己抗体 = マーカーであって実行犯ではない。 実際にβ細胞を殺すのは CD8⁺ 。抗体は「免疫反応が進行中」という早期として使う。現行の(Stage 1〜3)は組織学的なの有無ではなく、の数と血糖の状態で定義される点に注意1。

flowchart TD
  ENV["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='environmental triggers'>環境トリガー</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterovirus'>エンテロウイルス</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Coxsackievirus'>コクサッキーウイルス</span>B)がβ細胞を攻撃"] --> INN["自然免疫:低度<span class='jp-term jp-term-diagram' title='persistent infection'>持続感染</span>を維持"]
  INN --> ADP["獲得免疫(遺伝性):T細胞がβ細胞をゆっくり殺す(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulitis'>膵島炎</span>)"]
  ADP --> AB["≥2種の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='islet autoantibodies'>膵島自己抗体</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seroconversion'>陽転</span>"]
  AB --> S1["Stage 1:自己抗体≥2種陽性+正常血糖(無症候)"]
  S1 --> S2["Stage 2:同自己抗体陽性+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired glucose tolerance'>耐糖能異常</span>(無症候)"]
  S2 --> S3["Stage 3:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='overt diabetes'>顕性糖尿病</span>(自己抗体は陰性化することもある)"]
  • Stage 1: ≥2種の陽性+正常血糖、無症候。この段階からStage 3へ進む5年リスクは全体で約44%だが、自己抗体の数・力価・種類、した年齢、遺伝リスクで大きく変わる1。
  • Stage 2: 同じ自己抗体陽性が持続+(糖尿病域未満の)、無症候。Stage 2へ進んだ時点でStage 3への進行リスクは2年で約60%、5年で約75%と高く、ここが介入の窓になる1。
  • Stage 3: 上記の糖尿病を満たす。自己抗体は陰性化することもある。

⚠️ (へのという組織学的所見)は自己抗体に先行・並行して起こるが、Stage分類そのものの定義項目ではない。

診断上の含意

  • β細胞を殺すのは CD8⁺ 。(、、ZnT8抗体、)のが進行中の免疫反応を示す。
  • リスク評価は「抗体が何種類あるか」と「どの病期にいるか」を分けて考える。血糖が正常な自己抗体陽性者(一般集団・コホート)の15年発症リスクは、抗体0種で0.4%、1種で12.7%、2種で61.6%、3種で79.1%2。一方、すでにStage 2(あり)まで進んだ人では2年で約60%、5年で約75%と、時間軸がはるかに短い1。⚠️ 前者の数値を「Stage 2の進行率」として使わない。
  • Cペプチドを糖尿病診断に使ってはいけない。の指標として、診断後の(1型か2型か)に使う。
  • : 空腹時 ≥7.0、随時 ≥11.1 mmol/L(の詳細は前掲の表を参照)。
  • HbA1c: ヘモグロビンは血糖値に比例して不可逆的にされる。赤血球の寿命(約120日。講義は「約4か月」と表現する)にわたるの蓄積を反映するが、直近の血糖ほど強く効く「重み付き平均」なので、実際には過去約2〜3か月の平均血糖の指標になる1。⚠️ 一部の・妊娠・欠損症・感染症、赤血球の入れ替わりが変わる状態(貧血・溶血・失血・輸血など)では が血糖を正しく反映しないので、血糖の基準で診断する1。

治療と予防

  • : ⭐ Stage 2(≥2自己抗体陽性+)の1型糖尿病では、抗CD3モノクローナル抗体がStage 3()への進行を遅らせる適応を持つ(米国で2022年に8歳以上へ、2026年に1歳以上へ)3。さらに米国では、診断されて間もない Stage 3 の8〜17歳での低下を遅らせる適応も、Cペプチド低下の抑制に基づくとして加わっている3。⚠️ 承認の範囲は国で違い、(2026年1月承認)の効能は Stage 2 の8歳以上で Stage 3 の発症を遅らせることである4。💡 複合体(CD3)に結合しての活性化を弱めることで進行を遅らせると考えられているが、根治や予防そのものではない。⚠️ 米国の添付文書は2026年6月にのを加えた——・の重篤で生命を脅かす再活性化が報告されており、免疫不全の患者や活動性のウイルス感染(・感染など)のある患者は禁忌、投与前に活動性の・感染を検査し、最終投与後も少なくとも2か月は再活性化の徴候を監視する。重篤例の多くは重度のが続くのに投与を続けた患者で起きている3。ほかにも・・重篤な感染症などのがあり、投与は専門施設での経過観察を要する。
  • 予防(確立していない、疫学的関連が示唆される因子):
    • 妊娠中ビタミン補充
    • 4か月以上の母乳
    • 段階的
    • 健康的生活
    • ストレス/小児肥満回避
  • 将来: B(血清型1–6)は1型糖尿病の候補として研究されているワクチン標的。多価Bワクチン候補(PRV-101)は、健常成人を対象としたでと5血清型全てへの誘導が確認された段階で、発症予防効果を示す試験はまだ行われていない5。

まとめ

項目 押さえる点
本態 CD8⁺ T細胞によるβ細胞の自己免疫性破壊 → 。糖尿病の5〜10%
素因と誘因 (DR3-DQ2・DR4-DQ8)+(、とくにB)
病期 Stage 1=自己抗体2種以上+正常血糖、Stage 2=+、Stage 3=。Stage 2 からは2年で約60%・5年で約75%が Stage 3 へ
自己抗体 GAD65・IA-2・ZnT8・。β細胞を殺す実行犯ではなく進行中の免疫反応の目印
診断 4基準(・ 2時間値・・症状を伴う)。明白な高血糖が無ければ2つの異常値で確定。Cペプチドは診断に使わずに使う
介入 が Stage 3 への進行を遅らせる(適応の範囲は米国と で違う)。予防法は確立していない

出典

  1. 1.2. Diagnosis and Classification of Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMC12690183で全文を閲覧した(diabetesjournals.orgは403)。糖尿病の診断基準(空腹時血糖126 mg/dL以上・75g OGTT2時間値200 mg/dL以上・HbA1c 6.5%(48 mmol/mol)以上・典型的な高血糖症状または高血糖クリーゼを伴う随時血糖200 mg/dL以上)と、明白な高血糖が無い場合は、同時に測った2つの異なる検査(例:HbA1cと空腹時血糖)か、同じ検査を2つの時点で測った2つの異常値で確定し、2回目は同じ検査の再検でも別の検査でもよく、異なる検査の結果が食い違えば糖尿病域だった検査を繰り返すこと。1型糖尿病をStage1(2種以上の膵島自己抗体陽性+正常血糖)、Stage2(自己抗体陽性+糖尿病域未満の血糖異常)、Stage3(顕性糖尿病)に分け、Stage1からの5年リスクが全体で約44%(自己抗体の数・力価・種類、陽転年齢、遺伝リスクで大きく変わる)、Stage2へ進んだ時点でのStage3への進行リスクが2年以内で約60%・5年以内で約75%であること。自己免疫性1型糖尿病は糖尿病の5〜10%を占め、DR3-DQ2・DR4-DQ8が素因となり、DRB1*1501やDQA1*0102-DQB1*0602が防御的に働くこと。β細胞破壊の速さは乳幼児・小児で速く成人で遅いことが多い(いずれも例外がある)こと、肥満は1型糖尿病の検査を妨げるべきでないこと、橋本甲状腺炎・Graves病・セリアック病・Addison病・白斑・自己免疫性肝炎・重症筋無力症・悪性貧血などの自己免疫疾患を合併しやすいこと。HbA1cは赤血球寿命(約120日)にわたってヘモグロビンに結合したグルコースを反映し直近の血糖ほど強く効く重み付き平均であること(表では過去約2〜3か月の指標)、推奨2.4が一部のヘモグロビン異常症・妊娠・G6PD欠損症・HIV感染症・赤血球の入れ替わりを変える状態では血糖の基準で診断するとしていることを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Time to reframe the disease staging system for type 1 diabetes(Lancet Diabetes & Endocrinology(Jacobsen LM, Atkinson MA, Sosenko JM, Gitelman SE)・2024)出生・乳幼児期コホート(DAISY・DIPP・BABYDIAB/BABYDIET)における、膵島自己抗体の陽性数別の15年発症リスクが0個0.4%・1個12.7%・2個61.6%・3個79.1%であることを確認した。これは血糖が正常な自己抗体陽性者についての数値であり、耐糖能異常を伴うStage2の進行率ではない(同論文はStage2の5年リスクを8〜61%と幅のあるものとして扱っている)。閲覧 2026-08-14
  3. 3.TZIELD (teplizumab-mzwv) injection — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / Sanofi・2026)DailyMedの処方情報(DailyMed表示の改訂 6/2026)の効能・効果で、Stage2の1型糖尿病の成人・1歳以上の小児でStage3の発症を遅らせる適応と、診断されて間もないStage3の8〜17歳の小児で内因性インスリン分泌の低下を遅らせる適応(Cペプチド低下の抑制に基づく迅速承認で、継続承認は検証試験での臨床的有益性の確認を条件としうる)を持つことを確認した(2022年に8歳以上で初承認、2026年に1歳以上へ適応拡大)。あわせて2026年6月の改訂で枠組み警告(ウイルス再活性化)が加わり、EBウイルス・サイトメガロウイルスの重篤で生命を脅かす再活性化が報告されていること、免疫不全または活動性のウイルス感染(EBV・CMV感染など)のある患者が禁忌であること、投与前に活動性のEBV・CMV感染を検査し最終投与後も少なくとも2か月は再活性化の徴候を監視すること、重篤例の大半が重度のリンパ球減少が持続するのに投与を続けた患者で起きたことを確認した。閲覧 2026-08-14
  4. 4.Teizeild (teplizumab): EPAR – Medicine overview(European Medicines Agency・2026)EMAのEPARページで、Teizeildの効能が「Stage2の1型糖尿病をもつ8歳以上の成人・小児でStage3の発症を遅らせること」であること、販売承認が2026年1月8日に発行され(CHMP意見の採択は2025年11月13日)、販売承認取得者がSanofi Winthrop Industrieであることを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Safety, tolerability and immunogenicity of PRV-101, a multivalent vaccine targeting coxsackie B viruses (CVBs) associated with type 1 diabetes: a double-blind randomised placebo-controlled Phase I trial(Diabetologia(Hyöty H, et al.)・2024)多価コクサッキーウイルスBワクチン候補PRV-101の第I相無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、忍容性が良好で5血清型すべてに対する中和抗体が誘導されたことを確認した(発症予防効果を示す試験ではない)。閲覧 2026-08-14